✍ 古家あきら | 2026-10-14 更新
ヒューリックがTOMASのリソー教育グループをTOBで完全子会社化へ──1株295円・約248億円。開示に書かれた「上場廃止で採用に影響」の懸念と、社名に「教育」を持つ会社2,855社
先に結論です。不動産大手のヒューリックが、子会社のリソー教育グループ(東京都豊島区)に対して株式の公開買付け(TOB)を行い、完全子会社にすると10月13日に発表しました。 買付価格は1株295円で、買付代金は新株予約権を含めて約248億円です。リソー教育グループの取締役会は賛同し、株主に応募を勧めています。成立すれば、東証プライム市場の上場は廃止になる見込みです。
この件で目を引くのは、価格よりも開示に書かれた経営課題です。リソー教育グループは「最大の経営課題」として、少子化で顧客になる子どもが減ること、そして優秀な人材の採用難と人件費の高騰を挙げています。さらに、上場をやめると「プライム市場上場企業」という看板がなくなり、人材の採用や雇用継続に影響が出るおそれがあるとも書いています。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「上場しているかどうか」を会社選びの安心材料にしている方が多いと感じます。この記事は買収の是非や価格の妥当性を評価するものではありません。開示で確かめられる事実と、塾で働く人・塾を選ぶ保護者の方が知っておきたい学びをまとめます。
出典:当社親会社であるヒューリック株式会社による当社株券等に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ(株式会社リソー教育グループ・2026年10月13日・TDnet) 出典:2027年2月期 第2四半期(中間期)決算短信(株式会社リソー教育グループ・2026年10月13日・TDnet) 出典:ヒューリック<3003>、子会社のリソー教育グループ<4714>をTOBで完全子会社化(M&A Online・2026年10月13日)
開示で確認できる事実
まず、数字を開示どおりに並べます。
- 買い手:ヒューリック株式会社(東京都中央区・不動産の所有・賃貸・売買・仲介)
- 対象:株式会社リソー教育グループ(1985年7月設立・持株会社。グループで個別指導塾「TOMAS」、幼児教育の「伸芽会」、プロ講師の個別指導「名門会」などを運営)
- ヒューリックの持株比率:51.01%(2026年2月末時点の大株主の状況)
- 買付価格:1株295円。提案前営業日(10月1日)の終値209円に対して41.15%のプレミアム
- 買付代金:約248億4,100万円(M&A Onlineによる)
- 買付期間:2026年10月14日〜11月26日(30営業日)
- 配当:TOBの成立を条件に、2027年2月期の期末配当(予想10円)を行わないと決議
同じ日に出た中間決算では、売上高175億8,300万円(前年同期比4.9%増)、営業利益16億6,300万円(同113.4%増)でした。会社は「売上高・利益ともに中間連結会計期間として過去最高」と説明しています。業績が落ち込んだから売られる、という単純な話ではないことがわかります。
開示に書かれた「完全子会社になる理由」
意見表明の資料には、なぜ上場をやめてまで完全子会社になるのかが書かれています。要点は3つです。
1. 講師の確保:ヒューリックは2026年7月に、東大受験指導専門塾「鉄緑会」を運営する東京教育研を完全子会社にしています。幼児教育から最難関大学の受験までを1つのグループでカバーし、人材面の連携で「質の高い講師を安定的に確保できるようになる」ことを期待しているそうです。 2. 意思決定の速さ:上場したままだと、親会社と子会社の取引のたびに少数株主の利益に配慮した手続きが必要になります。特別委員会も「上場を維持したままでのシナジーの実現が困難」という説明に合理性があると判断しています。 3. 教育特化型ビル:不動産会社であるヒューリックが、教室向けのビルの展開を進めることも挙げられています。
一方で、デメリットもはっきり書かれています。上場廃止で「プライム市場上場企業」というネームバリューがなくなり、人材の採用や雇用継続の維持への影響が懸念される、という記述です。会社自身が採用への影響を開示に書くのは、それだけ採用が経営の中心にある業種だということでしょう。
しょくばログの台帳で見た「教育」の会社
しょくばログの会社台帳(国税庁の法人番号データ)で、株式会社・有限会社・合名会社・合資会社・合同会社のうち、社名に「教育」を含む会社を数えました。閉鎖済みの会社も含みます。
- 社名に「教育」を含む会社:2,855社
- そのうち東京都:961社(33.7%)。会社全体では東京都は24.5%なので、東京への集まり方が強い
- 閉鎖の記録がある割合:18.8%(537社)。会社全体の13.5%より高い
塾に絞った数字は、学習塾の運営会社を調べる方法で整理しました。社名に「塾」「家庭教師」「ゼミナール」を含む活動中の会社は1,684社で、そのうち有限会社が43.8%でした。教育の会社は、上場企業から昔ながらの小さな会社まで幅が広い分野です。
※閉鎖の割合は、ある時点で数えた断面の比率です。年ごとの推移の比較には使っていません。
台帳で見ると「同じ名前の会社」が多い
リソー教育グループの本店は東京都豊島区目白で、法人番号は2013301009186です。同じ住所には「株式会社TOMAS」も登記されています。
ただ、台帳で社名に「TOMAS」を含む会社を探すと、北海道・栃木・千葉・東京・神奈川など各地に別の会社が出てきます。「株式会社TOMAS」という同じ社名の会社も、豊島区のほかに千代田区と横浜市にありました。ブランド名だけで調べると、関係のない会社にたどり着くことがあるということです。
また、豊島区南池袋に本店があった「株式会社インターTOMAS」と「株式会社TOMAS企画」は、2020年3月11日付で閉鎖の記録があり、閉鎖の理由は「合併」でした。グループの中で会社がまとめられると、登記の上ではこうした形で残ります。
塾で働く人・働きたい人が見ておきたい3つのこと
1. 「上場しているか」より「誰が親会社か」
今回の件で、リソー教育グループはもともと上場子会社でした。上場廃止になっても、ヒューリックのグループの一員であることは変わりません。会社を見るときは、上場の有無だけでなく、親会社がどこで、どの事業とつながっているかを確かめると、実態に近づけます。
2. 採用の数字が見えにくくなる
上場廃止になると、有価証券報告書で見られた平均年収や平均勤続年数などは、外から見えなくなります。何が見えなくなり、何が残るのかは、アルビスのTOBで上場廃止になると見えなくなる数字で整理しました。入社前に確かめたいことは、内定先が不安なときの確認ポイントにまとめています。
3. 人手不足は塾だけの課題ではない
講師の採用難は、塾の経営そのものに直結します。人が集まらずに事業が続けられなくなる会社の動きは、人手不足倒産の見分け方で取り上げました。同じ日には、中古住宅の会社が売られる件もあり、カチタスによる東武住販のTOBの開示でも「人材確保」が売られる理由の1つに挙がっていました。
運営者として思うこと
開示を読んで印象に残ったのは、過去最高の中間決算と同じ日に、少子化と採用難を「最大の経営課題」と書いていたことです。業績が良い今のうちに、講師を確保する仕組みと意思決定の速さを手に入れておきたい。そう読める内容でした。
塾は、教える人がいて初めて成り立つ商売です。地方の小さな塾でも、大手のグループでも、「先生をどう集めて、どう続けてもらうか」が会社の将来を左右する点は同じだと感じます。買収のあとに会社の何が変わりやすいかは、会社が買収されたら何が変わるのかにまとめています。
よくある質問
リソー教育グループはもう完全子会社になったのですか?
まだです。TOBの期間は2026年10月14日から11月26日までで、成立したあと、残りの株式を取得する手続きを経て完全子会社になる予定です。上場廃止もその手続きのあとになります。
TOMASや伸芽会の教室はなくなりますか?
開示では、既存事業の業績向上やグループ内の連携を進める方針が書かれていて、教室をなくすという記述はありません。今後の具体的な運営は、会社からの発表を確認してください。
TOBに応募しなかった株主はどうなりますか?
TOBが成立すれば、その後の手続きで最終的には金銭を受け取る形になるのが一般的です。今回は期末配当も行わないと決まっています。個別の判断は、証券会社や専門家に相談してください。
同じ名前の塾の会社が複数あるとき、どう見分ければいいですか?
法人番号と本店所在地で見分けます。しょくばログでは社名や法人番号で検索して、登記上の本店や閉鎖の有無を確かめられます。手順は法人番号の調べ方にまとめています。