✍ 古家あきら | 2026-09-20 更新

米穀卸411社の売上が2兆円・利益4.5倍でも、2026年度は「逆ザヤ」— 社名に「米穀」を持つ1,749法人は有限会社が53%、閉鎖率23.8%は全法人平均の1.8倍というデータ

先に結論です。東京商工リサーチ(TSR)が2026年9月20日に公表した「米穀卸、令和のコメ騒動で25年度の業績急伸」によると、全国の主な米穀卸売業411社の2025年度の売上高合計は2兆899億円(前年度比37.8%増)、利益は453億円(同115.7%増)でした。4期前の2021年度(売上高1兆1,386億円・利益99億円)と比べると、売上は約2倍、利益は4.5倍です。ただし同じ調査で、2026年度は「コメ余り」と米価下落で、高値で仕入れた在庫の逆ザヤが現実味を帯びていると指摘されています。うちの会社データベースで社名に「米穀」を含む法人を数えると1,749法人あり、現存する1,332法人の53.5%が有限会社、閉鎖率は23.8%で全法人平均の約1.8倍でした。TSRの411社は業績が判明する中堅以上の卸で、うちの1,749法人はそこに載らない町の米屋まで含む登記上の断面です。「2兆円の業界」の見出しと、街の米穀店の実態はかなり違います。

出典:https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203255_1527.html (東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年9月20日「米穀卸、令和のコメ騒動で25年度の業績急伸 ~ 26年度はコメ価格下落で暗転へ ~」)

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「業界が伸びているというニュースを見て応募先や取引先を選んでいいのか」という趣旨の相談を受けることがあります。米穀卸は、そこに「価格が一気に上がって一気に下がる」という商品特有の事情が重なる業種なので、TSRの数字とうちの登記データを並べて、どこまでが業界の話で、どこからが個社の話かを切り分けます。

TSRの調査で分かること — 増収78.5%、黒字89.7%、売上100億円超は2倍

数字はすべてTSRの記事からの引用です。対象は5期連続で比較できる全国の主な米穀卸売業411社です。

背景にあるのは、2024年から続いた「コメ不足」と米価の高騰です。仕入れ価格が上がれば卸の売上も自動的に膨らむので、売上2倍のうちのかなりの部分は数量ではなく単価によるものと読むのが自然です。利益も、値上がり局面では「安く仕入れた在庫を高く売る」形で膨らみます。利益率を計算すると、2021年度は99億円÷1兆1,386億円で約0.9%、2025年度は453億円÷2兆899億円で約2.2%です。4.5倍という利益の伸びは、利益率が1%を切る薄利の業界が、値上がり局面で一時的に2%台に乗った、という規模の話です。

同じ調査の中で目を引くのは、売上高100億円以上の会社が4年で20社から42社に増えていることです。100億円の線を越えた22社のうち、どれだけが数量を増やしたのか、どれだけが単価上昇で自然に越えたのかは記事からは分かりません。ここは断定しません。

2026年度の「逆ザヤ」— 値上がり局面の利益は、値下がり局面でそのまま損に変わる

TSRの記事が見出しに掲げているのは、好調ではなく「26年度はコメ価格下落で暗転へ」のほうです。要点は、2026年度はコメ余りと米価下落により、高値で仕入れた在庫を販売価格より高いコストで抱える逆ザヤが現実化し、新米の供給と古米の買い戻しの動きで明暗が分かれる、という見立てです。

卸売業の損益は、在庫の仕入れ価格と販売価格の差で決まります。値上がりが続く間は「在庫を持っているだけで儲かる」状態になり、値下がりに転じた瞬間に「在庫を持っているだけで損をする」状態に裏返ります。2025年度に利益率2.2%を出した会社ほど、2026年度の期首に高値の在庫を多く抱えている可能性があり、業界の合計値だけを見て「儲かっている業界」と判断すると、判断の時点で前提が変わっていることになります。同じ構図は、業界全体が伸びていても個社が倒れる例をまとめた 「伸びている業界」を選んでも安全ではない や、閉鎖率が低い業種ほど赤字が続きやすいという 「3期連続赤字」が最も多い業種 でも扱っています。

なお、うちのデータベースでは個社の売上や在庫は分かりません。非上場の卸売業の売上高をどこまで外から追えるかは 会社の売上高を無料で調べる方法 に、負債の読み方は 会社の借金・負債を外から調べる方法 にまとめています。

うちの登記データで見る — 社名に「米穀」を持つ1,749法人の断面

国税庁の法人番号公表データ全件を取り込んだうちの台帳で、社名に「米穀」を含む法人を機械的に数えました。TSRの411社とは対象の取り方がまったく違うので、そのまま比較はできません。TSRが挙げるような大手の卸は社名に「米穀」を持たないことが多く、逆にうちの1,749法人には卸ではなく小売の米穀店や、米穀を扱う組合も含まれます。「米穀を名乗る法人の断面」として読んでください。

3つ、読み取れることがあります。

1つ目は、有限会社の比率が全法人平均の約2倍あること。有限会社は2006年の会社法施行以降は新設できないので、現存する有限会社は少なくとも20年近く続いている会社です。社名に「米穀」を持つ現存法人の半分以上がそれに当たり、合資会社・合名会社を足すと6割近くになります。米穀店は戦後の食糧管理制度のもとで登録制の小売店として広がった業態で、その名残が登記の種別に残っている形です。有限会社であること自体が不利かどうかは 有限会社に就職するのは不利なのか で扱いました。

2つ目は、閉鎖の7割が「清算の結了」であること。合併による閉鎖は5法人(1.2%)しかありません。うちが同じ方法で数えた「書店」を名乗る法人(2,421法人・閉鎖率19.2%)や「釣具」を名乗る法人(閉鎖率20.3%)と同じく、大手に吸収されて消えるのではなく、店主が店を畳んで会社を清算する形で消えていく業種だと分かります。TSRの411社の倒産が2026年1〜8月で2件しかないのと、うちの閉鎖率23.8%は矛盾しません。倒産統計に載るのは負債1,000万円以上の法的整理で、町の米屋が清算で静かに消える分は倒産の数字に出てこないからです。

3つ目は、都市部ほど閉鎖率が高いこと。福岡県35.5%、埼玉県32.7%、愛知県25.8%、大阪府・東京都が22%台なのに対し、京都府14.0%、兵庫県15.1%、北海道18.6%は低めです。理由は登記データからは分かりません。スーパーやドラッグストアでコメを買う人が多い地域ほど、配達型の米穀店が残りにくいという仮説は立ちますが、ここでは仮説にとどめます。

なお、うちの閉鎖データは休眠会社の一斉整理(みなし解散)で年によって大きく跳ねるので、「何年に何社閉鎖した」という年次推移には使っていません。使えるのは、この記事で示したようなある時点での閉鎖率・種別・地域の断面だけです。

米穀卸・米穀店を応募先・取引先として見るときの3つの目印

TSRの調査とうちの登記データを重ねると、確認すべき点が絞れます。

1. その会社の利益が「値上がり局面の利益」かどうか。2025年度に増収増益だった会社は247社(60.1%)ありますが、それが数量の増加なのか単価の上昇なのかは決算書の売上総利益率と棚卸資産の推移を見ないと分かりません。応募先なら面接で「2024年以前の売上規模」を聞くのが早く、取引先なら 帝国データバンク・東京商工リサーチの評点の見方 で整理したとおり、評点の更新時期が2025年度の好決算を反映した直後かどうかを見てください。 2. 在庫の重さ。米穀卸は「モノを持っている業種」です。TSRが逆ザヤの前提として挙げているのは高値仕入れの在庫の量で、これは外からは見えません。従業員数に対して倉庫が大きい、あるいは自社サイトで「在庫豊富」を売りにしている会社ほど、価格下落局面での損失リスクは大きいと考えるのが筋です。会社の規模を外から見る手順は 会社の規模の調べ方 にあります。 3. 法人種別と登記の生死。有限会社・合資会社の米穀店は、事業承継の段階にある可能性が高い業種です。求人を出しているなら、それが後継者採用なのか配達要員なのかで意味が違います。登記が生きているかは 会社の実在・倒産確認 の手順で法人番号から確かめられます。

コメを作る側の状況は、農業法人の撤退を扱った 「コメ農家の撤退32件」は氷山の一角 を参照してください。作る側が減り、卸の売上が単価で膨らみ、次に価格が下がる、という流れの中で、どの段階の会社を見ているのかを意識すると、業界ニュースの読み方が変わります。

よくある質問

TSRの「米穀卸411社」と、しょくばログの「社名に米穀を含む1,749法人」は同じものですか

違います。TSRの411社は業種が米穀卸売業で、5期連続で売上高が判明している会社です。うちの1,749法人は国税庁の法人番号公表データで社名に「米穀」を含む法人を機械的に数えたもので、卸か小売かも、業績の有無も問いません。大手の卸で社名に「米穀」を持たない会社はうちの数字に入りませんし、逆に小売の米穀店や組合はTSRの数字に入りません。前者は「業績が見える中堅以上の卸」、後者は「町の米屋まで含む登記上の断面」です。

利益が4.5倍なら、米穀卸は儲かる業界になったのですか

TSRの数字で利益率を計算すると、2021年度は約0.9%、2025年度は約2.2%です。売上100円あたりの利益が90銭から2円20銭になった、という規模の話で、しかも値上がり局面で在庫の評価が膨らんだ分を含みます。TSR自身が2026年度は逆ザヤで暗転すると見ているので、「儲かる業界になった」と言い切れる材料はありません。

閉鎖率23.8%は高いのですか

全法人平均の13.2%と比べると約1.8倍で、うちが同じ方法で数えた業種の中では高い部類です。書店(19.2%)や釣具(20.3%)より高く、閉鎖の7割が清算の結了、つまり自主的に会社を畳んだものです。ただし、これは「これまでに登記されたすべての法人のうち閉鎖済みの割合」なので、直近の倒産件数(TSRによると2026年1〜8月で2件)とは別の指標です。

米穀卸の会社に応募するとき、登記以外に何を見ればいいですか

2024年以前の売上規模と、在庫の持ち方です。米価が上がる前の売上規模が分かれば、2025年度の増収がどれだけ単価によるものか見当がつきます。在庫は外から見えないので、面接で「新米の切り替え時期に古米の在庫をどう処理しているか」を聞くと、逆ザヤへの備えがある会社かどうかが分かります。取引先として見るなら 取引先の信用の調べ方 の手順で、評点の更新時期を必ず確認してください。

まとめ

TSRが9月20日に公表した米穀卸411社の2025年度業績は、売上高2兆899億円(37.8%増)、利益453億円(4.5倍)、増収78.5%、黒字89.7%、売上100億円超が42社と、見出しだけなら絶好調です。しかし利益率は2.2%で、TSR自身が2026年度はコメ余りと米価下落による逆ザヤで暗転すると見ています。うちの登記データで社名に「米穀」を持つ1,749法人を数えると、現存法人の53.5%が有限会社で全法人平均の約2倍、閉鎖率23.8%は全法人平均の約1.8倍、閉鎖の7割は清算の結了でした。業界の合計値が膨らんでいるときほど、応募先・取引先の個社については、値上がり前の売上規模・在庫の持ち方・法人種別と登記の生死を、見出しより先に確認してください。

出典:米穀卸、令和のコメ騒動で25年度の業績急伸 ~ 26年度はコメ価格下落で暗転へ ~(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年9月20日) 出典:しょくばログ集計(国税庁法人番号公表データに基づく・2026年9月時点)

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

← お役立ち記事一覧へ