✍ 古家あきら | 2026-09-12 更新
決算公告を出していない会社は違法? — 出していない会社が大半という現実と、代わりに見るもの
先に結論です。株式会社が決算公告を出さないのは会社法違反で、100万円以下の過料の対象です。ただし、実際に公告している会社はごく一部で、出していないからといって「危ない会社」とは言えません。 会社法第440条は、株式会社に対して定時株主総会のあと遅滞なく貸借対照表(大会社は損益計算書も)を公告するよう定めていて、怠った場合は第976条第2号で百万円以下の過料と書かれています。一方で、うちのデータベースに載っている登記が生きている株式会社2,513,796社に対し、官報に決算公告を出してgBizINFO(経済産業省の法人情報サイト)で公開されている会社は14,136社です。この数字には注意書きが要るので後で丁寧に書きますが、桁が2つ違う、という事実だけは先に置いておきます。
もう1つ、先に言っておきたいのは、決算公告の義務があるのは株式会社だけだということです。合同会社・合名会社・合資会社には義務がなく、「有限会社」を名乗る会社(特例有限会社)も法律で明示的に除外されています。上場企業は有価証券報告書を出しているので、決算公告のほうは免除されます。つまり「決算公告が見つからない」には、①義務があるのに出していない、②そもそも義務がない、③別の形で開示している、の3通りがあって、法人の種類を確かめないと違法かどうかは判断できません。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引先候補の決算公告を探したが見つからない。出していないのは違法ではないのか」「求人に応募した会社が決算公告を出していない。財務が怪しいのか」という質問が来ます。会社の売上高を無料で調べる方法では、決算公告を「売上高を探す手段の1つ」として扱いました。この記事はその前提のほう、決算公告という制度が実際にどれくらい機能しているのかを、法律の条文と、うちが持っている官報データの実数で書きます。①義務の中身と例外、②違法だが罰せられない構造、③官報データ14,136社を数えて分かったこと、④出していない会社を見るときに代わりに見るもの、⑤よくある質問、の順です。
決算公告の義務 — 会社法第440条が求めているもの
条文そのものは短いので、まず何が義務なのかを押さえます。会社法第440条第1項は「株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない」と定めています。ポイントを分けると次の通りです。
- 誰に義務があるか … 株式会社。持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)は第440条の対象外です
- 何を公告するか … 貸借対照表。大会社(資本金5億円以上、または負債合計200億円以上=会社法第2条第6号)は損益計算書も
- いつ公告するか … 定時株主総会の終結後、遅滞なく。3月決算の会社なら株主総会が6月に集中するので、官報の決算公告も6〜7月に固まります
- どこに公告するか … 会社が定款で定めた公告方法。官報、日刊新聞紙、電子公告の3つから選びます(第939条第1項)。定款に定めがなければ官報です(同条第4項)
- 要旨で足りる場合 … 公告方法が官報か日刊新聞紙の会社は、貸借対照表の「要旨」で足ります(第440条第2項)。官報で見かける決算公告が資産・負債・純資産の合計だけの短いものなのはこのためです
義務を免除される株式会社もあります。第440条第4項で、金融商品取引法にもとづいて有価証券報告書を提出している会社は適用除外です。上場企業はEDINETで有価証券報告書が読めるので、決算公告のほうは要らない、という整理です。会社が上場しているかどうかの確認は会社が上場しているか確認する方法に書きました。
もう1つの例外が、いわゆる有限会社です。2006年の会社法施行で有限会社という法人種別は無くなり、既存の有限会社は「特例有限会社」という株式会社として扱われるようになりましたが、会社法の整備法第28条で「特例有限会社については、会社法第440条の規定は、適用しない」と明記されています。有限会社が決算公告を出していなくても違法ではありません。法人種別の見分け方は法人の種類一覧と見分け方を参照してください。
自社サイトに5年間載せれば官報は不要 — 第440条第3項
見落とされがちな例外が第440条第3項です。公告方法が官報や日刊新聞紙の会社でも、貸借対照表の内容を「定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置」をとれば、第1項・第2項の公告は不要になります。要するに、自社サイトに貸借対照表を5年間載せ続けるなら官報に出さなくてよい、という制度です。この措置をとる場合は、そのウェブページのアドレスを登記する必要があります(会社法第911条第3項第26号)。登記事項証明書に「貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項」としてURLが載っている会社は、この方法を使っています。
公告方法として電子公告を選んでいる会社の場合も同じで、決算公告は定時株主総会の終結の日から5年間、掲載を続ける必要があります(第940条第1項第2号)。ほかの電子公告(合併や減資の公告など)は法務大臣の登録を受けた調査機関の調査が必要ですが、決算公告だけは第941条で明示的に調査の対象から外されています。だから電子公告で決算公告を出すのに費用はかかりません。官報に出す場合は、国立印刷局の案内で「一般的な決算公告は約7.5万円〜」です。
違法なのに罰せられない — 過料の構造
出さないと違法、というのは条文の通りです。会社法第976条は、取締役などが「この法律の規定による公告若しくは通知をすることを怠ったとき」に百万円以下の過料に処する、と定めています(第2号)。ここで大事なのは、過料は刑罰ではなく、裁判所が非訟事件手続で科す行政上の制裁だということです。前科にはなりませんし、会社の登記に何かが記録されるわけでもありません。
そして、この過料が決算公告の不履行だけを理由に科された例は、うちが把握している範囲では見つかりません。過料の話でよく出てくるのは役員変更の登記を忘れた場合(第976条第1号の「登記を怠ったとき」)で、こちらは法務局が登記の際に気づいて裁判所に通知する経路があります。決算公告には、それに相当する「誰かが気づく経路」がありません。公告を出したかどうかを役所が確認する仕組みが無いので、違反が違反として認識されない——これが「義務なのに大半が出していない」を支えている構造です。
念のため書いておくと、「罰せられないから出さなくてよい」と勧めているわけではありません。国立印刷局が中小企業向けに出している案内には、決算公告の意義として法令遵守・経営の透明性・信用力の向上・販路拡大と資金調達・採用面での好印象が並んでいて、実際に取引先や金融機関から公告の有無を見られる場面はあります。ここで言いたいのは、会社を外から見る側として、公告が無いことをそのまま「財務が悪い」「隠している」と読むのは早いということです。
うちにある官報の決算公告データ14,136社を数えた
ここからが、うちのデータベースを運営していて初めて言えることです。
経済産業省のgBizINFOは、2021年12月1日以降に申し込まれた官報の決算公告について、掲載した会社が同意した場合にその内容をXMLで公開しています。官報の掲載依頼時に「行政機関内利用とgBizINFO公開の両方」「行政機関内利用のみ」「情報提供無し」の3択から選ぶ仕組みで、対象は決算公告(最終貸借対照表のみの開示を含む)に限られます。gBizINFOでの公開は2022年3月下旬に始まりました。うちは2026年6月14日にこの決算情報の一括ファイル(2026年6月1日版)を取り込んで、国税庁の法人番号でうちの台帳に紐づけています。
数えた結果は次の通りです。
- 公告の件数 … 30,483件(1社が複数年出しているので、件数は社数より多い)
- 会社の数 … 14,136社。うち14,134社が法人番号でうちの台帳と一致
- 官報に載った年ごとの件数 … 2021年74件、2022年6,257件、2023年7,833件、2024年8,047件、2025年7,624件、2026年(5月末まで)648件
- 1社あたりの件数 … 1件だけの会社が6,420社、4件(2022〜2025年を毎年)出している会社が2,872社、2件が2,345社、3件が2,305社、5件が194社
年8,000件前後で安定しているのに対し、うちの台帳で登記が閉鎖されていない株式会社は2,513,796社です。単純に割れば0.56%、1%に届きません。
この数字の読み方 — 「公告していない会社の割合」ではない
ここは慎重に書きます。14,136社は「官報に出して、かつgBizINFOへの公開に同意した会社」です。次の会社は含まれていません。
- 官報に出したが、gBizINFO公開に同意しなかった会社(同意しなくても掲載に支障はない、と官報販売所の案内に明記されています)
- 日刊新聞紙に公告した会社
- 電子公告や、第440条第3項の自社サイト掲載で開示している会社
- 2021年11月以前にしか出していない会社
だから「株式会社の99%以上が決算公告を出していない」とは言えません。言えるのは、官報という最も標準的な公告方法(定款に定めがなければ官報になる)で出して公開に同意した記録が、株式会社の1%未満にしか無い、というところまでです。民間の解説記事では「実施率は数%」といった数字をよく見かけますが、うちが探した範囲で全体の実施率を測った公的統計はありません。この記事でも全体の割合は出しません。
ただ、逆に「日刊新聞・電子公告・非同意の会社を全部足せば大多数になる」と考えるのも無理があります。日刊新聞紙への掲載は官報より高額で、電子公告を公告方法にしている会社は登記に電子公告のURLが載るので数えれば分かりますが、中小企業で電子公告を定款に定めている会社は多くありません。桁が2つ違うという事実は、細かい補正をしても揺らがないと考えています。
公告している会社はどんな会社か — 従業員100〜299人が最多
14,134社をうちの台帳に当てて、どんな会社が公告しているのかを見ました。
法人の種類は、株式会社が13,655社。ほかに一般社団法人や特殊法人などの「その他」区分が440社、合同会社18社、有限会社10社、外国会社など11社です。合同会社と有限会社には義務がないので、この28社は任意で官報に出していることになります。
従業員数がgBizINFOの基本情報で分かる会社は3,862社で、内訳は次の通りです。
- 20人未満 … 206社
- 20〜99人 … 700社
- 100〜299人 … 1,620社(最多)
- 300〜999人 … 971社
- 1,000人以上 … 365社
うちの台帳全体では従業員数の分布はまったく違って、小さい会社が圧倒的多数です。公告している会社は、従業員100人を超える中堅規模に偏っていると言えます。20人未満で官報に出している会社は、分かる範囲で206社しかありません。従業員数の調べ方は会社の従業員数を無料で調べる方法にまとめてあります。
所在地は東京都が5,109社で、全体の36%を占めます。次いで大阪府1,071社、愛知県838社、神奈川県820社、北海道673社です。うちの台帳全体でも東京都の法人は約23%なので、公告している会社は東京にさらに寄っています。
上場企業との重なりは209社でした。うちがEDINETから取り込んでいる有価証券報告書の提出会社7,204社のうち209社は、免除されているのに官報にも決算公告を出しています。
意外だったこと — 公告していた会社の12.6%が合併で消えている
もう1つ、数えてみて驚いた数字があります。14,134社のうち、国税庁のデータで登記がすでに閉鎖されている会社が2,047社ありました。閉鎖の事由で分けると、「合併による解散等」が1,775社で、「清算の結了等」は269社です。2022年以降に官報で決算公告を出していた会社の12.6%が、その後の数年で合併により消えている計算になります。
これは「決算公告を出す会社は潰れやすい」という話ではありません。合併による閉鎖は、親会社やグループ内の別会社に吸収された場合がほとんどで、事業そのものは続いています。むしろ読み取れるのは、律儀に官報で決算公告を出している会社には、大企業グループの子会社が多く含まれているということです。グループの方針として全子会社が公告を出し、グループ再編で子会社同士が合併して登記が閉じる。従業員100〜299人が最多、東京に偏っている、という上の分布とも整合します。会社の閉鎖事由の読み方は会社が解散・休眠しているか調べる方法に書きました。
決算公告が見つからないとき、代わりに何を見るか
ここまでの話を実務に戻すと、「決算公告が見つからない」で止まるのは得策ではありません。順番としては次の通りです。
1. まず法人の種類を確かめる。 合同会社・特例有限会社なら義務がありません。登記事項証明書の商号と会社法人等番号、または国税庁の法人番号公表サイトで種別が分かります。うちの会社ページでも法人種別を表示しています。
2. 上場企業ならEDINETを見る。 決算公告は免除されていて、代わりに有価証券報告書が全文読めます。売上高・利益・従業員数・平均年収まで載っているので、決算公告より情報量は圧倒的に多いです。
3. 登記事項証明書で公告方法と第440条第3項のURLを確認する。 公告方法が電子公告なら、登記されたURLに決算公告が5年間載っているはずです。第440条第3項の措置をとっている会社は、貸借対照表のURLが登記に載っています。登記の取り方は会社の登記簿は誰でも見られるのかを参照してください。
4. 官報を探すなら、時期を合わせる。 インターネット版官報は直近90日間が無料で、それより前は会員制の有料サービス(官報情報検索サービス)になります。決算月が分かれば、株主総会の3か月後くらいを狙えば官報の号外に載っている可能性があります。決算月の調べ方は会社の決算月を調べる方法にまとめました。gBizINFOの法人ページに「決算情報」が載っていれば、官報の過去分を無料で読めます。
5. それでも無ければ、財務以外の材料で判断する。 中小企業の大多数は、上のどれをやっても財務情報は出てきません。それが制度上の「普通」です。取引の与信であれば、取引先の信用を調べる3層の方法で書いた登記・所在地・許認可・評判の組み合わせを先に固め、金額が大きければ企業の信用調査の費用相場を見て有料調査に進む、という順番です。転職で応募先を見ている場合は、決算公告の有無より、求人票の記載や社会保険の加入状況、口コミのほうが判断材料として現実的です。
うちのデータベースでできること・できないこと
しょくばログでは、gBizINFOから取り込んだ決算公告の件数を会社ページの会社情報として持っています。「この会社は2022年以降、官報に決算公告を何回出しているか」が分かる状態です。逆に、公告の中身(資産合計や純資産の数字)は現時点では表示していません。gBizINFOの法人ページで読めるので、そちらに当たってください。決算公告を出していない会社について「出していない」と表示することもしていません。上で書いた通り、記録が無いことと出していないことは同じではないからです。
よくある質問
決算公告を出していない株式会社は本当に違法ですか
はい。会社法第440条第1項で義務づけられていて、怠ると第976条第2号で百万円以下の過料の対象になります。ただし過料は刑罰ではなく、実際に決算公告の不履行だけで科された例はうちの把握する限り見つかりません。有価証券報告書を出している会社(第440条第4項)と、第440条第3項の自社サイト掲載措置をとっている会社は、官報等への公告が不要です。
合同会社や有限会社が決算公告を出していないのは違法ですか
違法ではありません。第440条の対象は株式会社で、合同会社・合名会社・合資会社は含まれません。有限会社(特例有限会社)は株式会社として扱われますが、会社法の整備法第28条で第440条の適用が明示的に除外されています。うちのデータでは、義務がないのに官報で決算公告を出している合同会社が18社、有限会社が10社ありました。
決算公告を出していない会社は、財務が悪いということですか
そうとは言えません。官報に出してgBizINFOで公開されている会社は、うちの台帳の株式会社2,513,796社のうち14,136社で、公告している会社のほうが例外です。公告している会社は従業員100〜299人の中堅企業や東京の大企業グループの子会社に偏っていて、出していないことは規模や方針の問題であって、財務の良し悪しを示すものではありません。
決算公告を出さないと、取引や融資で不利になりますか
場面によります。国立印刷局の案内では、決算公告の意義として信用力の向上・販路拡大・資金調達の円滑化が挙げられていて、大企業との新規取引や入札の場面で決算書の提出を求められることはあります。ただ、その場合は決算公告ではなく決算書そのものを直接求められるのが普通です。融資では金融機関に決算書を直接出すので、公告の有無は関係しません。
過去の決算公告を無料で読む方法はありますか
インターネット版官報で読めるのは直近90日間で、それより前は有料の官報情報検索サービスになります。ただし、2021年12月以降に官報に出した決算公告のうち会社が公開に同意したものは、gBizINFOの法人ページの「決算情報」で無料で読めます。うちの台帳では14,136社分、30,483件がこれに該当します。電子公告の会社なら、登記されたURLで定時株主総会から5年間は読めるはずです。
まとめ
- 株式会社の決算公告は会社法第440条の義務で、怠ると第976条第2号の過料の対象。ただし過料が実際に科された例は見当たらず、役所が履行を確認する仕組みも無い
- 義務があるのは株式会社だけ。合同会社等の持分会社と特例有限会社には義務が無く、有価証券報告書を出す会社と第440条第3項の自社サイト掲載をする会社は公告が不要
- うちの台帳で、官報に出してgBizINFOに公開されている会社は14,136社(30,483件)。登記が生きている株式会社2,513,796社の1%未満。ただしこれは日刊新聞・電子公告・非同意の会社を含まない数字で、全体の実施率ではない
- 公告している会社は従業員100〜299人が最多(分かる3,862社のうち1,620社)、東京都が36%、上場企業との重なり209社。公告していた会社の12.6%(1,775社)がその後合併で登記閉鎖
- 決算公告が無いときは、法人種別→EDINET→登記の公告方法とURL→官報の時期→財務以外の材料、の順で代わりを探す。無いのが「普通」なので、無いことを財務の悪さと読まない
参照した一次資料
- 会社法(e-Gov法令検索)第2条第6号(大会社の定義)、第440条(計算書類の公告)、第911条第3項第26号(登記事項)、第939条(公告方法)、第940条(電子公告の公告期間等)、第941条(電子公告調査)、第976条(過料に処すべき行為)
- 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 第28条(特例有限会社の決算公告義務の除外)
- 経済産業省 gBizINFO「データダウンロード」決算情報 2026年6月1日版(2026年6月14日取得・うちの台帳と法人番号で照合)
- 国立印刷局「中小企業の皆様への『官報』に関するお知らせ」(決算公告の掲載料金 約7.5万円〜、gBizINFOへの反映、意義)
- 兵庫県官報販売所「官報掲載情報の行政機関への提供について」(2021年12月1日以降の申込が対象、3択、決算公告に限る、提供無しでも掲載可)
- 官報発行サイト(インターネット版官報の無料閲覧期間 直近90日間)
- 国税庁 法人番号公表サイト 全件データ(登記が閉鎖されていない株式会社2,513,796社、閉鎖事由の区分)