✍ 古家あきら | 2026-10-04 更新
日銀短観9月調査、中小企業の人手不足感はマイナス42に強まる──短観が数えない「資本金2,000万円未満」は建設業許可業者の80.0%
先に結論です。日本銀行が2026年10月1日に公表した短観(9月調査)で、中小企業の人手不足感はさらに強まりました。 雇用人員判断DI(全産業)は前回6月調査のマイナス39からマイナス42へ下がり、3か月先の見通しはマイナス45です。大企業はマイナス29で、規模が小さいほど人が足りないと答える会社が多い形がはっきり出ています。
一方で、中小企業の景気の受け止め(業況判断DI)は全産業でプラス15と、前回より2ポイント良くなりました。景気は悪くないのに、人が足りない。 これが今回の中小企業の姿です。
しょくばログという会社データベースを運営していると、短観の「中小企業」がどこまでの会社を指しているのかを、ふだん意識する機会はあまりありません。実は短観が調べているのは資本金2,000万円以上の会社だけです。台帳で数えてみると、その線より下にいる会社がかなり多いことが分かりました。この記事では、公表された数字と、その数字に入っていない会社の数を並べて書きます。
出典:短観(概要)2026年9月(日本銀行・2026年10月1日)
公表された数字
調査の概要
- 公表日:2026年10月1日(第210回)
- 調査対象:9,104社(うち中小企業4,884社)、回答率99.4%
- 回答期間:8月26日〜9月30日
DIは「良い」と答えた会社の割合から「悪い」と答えた会社の割合を引いたものです。雇用人員判断DIは「過剰」から「不足」を引くので、マイナスが大きいほど人が足りないことを表します。
人手の足りなさ(雇用人員判断DI・全産業)
- 大企業:マイナス29(前回マイナス28)
- 中堅企業:マイナス38(前回と同じ)
- 中小企業:マイナス42(前回マイナス39)、先行きマイナス45
- 全規模合計:マイナス38(前回マイナス37)、先行きマイナス41
中小企業を業種の大きな区分で分けると、製造業はマイナス28からマイナス32へ、非製造業はマイナス46からマイナス47へ下がりました。非製造業の先行きはマイナス50です。中小の製造業は今回、4ポイントと大きく下がっています。
景気の受け止め(業況判断DI)
- 大企業 製造業:プラス24(前回プラス22)
- 大企業 非製造業:プラス35(前回プラス37)
- 中小企業 製造業:プラス14(前回プラス9)
- 中小企業 非製造業:プラス15(前回と同じ)
- 全規模合計 全産業:プラス21(前回プラス18)、先行きプラス15
中小企業の業種別では、宿泊・飲食サービスがプラス18からプラス12へ6ポイント下がりました。建設はプラス17で前回と同じ、運輸・郵便はプラス18からプラス17です。
資金繰り判断DI(「楽である」から「苦しい」を引いたもの)は、中小企業がプラス8で前回と同じ、大企業はプラス13でした。
数字をどう読むか
「景気は悪くない」と「人が足りない」は同時に起きる
中小企業の業況は少し良くなったのに、人手不足感は強まりました。仕事はあるのに、それをこなす人が集まらない状態です。仕事を受けられずに機会を逃す、残った人に負担が寄る、といった形で、景気の数字には出にくい影響が出ます。人が辞めることで経営が行き詰まる例については人手不足倒産の見分け方にまとめました。
10月2日に厚生労働省が出した8月の有効求人倍率は1.18倍で横ばいでした(有効求人倍率の記事)。求人倍率が動かなくても、会社の側の「足りない」という感覚は強まっている、という読み方ができます。
短観の「中小企業」は資本金2,000万円以上
日本銀行の解説資料によると、短観の調査対象は全国の資本金2,000万円以上の民間企業です。規模は資本金で分けていて、大企業が10億円以上、中堅企業が1億円以上10億円未満、中小企業が2,000万円以上1億円未満です。
つまり、資本金が2,000万円に届かない会社は、短観の「中小企業」にも入っていません。中小企業基本法の定義とは線の引き方が違う点にも注意が必要です。法律上の中小企業の定義は中小企業の定義で書きました。
しょくばログの台帳で見ると
建設業許可業者の80.0%は「資本金2,000万円未満」
しょくばログの台帳には、東京都・大阪府・新潟県・福島県の建設業許可業者の一覧から取り込んだ資本金の記録があります(2026年6月取り込み)。このうち、閉鎖の記録がなく資本金が分かる法人8万1,535社を、短観の線で分けると次のようになりました。
- 資本金2,000万円未満(短観の対象外):6万5,224社(80.0%)
- 2,000万円以上1億円未満(短観の中小企業):1万5,179社(18.6%)
- 1億円以上10億円未満(中堅企業):945社(1.2%)
- 10億円以上(大企業):187社(0.2%)
資本金の中央値は700万円でした。ちょうど1,000万円の会社が2万617社あり、500万円以下の会社も3万9,611社あります。都府県別に見ても、2,000万円未満の割合は東京都78.2%、大阪府81.9%、新潟県77.8%、福島県83.6%と、どこも8割前後です。
建設業の許可業者という一つの切り口で、地域も4都府県に限った数字です。業種や地域が変われば割合も変わるので、目安として見てください。それでも、短観の数字は、地域の工務店や小さな専門工事会社の多くを含んでいないということは言えます。
対象外の会社には、古い有限会社も多い
資本金2,000万円未満の6万5,224社を法人の種類で分けると、株式会社が72.8%、有限会社が27.2%でした。有限会社は2006年以降は新しく作れないので、長く続いてきた小さな会社が一定の割合で含まれています。
しょくばログの台帳全体では、活動中の法人は498万8,967社です。短観の調査対象9,104社は、統計の考え方に沿って選ばれた標本です。数が少ないから当てにならない、という意味ではありません。ただ、もっと小さな会社の人手不足は、短観のマイナス42よりさらに厳しい可能性も、そうでない可能性もあり、この統計からは分からない、ということです。
働く人・採る会社が確かめたいこと
1. 応募先の会社の規模を、資本金と従業員数の両方で見る
「中小企業」と一口に言っても、資本金1億円近い会社と300万円の会社では、人の採り方も育て方も違います。資本金の調べ方は会社の資本金の調べ方に、規模全体の確かめ方は会社の規模の調べ方にあります。
2. 人が足りない会社ほど、入社後の仕事量を確かめる
人手不足感が強い会社に入ると、歓迎はされても、最初から任される量が多いことがあります。面接では、同じ部署の人数と、この1年で辞めた人・入った人の数を聞いておくと、入ったあとの姿を想像しやすくなります。業種ごとの辞めやすさは業種別の離職率で書きました。
3. 採る側は、給与と仕事の中身を求人票に書き切る
人が足りない会社どうしで、同じ人を取り合う形になっています。給与の幅、残業の目安、休みの取り方が書かれていない求人は、比べる段階で外されやすくなります。人件費が上がっても値上げしにくい業種の事情は価格転嫁できない業種にまとめています。
4. 先行きのマイナス45を「計画」に入れておく
中小企業は、3か月先の人手不足感がいまより強まると答えています。年末の繁忙期や年度末に向けて人を採るなら、募集を出す時期を早めに考えておくと、取り合いに巻き込まれにくくなります。
よくある質問
Q. 短観の雇用人員判断DIがマイナス42とは、どういう意味ですか。
調査に答えた中小企業のうち、人が「過剰」と答えた会社の割合から「不足」と答えた会社の割合を引いた値です。マイナス42は、「足りない」と答えた会社が「余っている」と答えた会社より42ポイント多いことを意味します。
Q. 資本金が2,000万円未満の会社は、なぜ短観に入っていないのですか。
日本銀行が調査の対象をそう定めているためです。解説資料では、目標とする母集団を「全国の資本金2,000万円以上の民間企業」としています。小さな会社の景況を見たい場合は、ほかの統計とあわせて見る必要があります。
Q. 建設業許可業者の80.0%という数字は、全国の会社にも当てはまりますか。
当てはまるとは言えません。東京都・大阪府・新潟県・福島県の建設業許可業者で、資本金が分かる法人だけを数えた結果です。業種や地域によって資本金の分布は変わります。
Q. 中小企業の業況が良くなったのに、なぜ人手不足が強まるのですか。
仕事が増えると、それをこなす人がより多く必要になるためです。今回の調査では、中小企業の業況判断DIが前回より2ポイント上がった一方で、雇用人員判断DIは3ポイント下がりました。両方が同時に動くのは珍しいことではありません。
まとめ
2026年9月の短観では、中小企業の人手不足感がマイナス42まで強まり、先行きはマイナス45でした。景気の受け止めは少し良くなっていて、「仕事はあるのに人がいない」状態が続いています。そして短観の中小企業は資本金2,000万円以上の会社で、しょくばログの台帳で見た建設業許可業者では8割がその線より下にいました。統計の数字を見るときは、その数字が「どの会社を数えたものか」を一度確かめておくと、自分の会社や応募先に当てはめるときの読み違いが減ります。