✍ 古家あきら | 2026-09-20 更新

会社の借金・負債を外から調べる方法 — 負債総額が読めるのは全体の1%未満、それ以外は不動産登記の「乙区」で見る

先に結論です。会社の借金・負債の「総額」を外から読めるのは、有価証券報告書を出している会社と、決算公告(貸借対照表)を公開している会社だけです。 うちのデータベースで数えると、前者は内国法人で4,926社、後者はgBizINFO経由で公開に同意した官報の決算公告が14,134社です。登記が閉鎖されていない法人は全国に5,028,697、株式会社だけでも2,513,796社あるので、負債総額が数字で読める会社は全体の1%に届きません。

では残りの99%は何も分からないのか。そうではなくて、会社が持っている不動産(本店の土地建物・工場・倉庫)の登記事項証明書の「乙区」に、抵当権や根抵当権と、その債権額・極度額が載ります。これは不動産登記法第119条で「何人も」請求できる書面で、登記情報提供サービスなら1件330円です。借金の総額は分からなくても、「銀行から借りているか」「担保の枠はどれくらいか」「どの銀行か」は外から見える、というのが実務の現実です。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引を始める前に相手の借金の状況を知りたい」「転職先候補の会社の財務が心配」という趣旨の質問をいただきます。この記事では、①負債総額が読める会社の範囲を条文と実数で確定し、②それ以外の会社で不動産登記の乙区をどう使うか、③うちのデータベースで先に絞れることは何か、を順に書きます。金銭に関わる話なので、断定できないところは断定しません。

負債の総額が載る書類は2つしかない

会社の負債総額は、貸借対照表の「負債の部」の合計欄にしか出てきません。この貸借対照表が外に出てくる経路は、法律上は2つです。

この2つには重なりがあります。第440条第4項は「有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前三項の規定は、適用しない」としていて、有報を出す会社は決算公告の義務がありません。有報のほうが情報量が圧倒的に多いので、有報がある会社はまずEDINETを見る、が順番になります。

なお第440条第2項で、公告方法が官報か日刊新聞紙の株式会社は貸借対照表の「要旨」で足りるとされています。官報の決算公告で見かける小さな枠の中に「資産の部・負債の部・純資産の部」の合計だけが並んでいるのはこのためで、要旨でも負債合計は載ります。

決算公告の義務があるのは「株式会社」で、特例有限会社と合同会社にはない

ここは誤解が多いので条文で確認します。第440条の主語は「株式会社」です。合同会社・合名会社・合資会社(持分会社)には決算公告の義務がありません。さらに、会社法施行前の有限会社(現在は「特例有限会社」として株式会社の一種になっています)についても、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第28条が「特例有限会社については、会社法第四百四十条及び第四百四十二条第二項の規定は、適用しない」と定めています。

うちの台帳(国税庁の法人番号公表サイトが元)で、登記が閉鎖されていない法人を種別ごとに数えると次の通りです。

つまり、活動中の法人5,028,697のうち、決算公告の義務がそもそもあるのは株式会社の2,513,796社=半分です。「決算公告を探したが見つからない」会社が特例有限会社や合同会社なら、それは違法でも隠しているわけでもなく、義務がないだけです。特例有限会社かどうかは、社名が「有限会社」なら確実に該当します。

実際に負債総額が読めるのは何社か — うちの台帳で数えた

法律上の義務と、実際に外から読める数は別です。うちのデータベースには金融庁のEDINETコードリストと、経済産業省gBizINFOが公開する官報の決算公告データを法人番号で紐づけてあるので、そのまま数えられます。

有報の4,926社と官報公告の14,134社を足しても2万社弱で、株式会社2,513,796社に対して0.8%程度です(両者に重複はほぼ無いはずですが、厳密には官報公告の中にも有報提出会社の分が混じる可能性があるので「程度」と書きます)。官報公告のデータは「公開に同意した会社」だけなので、実際に官報に出している会社はもう少し多いはずです。日刊新聞紙や電子公告で出している会社もいます。それでも、桁として「負債の総額が外から数字で読める株式会社は100社に1社に届かない」は動きません。

意外だったのは、有報を出している非上場会社が1,092社あることです。上場していないと有報は無い、と思い込んでいる人が多いのですが、株主が一定数以上いる会社や過去に有価証券を公募した会社は非上場でも提出義務があります。取引先が非上場でも、まずEDINETで社名を検索してみる価値はあります。上場しているかどうかの確認は会社が上場しているか確認する方法にまとめています。

「大会社」の基準に負債200億円がある — でも外からは判定できない

会社法第2条第6号は「大会社」を、最終事業年度の貸借対照表で①資本金5億円以上、または②負債の部の合計額200億円以上の株式会社と定義しています。大会社になると損益計算書の公告も必要になり、会計監査人の設置義務も生じます。

このうち①の資本金は登記事項なので外から分かります。うちの台帳でgBizINFOなどから資本金が取れている81,542社を数えると、5億円以上は241社(0.30%)でした。一方、②の負債200億円は貸借対照表を見ないと分かりません。つまり「資本金は小さいが負債が200億円を超えて大会社になっている」会社は、外からは大会社かどうか判定できないことになります。資本金の見方そのものは会社の資本金を調べる方法で扱っています。

残り99%の会社は、不動産登記の「乙区」を見る

負債総額が読めない会社で、それでも借入の有無や規模の手がかりを外から得る方法が、会社が所有する不動産の登記事項証明書です。手順と根拠を順に書きます。

誰でも取れる、法人名では引けない

不動産登記法第119条第1項は「何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面(登記事項証明書)の交付を請求することができる」と定めています。会社の登記簿と同じく、利害関係の証明は要りません。会社の登記簿を誰でも取れる理屈は会社の登記簿は誰でも見られるで書いた通りで、不動産も同じ構造です。

ただし、不動産登記は「不動産ごと」に記録されていて、会社名や法人番号から「この会社が持っている不動産の一覧」を引く仕組みは、第三者には無いという点が決定的に違います。「所有不動産記録証明書」(不動産登記法第119条の2)は自分が名義人になっている不動産の一覧を登記官に証明してもらえる制度ですが、条文上「自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産」に限られ、請求できるのは本人と相続人などの一般承継人だけです。他社の分は取れません。

そのため実務では、本店所在地・工場・倉庫・店舗など、その会社が使っている場所の地番(土地)と家屋番号(建物)を特定して、1件ずつ請求することになります。所在地の特定には、うちのデータベースの本店所在地(国税庁の登記情報が元)がそのまま使えます。住居表示から地番を調べるには、登記情報提供サービスの地番検索や、法務局のブルーマップの閲覧を使います。所在地の確かめ方は会社の住所を調べる方法に手順があります。

乙区に載るもの — 抵当権の「債権額」と根抵当権の「極度額」

登記記録は表題部と権利部に分かれ(不動産登記法第12条)、権利部はさらに甲区と乙区に分かれます。不動産登記規則第4条第4項の定めで、甲区には所有権に関する登記、乙区には所有権以外の権利に関する登記が記録されます。借金に関係するのは乙区です。

読み方の注意点を3つ書きます。

逆に、乙区に何も無いからといって「無借金」とは言えません。担保を取らない融資(信用貸し・保証協会付き)は登記に出ませんし、不動産を一切所有していない会社なら見る対象がありません。乙区で分かるのは「不動産担保付きの借入の存在と枠」までです。借入依存の会社をどう見抜くかという観点は「金利0.5%上昇で赤字企業率29.4%」— 借入に頼る会社を応募前・取引前に見抜く方法で別角度から扱っています。

料金 — 読むだけなら330円、証明力が要るなら600円

2026年9月20日時点で、民事法務協会の「登記情報提供サービス」の利用料金は、不動産登記情報の全部事項が1件330円、所有者事項(甲区の所有者だけ)が140円です。会社の商業・法人登記の全部事項も同じ330円です。注意書きに「請求した事項の記録がない場合も、その旨の情報が表示され課金されます」とあるので、地番の特定を間違えると330円が無駄になります。

法務局で登記事項証明書を取る場合は、法務省の「登記手数料について」(令和7年4月1日〜)で、書面請求600円・オンライン請求で送付520円・オンライン請求で窓口交付490円です。契約書に添付する、金融機関に提出するといった証明力が要る場面はこちら、単に中身を読むだけなら登記情報提供サービスで十分です。会社の登記簿を読むときの330円と600円の使い分けは会社の定款を閲覧する方法でも同じ整理をしています。

会社サイトの採用ページ32,838社に「財務の言葉」はどれだけ出てくるか

うちのデータベースには、会社の公式サイトの採用ページを取り込んだ本文が32,838社分あります(サイト共通のメニューやフッターの文字を含みます)。「外から財務が見えるか」の補助線として、財務に関わる言葉がどれくらいの会社の採用ページに出てくるかを2026年9月20日に数えました。

読み取れることは2つです。第一に、採用ページに「売上高」を書く会社は8%いるのに、「借入金」を書く会社は0.14%しかいない。会社が自分から外に出す数字は売上に偏り、負債側はほぼ出さない、という当然の非対称がそのまま数字になっています。第二に、「決算公告」の語が1.92%(630社)というのは、自社サイトに決算公告のページを持っている会社(第440条第3項の電子的な開示か、電子公告)の目安になります。この630社は、有報が無くてもサイトで貸借対照表が読める可能性が高い会社です。

「無借金」を採用ページで掲げる55社は、それ自体は良い材料ですが、自己申告なので乙区で裏を取れます。無借金と書いてあって本店の乙区に極度額数億円の根抵当権が生きていれば、少なくとも「担保の枠は使える状態にしている」ことになります。

うちのデータベースで先に絞れること・できないこと

不動産登記を1件ずつ330円で取る前に、無料で済ませられる工程があります。

一方で、うちのデータベースに負債の金額そのものはありません。国税庁の法人番号公表サイトは商号・所在地・法人番号だけで、財務情報を持っていないからです。有報由来の売上高・営業利益がgBizINFO経由で4,864社分紐づいていますが、負債の欄は取り込んでいません。「借金があるか」を一発で表示する機能は無く、この記事に書いた手順をたどる入口を提供している、というのが正確な位置づけです。

よくある質問

会社の借金をネットで無料で調べる方法はありますか

負債の総額が無料で読めるのは、EDINETで有価証券報告書が出ている会社(うちの台帳で内国法人4,926社)と、自社サイトや官報で決算公告を公開している会社だけです。それ以外の会社は、無料で総額を知る方法はありません。不動産登記の乙区で借入の存在と担保の枠を見る方法は330円かかります。

取引先が「無借金経営」と言っています。確かめられますか

完全には確かめられません。乙区に抵当権・根抵当権が無いことは確認できますが、無担保の借入(信用貸し、信用保証協会の保証付き融資)は登記に出ません。乙区が空で、かつ決算公告か有報で負債の部に借入金が無いことまで読めれば、ほぼ確かめられたと言えます。決算公告が無い特例有限会社・合同会社では、乙区の確認までが限界です。

根抵当権の極度額が大きい会社は危ないのですか

一概には言えません。極度額は「担保される上限」で、借入残高ではありません。事業規模に対して極度額が妥当かどうか、債務者が会社本体か、設定時期が最近か(新たに担保を積んだのか)を合わせて見ます。設備投資や本社購入で普通に設定される権利なので、あること自体を危険信号と読むのは早計です。

会社名から所有している不動産を一覧で調べられますか

第三者にはできません。不動産登記は不動産ごとの記録で、名義人から検索する制度(所有不動産記録証明書・不動産登記法第119条の2)は本人と相続人などの一般承継人しか使えません。本店・工場・店舗など、その会社が使っている場所を1件ずつ地番で特定して請求します。

決算公告を出していない株式会社は、財務が悪いから隠しているのですか

そう読むのは無理があります。うちの台帳では、官報の決算公告がgBizINFO経由で公開されている株式会社は14,134社で、株式会社2,513,796社の1%未満です。財務の良し悪しに関係なく大半の中小の株式会社が出していない、というのが実態です。詳しくは決算公告を出していない会社は違法?で数えています。

まとめ

参照した一次資料

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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