✍ 古家あきら | 2026-08-29 更新

「伸びている業界」を選んでも安全ではない — ペット市場の最新データで見る、業界の成長と会社の体力のズレ

先に結論から。「業界が伸びているか」と「その会社が持ちこたえられるか」は、まったく別の質問です。 転職先や取引先を選ぶとき、業界の成長ニュースを会社の安全性の代わりに使うと判断を誤ります。今日出たペット業界のデータは、その代表例でした。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「業界としては伸びているのに、その業界の会社がどんどん登記を閉じている」という組み合わせを何度も見ます。今日はその仕組みを、実際に公表された数字で分解します。

まず事実:今日公表されたペット業界の数字

東京商工リサーチが2026年8月29日に公表した「2025年度『ペット・ペット用品 小売業』業績動向調査」の内容です。同社の企業データベース(約440万社)から、2025年度(2025年4月期〜2026年3月期)を最新期として7期連続で業績が判明した98社を抽出した集計です。

売上の伸び率そのものも失速しています。2020年度は前年比13.6%増でしたが、2023年度2.6%増、2024年度1.2%増、2025年度0.5%増と、年を追って刻みが小さくなりました。

出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト「『ペット・ペット用品小売業』好調から苦戦へ 利益はコロナ禍前から4割減、売上高も鈍化」(2026年8月29日)

「市場は伸びている」も、同時に本当

ややこしいのは、市場統計のほうは今も成長を示していることです。同じ記事の中で、一般社団法人ペットフード協会は2024年度の出荷について、出荷量は前年比1.0%減で3年連続の減少、一方で出荷総額は前年比105.6%で9年連続の増加と説明しています。

つまり、売れている「量」は減っていて、増えているのは「金額」だけです。金額が増えた理由は値上げです。

ここが、業界ニュースを会社選びに使うときの最初の落とし穴になります。「市場規模が9年連続で拡大」という見出しは事実ですが、その拡大の中身が値上げによる嵩上げなら、現場の会社にとっては売れる数が減りながら仕入値が上がっている状態です。売上高は前年を超えるので数字の上では増収に見え、利益だけが消えていきます。今回の98社は、まさにその形をしていました。

TSRの記事では減益の背景として、製品の44%が輸入品であり、円安で従来の価格競争力が失われたこと、原材料高が続いていることが挙げられています。価格転嫁が進んでもコスト増がそれを上回る、という構図です。

この「転嫁しきれない」という問題は業種によって効き方がまるで違います。業種別の実数で見たものを価格転嫁率が再び4割割れの39.9% — 「値上げできない会社」は外からどこまで見えるかにまとめています。

消えているのは、小さい会社に偏っている

もう一つ、今回のデータで見ておきたいのが「誰が退場しているか」です。

最後の一行が重要です。10件のうち9件が従業員5人未満でした。業界の平均や上位企業の話は、5人未満の会社の状況をほとんど説明しません。 大手が値上げでしのげている間に、価格を上げれば客が離れ、上げなければ利益が消える規模の会社から先に退場している、というのが数字の形です。

同じ構図は飲食でも起きていて、中華料理店の倒産が15年で最多 — 小さな飲食店の「危ないサイン」を会社データで確かめるで書いた町中華の話と、原因の並びはほとんど同じでした。

また、「休廃業・解散48件 対 倒産10件」という比率にも注目してください。この業界で会社が消えた出口の8割近くは、倒産ではありません。 倒産のニュースだけを見ていると、実際に起きている退場の大半を見落とします。この点は倒産1,037件は「17年ぶり」水準 — でも会社が消える出口は倒産だけではないで全国の数字を使って詳しく書きました。

うちのデータで見た「ペットを冠する法人」1,421件

ここからは、全国の法人データを持っている立場でしか書けない部分です。

しょくばログは国税庁の法人番号公表データをもとに、全国5,791,529件の法人を収録しています(現存扱いは5,028,697社)。このうち、社名に「ペット」を含む法人は1,421件でした(ペットボトル・ペット樹脂・ペットリサイクルなど、動物と無関係な社名は除いています)。

一つ、正直に断っておきます。登記の閉鎖記録は「年ごとの推移」には使えません。 全法人で見ると閉鎖の記録件数は2024年の65,006件に対し2025年は119,114件と急増しますが、これは経済の急変ではなく、休眠会社の整理などで記録が一斉に付く年があるためです。全業種で同じ形に跳ねるので、業界の景況を年次で読む用途には向きません。年次の景況はTSRや帝国データバンクの倒産・休廃業集計を、業界内の構成や所在の偏りはうちの登記データを、と使い分けるのが正しい読み方です。

それでも、上位3都府県に44%が集中しているという事実は実務的です。地方でペット関連の会社を探すと母数が一気に細り、比較対象になる同業が近隣にほとんどいない。「同じ地域の同業と比べて普通かどうか」という判定が効かない環境では、応募先・取引先の一社を単独で見るしかなくなります。

業界の景気と、会社の体力を切り分ける4ステップ

ここまでの話をペット業界に限らず使える手順にすると、こうなります。

1. 業界ニュースの「金額」と「数量」を分けて読む 市場規模が伸びていても、それが値上げによるものなら、現場の会社の売れ行きは減っている可能性があります。出荷量・客数・販売数量にあたる指標が同じ記事に載っていないか探してください。

2. 平均ではなく、自分が見ている会社の規模帯で読み直す 「98社の合計」は上位企業に引っ張られます。応募先が従業員5人の会社なら、参照すべきは平均ではなく「5人未満で何件退場したか」のほうです。従業員数と資本金の調べ方は会社の規模の調べ方 — 従業員数・資本金・売上、無料で分かるのはどこまでにまとめています。

3. その会社が値上げできる立場かを考える 価格を決められるのは、代替が効きにくい商品を持つ会社か、仕入先に対して強い会社です。取引先が数社に集中していないか、同じものを売る店が近隣に何軒あるか。決算が非公開でも、この見立てはある程度立ちます。売上そのものを追う方法は会社の売上高を無料で調べる方法 — 決算公告・EDINET・信用調査の使い分けを参照してください。

4. 「倒産」だけでなく「静かに閉じる」ほうも想定する 今回のデータでも、退場の8割近くは倒産ではなく休廃業・解散でした。取引先なら、ある日連絡が取れなくなる形での終わりのほうが確率としては高い。業界内での立ち位置を掴んでおくと判断が早くなります(会社の業界順位を調べる方法 — 大手・中堅・地域一番の見分け方)。

よくある質問

Q. 成長業界に転職すれば安全、という考え方は間違いですか? 間違いというより、粒度が合っていません。業界の成長は「その業界に会社が増える/求人が出やすい」ことは説明しますが、「あなたが入る一社が利益を出せるか」は説明しません。今回のペット業界のように、市場は9年連続で拡大しているのに個社の利益はコロナ禍前を下回る、という状態が普通に起こります。

Q. 増収なのに減益、というのはそんなに悪いことですか? 一度きりなら投資や一時費用の可能性があります。問題は連続したときです。今回の98社は2024年度に29.5%減益、2025年度に53.5%減益と2期続いており、利益水準がコロナ禍前を割り込みました。「増収減益が2期以上続く」は、値上げが追いついていないサインとして見ておく価値があります。

Q. 応募先の会社が「販売不振」かどうかを、外から知る方法はありますか? 決算が非公開の中小企業では、断定できる方法はありません。代わりに見えるのは、求人の出方(同じ職種を長期間出し続けている・条件が下がっている)、店舗数や営業時間の変化、公式サイトやSNSの更新の途絶えなどの間接的な兆候です。しょくばログの各社ページでは、登記情報と募集中の求人をまとめて確認できます。

Q. 休廃業・解散と倒産はどう違いますか? 倒産は裁判所の手続き(破産・民事再生など)に乗った終わり方で、統計に件数として現れます。休廃業・解散は、債務を整理したうえで自主的に事業をやめる形が中心で、ニュースにはほとんどなりません。今回のペット業界では2025年に休廃業・解散48件に対し倒産は集計期間が異なるものの少数で、「静かな退場」のほうがはるかに多いという構図でした。

Q. しょくばログの登記データは、業界の景気を見るのに使えますか? 向き不向きがあります。業界内の会社数・所在地の偏り・法人形態の構成といった「面」を見るのには使えます。 一方で、登記の閉鎖記録は休眠会社の一斉整理などで年ごとに大きく振れるため、景況の年次推移を読む用途には適していません。景況の推移は倒産集計を、面の把握はうちのデータを、という使い分けをおすすめします。

まとめ

会社名で登記情報と募集中の求人をまとめて確認したいときは、しょくばログのトップページから会社名で検索してみてください。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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