✍ 古家あきら | 2026-10-09 更新
取適法(旧下請法)の対象か確認する方法 — 資本金と従業員数の線、相手の数字はどこで分かるか(従業員数が分かる14万社で300人超は11.2%)
先に結論です。取適法の対象かどうかは、①取引の種類、②自社と相手の資本金、③自社と相手の従業員数、の3つで決まります。 資本金で当てはまらなくても、従業員数で当てはまれば対象です。2026年1月1日の施行で、旧下請法にはなかった従業員数の線(300人・100人)が加わりました。
確認の順番は、次のとおりです。
- 取引の種類を決める … 製造・修理・運送などの「製造委託等」か、それ以外の情報成果物作成・役務提供か。線の位置がここで変わる
- 資本金を比べる … 株式会社の資本金は登記されているので、相手の分も外から確かめられる
- 従業員数を比べる … 従業員数は登記されない。相手の数字は、相手に聞くのがいちばん確実
しょくばログという会社データベースを運営していると、資本金と従業員数は「載っている会社」と「載っていない会社」の差が大きい項目だと実感します。活動中の法人4,988,967のうち、gBizINFOで従業員数が分かるのは144,056法人(2.9%)。そのうち300人超は16,169(11.2%)、100人以下が101,632(70.6%)でした。資本金と従業員数の両方が分かるのは8,991法人(0.18%)しかありません。
つまり、公開データだけで取適法の判定を済ませられる取引先は、ごく一部です。 外から確かめられるところは確かめ、残りは相手に聞く。この記事では、その手順を条文に沿って整理します。
取適法は旧下請法の「名前と線」が変わった法律
取適法の正式な名前は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。もとは「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」で、同じ法律が改正されて名前が変わりました。改正後の規定は2026年1月1日から施行されています。
呼び方も変わりました。旧下請法の「親事業者」は委託事業者、「下請事業者」は中小受託事業者です。この記事でも条文の言葉に合わせます。
義務の中身は旧下請法から引き継いだものが多く、取引条件を書面か電磁的方法で示す(4条)、代金の支払期日を受け取った日から60日以内に定める(3条)、取引の記録を作って保存する(7条)といった骨格は同じです。改正で目立つのは次の点です。
- 従業員数の基準が加わった(2条8項5号・6号)
- 手形での支払いが禁止された(5条1項2号。期日までに現金化しにくい支払手段も同じ扱い)
- 価格協議に応じないまま一方的に代金を決めることが禁止された(5条2項4号)
- 特定運送委託が対象に入った(2条5項。売った物を買い手に届ける運送を他社に任せる取引)
取引の種類で、線の位置が変わる
最初に決めるのは取引の種類です。取適法の線は2系統あります。
- 製造委託・修理委託・特定運送委託、プログラムの作成、運送・倉庫保管・情報処理の役務 … 資本金は3億円と1,000万円、従業員数は300人が線
- それ以外の情報成果物作成委託(デザイン、映像、文書など)と役務提供委託(清掃、警備、ビルメンテナンスなど) … 資本金は5,000万円と1,000万円、従業員数は100人が線
プログラムと運送・倉庫保管・情報処理だけが製造側の線に入るのは、政令でそう決められているからです(取適法2条8項1号の政令)。同じ「システム関係」でも、プログラムの作成は3億円・300人の線、それ以外の情報成果物は5,000万円・100人の線になります。
もう1つ大事なのが、建設工事の下請は対象外という点です。2条4項は、建設業者が請け負った建設工事を他の建設業者に請け負わせることを役務提供委託から除いています。こちらは建設業法の側で扱います。ただし建設会社でも、部材の製造を任せる、図面の作成を任せるといった取引は取適法の対象になりえます。
資本金の線と従業員数の線
次に、自社と相手の数字を線に当てます。条文(2条8項・9項)を、取引の種類ごとに並べるとこうなります。
製造委託等(製造・修理・特定運送・プログラム・運送等)
- 資本金3億円超の会社 → 資本金3億円以下の会社や個人に任せると対象
- 資本金1,000万円超3億円以下の会社 → 資本金1,000万円以下の会社や個人に任せると対象
- 従業員300人超の会社 → 従業員300人以下の会社や個人に任せると対象
情報成果物作成委託・役務提供委託(上以外)
- 資本金5,000万円超の会社 → 資本金5,000万円以下の会社や個人に任せると対象
- 資本金1,000万円超5,000万円以下の会社 → 資本金1,000万円以下の会社や個人に任せると対象
- 従業員100人超の会社 → 従業員100人以下の会社や個人に任せると対象
資本金の基準と従業員数の基準は、どちらか一方に当てはまれば対象です。旧下請法の時代は、資本金が小さいのに従業員が多い会社は、多くの取引で親事業者になりませんでした。取適法ではそうした会社も、相手の従業員数しだいで委託事業者になります。
従業員数の線は「常時使用する従業員の数」で数えます。パート・アルバイトをどう数えるかなど細かい扱いは、公正取引委員会と中小企業庁の解説で確かめてください。
なお、資本金1,000万円超などの会社に支配されている子会社が、受けた仕事の全部や大部分を中小の会社に回す場合は、その子会社を委託事業者とみなす規定もあります(2条10項)。間に会社を挟んでも対象から外れない、ということです。
相手の資本金・従業員数はどこで分かるか
線が分かっても、相手の数字が分からなければ判定できません。2つの数字は、外からの確かめやすさがまったく違います。
資本金は、登記で確かめられる
株式会社の資本金は登記事項です。法務局で登記事項証明書を取れば、今の資本金の額が分かります。取り方と読み方は会社の資本金を調べる方法と会社の登記簿は誰でも見られるにまとめています。
会社サイトの会社概要に資本金を書いている会社もありますが、更新されていないことがあります。しょくばログが保存している会社サイト31,159社では、資本金を額つきで書いていたのは40.4%でした(会社概要の見方と、会社概要がない会社)。判定に使うなら、登記のほうが確かです。
従業員数は、登記されない
従業員数は登記されません。外から見えるのは、会社サイトの会社概要、求人票、gBizINFOなどに会社自身が書いた数字です。同じ会社サイト31,159社で、従業員数を人数つきで書いていたのは34.8%でした。探し方は会社の従業員数を調べる方法に書いています。
ただ、こうした数字は「いつの時点の、誰を数えた数字か」が会社ごとにばらばらです。300人や100人の線の近くにいる会社だと、パートを入れるかどうかで結果が変わります。線の近くの取引先は、公開情報で決めずに、相手に書面で確認するのが安全です。
データで見る:線の上下に会社はどれだけいるか
しょくばログのデータで、線の上下にどれだけの法人がいるかを数えました。
従業員数が分かる14万4,056法人の分布
gBizINFOに従業員数が登録されている活動中の法人は144,056でした。
- 100人以下 … 101,632法人(70.6%)
- 101〜300人 … 26,255法人(18.2%)
- 300人超 … 16,169法人(11.2%)
ここに出てくるのは、補助金の申請や調達などでgBizINFOに情報が登録された法人です。全体の2.9%にあたり、規模の大きい会社に偏っていると考えられます。それでも10法人のうち7法人は100人以下で、役務提供委託の線(100人)より下にいます。
資本金が分かる8万1,533社の分布(建設業許可)
資本金の数字がまとまって手に入るのは、しょくばログが取り込んでいる建設業許可の名簿(東京・大阪・新潟・福島)です。活動中の法人に紐づく81,533社の資本金はこう分かれました。
- 1,000万円以下 … 63,396社(77.8%)
- 1,000万円超5,000万円以下 … 15,390社(18.9%)
- 5,000万円超3億円以下 … 2,355社(2.9%)
- 3億円超 … 392社(0.5%)
建設工事の下請そのものは取適法の対象外ですが、資本金の分布の目安にはなります。8割近くが1,000万円以下で、資本金の基準で見ると、多くの会社が「中小受託事業者」の側に入ります。
資本金では外れて、従業員数で入る会社
改正で新しく対象に入りうるのは、「資本金は小さいが従業員は多い」会社です。従業員数と資本金の両方が分かる法人で数えました。
- 従業員300人超で資本金も分かる2,851法人のうち、資本金3億円以下は490(17.2%)
- 従業員100人超で資本金も分かる4,453法人のうち、資本金5,000万円以下は460(10.3%)
資本金だけで線を引いていた旧下請法では、こうした会社が委託事業者になる場面は限られていました。取適法では、相手の従業員数が線より下なら委託事業者として扱われます。「うちは資本金が小さいから関係ない」と思っている会社ほど、従業員数の側を確かめる必要があります。
取引先に確認するときの実務
外からの確認には限界があるので、取引の入口で相手に聞く仕組みを作っておくと迷いません。
1. 取引口座を開く書類に、資本金と従業員数の欄を設ける … 「常時使用する従業員数」と基準日を書いてもらう 2. 自社の数字も相手に伝える … 受託側から見ても、自分が守られる取引かどうかを知る手がかりになる 3. 線の近くの取引先は、年に1回など時期を決めて確認し直す … 増資や採用で、対象かどうかが変わることがある 4. 取引の種類を記録しておく … 同じ相手でも、製造の委託とデザインの委託では線が違う
新しい取引先を確かめる手順全体は、新規取引先の確認事項にまとめています。支払期日の60日ルールが与信の考え方にどう効くかは、与信限度額の決め方で触れました。中小企業基本法の「中小企業」の定義とは線が違う点にも注意してください(中小企業の定義は「資本金または従業員数」)。
よくある質問
取適法と下請法は別の法律ですか?
同じ法律です。下請代金支払遅延等防止法が改正され、名前が変わって2026年1月1日から施行されました。施行の前後にまたがる取引の扱いは、公正取引委員会の解説で確かめてください。
相手が個人事業主なら、資本金はどう考えますか?
条文は、中小受託事業者の側に「個人」をはっきり含めています。資本金のない個人事業主に製造や役務を任せる場合、自社が資本金1,000万円超(または従業員数の基準を超える)なら対象になりえます。
従業員数は、正社員だけで数えればいいですか?
条文の言葉は「常時使用する従業員の数」です。正社員だけと決めつけず、パート・アルバイトの扱いを公正取引委員会と中小企業庁の解説で確認してください。線の近くにいる場合は、数え方で結果が変わります。
資本金も従業員数も公開していない会社は、どう判定しますか?
株式会社なら資本金は登記で分かります。従業員数は登記されないので、相手に聞くしかありません。取引口座の開設書類で、資本金と従業員数を書いてもらうのが確実です。
うちが対象かどうか、最終的には誰に聞けばいいですか?
判断に迷うときは、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口に問い合わせてください。この記事は条文と公開データから整理したもので、個別の取引が対象かどうかを判定するものではありません。
まとめ
- 取適法の対象かは「取引の種類」「資本金」「従業員数」で決まる。資本金で外れても、従業員数で入れば対象
- 製造・修理・特定運送・プログラム等は3億円/1,000万円/300人、それ以外の情報成果物・役務は5,000万円/1,000万円/100人が線
- 建設工事の下請は対象外。ただし建設会社でも製造や図面作成の委託は対象になりうる
- 資本金は登記で確かめられるが、従業員数は登記されない。線の近くの相手には書面で確認する
- 従業員数が分かる144,056法人のうち300人超は11.2%。資本金と従業員数の両方が分かるのは0.18%だけ
数字について
- 条文は e-Gov法令API(2026年10月9日取得)の「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(2026年1月1日施行の版)2条・3条・4条・5条・7条と、同法2条8項1号の政令によります
- 法人の数は、しょくばログの国税庁法人番号データのうち、閉鎖されていない法人(4,988,967)を2026年10月9日に数えたものです(scripts/analyze_toritekiho.py)
- 従業員数は、gBizINFOの基本情報に登録された値で、0や空欄を除いています。登録の時点は法人ごとに異なり、会社以外の法人(医療法人など)も含みます
- 資本金は、しょくばログが取り込んでいる建設業許可業者の名簿(東京・大阪・新潟・福島)とgBizINFOの値です。上場会社の有価証券報告書の値は単位をそろえていないため、両方が分かる法人の集計からは外しています
- 会社サイトの記載率(資本金40.4%・従業員数34.8%)は、しょくばログが保存している会社サイト31,159社を数えた既存記事の数字です