✍ 古家あきら | 2026-09-01 更新

応募先の残業時間・有給消化率を外から調べる方法 — 「残業◯時間」には3つの定義がある

先に結論です。応募先の残業時間と有給取得率は、厚生労働省のしょくばらぼで会社名か法人番号を入れれば、登録不要・無料で調べられます。ただし期待しすぎないでください。うちのデータベースで数えると、全国の活動中の法人4,988,967社のうち、残業時間を何らかの形で公表しているのは15,895社。約314社に1社です。有給取得率はもっと少なく、12,380社(約403社に1社)でした。

そしてもうひとつ、調べ始める前に知っておいてほしいことがあります。しょくばらぼの中には、定義の違う「残業時間」が3つ並んでいます。どれを見るかで数字が変わります。実データで中央値を出すと、片方は7.7時間、もう片方は11.1時間でした。同じ「月の残業時間」という顔をしていて、中身は別ものです。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「求人票には残業月20時間と書いてあるのに、クチコミでは全然違うことが書いてある。どっちが本当か」という趣旨の相談をいただきます。多くの場合、どちらも嘘ではなく、数え方が違うだけです。この記事はそこを分解します。

調べ先は3つある — 精度の高い順に

残業時間と有給取得率を外から知る方法は、大きく3つです。信頼度の高い順に並べます。

入口はしょくばらぼで問題ありません。社名の表記ゆれで迷いたくない場合は法人番号で引くのが確実です(会社名から法人番号を調べる方法)。

核心その1 — 「残業時間」は1つの数字ではない

しょくばらぼに載っている残業の数字には、根拠になる法律が2つあります。ここが混乱のもとです。

うちのデータベースに取り込んだ146,479社分を集計すると、こうなりました。

つまり、同じサイトの中で3.4時間の開きがあります。そして注意すべきは、この差が「定義の差」だけではないことです。前者を出しているのは2,562社、後者は13,962社で、両方を出しているのはたった414社。出している会社の顔ぶれ自体がほとんど別なのです。会社を比べるときは、必ず同じ項目名どうしで比べてください。

なお、しょくばらぼで最も件数が多いのは「法定時間外+法定休日労働の合計」です。迷ったらこれを基準にするのが実用的です。

核心その2 — 出しているかどうかは、会社の良し悪しではなく人数で決まる

残業時間を公表している会社の割合を、従業員規模別に出してみました(分母はしょくばらぼ掲載社)。

小さい会社と大きい会社で、公表率が約10倍違います。有給取得率も同じ形で、2.5% → 14.0% → 35.4% → 46.1%と上がります。

これは会社の体質の差ではなく、義務の線がどこにあるかの差です。女性活躍推進法の情報公表義務は101人以上にかかり、100人以下は努力義務にとどまります。この構造は会社の育休取得率・女性管理職比率を調べる方法でも同じ形で現れました。空欄は「隠している」ではなく「そもそも義務がない」であることのほうが多い、と考えるのが実態に合っています。応募先の従業員数は会社の従業員数を無料で調べる4つの方法で先に確認しておくと、期待値を正しく持てます。

ちなみに、公表している会社に限ると、残業時間の中央値は規模が大きいほど長くなります。100人以下8.5時間、101〜300人11.0時間、301〜1,000人12.0時間、1,001人以上14.2時間でした。

核心その3 — 業種で5倍違う。だから同業と比べないと意味がない

「法定時間外+法定休日労働の合計」の中央値を業種別に出すと、差は歴然でした(各業種100社以上のもの)。

最長の運輸業と最短の医療,福祉で5倍以上です。「月12時間なら普通」という判断は、業種を見ないと成立しません。応募先の業種は会社の業種を調べる方法で確認できます。

この並びは、国の統計とほぼ一致します。厚生労働省の毎月勤労統計調査(2025年速報・事業所規模5人以上・一般労働者)では、月間の所定外労働時間は調査産業計13.2時間で、運輸業,郵便業が24.1時間と最長、医療,福祉が6.7時間と最短でした。順位が一致しているということは、自己申告のデータでも業種比較には使えるということです。ただし水準はうちの集計のほうが低めに出ています(中央値と平均値の違い、定義の違い、公表企業の偏りが重なります)。

核心その4 — 有給取得率は「全国平均より高く」出る

有給取得率も同じように集計しました。

一方、厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、2024年の1年間で労働者1人平均の取得率は66.9%、取得日数は12.1日(付与18.1日)。昭和59年の調査開始以降で最も高い水準です。

しょくばらぼに載っている会社の数字は、全国平均より数ポイント高い。これは日本企業が急に良くなったからではなく、自発的に公表する会社ほど成績が良いという偏りです。「載っている会社の中では平均以下」でも、全国基準では平均並みかもしれません。逆に言えば、公表している時点で、その会社は数字に自信がある可能性が高いとも読めます。

業種別に見ると、こちらも国の統計と並びが揃います。うちの集計では宿泊業,飲食サービス業が50.8%で最下位、卸売業,小売業62.3%、建設業64.2%、運輸業,郵便業64.3%。就労条件総合調査でも宿泊業,飲食サービス業が50.7%で最下位でした。ほぼ同じ数字です。

政府は過労死等防止対策大綱(令和6年8月2日閣議決定)で、2028年までに取得率70%を目標に掲げています。全体の取得率を公表した2,602社のうち、70%以上だったのは61.7%でした。

核心その5 — 認定マークは「有給」には効くが「残業」には効かない

くるみん認定・えるぼし認定がある会社は働きやすいのか。手持ちのデータで突き合わせました。

有給取得率では明確に差が出るのに、残業時間ではほとんど差がありません。くるみんに至っては認定企業のほうが1.2時間長い。くるみんは子育てとの両立支援、えるぼしは女性活躍の認定であって、どちらも「残業が短いこと」を認定しているわけではないからです。マークの有無で「残業が少なそう」と判断するのは筋が違います。認定マークの読み方は会社の福利厚生を無料で調べる方法もあわせてどうぞ。

3つの数字がズレたら、どう読むか

求人票・公的DB・クチコミで数字が食い違ったとき、私はこの順で考えています。

そして、残業と有給は必ずセットで見てください。残業が短くても有給が取れない会社、残業は長いが休みはきちんと取れる会社、どちらも実在します。あわせて会社の離職率を調べる4つの方法で定着状況も見ると、輪郭がはっきりします。

自己申告データの限界も、正直に書いておきます

しょくばらぼの数字は、会社が自分で入力したものです。第三者が検算しているわけではありません。それが分かる例をひとつ挙げます。

「平均の法定時間外労働60時間以上の労働者の数」という欄があります。ここに数字を入れた833社のうち、806社(96.8%)が「0人」と回答していました。また、残業時間が36協定の原則的な上限である月45時間以上と答えた会社は、13,962社中87社(0.6%)だけです。

厳しい数字はそもそも入力されにくい、という前提で読む必要があります。逆に言えば、正直に長めの数字を書いている会社は、それだけで一定の誠実さの証拠とも言えます。数字の小ささだけで並べ替えるのは危険です。

もうひとつ。テレワークの可否を入力している会社は146,479社中82社、副業・兼業の可否は58社しかありませんでした。項目が用意されていることと、答えが載っていることは別です。

よくある質問

応募先がしょくばらぼに載っていません。ブラックですか?

関係ありません。うちの集計では、活動中の法人4,988,967社のうちしょくばらぼに情報があるのは143,646社(2.9%)です。97%の会社は最初から載っていません。まず従業員数を確認して、100人以下なら公表義務がないだけ、と考えるのが妥当です。危険信号の見分け方はブラック企業の見分け方を参考にしてください。

求人票の「みなし残業20時間」は、実際の残業時間ですか?

違います。固定残業代は「あらかじめ支払っておく時間数」であって、実績ではありません。実績が20時間より短いことも長いこともあります。仕組みは求人票の給与の見方で詳しく扱っています。時給表示の求人なら最低賃金と求人時給の関係もあわせて確認してください。

残業は法律上、月何時間までですか?

36協定を結んだ場合の原則的な上限は月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がある場合でも、休日労働を含めて月100時間未満、複数月平均80時間以内、月45時間を超えられるのは年6か月まで、という上限があります(2019年4月施行、中小企業は2020年4月から)。

有給が全然取れない会社は違法ですか?

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、年5日を確実に取得させることが会社の義務です(2019年4月から全企業に適用)。取得率が極端に低い会社は、この義務との関係で問題がある可能性があります。うちの集計では、正社員の有給取得日数が5日未満と回答した会社が2,543社中68社(2.7%)ありました。

全国平均の66.9%は、中小企業も含んだ数字ですか?

含んでいません。就労条件総合調査の対象は「常用労働者30人以上の民営法人」で、令和7年調査の有効回答は3,820社です。29人以下の会社は最初から入っていません。全国の会社の大半は小規模企業なので、この66.9%は「30人以上の会社の平均」と読むのが正確です。

面接で残業時間を聞いても大丈夫ですか?

問題ありません。ただし聞き方で答えの精度が変わります。「残業はどのくらいですか」ではなく、「配属予定の部署の、直近1年の月平均は何時間でしたか」「繁忙期は何月で、そのときは何時間くらいですか」と、範囲と時期を区切って聞くほうが具体的な答えが返ってきます。事前準備は面接前5分でできる会社研究チェックリストにまとめました。

この記事の数字について

規模別・業種別の公表率と中央値、3種類の残業時間の分布、有給取得率・取得日数の分布、認定マーク別の中央値、60時間以上の労働者数の回答内訳は、厚生労働省「職場情報総合サイト しょくばらぼ」の一括ダウンロードCSV(公的オープンデータ・2026年6月10日版)を2026年6月11日にしょくばログのデータベースへ取り込んだ146,479社分を、当社が独自に集計したものです。厚生労働省が公表している統計ではありません。 掲載企業に限った集計であり、公表義務のない規模では「自発的に公表した会社」に偏るバイアスがあります。活動中の法人4,988,967社および突合一致143,646社は、国税庁の法人番号公表データを元にしたしょくばログのデータベース(2026年9月1日時点)の集計です。

年次有給休暇の全国値(2024年の取得率66.9%・取得日数12.1日・付与日数18.1日、企業規模別および産業別の取得率、宿泊業,飲食サービス業50.7%が最低・電気・ガス・熱供給・水道業75.2%が最高、調査対象=常用労働者30人以上の民営法人・有効回答3,820)は、厚生労働省「令和7年就労条件総合調査の概況」(令和7年12月19日公表)によります。

月間の所定外労働時間の全国値(2025年速報・事業所規模5人以上・一般労働者の調査産業計13.2時間、運輸業,郵便業24.1時間、医療,福祉6.7時間、就業形態計9.8時間)は、厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報」によります。

青少年雇用情報の3類型(募集・採用に関する状況/職業能力の開発・向上に関する取組/職場定着に関する取組)と、月平均所定外労働時間・有給休暇の平均取得日数がどの類型に含まれるかは、厚生労働省「職場情報の提供制度」によります。女性活躍推進法の情報公表項目(「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の区分に労働者の一月当たりの平均残業時間・有給休暇取得率が含まれること、101人以上への義務拡大、100人以下は努力義務)は、厚生労働省「女性活躍推進法が改正されました!」(令和8年2月18日改定版)によります。

時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間、特別条項の上限、2019年4月施行・中小企業は2020年4月から)および年5日の年次有給休暇の確実な取得義務は、厚生労働省「時間外労働の上限規制」および「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」によります。2028年までに年次有給休暇取得率70%とする政府目標は、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(令和6年8月2日閣議決定)によります。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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