✍ 古家あきら | 2026-10-14 更新
合同会社の職務執行者とは — 代表者の欄に「職務執行者」とあるときの読み方。代表者名が分かる合同会社887社のうち76社がこの書き方で、8割超が東京都、社名に「ジャパン」を含む会社が4社に1社だった
先に結論です。合同会社の「職務執行者」とは、会社(法人)が代表社員になっているときに、その法人に代わって実際に代表社員の仕事をする人のことです。 会社法598条1項で、法人が業務を執行する社員になる場合は「職務を行うべき者」を選ぶよう決められていて、これが一般に職務執行者と呼ばれます。代表社員が法人のときは、その職務執行者の氏名と住所が登記されます(会社法914条8号)。
つまり、求人票や会社概要の代表者欄に「職務執行者 ◯◯」と書いてあったら、その会社の本当の代表社員は、別の会社だということです。 そして、その親にあたる会社の名前は、代表者欄には出てこないことがほとんどです。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「代表者のところに『職務執行者』と書いてある会社に応募しようとしているが、社長がいない会社なのか」という問い合わせをいただきます。社長がいないわけではありません。代表が「会社」なので、人の名前の前に別の肩書きが付いている、というのが実際のところです。この記事では、その読み方と、うちの台帳で実際に数えた結果をまとめます。
合同会社そのものの特徴や、合同会社に入社することの有利・不利は合同会社に入社するのは不利なのかにまとめています。この記事は「代表者欄の読み方」に絞ります。
職務執行者とは — 会社が代表社員になるときの「中の人」
合同会社では、出資した人を「社員」と呼びます。従業員のことではなく、株式会社でいう株主と経営者を兼ねた立場です。その社員のうち、会社を代表する人が「代表社員」です。
株式会社との大きな違いは、合同会社では会社(法人)も社員・代表社員になれることです。株式会社の取締役は、会社法331条1項1号で「法人」はなれないと決められているので、取締役は必ず個人です。合同会社にはこの制限がありません。
ただ、会社そのものが手を動かして契約書にサインすることはできません。そこで会社法598条1項は、法人が業務を執行する社員になる場合、その法人が「職務を行うべき者」を選んで、氏名と住所をほかの社員に知らせるよう定めています。これが職務執行者です。同じ条の2項で、業務を執行する社員と同じ義務(善管注意義務など)が職務執行者にもかかる形になっています。
登記についても、会社法914条が合同会社の設立の登記に載せる事項を並べていて、その中に次の3つがあります。
- 6号:業務を執行する社員の氏名または名称
- 7号:会社を代表する社員の氏名または名称および住所
- 8号:会社を代表する社員が法人であるときは、その社員の職務を行うべき者の氏名および住所
「名称」とあるのは、社員が会社の場合はその会社名が入るからです。代表社員が法人の合同会社の登記には、代表社員として親会社の名前と住所、続けて職務執行者として個人の名前と住所が並びます。
代表者名が分かる合同会社887社を数えた
うちの台帳で、活動中の合同会社は41万2,442社です。国税庁の法人番号のデータには代表者名が入っていないため、経済産業省のgBizINFOに代表者名が載っている会社と突き合わせました。合同会社で代表者名が分かったのは887社で、合同会社全体から見るとごく一部です。そのうえで、代表者欄の書き方を肩書きごとに数えると次のとおりでした。
- 代表社員 … 786社(88.6%)
- 職務執行者 … 76社(8.6%)
- 業務執行社員 … 16社(1.8%)
- そのほか(代表取締役・代表・代表者など)… 残り
ほとんどは「代表社員 ◯◯」で、個人が代表社員になっている会社です。職務執行者と書かれた会社は887社のうち76社、およそ12社に1社でした。代表者名を公表している合同会社に限った数字なので、合同会社全体でも同じ割合とは言えません。それでも、代表者欄に「職務執行者」が出てくるのは、めずらしいことではないと分かります。
76社の特徴 — 東京都が8割超、社名に「ジャパン」が4社に1社
職務執行者と書かれた76社を、残りの811社と比べると、はっきりした違いがありました。
1つめは所在地です。 76社のうち63社(82.9%)が東京都でした。代表者名が分かる887社全体では東京都は318社(35.9%)、活動中の合同会社41万2,442社全体では12万8,330社(31.1%)です。職務執行者のいる合同会社は、東京への集まり方が2倍以上強いことになります。
2つめは社名です。 76社のうち18社(23.7%)が社名に「ジャパン」を含んでいました。残りの811社では11社(1.4%)です。社名を順に見ていくと、アマゾンジャパン合同会社、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社、シスコシステムズ合同会社、日本キャタピラー合同会社、ボストン・コンサルティング・グループ合同会社など、海外企業の日本法人や、コンサルティング・会計系の会社が目立ちます。職務執行者の名前がカタカナだけの会社も20社(26.3%)ありました。
3つめは規模です。 gBizINFOに従業員数が載っている会社で比べると、職務執行者の会社28社は中央値624.5人で、100人以上が23社でした。それ以外の書き方の会社は39社で中央値7人、100人以上は6社です。数は少ないので傾向としての話ですが、「職務執行者がいる合同会社=小さな会社」ではありません。
これは、海外の親会社が日本に子会社を作るときに合同会社を選び、親会社自身を代表社員にして、日本側の責任者を職務執行者に置く形がよく使われているためと考えられます。外資系かどうかの見分け方は外資系企業の見分け方で詳しく扱っています。
代表者欄に親会社の名前は出てこない
ここが読み方でいちばん注意したい点です。職務執行者と書かれた76社のうち、代表者欄に親会社の名前まで書かれていたのは1社だけでした。残りはすべて「職務執行者 + 個人名」だけです。
つまり、求人サイトやデータベースの代表者欄を見ても、誰が(どの会社が)代表社員なのかは分かりません。 「職務執行者」という言葉が、代表社員が会社であることの唯一の手がかりになります。
会社の公式サイトでも同じでした。うちが保存している会社サイトのうち、本文が読める合同会社のサイト293社で「職務執行者」という言葉が出てくるのは1社だけです。会社概要には「代表者 ◯◯」「代表 ◯◯」とだけ書かれ、職務執行者という言葉自体を出していないことが多いと考えられます。サイトの代表者名だけ見て「この人が持ち主だ」と思うと、読み違えることがあります。
代表社員の会社を確かめる手順
代表社員になっている会社がどこかを知りたいときは、次の順に確かめます。
1. 法人番号で会社を特定する:社名が似た会社は多いので、まず法人番号で対象の会社を確定します。代表者の調べ方の全体像は会社の代表者を調べる方法にまとめています。 2. 会社サイトの会社概要と沿革を読む:「◯◯グループの日本法人」「◯◯株式会社の100%子会社」と書かれていることがあります。資本金や株主の欄に親会社が書かれている場合もあります。 3. 登記事項証明書を取る:いちばん確実なのはこれです。合同会社の登記には、代表社員の名称と住所、職務執行者の氏名と住所が載ります。登記事項証明書は誰でも請求できます。取り方は会社の登記簿は誰でも見られるを参照してください。 4. 代表社員の会社も調べる:登記で分かった代表社員の会社を、同じように法人番号から調べます。海外の会社の場合は日本の法人番号がないこともあり、その場合は親会社の公式サイトや年次報告書を当たります。
なお、職務執行者の名前で別の会社を調べると、同じ人が複数のグループ会社の職務執行者や代表者を兼ねていることもあります。代表者が同じ別の会社の読み方は代表者が同じ別の会社があるのは普通なのかで扱っています。
働く側・取引する側が見ておきたいこと
職務執行者がいること自体は、何も悪いことではありません。会社法が用意している普通の仕組みです。そのうえで、確かめておきたい点が2つあります。
意思決定がどこでされるか。 代表社員が親会社なので、大きな方針は親会社で決まることが多くなります。日本法人の職務執行者が決められる範囲は、会社によって違います。面接や商談で「日本側でどこまで決められるか」を聞いておくと、入社後や取引後のずれが減ります。
責任者が替わりやすいか。 職務執行者は親会社が選ぶ人なので、親会社の人事で交代することがあります。交代しても、代表社員である親会社は変わりません。職務執行者の名前が以前と違っていても、それだけで会社が別物になったわけではない、と読むのが正確です。
法人の種類ごとの違いをまとめて見たい方は法人の種類一覧、合同会社・合資会社・合名会社をまとめた「持分会社」の数は持分会社とは何かも参考になります。
よくある質問
職務執行者は社長と同じですか
実務上はその会社のトップとして働くことが多いので、社長に近い役割です。ただし法律上の代表社員は親会社で、職務執行者はその親会社に代わって仕事をする人という位置づけです。名刺などで「代表」「社長」と名乗っていても、登記上は「代表社員 ◯◯株式会社 職務執行者 ◯◯」となっていることがあります。
株式会社にも職務執行者はいますか
いません。株式会社の取締役は会社法331条1項1号で法人がなれないと決められているため、代表取締役は必ず個人です。職務執行者は、会社が社員になれる合同会社などの持分会社の仕組みです。
職務執行者は外国人でもなれますか
なれます。うちの台帳で見た76社でも、職務執行者の名前がカタカナだけの会社が20社(26.3%)ありました。登記には氏名と住所が載ります。
代表者欄に「職務執行者」とある会社は、怪しい会社ですか
怪しいサインではありません。うちで数えた76社は東京都が8割超で、海外企業の日本法人や大手のコンサルティング会社が多く含まれていました。親会社がどこかを登記事項証明書や会社サイトで確かめれば、むしろ会社の背景がはっきりします。
代表社員が法人で、職務執行者が2人いることはありますか
登記上の決まりは「代表社員が法人であるときは、その職務を行うべき者の氏名及び住所」を載せる、という形で、人数は1人に限られていません。代表社員の法人が複数ある場合も、それぞれに職務執行者が置かれます。実際の人数は登記事項証明書で確かめてください。
まとめ
- 職務執行者は、会社(法人)が合同会社の代表社員になっているときに、その法人に代わって仕事をする人。会社法598条1項で選ぶことが決められ、914条8号で氏名と住所が登記される
- 株式会社の取締役は法人がなれないため(会社法331条1項1号)、職務執行者は合同会社など持分会社の仕組み
- gBizINFOで代表者名が分かる合同会社887社のうち、代表者欄が「職務執行者」の会社は76社(8.6%)
- 76社は東京都が82.9%(合同会社全体では31.1%)、社名に「ジャパン」を含む会社が23.7%(ほかの811社は1.4%)。海外企業の日本法人が目立つ
- 代表者欄に親会社の名前が書かれていたのは76社中1社だけ。代表社員の会社を知るには、会社サイトの沿革や登記事項証明書を確かめる
集計について:しょくばログの台帳(国税庁 法人番号公表サイトの全件データ)で法人種別が合同会社の会社と、経済産業省gBizINFOに代表者名が掲載されている会社を照合し、代表者欄の先頭の肩書きで分類しました(2026年10月14日時点)。gBizINFOに代表者名を載せている合同会社は全体のごく一部で、合同会社全体の割合を表すものではありません。従業員数はgBizINFOに数値が載っている会社のみで比べています。会社サイトの件数は、しょくばログが保存している会社公式サイトの本文テキストのうち、文字化けのないものを対象にしました。法律の条文は e-Gov法令検索の会社法(第331条・第598条・第914条)で確認しています。