✍ 古家あきら | 2026-10-14 更新
求人の賞与「寸志」とは — 会社サイト3.1万社で「寸志」と書くのは124社。4社に1社は「初年度だけ寸志」という意味でした
先に結論です。求人票の「寸志」には、法律で決まった金額も定義もありません。「賞与として払うつもりはあるが、額は約束しない」という書き方です。読み方のコツは、寸志が「誰に」「いつだけ」なのかを見分けることです。
しょくばログという会社データベースを運営していると、会社の公式サイトに載っている募集要項を毎日のように読みます。そこで、保存している会社サイトのテキスト31,159社分を「寸志」で検索しました。
- 賞与(ボーナス)に触れていた会社:10,203社(32.7%)
- そのうち「寸志」と書いていた会社:124社(賞与に触れる会社の1.22%)
100社に1社ほどの、珍しい書き方です。そして中身を読むと、124社の寸志は一つの意味ではありませんでした。4社に1社は「入社した年だけ寸志」、6社に1社ほどは「パート・アルバイトは寸志」という使い方です。正社員の賞与がずっと寸志、という意味とは限りません。
寸志とは何か
寸志は、もともと「わずかな気持ち」という意味の言葉です。目上の人から目下の人へ渡すお礼の表書きとしても使われますが、求人票に出てくる寸志は会社が社員に払う、少額の、または額を決めていない一時金を指します。
労働基準法には「寸志」という言葉は出てきません。法律の上では、名前が寸志でも賞与でも、仕事の対価として会社が払うものは賃金です(労働基準法11条は、賃金・給料・手当・賞与などの「名称の如何を問わず」労働の対償として払うものを賃金としています)。
一方で、賞与を払うこと自体は法律の義務ではありません。会社が賞与の仕組みを作るなら、それを就業規則に書く必要があります(労働基準法89条4号「臨時の賃金等」)。また、働く人に労働条件を示すときも、賞与の定めがあれば示す事項に入ります(労働基準法施行規則5条1項5号)。ただし、書面で渡すことが義務になっているのは同じ条の1号〜4号(契約期間・仕事の場所・労働時間・賃金の基本部分など)で、賞与は書面の義務の範囲外です。
つまり寸志は、「金額の約束がない、賞与に近いもの」と読むのが実態に合います。
会社サイト124社の「寸志」は、何を意味していたか
124社それぞれについて、「寸志」の前後40字にどんな言葉があったかを数えました(一つの会社が複数に当てはまることがあります)。
- 賞与・一時金・決算・夏季・冬季・年2回など、賞与の文脈:96社(77.4%)
- 初年度・1年目・試用期間・初回など:30社(24.2%)
- パート・アルバイト・契約社員・嘱託・登録など:22社(17.7%)
- 業績・利益:20社(16.1%)
- 実績:20社(16.1%)
- 寸志のすぐそばに金額(〇円・〇万円):8社(6.5%)
残りの数社は、社員旅行の心付けを説明するコラムや、勤続表彰のお祝いなど、求人の賞与とは別の使い方でした。
「初年度だけ寸志」という書き方が一番わかりやすい
実際の書き方は、次のようなものでした(会社名は出しません)。
- 「年2回(但し入社1年未満は寸志)」
- 「※初年度は賞与算定期間で在籍が無いため寸志となります」
- 「※2年目以降支給、1年目は寸志(当社規定による)」
- 「※入社後、初回の賞与については寸志」
理由まで書いている会社の説明がいちばん筋が通っています。多くの会社は「◯月〜◯月の働きぶりを見て、◯月に賞与を払う」という査定期間(算定期間)を決めています。4月入社の人は、夏の賞与の査定期間にほとんど在籍していません。そのため、最初の賞与だけ少額の寸志にする、という扱いです。
この書き方の会社は、2年目以降の賞与の実績を一緒に書いていることが多くありました。たとえば「前年実績 基本給2.2ヵ月分」「過去実績:基本給の2.3ヶ月分(1回当り)」と並べて書く形です。
「パートは寸志」は、雇用形態で賞与を分けている
「賞与年2回 ※パートは寸志」「正社員と常勤パート:賞与年2回/登録パート:寸志有(3年以上勤務)」のように、同じ会社の中で、正社員には賞与、パートには寸志と分けている書き方です。パート・アルバイトで応募する人は、自分の欄に書かれているのがどちらなのかを見てください。
「賞与なし、ただし寸志あり」は額が読めない
時給の求人で見かけた書き方です。「賞与 なし、ただし寸志あり」「業務成績により不定期で寸志を支給すること有」「賞与:寸志支給の場合あり」。これらは払う時期も額も決まっていないことを、正直に書いていると読めます。金額を当てにして生活の計画を立てるものではありません。
寸志でも「少額」とは限らない
金額をはっきり書いていたのは8社だけでしたが、その中には「初年度は寸志40万円程度」と書いた会社もありました。寸志という言葉は、額の大きさではなく「額を約束しない」ことを表していると考えたほうが、読み違いが減ります。
賞与の「実績」を書く会社と比べると
寸志の会社が特に不親切、というわけではありません。数字で比べると、こうなります。
- 賞与に触れる10,203社のうち、「賞与 ◯ヶ月」のように月数で実績を書いていた会社:839社(8.2%)
- 寸志と書く124社のうち、同じく月数を書いていた会社:15社(12.1%)
賞与について書く会社の9割以上は、月数の実績を書いていません。「賞与あり」「賞与年2回」だけ、という書き方が普通です。寸志と書く会社のほうが、「1年目は寸志、2年目以降は◯ヶ月」とセットで説明している分、月数を書く割合がやや高いくらいです。
賞与の相場そのものは 中小企業の賞与・昇給の相場 で、給与欄全体の読み方は 求人票の給与欄の見方 でまとめています。
業種・会社の規模による違い
賞与に触れている会社が300社以上ある業種で、「寸志」と書く会社の割合を出しました(分母は、その業種で賞与に触れている会社の数です)。
- 医療・福祉:3.32%(1,085社中36社)
- 製造業:1.03%(2,339社中24社)
- 情報通信業:0.91%(772社中7社)
- 運輸業・郵便業:0.86%(348社中3社)
- 学術研究・専門・技術サービス業:0.72%(417社中3社)
- 建設業:0.53%(1,522社中8社)
- 卸売業・小売業:0.21%(474社中1社)
医療・福祉が他の業種の3倍ほどです。介護施設や病院の募集要項は、正社員・常勤パート・登録ヘルパーなど雇用形態が細かく分かれていて、「登録は寸志」「初回寸志」と一つひとつ書き分けているためだと読めます。
従業員数(gBizINFOの登録値)で分けると、0〜9人の会社が2.43%(617社中15社)で一番高く、10〜49人は0.92%、50〜299人は1.39%、300人以上は0.93%でした。小さな会社ほど、業績に合わせて払える範囲で払う、という書き方になりやすいようです。
応募前・面接で確かめること
寸志と書かれた求人を見たら、次の4つを確かめると、入社後の思い違いを防げます。
1. 寸志は誰向けか:正社員・パート・試用期間中のどれに書かれているか。自分が応募する雇用形態の欄を見る 2. 寸志は「いつまで」か:1年目だけか、初回の賞与だけか、ずっとか 3. 2年目以降の実績はあるか:「前年度実績◯ヶ月」「昨年は◯万円」と言えるか。面接で「昨年の支給実績を教えてください」と聞くのは失礼ではない 4. 就業規則にどう書かれているか:内定後、労働条件通知書と就業規則で賞与の項目を見る。賞与の定めがある会社は、就業規則に書く義務がある
条件の書き方そのものが求人票と違っていないかは 求人票と実際の労働条件が違うとき で、求人票全体の読み方は 求人票の見方 で扱っています。年俸に賞与が含まれる求人なら 年俸制の求人の見方 もあわせてどうぞ。
よくある質問
寸志の金額に相場はありますか
決まった相場はありません。法律の定義がなく、会社が自由に決めているためです。しょくばログが調べた124社でも、寸志の額を数字で書いていたのは8社(6.5%)だけで、相場と呼べるほどの数はありませんでした。中には「初年度は寸志40万円程度」と書く会社もあり、「寸志=数千円」とも言い切れません。気になるなら、面接で昨年の支給額を聞くのが確実です。
「賞与年2回(寸志)」と書いてあるのは、賞与なしと同じですか
同じではありません。払う意思は示していますが、額を約束していない、という意味です。賞与の実績が書かれていない求人は、寸志に限らず多くあります(賞与に触れる会社のうち月数の実績を書くのは8.2%)。額を知りたいときは、前年度の実績を聞いてください。
1年目が寸志なのはなぜですか
多くの会社が、賞与を「査定期間の働きぶり」で決めているからです。入社してすぐは査定期間に在籍していないので、最初の賞与だけ少額の寸志にする会社があります。今回の124社でも、前後に「初年度」「1年目」「初回」などの言葉があった会社が30社(24.2%)ありました。2年目以降の実績を一緒に確かめておくと安心です。
パートやアルバイトでも寸志はもらえますか
会社によります。「パートは寸志」「登録パート:寸志有(3年以上勤務)」のように、パート向けに寸志を書いている会社は124社中22社(17.7%)でした。書いていない会社では、パートに賞与や寸志がない場合もあります。応募する雇用形態の欄に何が書いてあるかを見てください。
寸志は給与明細や税金ではどう扱われますか
名前が寸志でも、会社が仕事の対価として払うものは賃金です(労働基準法11条)。給与明細では賞与として出ることが多く、税金や社会保険料の扱いも賞与と同じになるのが一般的です。細かい計算は会社の担当者に確認してください。
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調べ方のメモ:しょくばログが保存している会社公式サイトのテキスト31,159社分(文字化けの多いものを除く)を、「寸志」「賞与」「ボーナス」で検索しました。文脈の分類は「寸志」の前後40字に含まれる語で数えたもので、一社が複数の分類に入ることがあります。業種は国税庁の法人番号に結びつけた日本標準産業分類の大分類、従業員数はgBizINFOの登録値です。法律の条文はe-Gov法令検索で確認しました。