✍ 古家あきら | 2026-09-12 更新
会社のメインバンクを調べる方法 — 非上場だと「推定」しかできない理由と、会社サイト32,838社を数えて分かったこと
先に結論です。会社のメインバンクは、外から確定できる公的データがありません。 登記事項でも、決算公告の項目でも、国税庁が公表する法人番号のデータでもないからです。確定に近いものが取れるのは、①その会社が公開会社(上場企業など)で事業報告に「主要な借入先」を書いている場合、②あなたがその会社の株主か債権者で、会社法第442条の閲覧請求ができる場合、③会社四季報や信用調査会社の有料レポートを引く場合、の3つだけです。それ以外の非上場会社については、会社サイトの会社概要に書かれた「取引銀行」から推定するのが現実的な上限で、しかもその欄に書いてある銀行が本当の主力行とは限りません。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引先候補のメインバンクを知りたい」「求人に応募した会社の取引銀行が地元の信金だけだが大丈夫か」という質問が来ます。先日書いた会社の取引先を調べる方法で、取引先リストは「国との契約」しか外から見えないと書きましたが、メインバンクはそれよりさらに見えません。国の落札情報のような公的な記録が、銀行取引には存在しないからです。この記事では、①なぜ公的データに無いのか、②それでも確定できる3つのルート、③会社サイトから推定するときの読み方、④うちが保存している会社サイトのテキスト32,838社分を数えて分かったこと、⑤よくある質問、の順で書きます。
メインバンクが公的データに無い理由
銀行との取引関係は、どの法律でも届出や登記の対象になっていません。 会社が法務局に登記するのは商号・本店・目的・資本金・役員などで(会社法第911条第3項)、どこの銀行と取引しているかは項目にありません。決算公告で公告するのは貸借対照表(大会社は損益計算書も)で、借入金の総額は載っても貸し手の名前は載りません(決算公告を出していない会社は違法?で書いたとおり、そもそも公告している会社が少数派です)。国税庁の法人番号公表サイトが出すのは商号・所在地・法人番号と閉鎖の情報だけです。
うちのデータベースは、国税庁の法人番号データを土台に、経済産業省のgBizINFO(基本情報・届出認定・決算公告・財務・調達・特許・補助金・表彰・職場情報)、金融庁のEDINET、各都道府県の建設業許可や入札参加資格、厚生労働省の介護・障害福祉事業所、女性活躍推進企業データベース、健康経営優良法人など、公的な出どころのデータを法人番号で突き合わせて作っています。2026年9月12日時点で取り込んでいるデータ源は58種類、属性の項目は68種類あります。このどれにも「取引銀行」「メインバンク」に当たる項目はありません。 「主な発注元」「主な借入先」のような項目も、政府調達の発注元はあっても銀行はありません。公的データを片端から集めても届かない、というのがまず事実です。
「主要な借入先」を書く義務がある書類は、実は1つあります。会社法施行規則第120条第1項第3号が、事業報告の「株式会社の現況に関する事項」として「当該事業年度の末日において主要な借入先があるときは、その借入先及び借入額」を定めています。ただしこれは同規則第119条で公開会社(全部の株式に譲渡制限が付いていない会社)にだけ課された記載で、日本の株式会社の大多数を占める譲渡制限会社には義務がありません。そして事業報告は株主に送られる書類で、官報や登記のように誰でも見られる形では公開されていません。上場企業は株主総会の招集通知と一緒に自社サイトや証券取引所のサイトに載せるので、結果として読めるという構造です。
外から「確定」に近づける3つのルート
ルート1:上場企業なら事業報告の「主要な借入先」を読む
上場企業は公開会社なので、定時株主総会の招集通知に添付される事業報告に「主要な借入先及び借入額」の欄があります。会社名と「招集通知」「事業報告」で検索し、PDFの「会社の現況に関する事項」を開くと、銀行名と借入額が並んでいます。 借入額の順に並ぶのが通例なので、いちばん上がメインバンクと読んで大きく外れません。なお、金融庁のEDINETで読める有価証券報告書は別の書類で、こちらの「借入金等明細表」は短期・長期などの区分ごとの残高と平均利率を書くもので、貸し手の名前を書く欄がありません。有報を隅々まで読んでも銀行名が出てこないのはそのためで、探すなら事業報告のほうです。
このルートが使えるのは上場企業に限られます。うちの台帳で証券コードが紐づいている会社は3,835社で、登記が生きている株式会社2,513,316社の0.15%です。相手が上場しているかどうかは会社が上場しているか確認する方法の手順で先に確かめてください。子会社や関連会社は上場していないことが多く、親会社の事業報告に子会社の借入先は出ません。
ルート2:株主か債権者なら、会社法第442条で閲覧請求できる
会社法第442条は、株式会社に対して計算書類と事業報告を定時株主総会の1週間前(取締役会設置会社は2週間前)から5年間、本店に備え置くことを義務づけ、株主と債権者は営業時間内いつでも閲覧と謄本交付を請求できると定めています。ここでいう債権者には、売掛金を持っている取引先も入ります。すでに掛け取引をしている相手なら、事業報告の閲覧を請求する法律上の根拠があるということです。ただし非公開会社の事業報告には「主要な借入先」の記載義務が無いので、閲覧しても書かれていないことがあります。それでも貸借対照表の借入金の額と、附属明細書は見られるので、銀行依存の度合いは分かります。取引開始前の相手には使えないルートで、実務では「取引先になってから使える手段」と割り切ってください。
ルート3:会社四季報と信用調査会社のレポート
会社四季報(東洋経済新報社)には上場企業ごとに【銀行】欄があり、主要取引銀行が並んでいます。図書館で読めるので費用はかかりませんが、対象は上場企業だけです。非上場会社について銀行名まで載っているのは、帝国データバンクや東京商工リサーチの企業信用調査報告書で、報告書の中に取引銀行の項目があります。1社ずつ有料で、費用の目安は企業の信用調査の費用相場に書きました。調査会社の取引銀行欄は、調査員が会社に聞き取った内容と会社が自己申告した内容が元になっているので、確定情報というより「会社が名乗った銀行」です。
会社サイトの「取引銀行」から推定するときの読み方
上の3つが使えない非上場会社では、会社サイトの会社概要ページに書かれている「取引銀行」欄が、外から届く唯一の手がかりになります。読むときの注意点を先に書きます。
- 1行だけ書いてある … その銀行がメインバンクである可能性が高い。ただし「都市銀行の名前を1つだけ書いておく」という見栄えの慣行もあるので、確定ではない
- 複数行が並んでいる … 並び順は法律で決まっていないが、主力行を先頭に書く慣行が広く、先頭が本命であることが多い。「他」「等」で締めているときは、書かれていない金融機関がある
- 都市銀行と地方銀行・信用金庫が混ざっている … 中小企業の場合、日常の資金繰りを支えているのは信用金庫や地方銀行で、都市銀行は振込口座や信用力の見せ札として書かれていることがある。従業員数と本店所在地を見て、地元の金融機関のほうを主力と読むほうが実態に近い
- 旧行名のまま … 会社概要の更新が止まっているサイン。銀行名だけでなく、資本金・従業員数・代表者も古い可能性がある(このあとの集計で実数を出します)
- 取引銀行の記載が無い … 隠しているというより、書かない会社のほうが多数派(次の節のとおり8割以上が書いていない)。無いことを疑う材料にしない
推定の精度を上げるなら、取引銀行欄だけで判断せず、会社の事業内容を無料で調べる方法で書いた登記の目的欄や、非上場会社の株主を調べる方法で書いた資本関係と合わせて見てください。親会社が付いている会社は、親会社の主力行と同じ銀行を書いていることが多く、銀行名から資本関係が透けることもあります。
うちが保存している会社サイトのテキスト32,838社を数えた
しょくばログでは、会社の採用情報を集めるために会社サイトを巡回し、採用ページを中心にサイトのテキストを保存しています。2026年9月12日時点で保存があるのは32,838社分です。この中に「取引銀行」「主要取引銀行」「取引金融機関」「取引先銀行」「主な取引銀行」「主要取引金融機関」「メインバンク」のどれかの語が出てくる会社を数えました。
該当したのは5,507社、32,838社の16.8%でした。 言い換えると、会社サイトを持ち、うちが巡回できた会社のうち、8割以上は取引銀行をサイトに書いていません。使われている見出し語は「取引銀行」が3,847社で圧倒的に多く、「主要取引銀行」911社、「取引金融機関」317社、「取引先銀行」266社、「主な取引銀行」94社、「主要取引金融機関」59社、「メインバンク」と書いている会社は13社だけでした。検索で「メインバンク」と打っても会社サイトがほとんど引っかからないのは、会社側がその言葉を使っていないからです。
従業員規模で見ると、書く会社は50〜99人が最多
該当5,507社を、うちの台帳にある従業員数で区切ると、書いている割合は次のとおりでした(分母は各区分で保存がある会社数)。
- 1〜9人 … 6,523社中1,003社(15.4%)
- 10〜49人 … 9,852社中1,852社(18.8%)
- 50〜99人 … 3,495社中777社(22.2%)
- 100〜299人 … 7,613社中1,331社(17.5%)
- 300人以上 … 5,326社中539社(10.1%)
50〜99人の会社がいちばん高く、300人以上になると1割まで落ちます。大きい会社ほど会社概要が簡素になるか、IRページのほうに情報を寄せていて会社概要には書かない、という傾向だと読んでいます。逆に言えば、取引銀行をサイトで見つけやすいのは従業員10〜99人の中小企業で、この記事の読者が調べたい相手とちょうど重なります。書いている5,507社のうち従業員数が分かる5,502社の中央値は45人でした。
書く銀行の数は「2〜3行」が中心
取引銀行の欄に何行書いてあるか(銀行・信用金庫・信用組合などの名前をうちの機械処理で数えたもの)を集計すると、次のとおりでした。
- 1行だけ … 846社(15.4%)
- 2行 … 1,473社(26.7%)
- 3行 … 1,441社(26.2%)
- 4行 … 819社(14.9%)
- 5行 … 428社(7.8%)
- 6行以上 … 427社(7.8%)
- 見出し語はあるが金融機関名を機械で拾えなかったもの … 73社
2〜3行が半数強で、1行だけの会社は15%です。つまり「サイトの取引銀行欄でメインバンクが1つに絞れる」のは、書いている会社のさらに15%、全体で見れば32,838社中846社(2.6%)ということになります。非上場会社のメインバンクを外から1つに決めるのは、この程度の確率でしか起きないと思っておいてください。
いちばん多く名前が出る銀行は三井住友銀行、次いでみずほ・三菱UFJ
5,507社の取引銀行欄に出てくる金融機関を数えると、上位は次のとおりでした(1社に複数行あるので延べ数)。
- 三井住友銀行 … 1,807社
- みずほ銀行 … 1,717社
- 三菱UFJ銀行 … 1,572社
- りそな銀行 … 911社
- 三菱東京UFJ銀行(旧行名) … 342社
- 横浜銀行 … 282社
- 広島銀行 … 274社
- 中国銀行 … 240社
- 名古屋銀行 … 236社
- きらぼし銀行 … 220社
そのあとに北陸銀行219社、大垣共立銀行207社、十六銀行206社、伊予銀行193社、埼玉りそな銀行189社と地方銀行が続き、信用金庫では岐阜信用金庫94社、城南信用金庫88社、横浜信用金庫88社が上位でした。該当5,507社の所在地は東京都1,625社(29.5%)、大阪府755社、愛知県534社、神奈川県332社、広島県229社の順で、地方銀行の順位はこの所在地の偏りをそのまま映しています。うちの巡回対象は採用ページのある会社に寄っているので、これは「日本の中小企業の取引銀行ランキング」ではなく、「サイトに取引銀行を書く会社がどの銀行を書くか」の集計として読んでください。
注目してほしいのは、三菱UFJ銀行と三菱東京UFJ銀行を足すと1,914社で三井住友銀行を上回ることではなく、旧行名の「三菱東京UFJ銀行」を書いたままの会社が342社あることです。三菱東京UFJ銀行が三菱UFJ銀行に商号を変えたのは2018年4月で、それから8年以上経っています。会社概要のテキストに旧行名が残っている会社354社のうち、新行名が一緒に書かれていない(つまり更新されていない)会社は347社でした。取引銀行を書いている会社の6.3%は、会社概要が少なくとも8年更新されていないことになります。取引銀行欄を読むときは、銀行名そのものより先に「この欄はいつのものか」を見てください。旧行名が残っているサイトの資本金・従業員数・代表者名も、同じ時期で止まっている可能性が高いです。
よくある質問
メインバンクが地元の信用金庫だけの会社は、信用力が低いのですか
そうは読めません。うちの集計でも、取引銀行欄に出てくる金融機関の上位10のうち5つは地方銀行で、その下には信用金庫の名前も並びます。中小企業の主力行が信用金庫や地方銀行なのはむしろ普通で、都市銀行の名前が無いことは不安材料になりません。信用力を見るなら、銀行名ではなく取引先の信用を調べる方法で書いた登記の異動・営業実態・支払い実績のほうを見てください。
会社概要に取引銀行が書いてあれば、それがメインバンクですか
1行だけなら可能性は高いですが、確定ではありません。うちの集計では取引銀行を書いている会社の8割以上が2行以上を並べていて、先頭を主力と読む慣行はあっても法律上の決まりはありません。また都市銀行を「見せ札」として先頭に書く会社もあります。従業員数と本店所在地から、日常の資金繰りを支えていそうな地元の金融機関を本命と読むほうが実態に近いことが多いです。
銀行に問い合わせれば、ある会社の取引の有無を教えてもらえますか
教えてもらえません。銀行には顧客の取引情報について守秘義務があり、第三者からの照会には応じないのが原則です。会社の同意書を添えた残高証明のような手続きは別ですが、それは相手の協力が前提です。外から確定する方法が事業報告・閲覧請求・有料レポートの3つに限られるのは、銀行側から情報が出ないためです。
有価証券報告書に銀行名は載っていませんか
有価証券報告書の「借入金等明細表」は、短期借入金・長期借入金などの区分ごとの残高と平均利率・返済期限を書く表で、貸し手の名前は必須項目ではありません。銀行名が並ぶのは会社法の事業報告(株主総会の招集通知に添付)の「主要な借入先及び借入額」のほうです。上場企業なら会社名と「招集通知」で検索してPDFを開いてください。
取引銀行が会社のサイトのどこにも無いのは、隠しているからですか
書かない会社のほうが多数派です。うちが保存している32,838社のうち、取引銀行を書いているのは16.8%で、従業員300人以上の会社では10.1%まで下がります。書いていないことを疑う材料にはなりません。どうしても知りたい相手が非上場なら、取引が始まって債権者になった時点で会社法第442条の閲覧請求をするか、信用調査会社のレポートを引くかの二択です。
まとめ
- メインバンクは登記事項でも決算公告項目でも法人番号データでもなく、うちが取り込んでいる公的データ58種類・属性68項目のどれにも「取引銀行」に当たる項目は無い
- 外から確定に近づけるのは、①公開会社の事業報告の「主要な借入先及び借入額」(会社法施行規則第120条第1項第3号)、②株主・債権者としての閲覧請求(会社法第442条)、③会社四季報・信用調査会社の有料レポート、の3ルート。①は証券コードが紐づく3,835社、株式会社の0.15%にしか使えない
- 非上場会社は会社サイトの取引銀行欄からの推定が上限。うちが保存している会社サイト32,838社のうち、取引銀行を書いているのは5,507社(16.8%)、1行だけ書いて主力行が絞れるのは846社(2.6%)
- 書く割合がいちばん高いのは従業員50〜99人(22.2%)で、300人以上は10.1%。いちばん多く名前が出る銀行は三井住友銀行1,807社、みずほ銀行1,717社、三菱UFJ銀行1,572社
- 旧行名「三菱東京UFJ銀行」のまま更新されていない会社が347社(書いている会社の6.3%)。取引銀行欄は銀行名より先に「いつの情報か」を疑う
参照した一次資料
- 会社法(e-Gov法令検索)第442条(計算書類等の備置き及び閲覧等:本店に5年間備置、株主及び債権者の閲覧・謄本交付請求)、第911条第3項(設立の登記の登記事項)
- 会社法施行規則 第119条(公開会社の事業報告に含める事項)、第120条第1項第3号(当該事業年度の末日において主要な借入先があるときは、その借入先及び借入額)
- 国税庁 法人番号公表サイト 全件データ(登記が生きている株式会社2,513,316社)
- しょくばログが保存している会社サイトのテキスト32,838社分(2026年9月12日時点・採用ページを中心に巡回)と、うちの台帳の従業員数・所在地・証券コード(gBizINFO・EDINETの公開データを法人番号で突合したもの)を用いた集計