✍ 古家あきら | 2026-09-11 更新

新規取引先の確認事項 — 取引前に無料で潰せる7項目と、実際に「埋まる」確率

新しい取引先と契約する前に何を確認すべきか——これ、ネットで調べると「与信を確認しましょう」「信用調査を検討しましょう」で終わっている記事がやたら多い。実務で欲しいのはそこじゃなくて、どの順番で、どこを開いて、何が出たらOKなのかのほうです。

先に結論。取引開始前に無料(+実費330円)で潰せるのは7項目あります。ただし正直に書いておくと、このうち会社を選ばず必ず答えが出るのは最初の3つだけ。残り4つは「相手による」ので、埋まらなかったことを黒判定にしてはいけません。しょくばログという会社データベースを運営していると、この「埋まらないのが普通」の感覚が分かってくるのですが、外から見ると分からない。だから今回は、各項目が実際に何%の会社で埋まるのかを、うちのデータで数えました(2026年9月11日時点の集計)。

なお、与信を「実在→活動→支払い能力」の3層で考える枠組みは取引先の信用を調べる方法に、有料調査の実額は企業の信用調査の費用相場に分けて書いています。この記事はその実行手順、つまり着手前に上から順に潰していくチェックリストです。

確認項目①:相手が「どの会社」かを法人番号で確定する

いちばん最初にやることは、与信でも反社でもありません。相手を1社に特定することです。ここを飛ばすと、以降の確認が全部「別の会社を調べていた」で無駄になります。

なぜそこまで言うか。会社名だけでは相手を特定できないからです。うちのデータで実際に数えました。活動中の会社(株式会社・有限会社・合同会社・合資会社・合名会社)は4,422,900社。このうち、まったく同じ商号の会社が他にも存在する会社が1,598,298社=36.14%あります。ざっくり3社に1社は「同名の他社」を持っている計算です。

「都道府県まで分かれば特定できるだろう」とも思いますよね。それも足りません。

最多の商号は「株式会社アシスト」で777社。都道府県別では東京都190社・大阪府95社・神奈川県60社。さらに絞って東京都港区だけで24社、新宿区22社、中央区19社です。「港区のアシストさん」では、まだ24分の1までしか絞れていない。

だから最初にやるのは、国税庁の法人番号公表サイトか、しょくばログの会社検索で、相手の法人番号13桁を確定させること。手順は会社名から法人番号を検索する方法にまとめてあります。以降の確認は全部この13桁をキーに進めます。名刺・請求書・見積書に法人番号の記載があれば、それが最短ルートです。

確認項目②:その会社が「今も生きているか」を見る

法人番号が取れたら、次は閉鎖されていないか。実在の確認と活動の確認は別物で、会社が実在するか確認する方法でも書いたとおり、登記されていること=今も動いていること、ではありません。

うちのデータでは、会社(同上5種)のうち閉鎖済みが698,587社。活動中と合わせた母数に対して13.64%、つまり7社に1社弱はすでに閉じています。内訳はこうです。

注目してほしいのが真ん中の登記官による閉鎖19万件です。これは会社が自分で畳んだのではなく、長期間登記が放置されて役所側で閉じられたもの。当の会社から取引先に連絡が行くわけではありません。「去年まで普通に取引していた会社が、実は登記上もう存在しない」は起こり得ます。解散・休眠・閉鎖の違いは会社が解散・休眠しているか調べる方法に切り分けて書きました。

確認項目③:登記を1件取る(実費330円)

ここまでは完全無料ですが、新規取引で金額が動くなら、登記は取ったほうがいい。理由は単純で、無料のオープンデータでは埋まらない項目が多すぎるからです。

うちが保有している公的オープンデータで、活動中の会社4,422,900社のうち各項目が埋まっている割合を数えるとこうなります。

代表者名すら、無料のオープンデータで埋まるのは1.42%。裏を返せば、330円払えばその1.42%の壁が消えるということです。登記情報提供サービスなら商業・法人登記の全部事項が1件330円、証明力が要る場面の登記事項証明書は書面請求600円/オンライン請求で送付520円/オンライン請求で窓口交付490円(令和7年4月1日から)。取引の入口で払う額としては安い部類だと思います。

取るのは履歴事項全部証明書(または登記情報提供サービスの全部事項)。ここで見るのは4点です。

住所そのものの追い方は会社の住所を調べる方法、代表者の履歴は会社の代表者を調べる3つの方法にあります。

確認項目④:インボイスの登録番号を確認する

自社が課税事業者なら、相手が適格請求書発行事業者に登録されているかは取引条件そのものに関わります。ここは法人番号を持っていれば一瞬です。登録番号は「T+法人番号13桁」なので、頭にTを付けて国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで引くだけ。詳しくはインボイスの登録番号から会社名を逆引きする方法に手順があります。

ここで大事なのが「出てこない=おかしい」ではないこと。うちのデータでは、活動中の会社4,422,900社のうちインボイス登録が確認できるのは2,344,620社=53.01%。約半分は登録していません。免税事業者のまま事業を続けている会社は普通にあります。確認すべきは登録の有無そのものではなく、登録の有無と、相手が出してくる請求書の書き方が食い違っていないかです。

確認項目⑤:その業種に要る許認可を持っているか

建設・不動産・人材派遣・産廃・運送・介護・金融など、許可がないとそもそも受注できない仕事があります。無許可の相手に発注すると、こちらが困ります。

ただしここは業種次第で、確認の難易度がまったく違う。全業種を横断で検索できる窓口が日本には存在せず、役所ごとにバラバラです。業種別の公式な確認先は会社の許認可を調べる方法に1ページでまとめました。

そして、埋まらないことのほうが多い。うちが31都府県の建設業許可オープンデータを取り込んだ結果で言うと、業種分類が建設業(大分類D)の会社215,661社のうち、許可データに載っているのは63,973社=29.66%。全国全件のデータではないので当然なのですが、「うちのデータに出ない=無許可」ではまったくないわけです。何らかの届出・認定・許認可の情報がひもづいている法人は、活動中の法人4,988,967社に対して769,832社=15.43%。公的データベースの網は、思っているよりずっと粗いと考えてください。

確認項目⑥:事業実態があるか

登記があって閉鎖もされていない。それでも中身が動いていない会社はあります。見るのは登記ではなく、外から見える活動の痕跡です。

判断の型は営業実態のない「幽霊会社」を見分ける5つのサインに整理しました。ひとつ強調しておくと、1つのサインで黒と決めない。小さい会社は「サイトが無い・電話が携帯・従業員数が非公開」が全部同時に成立します。それは実態が無い証拠ではなく、日本の会社の多数派の姿です。

確認項目⑦:反社チェックと、契約条項で守る

最後が反社チェックです。ただし現実的な話をすると、無料でできる範囲は「新聞・ネットの記事検索と、公表されている行政処分の確認」までで、それ以上は有料のデータベースになります。境界線は取引先の反社チェックはどこまで必要?に書きました。

そして本命は調査ではなく契約書のほうです。暴力団排除条項(暴排条項)を契約に入れておけば、後から判明したときに解除できる。調べ切ることより、解除できる状態を作っておくことのほうが、中小企業の実務では効きます。

「支払い能力」だけは無料で潰し切れない

7項目を全部やっても、最後に残るのが「払ってくれるのか」です。ここが無料の限界。

決算の情報がひもづく会社が0.26%という数字がすべてを物語っています。上場していない会社の決算を外から読む手段は実質ありません(会社の売上高を無料で調べる方法)。取引先の取引先を追うのも、無料で確実に分かるのは国との取引だけです(会社の取引先を調べる方法)。税金の滞納も、外からは基本的に見えません(「税金滞納」倒産が1-8月で181件)。

なので、支払い能力は調べるより条件で守るのが先です。初回は前金・少額から・支払サイトを短く。金額が一定を超えたときだけ有料の信用調査に出す。その判断ラインの考え方は取引先の信用を調べる方法にあります。

よくある失敗

よくある質問

新規取引先の確認は、どこまでやれば十分ですか?

金額と支払条件で決めるのが実務的です。前金または少額なら①②(法人番号の特定と閉鎖の確認)だけでも成立します。掛け取引で金額が動くなら③(登記)まで。継続取引で与信枠を設定するなら、そこで初めて有料の信用調査を検討する、という順番です。

相手が個人事業主の場合はどうしますか?

登記がないので、この7項目のうち①②③はそのまま使えません。代わりに効くのがインボイスの登録番号です。個人事業主の登録番号は法人番号を含まないTから始まる13桁で、国税庁の公表サイトで氏名・登録年月日を確認できます。ただし住所は本人が公表を希望した場合のみ表示されます。

インボイスの登録番号が確認できない相手とは取引しないほうがいいですか?

そうとは限りません。うちの集計では活動中の会社の53.01%しか登録が確認できない、つまり半分近くは免税事業者のままです。問題は登録の有無ではなく、登録していないのに登録番号が書かれた請求書が来るような食い違いのほうです。取引条件として仕入税額控除の扱いを事前にすり合わせてください。

登記は「履歴事項全部証明書」と「現在事項全部証明書」のどちらを取ればいいですか?

取引先を調べる目的なら履歴事項です。現在事項は今の状態しか出ませんが、履歴事項なら直近の本店移転・商号変更・役員の変更といった動きの履歴が読めます。新規取引先の確認で見たいのはまさにそこです。

会社の登記簿は、相手に知られずに取れますか?

取れます。商業登記法第10条第1項が「何人も、手数料を納付して、登記簿に記録されている事項を証明した書面(以下「登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる」と定めていて、取得の理由を説明する必要はありません。相手方に通知が行く仕組みもありません。登記情報提供サービス(330円)でも登記事項証明書でも同じです。

反社チェックは無料でどこまでできますか?

新聞・ネット記事の検索と、公表されている行政処分情報の確認までです。網羅的な反社データベースは有料。無料の範囲で調べ切ろうとするより、契約に暴排条項を入れて解除できる状態を作るほうが確実です。詳細は取引先の反社チェックはどこまで必要?へ。

まとめ

新規取引先の確認は、上から順に潰すのが速いです。

①②は無料・数分、③は330円。ここまでで大半のリスクは潰せます。残る「払ってくれるか」だけは、調べるより取引条件で守る——これが無料でできることの、正直な線引きです。

しょくばログでは全国約579万社の会社情報を無料で公開しています。会社名で検索すれば、法人番号・所在地・法人種別といった登記由来の基本情報がその場で確認できるので、①の「相手を1社に確定する」一歩目にお使いください。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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