✍ 古家あきら | 2026-10-13 更新
会社の住所がマンションの一室・自宅だったら怪しいのか — 見分け方の手順(活動中の会社442万社のうち、登記の住所に「号室」や「ハイツ」「マンション」などが入るのは14万2,138社=3.2%。合同会社では7.1%)
先に結論です。会社の住所がマンションの一室や自宅でも、それだけで怪しいとは言えません。 1人や数人で始めた会社が、代表者の自宅やワンルームを本店にするのはよくあることです。見るべきなのは住所の種類ではなく、「その住所で、名乗っているとおりの事業が回っていそうか」 のほうです。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「求人に応募しようとした会社の住所を調べたらマンションだった。大丈夫ですか」という問い合わせをときどきいただきます。そこで台帳で数えてみました。国税庁の法人番号公表サイトで活動中の会社(株式・有限・合同・合資・合名)は442万2,900社。このうち登記上の住所に「号室」や「ハイツ」「マンション」「メゾン」「コーポ」といった住居系に多い名称が入っているのは14万2,138社(3.2%)でした。
しかもこの割合は、設立が新しいほど・人数が少ないほど高くなります。住所がマンションであることは「怪しさ」よりも、「若くて小さい会社であること」をよく表しています。
住所が自宅やマンションの会社はめずらしくない
会社は、本店の所在場所を登記します。オフィスビルを借りなければ会社を作れない、という決まりはありません。そのため、創業したばかりの会社やフリーランスが法人化した会社では、代表者の自宅をそのまま本店にすることがよくあります。
登記の住所にどこまで書くかも会社によって違います。番地までで止める会社もあれば、建物名や部屋番号まで書く会社もあります。つまり、住所に建物名が出ていない会社の中にも、実際はマンションの一室という会社がたくさんあるということです。この記事の数字は「住所の文字から住居系と分かるもの」だけを数えているので、実際より少なめに出ていると考えてください。
自宅を本店にする理由は、怪しいからではなく、たいていは費用です。事務所を借りれば家賃がかかります。売上が立つ前の小さな会社が固定費を抑えるのは、むしろ堅実な判断と言えます。
うちの台帳で数えた「住居系の住所」の会社
ここからは、しょくばログの台帳(国税庁の法人番号公表サイトの全件)で実測した数字です。登記上の住所(番地より後ろの部分)に、次のどれかが含まれる会社を「住居系の住所」としました。
- 「号室」
- 「マンション」「ハイツ」「メゾン」「コーポ」「ハイム」「パレス」「レジデンス」「ヴィラ」「カーサ」「アパート」「シャトー」「荘」
いちばん多かったのは「号室」で約5万6千社、次いで「ハイツ」約2万1千社、「マンション」約1万7千社でした。なお「パレス」「荘」などは事務所ビルや地名に使われることもあるため、ここでの数字はあくまで目安です。比べる相手として、「ビル」「タワー」「センター」「会館」など事務所系の名称が入る会社(住居系に当てはまらないもの)も数えました。
全体では3.2%、事務所系の名称は5.7%
- 活動中の会社:442万2,900社
- 住居系の住所:14万2,138社(3.2%)
- そのうち「号室」が入る:6万8,460社(1.5%)
- 事務所系の名称だけが入る:25万3,830社(5.7%)
残りの9割強は、番地までしか書いていないか、建物名から種類が読めない住所です。登記の住所だけで「オフィスかどうか」が分かる会社は、思っているよりずっと少ないということです。
会社の種類で見ると、合同会社が7.1%と高い
- 株式会社:3.6%(251万3,316社のうち9万107社)
- 合同会社:7.1%(41万2,431社のうち2万9,467社)
- 有限会社:1.5%
- 合資会社:1.3%
- 合名会社:0.7%
合同会社は設立の費用が比較的軽く、1人で作る会社も多い形です。住居系の住所が多いのは自然な結果でしょう。反対に、有限会社は2006年以降は新しく作れなくなった形なので、古くから続く会社ばかりです。こちらは1.5%にとどまりました。
設立が新しいほど、人数が少ないほど多い
経済産業省のgBizINFOに設立年や従業員数が載っている会社で、住居系の住所の割合を見ました。
設立年別:
- 1989年以前:0.3%
- 1990〜2005年:0.8%
- 2006〜2015年:2.2%
- 2016〜2020年:3.0%
- 2021年以降:5.2%
従業員数別:
- 0〜4人:3.9%
- 5〜9人:2.6%
- 10〜29人:1.8%
- 30〜99人:0.8%
- 100人以上:0.2%
gBizINFOに数字が載るのは、補助金や届出などで国とやり取りのある会社に偏るので、全体の傾向をそのまま表すものではありません。それでも、新しくて小さい会社ほど住居系の住所が多いという向きははっきり出ています。
都道府県別では、沖縄県7.2%、東京都4.7%、神奈川県4.6%、大阪府4.3%が高く、鳥取県と山口県は0.7%でした。マンションの多い都市部ほど高く、戸建てが多い地域では低い。住宅事情の違いがそのまま出ていると考えられます。
閉鎖の割合は、むしろ低かった
「マンションの会社はすぐなくなるのでは」と思われがちなので、閉鎖済みの会社も含めて比べました。閉鎖済みと活動中を合わせたうちの閉鎖の割合は、全体14.3%に対し、住居系の住所の会社は9.1%、事務所系の名称の会社は11.0%でした。
ただし、これで「マンションの会社のほうが潰れにくい」とは言えません。住居系の住所の会社は設立が新しいものが多く、閉鎖するまでの年月をまだ経ていないからです。言えるのは、住所が住居系だと閉鎖が目立って多い、という傾向は台帳からは見えないということまでです。
もうひとつ、インボイスの登録事業者になっている割合は、住居系の住所の会社で44.1%、事務所系の名称の会社で54.5%、それ以外で53.2%でした。インボイスに登録していないのは、取引先が消費者中心であったり売上が小さかったりする場合もあり、これも怪しさの物差しにはなりません。
住所より先に確かめたい4つのこと
住所の種類で判断できない以上、確かめるのは「実在して、名乗っている事業をしていそうか」です。順番に見ていくと、たいていは5分ほどで目安がつきます。
1. 法人番号で、会社として実在しているか
まず国税庁の法人番号公表サイトで社名を引きます。出てくれば、登記された会社として存在しています。同じ社名の会社は全国にいくつもあるので、所在地まで一致するかを見てください。閉鎖していないか、最近住所を移していないかも、ここで分かります。手順は 法人番号の調べ方 にまとめています。
2. 住所の「履歴」に不自然な動きがないか
同じサイトの変更履歴で、本店の移転を見ます。創業から一度も動いていない自宅兼事務所は、ごく普通です。気にしたいのは、短い期間に何度も本店を移している、社名と住所が同時に変わっている、といった動きです。移転の追い方は 会社の住所を調べる方法 で説明しています。
3. 同じ住所に、たくさんの会社が登記されていないか
マンションの一室でも、そこが1社だけの本店なら自宅兼事務所の可能性が高いです。反対に、同じ住所に何十・何百もの会社が登記されている場合は、住所を貸すサービス(バーチャルオフィスなど)の可能性が高くなります。バーチャルオフィスも合法なサービスですが、「その住所で働いている人はいない」ことは知っておくべきです。1つの住所に100社以上が登記されている場所が全国にどれくらいあるかは、外国人の起業が半減した記事 でも数えています。
4. 事業の中身が、外から確かめられるか
住所より大事なのはここです。会社のサイトに事業内容・取引先・代表者名が書かれているか、電話がつながるか、問い合わせに会社のドメインのメールで返事が来るか。ネット通販や教室などを運営しているなら、特定商取引法の表記に住所と責任者が書かれているかも見てください。サイトの見方は 会社のドメインで実在を確かめる方法 と 特定商取引法の表記の見方 に書きました。実在そのものの確かめ方は 会社が実在するか・倒産していないかを確かめる方法 にまとめています。
求人に応募するときの見方
求人を見ていて会社の住所がマンションだった場合、気にしたいのは勤務地がどこかです。自宅兼事務所の会社で、仕事は現場や客先、あるいは在宅という求人はよくあります。勤務地がはっきり書かれていれば、本店の住所がマンションでも問題になりません。
注意したいのは、勤務地も事業内容もぼんやりしていて、面接の場所だけが喫茶店や貸し会議室、という組み合わせです。これは住所の問題というより、求人そのものが怪しいサインです。見分け方は 架空求人の見分け方 にまとめています。
また、マンションの中には、管理規約で部屋を住まい以外に使うことを禁じているところもあります。国土交通省のマンション標準管理規約にも、専有部分を住宅として使うという条文があります。登記の住所がマンションでも、実際に人が出入りして働く事務所にはしていない会社がある、ということです。「本店はここだが、働く場所は別」というケースは、面接のときに勤務地を直接聞けば確かめられます。
取引先として見るときの見方
取引を始める相手の住所がマンションだったときも、考え方は同じです。小さな会社や個人に近い会社と取引すること自体は、ごく普通のことです。
確かめたいのは、契約書や請求書に書く住所と登記上の住所が一致しているか、代表者が登記と同じか、です。前払いの大きい取引や、継続して多額の取引をする場合は、住所の種類よりも、支払い条件や与信のほうを優先して考えてください。新しい取引先で確かめることの全体像は 新規取引先の確認事項 に、実体のない会社の見分け方は 幽霊会社の見分け方 にまとめています。
気をつけたいこと
- 住所を地図で見るときは、個人のお宅かもしれないことを忘れない。 自宅兼事務所は、代表者の家族が暮らす家でもあります。確かめるのはネット上の情報までにして、訪ねていくのはやめましょう。
- 登記の住所に部屋番号がないからオフィス、とは限らない。 この記事の数字が少なめに出ているのと同じ理由で、番地までしか書いていない会社の多くは中身が分かりません。
- 「バーチャルオフィス=怪しい」でもない。 自宅の住所を公開したくない個人事業主や小さな会社が使うことも多いサービスです。そこに「働いている人がいない」と分かったうえで判断すれば十分です。
よくある質問
会社の住所がマンションの一室なのは違法ですか?
違法ではありません。会社の本店をどこに置くかは会社が決めることで、オフィスビルでなければならないという決まりはありません。ただし、マンションによっては管理規約で事務所としての使用を禁じていることがあり、それは会社とマンションの間の問題になります。
自宅を本店にしている会社は信用できないのですか?
住所だけでは判断できません。うちの台帳では、住居系の住所の会社は設立が新しく人数が少ない会社に多く、2021年以降の設立では5.2%でした。信用できるかどうかは、法人番号での実在、移転の履歴、事業の中身が外から確かめられるかで見てください。
バーチャルオフィスかどうかはどう見分けますか?
同じ住所に多くの会社が登記されているかが手がかりになります。住所(番地と部屋番号まで)をそのままネットで検索すると、同じ住所を本店にしている会社の名前がいくつも出てくることがあります。数十社以上が並ぶ住所や、住所を貸すサービスの案内が出てくる住所は、バーチャルオフィスの可能性が高いです。
求人の会社の住所がマンションでした。応募しても大丈夫ですか?
勤務地と仕事内容がはっきり書かれていて、法人番号で会社が実在していれば、住所がマンションであること自体は心配いりません。勤務地があいまい、面接場所が毎回違う、会社のサイトや連絡先が確かめられない、といった点が重なるときは慎重に考えてください。
マンションの会社は倒産しやすいのですか?
台帳ではそうした傾向は見えませんでした。閉鎖の割合は全体14.3%に対し、住居系の住所の会社は9.1%です。ただし設立が新しい会社が多いぶん低く出ている面があるので、「潰れにくい」とも言えません。住所の種類で倒産のしやすさは判断しないほうがよいでしょう。
まとめ
- 会社の住所がマンションの一室や自宅でも、それだけで怪しいとは言えない
- 活動中の会社442万社のうち、登記の住所に住居系の名称や「号室」が入るのは3.2%。合同会社では7.1%、2021年以降の設立では5.2%
- 住居系の住所は「若くて小さい会社」に多く、閉鎖の割合が高いという傾向は台帳から見えない
- 確かめる順番は、法人番号での実在 → 住所の履歴 → 同じ住所の会社の数 → 事業の中身
- 個人のお宅の可能性があるので、確かめるのはネット上の情報までにする
住所は、会社の数ある情報のひとつにすぎません。不安になったときこそ、住所の種類ではなく、確かめられる事実を順番に積み上げてみてください。
参照した一次資料
- 国税庁 法人番号公表サイト https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/
- 経済産業省 gBizINFO https://info.gbiz.go.jp/
- 国税庁 適格請求書発行事業者公表サイト https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/
- 国土交通省 マンション標準管理規約
- しょくばログDB(国税庁 法人番号公表サイト全件・gBizINFO取り込み分・適格請求書発行事業者の公表データ。2026年10月13日実測。集計スクリプト scripts/analyze_mansion_jusho.py)