✍ 古家あきら | 2026-09-27 更新

不渡りの調べ方・確認方法 — 情報は銀行の間だけで共有され、外から見えるのは上場企業の開示だけ(2025年度の取引停止報告395件)

先に結論を言います。会社が不渡りを出したかどうか、取引停止処分を受けたかどうかを、取引先や求職者が直接調べられる公開データベースはありません。 不渡り・取引停止の情報は、電子交換所に参加している銀行どうしの間だけで共有される仕組みで、外部への開示請求ができるのは振出人本人(またはその代理人)に限られます。唯一の例外は上場企業で、こちらは取引所のルールで公表が義務づけられています。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引先が不渡りを出していないか調べたい」「応募先が危ない会社じゃないか手形で見分けたい」という発想に行き着く人がいます。今日はその発想が制度上どこまで成立して、どこから成立しないのかを、全国銀行協会の開示制度と統計、それに自分たちが持っている会社公式サイトのテキストデータを実際に数えて確かめます。

手形交換所は、もうない — 2022年11月に179カ所が電子交換所へ一本化された

まず前提の確認です。かつて全国各地にあった手形交換所は、もう存在しません。全国銀行協会は2022年11月2日をもって東京手形交換所をはじめとする交換所での交換業務を終了し、11月4日から「電子交換所」に一本化しました。廃止された時点の手形交換所は、法務大臣指定・私設を含めて全国179カ所でした。

出典:全国銀行協会「電子交換所システムの稼動について」(2022年)/東京商工リサーチ「手形交換所の交換業務に幕」

紙の手形そのものも減り続けています。約束手形の交換高は1990年の4,797兆2,906億円をピークに減り続け、2021年は122兆9,846億円(前年比8.3%減、ピーク比97.4%減)でした。さらに政府方針のもと、銀行界は2026年度末までに電子交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを最終目標として掲げ、2027年度初から電子交換所での手形・小切手の交換そのものを廃止するとしています。

出典:金融庁「手形・小切手機能の全面的な電子化について」

「手形交換所」という、かつて外部の人間がイメージしやすかった場所そのものが、制度としてなくなりつつある。まずここを押さえておくと、この先の話が分かりやすくなります。

「不渡り」と「取引停止処分」の仕組み(6か月・2回・2年)

不渡りとは、振り出した手形や小切手が支払期日に決済できないことです。電子交換所の規則では、支払資金の不足による不渡りを出すと「不渡報告」に掲載され、同一の交換所(現在は電子交換所)の管内で6か月以内に2回目の不渡りを出すと「取引停止処分」となり、以後2年間、参加している銀行との当座取引・貸出取引ができなくなります。

銀行と取引できない会社が事業を続けるのは事実上困難なため、信用調査会社は2回目の不渡り(取引停止処分)を「倒産」の一形態として数えることがあります。ただし、この時点ではまだ破産や民事再生の申し立てがあったとは限りません。倒産の法律上の手続きの違いは破産・民事再生・会社更生・特別清算の違いを整理した記事に、TSR・TDBで倒産件数の数え方が食い違う理由は人手不足倒産は63件?30件? — 倒産統計の読み方にまとめています。

出典:東京商工リサーチ「取引停止処分」用語辞典

その情報は誰に届くのか — 参加金融機関だけに通知される

ここが今日いちばん確かめたかった部分です。不渡り・取引停止処分の情報は、電子交換所に参加している金融機関のあいだで共同利用される設計になっています。想定されている利用者は、取引先や求職者のような外部の第三者ではなく、参加銀行そのものです。次の節で見るとおり、全国銀行協会の開示制度も、請求できる人を振出人本人側に限っています。

一般に公開された「不渡り会社リスト」「取引停止処分リスト」のようなデータベースは、電子交換所には存在しません。

唯一、外部から請求できる開示制度 — ただし振出人本人に限る

「まったく外から確認できない」わけではありません。電子交換所は開示請求制度を設けています。ただし請求できるのは振出人本人(個人、または法人の代表者)と、本人から委任された代理人に限られます。取引先や求職者など第三者が「あの会社の不渡り記録を見せてほしい」と請求することはできません。開示内容は「振出人として掲載された不渡報告・取引停止報告」と「持出銀行名」で、保有期間は直近5年分。手続きは郵送のみで、本人確認書類・指定様式の申込書・開示手数料(書面1,000円、CD-R1,500円、検索期間指定時は1年ごとに500円加算)を送付し、結果は簡易書留で返送されます。なお、電子交換所に移る前の各地の手形交換所の不渡報告・取引停止報告は引き継がれておらず、開示の対象外です。

出典:全国銀行協会「電子交換所の開示請求手続き」

つまり制度上の建てつけは、「自分の記録を自分で確認する仕組み」であって、「他人の会社を外から調べる仕組み」ではありません。

例外は上場企業 — 適時開示で公表義務がある

一つだけ、外部から確実に分かるケースがあります。上場企業です。取引所の適時開示規則では、支払資金の不足による手形・小切手の不渡り、または手形交換所(現在は電子交換所)による取引停止処分は、発生し次第ただちに開示することが義務づけられています。軽微基準はなく、該当すれば必ず「お知らせ」として公表されます。

出典:日本取引所グループ「発生事実:手形等の不渡り又は手形交換所による取引停止処分」

非上場の会社(日本の会社の大多数はこちらです)にはこの義務がないため、不渡りや取引停止処分があっても、当事者から公表されない限り外部には伝わりません。上場・非上場でここまで扱いが変わる、という点は覚えておく価値があります。

でんさい(電子記録債権)も、ほぼ同じ設計

手形の代替として使われている「でんさい」(電子記録債権、でんさいネット運営)にも、よく似た制度があります。支払期日にでんさいの支払が行われなかった場合(支払不能)、その旨と事由が全参加金融機関に通知されます。同一の債務者が6か月以内に2回以上支払不能を起こすと取引停止処分となり、でんさいネットの債務者としての利用と参加金融機関との貸出取引が2年間できなくなります。

出典:でんさいネット「支払不能処分制度とは何ですか」/でんさいネット「取引停止処分とは何ですか」

通知先が「全参加金融機関」である点、外部への一般公開がない点は、手形の仕組みとほぼ同じです。約束手形が2027年度に向けて縮小していく先にあるのがこの制度である以上、「見える範囲」の構造は当面変わらないと見ておいたほうがよさそうです。

実際にどれくらい起きているのか — 全国銀行協会の統計を数えた

規則の話だけでは実感が湧かないので、全国銀行協会が公表している電子交換所の統計を実際に開いて数えました。2025年度(2025年4月〜2026年3月)の合計は次のとおりです。

直近の2026年8月単月では、手形交換高58万7千枚・約2兆3,064億円(前年同月比 枚数-53.55%、金額-49.27%)に対し、不渡報告42件・取引停止報告11件でした。

出典:全国銀行協会「手形交換高などの交換所統計」(`tegata.xlsx`、対象期間2022年11月〜2026年8月、2026-09-27取得)

取引停止報告は2025年度で月平均30件あまり、直近の2026年8月は11件です。しょくばログが持っている全国579万件の法人データと比べると、取引停止報告に載る会社はごく少数で、その少数の情報も一般には公開されていません。「不渡りを出した会社を一覧で洗い出す」という発想自体が、規模と制度の両面で成立しにくいということです。

実例として、佐渡島の老舗スポーツ用品店が2度目の不渡りを出したケースを登記・データの側から整理した記事もあります。不渡りが出ても法人の登記はすぐには閉鎖にならない、という点も含めて確認してみてください。

うちの会社データベースで「手形」という言葉を数えてみた

制度の話に加えて、しょくばログが持っている自社データでも確かめました。対象は、しょくばログが法人番号と紐づけて保存している会社公式サイトのテキスト(2026年6月取得)です。

数え方のルール

結果

言及があった会社のうち最多は「否定」、つまり「手形取引はしていません」「現金決済のみです」という自己申告の文脈でした。これは中小企業がホームページで取引条件を明示する際、手形を受け取らない・振り出さない方針を先に伝えておくケースが一定数あるためと考えられます。

業種別(日本標準産業分類の大分類との突き合わせ)

法人番号でしょくばログの業種データ(日本標準産業分類の大分類)と突き合わせると、業種による差がはっきり出ました。

母数が数百〜数千ある業種で見ると、金融業・保険業だけが突出して高く、それ以外の業種は軒並み1%未満でした。手形割引やファクタリングを商品として扱う金融機関・リース会社が、業務内容としてホームページに「手形」を書いているのが主な理由と見られます。逆に建設業や製造業のような手形取引の当事者になりやすい業種でも、公式サイトで「手形」に触れている会社はごく一部です。ホームページの記載は取引条件のすべてを反映しないため、この数字は「ホームページでの言及率」であって「実際に手形を使っている会社の割合」そのものではありません。

個社名は記事に出しておらず、分布のみを示しています。

応募前・取引前に実際にできる確認の順番

不渡り・取引停止処分そのものは基本的に見えない、という前提で組み直すと、確認できることは次のようになります。

1. 会社が実在し、登記が生きているかを法人番号で確認する。 ここが土台です → 会社が実在するか確認する方法 2. 借入・負債の状況を、公開情報から確認できる範囲で見る。 不渡りそのものは見えなくても、周辺情報は積み上げられます → 会社の借金・負債を外から調べる方法 3. 税金の滞納も同様に外からは見えません。 見える窓が国税庁のインボイス公表サイトに限られる点は「税金滞納」倒産と外から見えるかを整理した記事へ。 4. 上場企業なら、適時開示(TDnet)で不渡り・取引停止処分そのものが公表されていないか確認する。 非上場ならこの経路自体がありません。 5. 本格的に与信を見る場合は、信用調査会社のレポートを検討する。 TSR・TDBの評点の見方は評点をどう読むか、費用感は信用調査の費用相場、複数情報を積む考え方は取引先の信用を調べる方法へ。

最終的な取引可否・応募可否の判断は、ここに挙げた確認をどこまで積んだとしても、各社・各人の責任で行うものです。不渡りや取引停止処分が「見えない」からといって安全とは限らず、逆に見えないことを理由に過度に警戒する必要もありません。見える情報を順番に積むほうが、見えないものを探すより早く終わります。

よくある質問

取引先の不渡りを無料で調べる方法はありますか

制度上、一般の第三者が電子交換所から取引先の不渡り情報を取得する方法はありません。開示請求ができるのは振出人本人(またはその代理人)に限られます。上場企業であれば適時開示(TDnetなど)で公表されている可能性があるので、まずそちらを確認してください。「不渡り情報がすぐ分かる」とうたうサービスがあれば、情報源を確認したほうがよいでしょう。

手形交換所がなくなったと聞きましたが、不渡りの仕組み自体もなくなったのですか

なくなっていません。仕組みは電子交換所に引き継がれています。2022年11月4日から全国の手形交換所(179カ所)に代わって電子交換所が交換業務を担い、不渡報告・取引停止処分の仕組みも同じ枠組みのまま続いています。2025年度だけでも取引停止報告は395件ありました。

「不渡り処分」とは、不渡りとは別の処分のことですか

一般に「不渡り処分」と呼ばれているものの実体は、2回目の不渡りに対して科される「取引停止処分」を指していることがほとんどです。1回目の不渡りは「不渡報告」への掲載にとどまり、ただちに処分にはなりません。同一の交換所管内で6か月以内に2回目を出すと取引停止処分となり、2年間、参加銀行との当座取引・貸出取引ができなくなります。

でんさい(電子記録債権)を使っていれば、不渡りのリスクはなくなりますか

なくなりません。でんさいにも「支払不能処分制度」という同じ設計の仕組みがあり、支払期日に支払われなければ支払不能として全参加金融機関に通知され、6か月以内に2回以上起こすと取引停止処分(2年間、でんさいネットの利用と参加金融機関からの貸出取引が停止)になります。紙の手形からでんさいに置き換わっても、リスクそのものが消えるわけではなく、通知先が銀行に閉じている点も変わりません。

会社のホームページに「手形取引なし」と書いてあれば安心材料になりますか

一つの参考情報にはなりますが、それだけで信用度を判断する材料にはなりません。今回しょくばログの自社データ(会社公式サイト32,055件)を集計したところ、「手形」に言及していた会社は113社(0.353%)で、その中で最も多かったのが「手形取引なし」のような否定の文脈(70社)でした。書いていない会社が手形を使っているとも限らず、書いてある会社の経営状態を保証するものでもありません。

データの出典と数え方(まとめ)

確認できなかったこと:電子交換所規則の条文原文(PDF)は本文の直接引用ができず、「6か月以内に2回・2年間」の内容は東京商工リサーチの用語辞典と全国銀行協会の開示制度ページでの確認にとどまっています。TSR・TDBそれぞれの倒産集計が取引停止処分を独自にどう扱っているかの最新の定義文(両社の公式な最新版)は、今回は確認できませんでした。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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