✍ 古家あきら | 2026-10-01 更新

年俸制の求人の見方 — 会社サイト3.1万社のうち「年俸」を書くのは299社(0.96%)。残業の扱いまで書いているのは3割、固定残業代込みは13%

先に結論です。年俸制の求人で確かめることは、「残業代がどう払われるか」「賞与が年俸に含まれるか」「毎月いくら振り込まれるか」の3つです。年俸制は「1年分の給与を先に決める」という決め方の話で、残業代を払わなくてよくなる制度ではありません。労働基準法37条の割増賃金は、年俸制でもそのままかかります。

しょくばログという会社データベースを運営していると、会社の公式サイトに載っている募集要項を毎日のように読むことになります。そこで、保存している会社サイトのテキスト31,159社分を「年俸」で検索しました。触れていたのは299社(0.96%)。100社に1社もありません。そして、その299社のうち年俸の前後に残業・時間外・割増の話が書かれていたのは31.1%でした。7割近くは、年俸の額は書いてあっても残業の扱いが同じ場所に書かれていない、ということです。

年俸制とは何か

年俸制は、給与の額を1年単位で決める仕組みです。「年俸480万円」なら、その年に支払われる基本の給与が480万円と先に決まります。

ただし、1年分をまとめて1回で払うわけではありません。労働基準法24条は、賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うよう求めています。そのため年俸制の会社は、年俸を12で割って毎月払うか、14や16で割って一部を夏と冬に上乗せして払うのが普通です。

会社サイトの書き方も、この分け方がわかるものがあります。

年俸制は月給制の「逆」ではなく、金額を決める単位が1年か1カ月かの違いです。月給制の求人の見方は求人の給与欄の見方にまとめています。

年俸制が選ばれやすい職種

年俸制は、前年の成果や担当する役割で翌年の額を決めたい職種に向いています。会社サイトの記載でも、年俸の前後に「経験・能力・実績を考慮」「スキルに応じて決定」と書かれていたのが182社(60.9%)ありました。職種の言葉で多かったのは次のとおりです(年俸の前後80字に出てきた会社数)。

医療機関の勤務医の求人は、年俸制で書かれていることが目立ちます。

年俸制のデメリット

年俸制そのものが悪いわけではありません。ただ、求職者から見ると次の点がわかりにくくなります。

1. 残業代が「込み」になっていないか見えにくい

一番大事なのはここです。労働基準法37条は、時間外・休日・深夜に働かせたときに割増賃金を払うよう定めています。この条文に「年俸制なら除く」という例外はありません。

割増賃金の計算の元になる1時間あたりの額についても、労働基準法施行規則19条は「月、週以外の一定の期間によって定められた賃金」の計算方法を定めています。年俸はここに当たり、年俸から1時間あたりの額を出して割増をかける形になります。

それでも「年俸制だから残業代は出ない」と思っている人や、そう説明する会社はあります。会社サイトの記載では、年俸の前後に「固定残業代」「みなし残業」などの言葉があったのが39社(13.0%)、「残業代を含む」「残業込み」と書いていたのが11社(3.7%)でした。

固定残業代そのものは違法ではありません。確かめるのは、何時間分がいくら含まれていて、それを超えた分が別に払われるかです。「月40時間分の固定残業代(月6万円〜)を含む。40時間を超えた分は別途支給」のように書いてあれば、判断の材料がそろっています。「年俸制(残業代込み)」とだけ書かれていたら、時間と金額を聞いてください。残業時間の調べ方は会社の残業時間と有給取得率を調べる方法で扱っています。

2. 賞与が年俸の「中」か「外」かで年収が変わる

年俸の前後に賞与・ボーナスの記載があったのは99社(33.1%)です。書き方は大きく2つに分かれました。

同じ「年俸500万円」でも、賞与が中に入っていれば年収500万円、外なら500万円に賞与が上乗せされます。求人を比べるときは、年俸ではなく年収の見込みに直してから比べてください。賞与の相場は中小企業の賞与・昇給の相場にまとめています。

なお、年俸の一部を「賞与」の名前で夏冬に払っている場合、その部分を割増賃金の計算から外してよいかは、労働基準法施行規則21条(「臨時に支払われた賃金」「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を割増の基礎から外す規定)との関係で扱いが分かれやすいところです。気になるときは、残業代の単価に何が含まれるかを面接や内定時に聞くのが確実です。

3. 年の途中で上がらない、翌年は下がることもある

年俸制は1年分を先に決めるので、年の途中で成果が出ても給与は基本的に変わりません。反対に、翌年の見直しで下がることもあります。年俸の前後に「改定」「見直し」「面談」など見直しの仕組みを書いていたのは32社(10.7%)でした。「年俸は年1回改定(7月)」のように時期がわかる会社は多くありません。

4. 最低賃金を下回っていないか計算が要る

年俸の額が低めの求人では、月あたりに直して最低賃金と比べる必要があります。年俸を12で割り、さらに月の所定労働時間で割れば1時間あたりの額が出ます。計算のしかたは最低賃金と求人の時給の見方を参考にしてください。

会社サイトで年俸制を書いている会社の割合

しょくばログの保存データで数えた結果です。

299社から無作為に50社を選んで中身を読むと、46社は自社の募集要項や給与制度の説明でした。残る4社は、他社の口コミ、年俸制の一般的な解説、社会保険労務士事務所の業務紹介、「年俸・給与等」という見出しだけで中身は月給の表記、というものです。ほとんどは自社の求人として年俸制を書いています。

その50社の中では、「年俸の1/12を毎月支給」「12分割」のように毎月の支払い方まで書いていたのが7社、固定残業代込みと書いていたのが5社、賞与は年俸に含むと書いていたのが2社でした。

業種別では「学術研究・専門技術サービス」と「情報通信」が多い

業種(日本標準産業分類の大分類)ごとに、会社サイトで「年俸」に触れていた割合です(その業種の会社が300社以上あるもの)。

全体平均の0.96%に対し、学術研究・専門技術サービスは約3倍です。研究職、設計・コンサルティング、士業の事務所などが含まれる業種です。情報通信業ではエンジニア職、医療・福祉では勤務医の募集で年俸制の記載が多く見られました。反対に、運輸や生活関連サービスでは年俸制はほとんど見かけません。こちらは歩合制・インセンティブの求人のほうが多い業種です。

年俸制の求人で確かめる5つのこと

応募前、遅くとも内定の条件提示の段階で、次の5つを確かめてください。

1. 毎月の支給額:年俸を何分割して払うのか。12分割なら月額は年俸の12分の1 2. 賞与は年俸の中か外か:中なら年収=年俸。外なら年収=年俸+賞与 3. 残業代の扱い:固定残業代を含むなら何時間分・いくらか。超えた分は別に払われるか 4. 年俸の見直し:いつ、誰と、何を基準に決めるのか。下がることはあるのか 5. 雇用形態:正社員か、契約社員か。契約社員の年俸制は、契約期間と更新の条件もあわせて確認する。見分け方は正社員と契約社員の求人の見分け方を参照

「年俸制」と書いてあるだけで、1〜3が1つも書かれていない求人は珍しくありません。書かれていないこと自体は問題ではありませんが、聞かずに入社すると、毎月の手取りと残業の扱いが想像と違った、ということになりやすい書き方です。

よくある質問

年俸制だと残業代は出ないのですか?

出ます。労働基準法37条の割増賃金は、年俸制かどうかに関係なくかかります。例外は、同法41条で労働時間・休憩・休日の規定から外れる「監督若しくは管理の地位にある者」などに当たる場合ですが、これは役職名ではなく実際の権限や働き方で判断されます。「年俸制だから」は残業代を払わない理由になりません。

年俸制と月給制はどちらが得ですか?

制度だけでは決まりません。同じ年収なら、毎月の振込額と賞与の有無、残業代の払われ方で比べてください。年俸制は年の途中で下がりにくい反面、上がりにくくもあります。月給制でも賞与が業績でゼロになる会社はあります。

年俸を16で割るのはなぜですか?

年俸の一部を夏と冬の賞与の形で払うためです。16分割なら、12カ月分を毎月、残り4カ月分を夏冬2回に分けて払う形になります。この場合、「賞与」は年俸に含まれているので、年俸の額がそのまま年収です。

年俸制の会社は外資系や大企業だけですか?

そうとは限りません。しょくばログの保存データで「年俸」に触れていた299社の業種を見ると、学術研究・専門技術サービス、情報通信、医療・福祉が多く、建設業や製造業にも一定数ありました。医療機関の勤務医やIT企業のエンジニア職の募集で多く見られ、外資系や大企業だけの制度ではありません。

求人に「年俸制(残業代込み)」とだけ書いてあったら?

何時間分の残業代がいくら含まれているかを聞いてください。時間と金額が決まっていて、超えた分が別に払われるなら固定残業代として整理できます。時間も金額も答えられない場合は、残業代がきちんと計算されていない可能性があります。

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この記事のデータについて:しょくばログが保存している会社公式サイトのテキスト31,159社分(文字化けを除く)を2026年10月1日に集計しました。会社サイトに募集要項を載せている会社に偏っており、求人サイト全体の割合ではありません。業種はしょくばログのデータベースに登録している日本標準産業分類の大分類です。法令は e-Gov 法令検索(労働基準法24条・37条・41条、労働基準法施行規則19条・21条)で確認しました。個別の会社名は載せていません。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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