✍ 古家あきら | 2026-10-12 更新
負債1,000万円未満の「小さな倒産」は2026年度上半期241件、2年連続で減少──会社10万社あたりで割ると九州7.5件・近畿6.7件・関東5.3件。減った理由を数字で読む
先に結論です。2026年度上半期(4-9月)に負債1,000万円未満で倒産した会社は241件で、前年同期より10.4%減りました。 減少は2年連続です。
ただ、この「減った」は、そのまま「小さな会社が楽になった」とは読めません。理由は2つあります。
- 減ったのは主に関東で、近畿(23.0%増)と九州(26.9%増)は逆に増えている
- 東京商工リサーチ自身が、物価や金利の上昇で運転資金が膨らみ、負債1,000万円以上の集計に移った倒産がある可能性を指摘している
しょくばログという会社データベースを運営していると、ニュースの「件数」を見るたびに「分母は何社か」が気になります。そこで今回も、台帳にある稼働中の会社の数で地区別に割り直しました。会社10万社あたりにすると、九州7.5件、近畿6.7件、関東5.3件で、件数の順位とは違う並びになります。
出典:上半期の「負債1,000万円未満」倒産 241件 2年連続で減少、金利・物価上昇で先行き懸念(東京商工リサーチ・2026年10月8日)
発表された数字
東京商工リサーチの発表から、確認できる数字だけを並べます。
- 件数:241件(前年同期比10.4%減)
- 負債総額:12億2,400万円(同8.3%減)
- 推移:2022年度の195件を底に増え、2024年度は292件。2025年度以降は前年同期を下回る状態が続いている
- 増えた産業:10産業のうち、農・林・漁・鉱業、製造業、卸売業、金融・保険業、運輸業の5産業
- 地区別:関東109件(23.7%減)、近畿48件(23.0%増)、九州33件(26.9%増)
1件あたりにならすと、負債はおよそ500万円です。従業員を何人も抱える会社というより、代表者ひとり、あるいは家族で回している会社の規模感です。
通常ニュースになる「倒産件数」は、負債1,000万円以上だけを数えたものです。同じ期間の負債1,000万円以上の倒産は全国で5,373件でした。数え方の違いは倒産件数が調査会社で違う理由で説明しています。負債1,000万円以上の全体像は2026年度上半期の全国倒産5,373件の記事にまとめました。
出典:2026年度上半期(4-9月)の全国企業倒産(東京商工リサーチ・2026年10月8日)
会社10万社あたりに直すと、九州がいちばん多い
しょくばログの台帳(国税庁の法人番号公表データを元にした台帳)で、株式会社・有限会社・合同会社・合名会社・合資会社のうち、登記上の閉鎖がない会社を地区別に数えました(2026年10月12日時点)。地区の区分は東京商工リサーチの定義に合わせています(関東に新潟・山梨、九州に沖縄を含む)。
- 九州:33件/稼働中43万7,403社=10万社あたり7.5件
- 近畿:48件/稼働中71万8,306社=10万社あたり6.7件
- 関東:109件/稼働中205万8,003社=10万社あたり5.3件
- 全国:241件/稼働中446万963社=10万社あたり5.4件
件数では関東が全体の半分近くを占めます。ところが会社の数で割ると、関東は全国平均とほぼ同じで、九州は関東の1.4倍になります。
「小さな倒産」の割合も、地区で違う
同じ期間の負債1,000万円以上の倒産と合わせて、そのうち負債1,000万円未満が何割を占めるかも計算しました。
- 九州:33件/538件=6.1%
- 関東:109件/2,057件=5.3%
- 近畿:48件/1,425件=3.4%
- 全国:241件/5,614件=4.3%
近畿は、倒産の件数そのものは多いものの、負債1,000万円未満の小さな倒産が占める割合は低めです。九州は、小さな倒産の比率が高い地区だと言えます。
関東の減少は「移った」可能性と矛盾しない
発表の前年比から逆算すると、関東の負債1,000万円未満は前年同期に約143件あり、今回は109件です。約34件の減少です。
一方、関東の負債1,000万円以上の倒産は1,948件で、前年同期から5.8%増えています。前年同期は約1,841件だった計算になり、約107件の増加です。
小さい側が減り、大きい側が増えている。これは「借入や買掛が膨らみ、以前なら1,000万円未満で済んだ倒産が1,000万円以上になった」という東京商工リサーチの見立てと矛盾しません。ただし、個々の倒産がどちらに移ったかを追える数字は公表されていないので、ここでは「矛盾しない」までにとどめます。
近畿と九州は、1,000万円以上も1,000万円未満もそろって増えています。こちらは「移った」だけでは説明がつかず、小さな会社の苦しさがそのまま件数に出ていると見るほうが自然です。
物価高が原因の倒産も同じ期間に増えています。詳しくは物価高倒産436件の記事を見てください。
有限会社の多さで説明できるか、確かめてみた
小さな会社が多い地区ほど小さな倒産も多いのでは、と考え、台帳で有限会社の比率を地区別に出しました。有限会社は2006年の会社法施行で新設できなくなったため、今ある有限会社は20年以上続く会社で、規模の小さいところが多い会社形態です。
- 九州:36.2%
- 関東:30.3%
- 近畿:24.5%
九州は有限会社の比率も高く、小さな倒産の比率も高い地区でした。ただ、近畿は有限会社の比率がいちばん低いのに、10万社あたりの件数は関東より多い。3地区だけでは、有限会社の多さで説明できるとは言えません。 きれいな関係が見えなかったことも、そのまま書いておきます。
発表で名前が出た1社を台帳で確かめた
東京商工リサーチは事例として、9月に破産した東信クレジットサービス(大阪府、負債979万円)を挙げています。全東信のグループ会社だった会社です。
しょくばログの台帳には、大阪市中央区の「株式会社東信クレジットサービス」が登録されており、表示はまだ「存続」です。破産手続が終わって登記が閉じるまで、表示は変わりません。発表には法人番号が書かれていないため、同じ会社だと断定はしません。社名ではなく法人番号で確かめる方法が確実です。破産と民事再生の違いは倒産の種類の記事で整理しています。
働く人・取引先が持ち帰れること
負債1,000万円未満の倒産は、ニュースになることがほとんどありません。地元の取引先や働いている人が、ある日突然知ることになります。
- 取引先として:相手が小さな会社でも、登記の状態・所在地・代表者は無料で確かめられます。手順は取引先の信用の調べ方と会社が実在するか・倒産していないかの確かめ方にまとめました。
- 働く人として:給料の支払いが遅れ始めたら、資金繰りが詰まっているサインかもしれません。倒産後に未払い賃金が残ったときに使える国の制度は給料が遅れる会社の記事で説明しています。
- 相手が個人事業主か法人か:この集計は会社(法人)が対象で、個人事業主の廃業は含まれません。相手がどちらかの見分け方は個人事業主と法人の見分け方を参考にしてください。
よくある質問
負債1,000万円未満の倒産が減ったのは、景気が良くなったからですか?
そうとは言い切れません。東京商工リサーチは、物価や金利の上昇で運転資金が膨らみ、負債1,000万円以上の倒産に移った可能性を指摘しています。実際、関東では1,000万円未満が減った一方、1,000万円以上は増えています。
なぜ普段のニュースは負債1,000万円以上しか数えないのですか?
調査会社の企業倒産集計が、負債1,000万円以上を対象にしているためです。負債1,000万円未満は別枠で集計・公表されています。
10万社あたりの数字は、東京商工リサーチの発表ですか?
いいえ。地区別の倒産件数は東京商工リサーチの発表で、分母の会社数はしょくばログの台帳で数えたものです。台帳の会社数には、登記は残っていても実際には活動していない会社も含まれます。
九州は倒産しやすい地域ということですか?
10万社あたりの件数が多いのは事実ですが、件数は33件と少なく、半年ごとの増減でぶれやすい数字です。地域だけで個々の会社の安全性は判断できません。気になる会社は、登記の状態と所在地をひとつずつ確かめてください。
まとめ
2026年度上半期の負債1,000万円未満の倒産は241件で、2年連続の減少でした。ただ、減ったのは関東で、近畿と九州は2割以上増えています。会社の数で割ると、10万社あたり九州7.5件・近畿6.7件・関東5.3件です。全体の件数が減ったことよりも、「どこで増えているか」と「大きい側に移っていないか」を見ておくほうが、実態に近づけます。