✍ 古家あきら | 2026-09-10 更新

労働基準法違反で社名を公表された会社の調べ方 — 公表リスト400件を全部数えて分かった中身

先に結論です。労働基準関係の法令違反で社名を公表された会社は、無料で調べられます。 厚生労働省労働基準局監督課が全国分をまとめたPDF「労働基準関係法令違反に係る公表事案」を毎月更新していて、47すべての都道府県労働局が同じものを自局のサイトにも置いています。誰でも、ログインなしで開けます。

ただし、開く前に知っておいてほしいことが3つあります。①中身は長時間労働のリストではない ②載るのは直近1年ぶんだけ ③載っていないことは「白」を意味しない。 この3つを知らずに開くと、リストを誤読します。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「この会社、労基署に摘発されていませんか」という質問をいただくことがあります。そのたびにこのリストを開くのですが、今回は最新版(掲載日:令和8年8月31日、令和7年8月1日〜令和8年7月31日公表分)の全400件をPDFから抜き出して、1件ずつ数えました。69ページぶん、47労働局ぶんの全件です。数えてみると、世間で言われている「ブラック企業リスト」という呼び名とは、かなり違う姿が出てきました。

リストはどこにあるか — 探し方は2通り

全国分をまとめて見たいなら、厚生労働省のPDF。 「労働基準関係法令違反に係る公表事案」で検索すると、労働基準局監督課がまとめたPDFが出てきます。北海道労働局から沖縄労働局まで、47局ぶんが1本のファイルに入っています。冒頭に「各都道府県労働局が公表した際の内容を集約したもの」と注記されているとおり、厚労省が独自に作っているのではなく、各労働局の公表を束ねたものです。

特定の地域だけ見たいなら、その都道府県の労働局サイト。 各労働局のサイトに「事例・統計情報」といったメニューがあり、その中に同じ表題のページがあります。中身は自局ぶんだけのPDFです。全国版より更新のタイミングが早いことがあります。

掲載されている項目は6つです。

住所は市区町村まで、代表者名や法人番号は載りません。ここが後で効いてくるので、覚えておいてください。

400件を数えて分かった中身 — 長時間労働は7.0%しかない

最新版の400件を、違反法条の筆頭に書かれている法律で分類しました。

3件に2件以上が労働安全衛生法です。俗称の「ブラック企業リスト」から想像される長時間労働・サービス残業のリストとは、まったく構成が違います。

条文まで割ると、こうなります。

いわゆる長時間労働にあたる労働基準法第32条と第36条を足しても、28件(7.0%)です。 400件のうち28件。このリストを「長時間労働で晒された会社の一覧」として読むと、9割以上を読み違えることになります。

最も多いのは「現場の安全措置をとらなかった」類型

第20条・第21条だけで185件(46.3%)。事案概要は、機械の掃除の際に起動装置に表示板を付けなかった、車両系建設機械の作業計画を定めずに作業させた、荷卸し作業で作業指揮者に指揮させなかった、といった記述が並びます。多くは、労働災害が実際に起きた後の捜査から送検に至った事案という構図です。

第61条の22件は「無資格者にフォークリフトを運転させた」「無資格者に解体用つかみ機を運転させた」という、資格のない人に危険な機械を操作させた類型でした。

4番目に多いのが「労災かくし」

労働安全衛生法第100条の38件(9.5%)は、事案概要を読むと性質が明確です。「4日以上の休業を要する労働災害について、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告書を提出したもの」「約1か月の休業を要する労働災害が発生したのに、遅滞なく労働者死傷病報告書を提出しなかったもの」。けがを隠した、あるいは嘘の報告をした、いわゆる労災かくしです。これが単独で長時間労働(28件)より多い。

賃金の未払いは「残業代」より「給料そのもの」

最低賃金法第4条の60件と労働基準法第24条の15件を読むと、事案概要は「労働者3名に、2か月間の定期賃金を支払わなかったもの」といった書き方が中心でした。残業代の不足ではなく、毎月の給料そのものが払われていない類型です。割増賃金(第37条)の未払いは2件でした。

公表にはもうひとつのルートがある

社名の公表には、送検事案の公表とは別に、もう一系統あります。厚生労働省労働基準局長の通達、平成29年1月20日付け基発0120第1号「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」に基づくルートです(この通達名は、同年3月31日付け基発0331第78号が本文中で引用しています)。複数の事業場で違法な長時間労働などが認められた企業に対し、労働局長が経営トップを直接指導し、その事実を公表する仕組みです。

ここで一点、実際に数えたから言えることがあります。今回の400件は、その他参考事項がすべて「送検」でした。指導による公表は、この一覧には1件も入っていません。 長時間労働を理由とする公表を期待してこのリストを開くと、期待とズレるのはこのためです。

なお「送検」は、労働基準監督官が捜査して事件を検察官に送ったという事実です。起訴を意味せず、有罪の確定でもありません。 リストを読むときの前提として、ここは外さないでください。

載るのは直近1年ぶんだけ

このリストの表題は「令和7年8月1日〜令和8年7月31日公表分」です。ちょうど12か月。ひとつ前の版は「令和7年5月1日〜令和8年4月30日公表分」、その前は「令和7年4月1日〜令和8年3月31日公表分」でした。毎月、窓が1か月ぶんずつ後ろにずれていく作りになっています。

つまり、1年より前に公表された事案は、今のリストには載っていません。過去に遡って調べる用途には、そもそも設計されていないのです。

月ごとの公表件数もかなり偏っていて、最も多いのは令和8年3月の78件、最も少ないのは令和8年5月の15件でした。3月に集中するのは年度末という行政側の事情で、会社側の違反が3月に増えるわけではありません。件数の増減を「取り締まりが強まった/弱まった」と読むのは危険です。

都道府県で見ると、大阪府43件、愛知県22件、兵庫県18件、福岡県15件、神奈川県14件、東京都と愛媛県が各13件。0件の県はひとつもなく、47都道府県すべてから公表が出ています。

「載っていない=法令を守っている」ではない

ここが一番大事です。1年間の全国分で400件。当社のデータベースには国税庁の法人番号公表データ由来で5,791,529件の法人が入っていて、うち活動中は4,988,967社です。400件は、その0.008%にあたります。

労働基準監督署が年間に行う監督指導は、送検に至らないものが圧倒的多数です。是正勧告で終われば公表されません。指導すら入っていない会社も当然あります。リストに載っていないことは、その会社が適法だという証明には一切なりません。 これは倒産統計を読むときと同じ構造で、統計に映らない会社の終わり方で書いた「分母の落とし穴」がそのまま当てはまります。

このリストは「出てきたら重い」が「出てこないから安心」は言えない、非対称な道具です。使い方としては、ブラック企業の見分け方で挙げた他のサインと組み合わせて、加点ではなく減点の材料として見るのが実際的です。

載っている会社を特定するのは、思ったより難しい

ここからは、会社データベースを持っている側からの話です。リストの社名を、法人番号で確定させられるかを実際に検証しました。400件すべてを当社のデータベースに突合しています。

表記のままでは、まず当たらない

リストの社名は略記です。400件のうち「(株)」表記が277件、「(有)」が56件、合わせて333件(83.3%)が括弧付きの略記でした。国税庁の法人番号公表データは「株式会社」「有限会社」と正式表記なので、リストの表記のまま完全一致で引けたのは400件中7件(1.8%)にとどまりました。

「(株)」を「株式会社」に開き、前株・後株の両方を試し、さらに所在地の都道府県で絞ると、こうなります。

表記ゆれを直すだけで1.8%が66.5%になる。逆に言えば、直さないと9割以上を取りこぼすということです。この現象そのものは会社名で検索しても出てこない理由で扱ったのと同じで、社名の突合はどこでも同じ壁にぶつかります。

所在地は「本社」ではなく「事業場」

該当なし97件の内訳を見ると、理由がはっきり分かれました。

最後の21件が示唆的でした。中には、誰でも名前を知っている全国規模の建設会社や製紙会社、空調工事会社が含まれています。なぜ当たらないのか。所在地欄に書かれているのが、本店ではなく事案が起きた事業場(工事現場や工場)の所在地だからです。本店は東京都にあるのに、公表上の所在地は山梨県や長野県や愛知県。都道府県で絞った瞬間に外れます。

リストの「所在地」は会社の住所ではなく、現場の住所です。 ここを取り違えると、同名の別会社を犯人にしてしまいます。

同じ社名の会社が、全国に何百とある

都道府県の条件を外して社名だけで突合すると、精度はむしろ落ちます。

400件のうち146件は、社名だけでは1社に絞れません。極端な例では、公表された社名のひとつと同じ商号の法人が全国に307社(うち活動中259社)存在していました。同じ県内にも6社あります。社名だけで「あの会社だ」と判断するのが、いかに危ういかという話です。会社を確定させたいなら、法人番号を調べるところから始めるほうが確実です。

ついでに分かった業種の偏り

1社に特定できた266件のうち、当社データで日本標準産業分類が判明しているのは104件でした。その内訳は、製造業39件、建設業32件、運輸業・郵便業14件、卸売業・小売業8件、農業・林業5件。違反法条の7割が労働安全衛生法だったことと整合します。現場で機械を扱う業種に、はっきり寄っています。(残る162件は当社側に業種コードが無いもので、業種が無いという意味ではありません。この104件も全体の一部を切り取った数字なので、業界全体の傾向として読まないでください。)

実務での使いどころ

転職・就職で使うなら、応募先の社名で全国版PDFを検索する、それだけです。ヒットしなければ何も分からず、ヒットしたら事案概要と法条を読む。安全衛生の事案なら現場の安全管理、賃金不払いなら支払い能力そのものに関わります。面接前の会社研究チェックリストの一項目として組み込むのがちょうどいい重さです。

取引先の確認で使うなら、反社チェックと同じ扱いで、無料でできる確認のひとつに加えるという位置づけになります。ただし1年ぶんしか載らないので、これ単独で与信の判断はできません。許認可の有無を会社の許認可を調べる手順で確認するほうが、継続性の判断には効きます。

やってはいけないのは、社名の一致だけで「この会社だ」と断定すること。 同名の別会社が146件ぶんある世界です。所在地は現場の住所であって本店ではありません。突合するなら、法人番号まで確定させてからにしてください。

よくある質問

Q. 公表された会社の一覧は、過去の分もどこかで見られますか

公式には見られません。 厚生労働省と各労働局が出しているのは直近12か月ぶんの一覧だけで、窓は毎月ずれていきます。過去分を保存している民間サイトはありますが、削除された事案が残り続けることになるため、扱いには注意が必要です。少なくとも「公式に確認した」とは言えなくなります。

Q. リストに載っていない会社は、法令違反をしていないということですか

言えません。 1年間で全国400件です。当社データベース上の活動中の法人4,988,967社に対して0.008%にすぎません。是正勧告で終わった事案、監督指導が入っていない会社は、当然ながら載りません。「載っていたら重い」は言えますが、「載っていないから安全」は言えない、片側だけ有効な道具だと考えてください。

Q. 送検されたということは、有罪ということですか

違います。 送検は、労働基準監督官が捜査した事件を検察官に送致したという事実を指します。起訴されるかどうか、有罪になるかどうかはその後の話です。リストの「その他参考事項」に書かれているのも送検日であって、判決の日付ではありません。

Q. 長時間労働で有名になった会社の名前が見当たりません

このリストの中心が長時間労働ではないからです。 実際に数えると、労働基準法第32条・第36条は400件中28件(7.0%)です。また、長時間労働を理由とする企業名公表には、送検とは別に労働局長の指導による公表ルート(平成29年1月20日付け基発0120第1号)がありますが、今回集計した400件はすべて送検事案で、指導による公表は含まれていませんでした。

Q. 会社名で検索しても出てこないのですが、表記の問題でしょうか

その可能性は高いです。 リストの社名は「(株)〇〇」という略記で書かれています。「株式会社」で検索しても当たりません。また、事業場単位で「〇〇株式会社 〇〇工場」と書かれている場合、社名だけの検索では引っかからないことがあります。PDF内の検索は、法人格を外した中核部分(例:「〇〇建設」)だけで試すのが確実です。

Q. 所在地が応募先の本社と違うのですが、別の会社でしょうか

別会社とは限りません。 所在地欄は事案が発生した事業場の所在地です。本社が東京の会社が、地方の工事現場の事案で公表されることがあります。逆に、たまたま同名の別法人という可能性もあります。社名・所在地・事案の内容の3点を見て、それでも判断がつかないなら「分からない」で止めるのが安全です。

まとめ

しょくばログでは全国約579万社の会社情報を無料で公開しています。会社名で検索して正式な商号と法人番号を確定させてから公表リストを引くと、同名の別会社を取り違えずに済みます。応募先や取引先を調べる最初の一歩にお使いください。

参照した一次資料

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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