✍ 古家あきら | 2026-09-05 更新

「3期連続赤字」が最も多い業種は、いちばん法人が消えにくい業種でもある

先に結論から書きます。「その業種の会社が潰れていないこと」は、「その業種の会社が儲かっていること」を意味しません。 むしろいま、赤字が慢性化している業種ほど法人としては消えにくい、という逆転が起きています。だから応募先を選ぶときに「創業◯年、いまも続いている」を安心材料にすると、判断を誤ります。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「この業界って大丈夫ですか?」という聞かれ方をよくします。今回はその質問に、2026年8月末に出たばかりの調査と、うちの登記データを重ねて答えます。

何が発表されたのか

東京商工リサーチが「失業なき労働力移動の行方 ~窮境状態にある業種と『人手不足倒産』発生率の相関~」を公開しました(2026年8月30日公開、アドバンスニュースが9月2日付で報道)。

この調査のユニークな点は、「窮境」を業績で定義したことです。2026年3月期を起点に逆算して、経常赤字が3期以上続いている企業を窮境と判定し、母数の10%以上が窮境だった業種だけを集計しています。対象は中小企業のみ(大企業と公務関連は除外)。あわせて2016年度〜2025年度の人手不足関連倒産5,212件を業種別に分析しています。

赤字企業比率の上位はこうなりました。

ここでいう人手不足倒産発生率は、その業種の倒産件数を分母に、人手不足関連(従業員退職・求人難・人件費高騰・後継者難)が原因だった件数を割った値です。倒産のうち何割が人手起因か、という比率であって、その業種の会社が何%潰れたか、ではありません。ここは読み違えやすいので後述します。

出典:東京商工リサーチ「失業なき労働力移動の行方 ~窮境状態にある業種と『人手不足倒産』発生率の相関~」 / アドバンスニュース(2026年9月2日)

しょくばログのデータと重ねると、逆転が見える

ここからがこの記事の本題です。うちが持っている登記レコードは5,751,223件(うち現存法人4,988,967社/2026年9月5日時点)。そのうちすでに登記が閉鎖されているのは762,256件=13.25%です。

この「登記が閉じられた比率」を法人の名称別に出すと、こうなります。

(法人名がその語で始まるものを数えた値です)

並べてみてください。東京商工リサーチが「赤字が3期以上続く企業がいちばん多い」と名指しした学校教育・社会福祉・医療は、うちのデータでは登記がいちばん閉じられていない領域です。 社会福祉法人の閉鎖率1.87%は、全体13.25%のおよそ7分の1。株式会社とは7倍以上の開きがあります。

業種分類(日本標準産業分類の大分類)で見ても同じ向きです。分類が判明している1,350,453社のうち、

赤字体質のランキングと、法人が消える順番は、ほぼ逆になっています。

なぜこうなるのか

断定はできませんが、構造的にはこう説明がつきます。学校法人・社会福祉法人・医療法人は許認可を前提とした法人で、設立にも解散にも所轄庁が関わります。事業をたたむという判断が、株式会社のように経営者の一存では進みません。加えて収入の多くが公定価格(介護報酬・診療報酬・補助金)で、値上げによる利益改善がしにくい。赤字でも潰れない代わりに、赤字から抜け出す手段も少ない、というのが率直な読み方です。

東京商工リサーチも同じ調査の中で、非労働集約型の業種については、苦しい会社が倒産ではなく廃業を選んでいると指摘しています。会社の終わり方は倒産だけではありません(倒産統計に映らない会社の終わり方)。

数字の落とし穴:「学校教育11.76%」の中身

報道では「学校教育の人手不足倒産発生率が最も高い水準」と紹介されました。ただ、元データを見ると学校教育の倒産は集計期間で17件、うち人手不足関連が2件です。2 ÷ 17 = 11.76%。

つまり1件動けば率が6ポイント動く数字です。一方、社会保険・社会福祉・介護事業は1,780件中176件で9.88%。同じ「約10%」でも、後者のほうが桁違いに安定した数字です。

率だけを見て「学校教育がいちばん危ない」と読むのは、分母を見ていないということになります。倒産統計は集計主体や定義で件数が変わるものでもあります(人手不足倒産は63件?30件?)。

では応募先の何を見ればいいのか

業種の平均値は、目の前の1社を説明しません。今回のデータから実務的に言えることは3つです。

① 「創業◯年」「いまも存続している」を安心材料にしない

特に医療法人・社会福祉法人・学校法人では、存続していること自体は健全性の証拠になりません。設立年の調べ方は会社の設立年を調べる方法、法人格の違いは法人の種類一覧にまとめています。

② 存続ではなく「人の出入り」を見る

赤字が続いても法人が残る領域では、しわ寄せは人件費と人員配置に出ます。同じ職種の募集を年に何度も繰り返していないか、募集が現場の中核職に偏っていないか。見方は人が辞めて潰れる会社の見分け方と会社の離職率を調べる方法に詳しく書きました。

③ 「休眠」と「廃業」も選択肢に入れて確認する

倒産していなくても、実態として動いていない法人はあります。確認手順は会社が解散・休眠していないか調べる方法にまとめています。

取引先を見るときの注意

BtoBでは逆に、許認可法人は与信面で相対的に安定していると評価されることが多いのが実情です。今回のデータもそれ自体を否定しません。閉鎖率が低いのは事実です。

ただし「取りっぱぐれにくい」ことと「支払条件が良い」「値上げが通る」ことは別です。公定価格で回っている取引先に対して、人件費や資材の高騰分を転嫁できるかは、また別の交渉になります(価格転嫁できない業種)。

よくある質問

登記が閉鎖されている=倒産したということですか?

いいえ。登記の閉鎖には、破産・特別清算などの倒産だけでなく、通常の解散、合併による消滅、みなし解散(長期間登記を放置した法人を法務局が職権で解散扱いにする手続き)が含まれます。倒産件数とは別の指標として読んでください。なお閉鎖の年次推移は、みなし解散の一斉処理があった年に大きく跳ねるため、年ごとの増減を比較する用途には向きません。この記事で使ったのは、時点断面での比率だけです。

東京商工リサーチの数字と、しょくばログの数字を直接比べてもいいですか?

厳密には比べられません。東京商工リサーチは中小企業の倒産を、しょくばログは全国の登記法人を母集団にしています。定義も期間も違います。この記事で示したのは「同じ業種が、片方では赤字上位、もう片方では消えにくい側にいる」という向きの対比であって、数値の優劣ではありません。

赤字が3期続いている会社かどうかを、外から調べられますか?

非上場の中小企業では、原則として調べられません。決算公告を出している会社は官報や自社サイトで確認できますが、実際に公告している中小は多くありません。確度の高い財務情報が必要なら、帝国データバンク・東京商工リサーチなどの信用調査を利用するのが確実です。無料でできる範囲は取引先の信用を調べる方法にまとめています。

介護や保育の仕事は避けたほうがいいということですか?

そういう話ではありません。今回の数字が示しているのは、業種平均として利益が出にくい構造があるということだけです。同じ業種の中でも、処遇改善加算をきちんと配分している法人と、そうでない法人の差は大きい。判断すべきは業種ではなく個々の法人で、そのために見るのが求人の出し方と人の入れ替わりです。

人手不足倒産はいま増えているのですか?

直近では主因が入れ替わっています。「採れないから潰れる」型から「人件費を払えないから潰れる」型への移行が起きており、その違いは「人手不足倒産」の中身が入れ替わったにまとめました。求人票に出るサインも型によって変わります。

まとめ

東京商工リサーチの新しい調査は、赤字が3期以上続く企業の比率が高い業種として学校教育(18.08%)・社会福祉(16.41%)・道路旅客運送(14.28%)を挙げました。一方、うちの登記データでは、社会福祉法人の閉鎖率は1.87%、学校法人は4.21%と、株式会社の13.93%を大きく下回ります。

赤字が続く業種と、法人が消える業種は、一致していません。 存続年数や「潰れていないこと」を健全性の代わりに使うと、この構造を見落とします。見るべきは、その法人で人がどう入れ替わっているかです。

※本記事は公表済みの調査結果と、しょくばログが保有する国税庁法人番号公表サイト由来の登記データにもとづく一般的な情報です。個別企業の信用状態や経営状態を断定するものではありません。取引や投資の判断が必要な場面では、専門の信用調査をご利用ください。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

← お役立ち記事一覧へ