✍ 古家あきら | 2026-09-17 更新

給料が遅れる会社は危ないのか — 労基法24条の「毎月1回・一定期日」と、倒産して払えなくなった会社2,223社・2万8,987人(令和7年度・未払賃金立替払)の数字から読む

先に答えを書きます。給料が「遅れる」こと自体が、労働基準法24条が禁じている状態です。 賃金は「毎月1回以上、一定の期日を定めて」支払わなければならず、これに違反すると30万円以下の罰金(同法120条)の対象になります。つまり「今月ちょっと遅れるね」は、会社にとっては軽い話でも、法律上は違反の状態です。

「危ないのか」への正直な答えは、遅配だけで倒産の確率は出せない、です。「給料が遅れた会社のうち何割が潰れたか」を追跡した公的統計は存在しません。取れるのは逆向きの数字=「倒産して、賃金を払えないまま従業員を辞めさせた会社がいくつあったか」で、これは国が未払賃金を立て替える制度(未払賃金立替払制度)の実績として毎年度公表されています。令和7年度は2,223社・2万8,987人・118億85百万円。この記事はその数字を軸に、遅配が起きたときに外から確認できることと、相談先を整理します。

しょくばログという会社データベースを運営していると、「給料 遅れる 会社 やばい」「給料 遅配 倒産」で流れてくる人が一定数います。応募前にその会社の支払いの癖が分かればいいのですが、後述するとおり採用ページで給料日を書いている会社は0.32%しかなく、遅配の有無は外からはまず見えません。見えないものを見えると言わずに、見えるものだけを書きます。

給料の支払いは法律で「毎月1回・一定期日」と決まっている — 労基法24条・23条・120条

労働基準法をe-Gov法令検索のAPIで引くと、第24条2項はこう書かれています。

1項には「通貨で、直接労働者に、その全額を」の原則もあります。「一定の期日」なので、「25日払い」と決めたなら25日に払う義務があり、「今月は資金繰りの都合で来月10日」は違反です。 第120条は、第24条違反に30万円以下の罰金を定めています。

退職するときは別の条文が効きます。第23条は「労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い」と定めています。給料日を待たずに請求できる、という意味です。

もう1本、賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)第6条があります。退職した労働者の賃金(退職手当を除く)を退職日までに払わなかった場合、退職日の翌日から支払日までの日数に応じて、年14.6%を超えない範囲内で政令で定める率の遅延利息を払わなければならない、という条文です。在職中の遅配には効きませんが、辞めた後の未払いには利息が付く、と覚えておいてください。

「遅配のその後」を数える — 未払賃金立替払制度の令和7年度実績

未払賃金立替払制度は、企業が倒産して賃金が払われないまま退職した労働者に、未払賃金の一部を国(独立行政法人労働者健康安全機構)が事業主に代わって立て替える制度です(賃確法7条)。厚生労働省が2026年に公表した令和7年度の実施状況はこうです。

会社の数と人数は減って、金額は増えています。1人あたり41.0万円という平均は、後述の上限(年齢で88万〜296万円)の中に収まる額で、「給料2〜3か月分が払われないまま会社が終わった」人が中心だと読めます。

半期で見ると、下半期に金額が跳ねている

会社数はほぼ同じで金額だけ15.8%増えた、というのが令和7年度の下半期です。

90.8%は従業員30人未満の会社

企業規模別の内訳(令和7年度)はこうです。

割り算をすると、30人未満の会社は1社あたり6.2人、30〜299人は1社あたり49.9人、300人以上は1社あたり933.7人が立替払を受けています。件数で見ると「賃金を払えないまま終わる会社」の9割は小さい会社ですが、人数で見ると300人以上の7社だけで全体の22.5%を占めます。 令和6年度は300人以上が10社・5,228人(17.1%)だったので、大きい会社の比重が1年で上がりました。厚労省の概要にも「30人未満と30〜299人をあわせた立替払額の割合は76.7%(令和6年度は88.1%)」と書かれています。

業種別では商業・建設・製造の順

令和7年度の企業数の上位はこうです(区分は制度側の業種区分で、日本標準産業分類とは違います)。

建設は社数では2位なのに人数・金額では小さく、商業は社数・人数・金額すべてで1位です。建設の倒産は「小さい会社が多く終わる」、商業の倒産は「1社あたりの人数が多い」という形が数字に出ています。

制度発足からの累計は9万9,358社・140万1,792人

表5(実施状況の推移)を昭和51年度の制度発足から令和7年度まで足すと、累計9万9,358社・140万1,792人・5,769億87百万円です。年度別に見ると形がはっきりします。

令和3年度の872社は、コロナ禍の資金繰り支援で倒産そのものが抑えられた年です。同じ資料の参考2(東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」・負債総額1,000万円以上)を年度で並べると、令和3年度5,980件 → 令和4年度6,880件 → 令和5年度9,053件 → 令和6年度10,144件 → 令和7年度10,505件と4年連続で増えています。

倒産件数と立替払企業数を単純に割ると、令和7年度は2,223÷10,505=21.2%、令和6年度は2,623÷10,144=25.9%、令和3年度は872÷5,980=14.6%です。ただしこの割り算は目安にしかなりません。立替払の企業数には労基署長が認定した「事実上の倒産」(負債1,000万円未満や法的手続きなしの廃業を含む)が入り、倒産件数のほうは負債1,000万円以上の法的・私的整理を数えているので、分子と分母の範囲がずれています。「倒産した会社の2割前後で、賃金を払えないまま辞めた従業員がいた」くらいの読み方にとどめてください。

立替払を受けられる条件と上限 — 全額は戻らない

制度の要件と額(参考1)を、応募者・従業員の目線で並べ直します。

つまり、給料が3か月分たまって会社が倒産した場合でも、戻るのは8割で、若い人ほど上限が低い。「潰れても国が払ってくれるから大丈夫」ではなく、「潰れたら2割は確実に消えて、ボーナスは丸ごと消える」制度です。ここに、遅配が続いている会社に居続けるリスクの実体があります。

倒産しなくても「賃金不払」は年2万件ある — 労基署の監督指導

倒産まで行かなくても、賃金が払われていない事案は労働基準監督署が扱っています。厚生労働省が2026年8月21日に公表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」の数字です。

令和6年は22,354件・185,197人・172億1,113万円でした。遅配や不払いで労基署に持ち込まれた事案は、件数ベースで96%が是正されています。 これは「言えば払われることが多い」という意味であり、「放っておいても払われる」という意味ではありません。監督指導の件数(2.2万件)と立替払の企業数(2,223社)を並べると、労基署が扱う不払いのうち倒産まで行くのは1割程度の規模感、というのが公表値から言える範囲です(両者は年と年度、事業場と企業で単位が違うので、これも目安です)。

採用ページ32,838社を集計した — 給料日を書いている会社は0.32%

しょくばログのデータベースで、会社の採用ページ本文を保存してある32,838社を対象に、給料の支払い時期に関する記載を機械的に数えました。

結論は、「給料日がいつか」「遅れたことがあるか」は、採用ページからはほぼ分かりません。 給料日は求人票(求人の給与欄の見方)や労働条件通知書で確認するもので、遅配の履歴は外の資料には出ません。「日払い・週払い・前払い」を書いている会社は、人手が足りない業種(運輸・宿泊飲食・建設)が多く、これは支払能力の問題ではなく採用のための売り文句と読むのが自然です。

もう1つ、うちの集計で分かっている規模の話を添えます。立替払を受けた会社の90.8%は従業員30人未満でした。しょくばログの活動中5,028,697社のうち、gBizINFO由来で従業員数が分かる144,768社では30人未満が73,424社(50.7%)です。gBizINFOに登録している会社は大きめに偏るので(登録の偏りは会社の従業員数の調べ方に書きました)、日本の会社全体で見れば30人未満の割合はこれより高いはずです。「賃金を払えないまま終わる会社の9割が30人未満」は、日本の会社の大半が30人未満だという分母の反映でもあります。 小さい会社だから危ない、と単純には言えません。

給料が遅れたとき、外から確認できること — 順番どおりに

遅配が起きたら、会社の説明を聞く前に自分で確認できることが3つあります。

税金の滞納は原則として外から見えません(税金の滞納は外から見えるか)。取引先の立場なら取引先の信用調査の手順で、支払サイトの延長要請が来た時点で動くのが定石です。

そして相談先です。在職中の遅配は、まず労働基準監督署(労基法24条違反の申告)。労基署の監督指導で96%が是正されているのは上に書いたとおりです。会社が倒産した(またはしそうな)場合は、労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度。事実上の倒産の認定は労基署長が行うので、窓口はどちらも労基署から始まります。給与明細・タイムカード・雇用契約書は、請求の証拠になるので手元に残しておいてください。行動の判断(辞めるか残るか)は状況によるので、この記事は判断そのものには踏み込みません。

よくある質問

給料が1日遅れただけでも違法ですか

労働基準法24条2項は「一定の期日を定めて支払わなければならない」と定めているので、定めた期日に払われなければ条文上は違反です。ただし現実には、1回きりの短い遅れで労基署が罰金まで動くことはまずなく、監督指導(是正勧告)が中心です。「1回遅れた」より「2回目があるか」「理由の説明が具体的か」で見てください。

給料が遅れる会社は必ず倒産しますか

しません。「遅配した会社の何割が倒産したか」を追った公的統計はなく、この記事で示せるのは逆向きの数字(倒産して払えなかった会社が令和7年度に2,223社)だけです。労基署が扱った賃金不払22,605件のうち96.1%は是正されており、払われずに終わる事案は少数です。ただし遅配が2回、3回と続く会社は資金繰りが恒常的に苦しい状態で、その先に倒産があれば戻るのは未払賃金の8割まで、ボーナスは対象外です。

ボーナスが遅れるのも同じですか

違います。労基法24条2項の「毎月1回・一定期日」の原則は、賞与など「臨時の賃金等」には適用されません。就業規則や労働契約で支給日が決まっていれば契約上の債務にはなりますが、24条違反ではない。未払賃金立替払制度でもボーナスは対象外です。ボーナスの遅れは「違法か」より「業績が支給要件を満たしているか」の問題として読んでください。

退職したのに最後の給料が払われません。給料日まで待つしかないですか

待つ必要はありません。労働基準法23条は、退職した労働者が請求した場合、7日以内に賃金を払うことを使用者に義務づけています。さらに賃確法6条により、退職日の翌日から支払日までの遅延利息(年14.6%を超えない範囲で政令の率)が付きます。請求は書面(内容証明など)で日付が残る形にし、払われなければ労基署へ。

会社が倒産しました。未払いの給料はいくら戻りますか

未払賃金総額の8割で、退職時の年齢で上限があります。45歳以上は296万円、30歳以上45歳未満は176万円、30歳未満は88万円が立替払の上限です。対象は退職日の6か月前から請求日の前日までに支払期日が来た定期給与と退職金で、総額2万円未満は対象外。請求は破産手続開始の決定等の日の翌日から2年以内です。令和7年度の平均は1人41.0万円でした。

応募前に、その会社が給料を遅らせたことがあるか調べられますか

外からは調べられません。うちのデータベースで採用ページ32,838社を集計しても、給料日を具体的に書いている会社は105社(0.32%)で、遅配の履歴を書いている会社はありません。労基署の監督指導は企業名が公表されないのが原則で、公表されるのは送検などの重い事案に限られます(労基法違反で公表された企業の調べ方)。口コミサイトの「給料が遅れた」という書き込みが唯一の手がかりになることが多く、会社の評判の調べ方で扱っている確度の見方で読んでください。

出典と集計の条件

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

← お役立ち記事一覧へ