✍ 古家あきら | 2026-09-03 更新

「人手不足倒産」の中身が入れ替わった — 8月は32件、主因は「採れない」から「払えない」へ

先に結論から。「人手不足倒産」という言葉が指す中身が、この1年で入れ替わりました。人が採れないから潰れるのではなく、雇っている人に払えなくなって潰れる会社が主役になっています。 そして今日の発表で特徴として挙がった「資本金1千万円未満が68.7%」は、危ない会社を見分ける手がかりにはなりません。うちのデータで数えると、建設業ではもともと半分以上がそこに収まっているからです。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、倒産のニュースを読むたびに「この特徴は、母集団と比べて本当に特徴なのか」が気になります。今日はその検算をします。

事実:2026年8月の「人手不足」倒産

東京商工リサーチが2026年9月3日に公表した数字です。

東京商工リサーチはこの調査を、負債1,000万円以上の全国企業倒産のうち「求人難・従業員退職・人件費高騰」に関連するものを抽出したもの(後継者難は対象外)と定義しています。

出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト「賃金上昇、従業員退職による倒産が過去最多 8月の「人手不足」倒産 8月では最多の32件」(2026年9月3日)

3つの型のうち、伸びているのは1つだけ

この調査は「人手不足」を3つの型に分けています。求人難型・従業員退職型・人件費高騰型の3つです。1-8月累計333件のうち、公表されている内訳は人件費高騰175件と従業員退職81件。差し引くと求人難型は77件という計算になります(この77件はTSRが直接公表した数字ではなく、公表値からの引き算です)。

つまり構成比でいうと、こうなります。

「人手不足で倒産」と聞くと、多くの人は求人を出しても誰も来ない会社を思い浮かべます。実際、その型は少数派です。いま倒産の過半を占めているのは、人は居るけれど賃上げや人件費の上昇を吸収できなくなった会社のほうです。

この違いは、見分ける側にとって決定的です。求人難型は外から見えます。同じ求人が何ヶ月も出続ける、募集人数が減らない、条件が少しずつ良くなっていく——観察可能なサインが求人票に出るからです。その読み方は「人が辞めて潰れる会社」の見分け方に書きました。

ところが人件費高騰型は、求人票にサインが出ません。むしろ求人が静かになります。払えないから募集を止める、あるいは出しても最低賃金の下限に張り付いた条件のまま動かさない。「求人が出ていない=落ち着いている」と読むと、いちばん危ない局面を見逃します。

なお、同じ「人手不足倒産」でも調査会社によって件数が2倍近く違うことがあります。母数の取り方と定義が違うためで、その仕組みは人手不足倒産は63件?30件?で分解しました。今日の32件は東京商工リサーチの定義による数字です。

検算:「資本金1千万円未満68.7%」は特徴なのか

ここからが、全国の法人データを持っている立場でしかできない部分です。

今日の発表で、8月の人手不足倒産32件のうち22件(68.7%)が資本金1千万円未満だったと報告されています。この数字だけを見ると「資本金1千万円未満の会社は危ない」と読みたくなります。でも、母集団がそもそもどうなっているかを見ないと、これは特徴とは言えません。

しょくばログには、東京都・大阪府・新潟県・福島県が公表する建設業許可業者の情報を法人番号で突き合わせたデータがあり、そのうち資本金が記録されている法人が81,542社あります(うち81,535社は国税庁の法人番号データ上で現存扱い)。8月の業種別最多だった建設業の会社を、許可という公的な裏付けつきで数えられる集合です。

この81,542社の資本金を実際に集計すると、こうなります。

分布で見るとこうです。

都道府県別の「1,000万円未満」の割合は、東京48.9%(36,831社)、大阪53.1%(30,006社)、新潟54.7%(7,423社)、福島65.2%(7,282社)でした。

結論は単純です。建設業で許可を持って営業している会社の半分以上は、もともと資本金1,000万円未満です。倒産した会社の68.7%がそこに含まれていたとしても、母集団が52.5%なのですから、ふるいとしてはほとんど機能しません。1,000万円未満という条件で警戒すると、業界の半分が引っかかります。それは選別ではなく、業界の平均像をなぞっているだけです。

(注:この資本金は各自治体が公表する建設業許可業者一覧の届出値で、許可・更新時点の値です。最新の登記と一致しない場合があります。また4都府県の集計であり、全国の建設業全体の分布とは異なる可能性があります。資本金そのものの調べ方は会社の資本金を調べる方法、建設業許可の確認手順は会社の許認可を調べる方法にまとめています。)

では、何を見るのか

資本金が使えないとすると、人件費高騰型の危うさは何から読むか。決算書が手に入らない中小企業を前提にすると、見られるものは限られます。私が実際に見ているのは次の3つです。

1. その業種が値上げを通せているか

人件費が上がっても売価に転嫁できていれば、耐えられます。転嫁できる度合いは会社の努力より業種の構造で決まる部分が大きく、その実数は価格転嫁率が再び4割割れの39.9%で業種別に整理しました。転嫁の効きにくい業種にいる会社は、同じ賃上げでも効き方が違います。

2. 求人の賃金が「古い下限」で止まっていないか

最低賃金は2026年10月から全国加重平均1,176円に上がります。人件費を吸収できない会社は、提示額を上げられません。実際の求人179件を数えて、改定後の下限を割る求人がどれくらい残るかを調べたのが最低賃金は10月から1,176円へです。募集の時給がずっと動かない、あるいは改定のたびにギリギリまでしか上げない会社は、賃上げ余力が薄いことの間接的な証拠になります。

3. 求人が「止まった」ことを良い兆候と読まない

前述のとおり、人件費高騰型では募集が減ります。1年前まで通年で求人を出していた会社が今は出していない場合、採用が満たされたのか、出せなくなったのかは求人票からは分かりません。分からないものは分からないと扱い、他の材料と合わせて見るしかありません。

そして、この3つを見ても分からないことは残ります。破産が96.8%を占めるという今日の数字が示すとおり、行き詰まった会社の大半は立て直さずに終わります。それでも、倒産統計に映らない会社の終わり方で書いたように、会社が消える経路は倒産だけではありません。ニュースの件数だけを追うより、気になる相手を1社ずつ確認するほうが早い場面が多いのが実感です。

よくある質問

「人手不足倒産」は求人を出していない会社でも起きますか

起きます。東京商工リサーチの定義では、求人難だけでなく従業員退職と人件費高騰も「人手不足」関連に含まれます。1-8月累計333件のうち、公表された人件費高騰175件と従業員退職81件を差し引くと、求人難型は77件程度にとどまります。募集をしていない会社でも、賃金負担や退職による業務停滞から行き詰まるケースが多数を占めているということです。

資本金が小さい会社は避けたほうがいいですか

資本金の額だけを基準にするのはおすすめしません。建設業許可を持つ法人81,542社をうちで集計すると、52.5%が資本金1,000万円未満、中央値は700万円でした。1,000万円未満という線で切ると、業種によっては半分以上が該当します。資本金は「会社の体力」ではなく「設立時に払い込んだ額」で、その後の業績とは連動しません。合わせて設立年・許認可・求人の出し方など、複数の材料で見てください。

従業員が辞めていることは外から分かりますか

直接は分かりません。人数の変化を継続的に公表している中小企業はほとんどないためです。間接的な手がかりは、同じ職種の求人が繰り返し出ている、求人の「増員」「欠員補充」の表記、クチコミの投稿時期の偏りなどです。いずれも推測の域を出ないので、断定的に扱わないでください。

建設業がいちばん多いのはなぜですか

東京商工リサーチは労働集約型であることを理由に挙げています。人の手が売上に直結する構造なので、賃金の上昇がそのまま原価を押し上げ、退職がそのまま案件の失注につながります。8月は建設業10件で前年同月比100.0%増、サービス業他10件と並んで最多でした。ただし1か月の数字であり、業種の順位は月ごとに動きます。

この記事の資本金データはどこから来ていますか

東京都・大阪府・新潟県・福島県が公表する建設業許可業者の情報を、国税庁の法人番号公表データと法人番号で突き合わせ、資本金が記録されている81,542社を集計したものです。倒産統計側の数字(32件・333件・175件・81件・68.7%など)はすべて東京商工リサーチの公表値で、うちで作った数字ではありません。

まとめ

2026年8月の「人手不足」倒産は32件で、8月としては過去最多。1-8月累計333件のうち人件費高騰型が175件と過半を占め、前年同期の2.2倍に増えました。「人が採れない」倒産から「払えない」倒産への交代です。

そして、報じられた「資本金1千万円未満68.7%」は、母集団と突き合わせると特徴になりません。建設業許可を持つ法人81,542社のうち52.5%がもともとそこに収まっているからです。ニュースの数字を見分け方に変えるには、母集団の数字が要ります。その母集団を持っているのが、うちの役割だと思っています。

気になる会社があるなら、統計を読む前に個社を見に行くほうが早い。しょくばログは全国の会社を1社1ページにまとめ、登記情報・所在地・求人を無料で確認できます。まずは会社名で検索してみてください。

※本記事は2026年9月3日時点で公表されている情報にもとづく整理です。倒産件数・要因別件数・構成比は東京商工リサーチの公表値、資本金の集計は各自治体が公表する建設業許可業者情報と国税庁の法人番号公表データにもとづく当サイトの集計です。求人難型77件は公表値からの差し引き計算であり、東京商工リサーチが公表した数値ではありません。特定の企業の経営状態を評価・断定するものではありません。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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