✍ 古家あきら | 2026-09-06 更新
会社の取引先を調べる方法 — 無料で確実に分かるのは「国との取引」だけです

先に結論です。会社の取引先の一覧は、どこにも公開されていません。 登記事項でもなければ、決算公告に載るものでもありません。「登記簿を取れば取引先が分かる」「信用調査会社に聞けば全部出る」というのは、どちらも成り立ちません。
外から確定情報として取引相手を特定できるのは、実質2つだけです。①上場企業が有価証券報告書で開示する「主要な顧客」と、②国が発注した契約(国が発注者として公表している)。この2つ以外は、公式サイトの導入事例や許認可のような状況証拠を積む作業になります。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「この会社の取引先を教えてほしい」という趣旨の問い合わせをいただきます。うちは国税庁の法人番号公表データを土台に全国約579万社ぶんの登記情報を持っていますが、取引関係のデータは1件も持っていません。持っていないのではなく、国が公表していないので存在しないのです。
ただし、ひとつだけ例外があります。発注者が国の場合は、発注した側が契約相手を公表している。これは調べられます。この記事では、その「調べられる部分」が現実にはどのくらいの範囲なのかを、国の落札データ30万6,949件を実際に集計して測りました。
なぜ取引先はどこにも載っていないのか
まず、外れやすい期待から潰しておきます。
登記には載りません。 株式会社の登記事項は会社法第911条第3項に列挙されていますが、目的・商号・本店・資本金の額・役員などが並ぶだけで、「取引先」「販売先」「仕入先」という言葉は一度も出てきません。登記は会社の中身の構造を公示する制度であって、その会社が誰と商売しているかを公示する制度ではないからです。同じ理由で、株主も登記されません(この点は会社の親会社・グループ会社を調べる方法に詳しく書きました)。
決算公告にも載りません。 株式会社が公告する決算は原則として貸借対照表(大会社は損益計算書も)です。取引先の名前が出るような性質のものではありません。そもそも非上場企業の数字を外から取ること自体が難しいのは、会社の売上高を調べる方法で触れたとおりです。
信用調査会社の報告書には「主要取引先」欄がありますが、これも公開情報ではありません。 あの欄の多くは調査員が会社に取材して得た申告ベースの情報で、報告書を買った人だけが見られるものです。無料で見えるものではないし、公開されている一覧が存在するわけでもありません(費用感は企業の信用調査の費用相場にまとめています)。
つまり、取引先が分からないのは調べ方が下手だからではなく、そういう情報が公開される仕組みが日本に無いからです。ここを最初に受け入れておくと、以降の作業がぐっと効率的になります。
例外①:上場企業の「主要な顧客に関する情報」
相手が上場企業なら、確定情報が1つ取れます。有価証券報告書のセグメント情報にある【主要な顧客に関する情報】です。EDINETで無料・登録なしに読めます。
根拠は企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」第32項です。条文はこうなっています。
「企業は、主要な顧客がある場合には、その旨、当該顧客の名称又は氏名、当該顧客への売上高及び当該顧客との取引に関連する主な報告セグメントの名称を開示する」
顧客の名前と、その顧客への売上高が、金額つきで載るということです。これは推定ではなく開示なので、そのまま使えます。同基準の結論の背景(第93項)では、同じ企業集団に属する顧客への売上高は「企業が知り得る限り、これを集約して主要な顧客に該当するか否かを判断することが望ましい」ともされています。
注意点が2つあります。ひとつは、「主要な顧客がある場合」の開示なので、特定の大口顧客に依存していない会社では欄そのものが無いこと。もうひとつは、載るのは大口の相手であって、取引先の一覧ではないことです。
それでも、この欄は下請け側の会社を調べるときに効きます。調べたい非上場のA社が上場企業B社の主要顧客として名指しされることは稀ですが、逆にB社の有価証券報告書の記述からA社との関係が裏付けられる場合があります。相手が上場しているかどうかの確認方法は会社が上場しているか確認する方法にまとめました。
例外②:国との取引は、発注した側が公表している
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
会社は取引先を公表しませんが、国は公表します。 財務大臣通知「公共調達の適正化について」(平成18年8月25日付 財計第2017号)により、各府省は国の支出の原因となる契約を締結したとき、契約日の翌日から起算して72日以内に(各年度の4月1日〜4月30日に締結した契約は93日以内に)、次の事項を公表しなければならないとされています。
- 公共工事の名称・場所・期間・種別、または物品等・役務の名称及び数量
- 契約担当官等の氏名、所属部局の名称及び所在地
- 契約を締結した日
- 契約の相手方の商号又は名称及び住所
- 一般競争入札か指名競争入札かの別、総合評価方式によった場合はその旨
- 契約金額
- 予定価格(他の契約の予定価格を類推されるおそれがない等の場合に限る)
- 落札率(契約金額を予定価格で除して100を乗じた率。予定価格を公表しない場合を除く)
- 随意契約によることとした会計法令の根拠条文及び理由
「契約の相手方の商号又は名称」が公表項目に入っている。これが決定的です。取引の片側が国であるとき、その取引は外から見えるということです。
ただし全部が見えるわけではありません。同通知は、国の行為を秘密にする必要があるものと、予定価格が予算決算及び会計令(予決令)第99条第2号・第3号・第4号・第7号のそれぞれの金額を超えないものを対象から除いています。要するに、機密案件と少額契約は公表されません。また、公表した事項をホームページに掲載しておく義務は「公表した日の翌日から起算して少なくとも1年」なので、各府省のサイトを直接見に行くと、古い契約は消えていることがあります。過去分をまとめて追うなら、gBizINFOが調達情報をオープンデータとして公開しているので、そちらが実用的です。
しょくばログのデータ:国との取引が見える会社は0.43%だった
では、この「見える取引」は現実にどれくらいの広さなのか。gBizINFOが公開している国の調達(落札)情報のオープンデータを、うちのデータベースに突き合わせて数えました。集計対象は2014年度〜2026年度(2026年度は途中まで。最新の契約日は2026年6月11日)の落札記録30万6,949件です。
分かったことを順に書きます。
落札した会社は、のべではなく実数で2万2,494社でした。 30万件の契約を、2万2千社あまりが分け合っている計算になります。
うちのデータベースにある活動中の法人502万8,697社のうち、国との契約実績が確認できたのは2万1,623社。割合にして0.43%です。 231社に1社という水準です。つまり、目の前の会社の取引先を「国との契約」から追える確率は、最初から1%を切っている。この記事の手法は当たれば強いのですが、当たる相手は限られます。ここは正直にお伝えしておきます。
しかも、その2万2,494社の中でも偏りが激しい。
- 落札1件だけの会社が5,978社(26.6%) — 4社に1社以上は「1回きり」
- 2〜4件が6,245社(27.8%)
- 5〜9件が4,089社(18.2%)
- 10〜49件が5,060社(22.5%)
- 50件以上が1,122社(5.0%)
登場した年度で見ても、6,819社(30.3%)は1年度にしか出てきません。 「国と取引がある会社」と聞くと継続的な取引先を思い浮かべますが、実態は3割が単発です。逆に、集計対象の13年度すべてに登場する常連も511社(2.3%)いました。
金額はもっと極端です。 集計期間の落札金額の合計は約9兆7,096億円。このうち、
- 上位10社で26.7%
- 上位100社で56.2%
- 上位1,000社で83.9%
を占めます。件数トップは株式会社三菱総合研究所の1,834件、金額トップは富士通株式会社の約4,987億円(1,058件)でした。これらは国が公表している契約情報の集計なので、誰でも同じ数字にたどり着けます。
意外だったこと:合同会社がほとんど出てこない
法人の種類ごとに見たときの偏りが、いちばん驚いた点でした。活動中の全法人と、落札企業の構成比を並べます。
- 株式会社:全体の49.99% → 落札企業では83.2%(1万8,714社)
- 有限会社:全体の28.43% → 落札企業では6.8%(1,520社)
- 一般社団法人・NPO等のその他の設立登記法人:全体の10.36% → 落札企業では9.1%(2,044社)
- 合同会社:全体の8.20% → 落札企業では0.7%(168社)
合同会社は、活動中の法人の12社に1社を占めるのに、国の落札企業では134社に1社しかいません。 母集団の比率に対しておよそ11分の1です。合同会社が2006年創設の比較的新しい器で、設立から日が浅い会社が多いことも効いているはずですが、それだけでは説明しきれない開きに見えます。実務的にどう使うかというと、調べたい相手が合同会社なら、国との取引から攻めるルートはほぼ期待できないということです。最初から別の手を使ったほうが速い。
所在地の偏りも出ました。落札企業の29.3%が東京都です(活動中の全法人では23.28%)。北海道が7.7%で2位に来るのが目を引きますが、これは国有林や国道・河川の維持管理といった、面積に比例して発生する発注が効いていると考えられます。
無料でできる調べ方:4つのルート
ここまでを踏まえて、実際の手順に落とします。上から順に、確度の高いものです。
ルート1:国の調達情報を法人番号で引く(確度:確定)
gBizINFOで会社名を検索し、その法人のページで調達情報を見ます。契約件名・契約日・金額・発注機関が出ます。ヒットすれば「国のこの部署と、この金額で取引がある」が確定します。
コツは法人番号で引くことです。会社名は表記ゆれ(株式会社の前株・後株、カタカナと英字)で取りこぼします。法人番号が分からなければ会社名から法人番号を検索する方法の手順で先に13桁を確定させてから引くと、ゆれの問題が消えます。
ルート2:公式サイトの「導入事例」「納入実績」(確度:高い・ただし片側)
会社が自分で公開している実績は、そのまま取引の証拠です。「実績」「導入事例」「お客様の声」「主要取引先」のページを探します。
注意点は、載っているのは会社が載せたいものだけだということ。取引先の同意が取れた案件、見栄えのする案件が中心で、売上構成を反映しません。「主要取引先」欄に大企業が5社並んでいても、そこが売上の大半とは限りません。事業内容そのものの確認手順は会社の事業内容を無料で調べる方法にまとめています。
ルート3:許認可・登録から取引の型を絞る(確度:中・間接)
取引先そのものは出ませんが、誰と取引できる会社なのかが分かります。建設業許可があれば公共工事に入れる、派遣業の許可があれば派遣契約が可能、といった具合です。業種ごとの確認先は会社の許認可を調べる方法にまとめました。
特に建設業では、許可行政庁が公表する情報や経営事項審査の結果から、その会社の完成工事高の規模感まで追えることがあります。
ルート4:求人票と採用ページ(確度:中・意外に強い)
見落とされがちですが、求人票には取引先が書いてあることがあります。「大手自動車メーカー向けの部品設計」「官公庁案件が中心」「取引先は上場企業が中心です」といった記述です。会社は採用のために自社の信用を示したいので、営業資料より率直に書いていることがあります。
うちが全国の求人を見ていて感じるのは、同じ会社の「会社概要ページ」より「求人票」のほうが取引の実態に近いことが珍しくない、ということです。ただし採用のための表現なので、盛られている可能性は割り引いて読んでください。求人票そのものの読み方は求人票の見方にまとめています。
有料調査でしか届かない範囲
ここから先は無料では届きません。
信用調査会社の企業調査報告書には、主要仕入先・主要販売先の欄があります。これは調査員が会社に直接取材して得るもので、公開情報を集めたものではありません。だから無料では原理的に手に入りません。
判断の目安としては、「その取引で失う可能性のある金額」が調査費用を明確に上回るときだけ買う、で足ります。数万円の取引のために報告書を買うのは合いません。金額別の考え方は取引先の信用を調べる方法の3層フレームで整理しています。
なお、報告書の「主要取引先」欄も会社の自己申告が元になっている点は知っておいてください。有料だから客観的、というわけではありません。
よくあるつまずき
「取引先が出てこない=怪しい会社」ではありません。 ここまで見てきたとおり、取引先が公開される仕組みが無いので、健全な会社でも出てこないのが普通です。国との取引で追えるのは0.43%でした。実在性や活動状況の確認は取引先の信用を調べる方法の手順で別途行ってください。
社名で検索して1件も出ないときは、社名が変わっている可能性を疑ってください。 商号が変わっても法人番号は変わらないので、法人番号で引き直すと出てくることがあります。会社が検索に出てこないときの原因は会社を検索しても出てこないときに確認することにまとめました。
落札実績を「経営が安定している証拠」と読むのは行き過ぎです。 3割が1年度きりの単発でした。国との取引があること自体は、支払いの確実性という意味では有利な材料ですが、継続性を保証するものではありません。
よくある質問
Q. 会社の取引先一覧を無料で見られるサイトはありますか
取引先の一覧を網羅的に公開しているサイトは、公的にも民間にも存在しません。 取引関係を公示する制度が無いためです。無料で確定情報が取れるのは、上場企業の有価証券報告書に載る主要な顧客と、国が発注者として公表している契約の2つに限られます。
Q. gBizINFOに調達情報が無い会社は、国と取引していないということですか
そうとは限りません。 「公共調達の適正化について」は、国の行為を秘密にする必要があるものと、予定価格が予決令第99条の定める額を超えない少額契約を公表対象から除いています。少額の物品購入や役務は、実際に取引があっても公表データには現れません。また、対象は国の機関の契約なので、都道府県・市区町村との取引は含まれません。自治体の分は各自治体が個別に公表しているので、その自治体のサイトを見に行く必要があります。
Q. 信用調査会社の報告書を買えば取引先が全部分かりますか
全部は分かりません。 報告書の主要取引先欄は調査時点で会社が申告した主要な先が中心で、取引先の全件リストではありません。会社が答えなかった先は載りませんし、内容の粒度は会社の協力度によっても変わります。費用の実額は企業の信用調査の費用相場にまとめています。
Q. 転職の企業研究で取引先を調べる意味はありますか
あります。特定の1社への依存度を見るために有効です。 上場企業なら有価証券報告書の主要な顧客に関する情報で、売上の大きな部分を1社が占めていないかが分かります。依存度が高い会社は、その1社との関係が切れたときの振れ幅が大きくなります。面接前の確認項目は面接前の会社研究チェックリストにまとめました。
Q. 「主要取引先に大企業が並んでいる会社」は信用できますか
取引の存在と、取引の規模は別です。 大企業の名前が並んでいても、それが年1回・数万円の取引である可能性は排除できません。名前の並びではなく、金額が確認できる情報(有価証券報告書の主要な顧客、国の落札金額)を優先してください。金額が出ない実績紹介は、参考情報として扱うのが安全です。
まとめ
- 取引先の一覧は公開されていない。 登記事項でも決算公告の内容でもなく、公示する制度自体が無い
- 確定情報が取れるのは2つだけ。 ①上場企業が有価証券報告書で開示する主要な顧客(企業会計基準第17号第32項。名称と売上高が載る)②国が発注者として公表する契約(財計第2017号。相手方の商号・住所・契約金額が公表される)
- 国との取引で追える会社は、活動中の法人502万8,697社のうち0.43%(2万1,623社)にとどまる。 落札1件だけの会社が26.6%、1年度しか登場しない会社が30.3%
- 金額は上位に集中する。 落札金額の56.2%を上位100社が占める
- 合同会社は国の落札企業の0.7%しかいない(活動中法人では8.20%)。相手が合同会社なら、このルートは最初から期待しない
- それ以外は状況証拠を積む作業。 公式サイトの導入事例、許認可、求人票の記述を重ねて確からしさを上げる
- 無料で届かない範囲は有料調査。 ただし報告書の主要取引先欄も会社の申告が元。金額の大きい取引に絞って使う
しょくばログでは全国約579万社の会社情報を無料で公開しています。会社名や法人番号での検索、業種・地域からの一覧に対応しているので、取引先を調べる最初の一歩(相手が実在する法人か、どこにあるか、いつからある会社か)にお使いください。