✍ 古家あきら | 2026-09-11 更新
求人の「正社員」が本当に正社員か見分ける方法 — 雇用形態欄6,735件を数えたら半分以上が空欄だった
「正社員募集」と書いてあった求人に応募したら、渡された雇用契約書に「契約期間 1年(更新あり)」と書かれていた——この手の話が消えないのは、応募者が不注意だからではありません。求人票の「正社員」という3文字には、法律上の定義も、書かなければならないという義務も、そもそも存在しないからです。
先に結論を書きます。求人が本当に「期間の定めのない雇用」かを見分けるには、「正社員」の文字を見てはいけません。見るのは次の3ヶ所です。
- 契約期間の欄 … 「定めなし」と書いてあるか。これが唯一の答え
- 試用期間の欄 … 試用期間中だけ別の契約になっていないか
- 給与欄の月給・年収 … 試用期間中と本採用後で条件が変わっていないか
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、求人の生データを大量に見ることになります。今回は会社が自分の採用ページに載せている求人6,735件(2,628社分)の「雇用形態」欄を、書かれている文字列のまま集計しました。結果を先に1行で言うと、半分以上(55.9%)が空欄で、埋まっていた分も163通りの書き方に割れていました。求人票全般の読み方は求人票の見方に、給与表記のカラクリは求人票の給与の見方に分けて書いています。この記事はその中でも雇用形態と契約期間の各論です。
そもそも法律は「正社員」を定義していない
ここが出発点です。労働基準法にも職業安定法にも、「正社員」という言葉は出てきません。使われているのは「期間の定めのない労働契約」と「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)」という区分だけです。
「正社員」は法律用語ではなく、会社が社内で使っている呼び名です。だから会社ごとに指すものが違っていても、それ自体は違法でも何でもない。ここを誤解したまま「正社員と書いてあるのに嘘だった」と怒っても、話が噛み合いません。
求人で明示が義務なのは「雇用形態」ではなく「労働契約の期間」
では法律は何を求めているか。職業安定法第5条の3第1項は、労働者の募集を行う者に対して「従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています。その具体的な中身は職業安定法施行規則 第4条の2第3項に列挙されていて、実際に条文を引くとこうなっています。
- 一 … 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(変更の範囲を含む)
- 二 … 労働契約の期間に関する事項
- 二の二 … 試みの使用期間に関する事項
- 二の三 … 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)
- 三 … 就業の場所に関する事項(変更の範囲を含む)
- 四 … 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日
- 五 … 賃金の額に関する事項
- 六 … 健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険の適用に関する事項
- 七 … 雇用しようとする者の氏名または名称
- 八 … 派遣労働者として雇用しようとする旨
- 九 … 就業場所における受動喫煙を防止するための措置
この9項目のどこにも「雇用形態」はありません。「正社員」と書くことは義務ではないし、書かなくても違反にならない。逆に、「労働契約の期間」は書かなければならない。つまり法律の側から見ると、応募者が見るべき欄は最初から決まっているわけです。
同じ構造は入社時の明示にもあります。労働基準法施行規則 第5条第1項の第1号も「労働契約の期間に関する事項」で、第1号の2が更新の基準。そして同条第2項には「使用者は、…明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない」と正面から書かれています。
ハローワークの検索条件でも、雇用形態と雇用期間は別の欄
これは公的なサービスの画面を見ると分かりやすい。ハローワークインターネットサービスの求人検索条件を実際に開いて確認したところ(2026年9月11日時点)、選択肢はこう分かれていました。
- 雇用形態 … 正社員/正社員以外/有期雇用派遣労働者/無期雇用派遣労働者/パート労働者/有期雇用派遣パート/無期雇用派遣パート
- 雇用期間 … 定め無し/定め有り(更新可能性あり)/定め有り(更新なし)/(短期)日々又は1ヶ月
「雇用形態」と「雇用期間」が別の条件として並んでいるのがポイントです。行政の求人検索ですら、「正社員を選んだから期間の定めがない」とは扱っていない。民間の求人サイトや会社の自社ページなら、なおさら一致を期待できません。
会社の採用ページ6,735件を数えたら、半分以上が空欄だった
ここからが、うちのデータでしか出せない部分です。しょくばログでは会社の公式サイトから採用情報を収集していて、そこに書かれている雇用形態の文字列がそのまま残っています。2,628社・6,735件(収集は2026年6月11日〜6月26日)を集計しました。
まず記入率です。
- 雇用形態が空欄 … 3,767件(55.9%)
- 何かしら記入あり … 2,968件(44.1%)
- 一度も雇用形態を書いていない会社 … 1,509社(2,628社中)
半分以上が空欄。しかも会社単位で見ると6割近く(1,509社)が、自社の採用ページのどの求人にも雇用形態を書いていない。参考までに給与欄も数えたら記入は3,045件(45.2%)で、こちらも半分に届きません。求人サイト経由なら入力フォームで埋めさせられる項目が、自社サイトだと丸ごと抜けるわけです。
これが「正社員と思って応募したら違った」の温床です。応募者が読んだ「正社員募集」は、多くの場合キャッチコピーの側に書かれていて、雇用形態の欄そのものは空、というのが実態に近い。
書き方は163通りに割れている
記入があった2,968件を、文字列の完全一致で数えると163通りありました。たった3千件で163通りです。内訳の上位はこうなります。
- 「正社員」の一語だけ … 2,277件(記入ありの76.7%)。ほかに簡体字表記の「正社员」が24件
- 正社員系の語(正社員・正職員・正規職員・正規雇用など)を含む … 2,566件(86.5%)
- 契約社員系の語を含む … 91件(3.1%)。うち正社員系の語を伴わないものが43件
- 「正社員以外」という書き方 … 7件
- 区切り記号(・/,、)で複数の形態を1欄に詰め込んだもの … 226件(7.6%)
- 同じ会社の中で複数の書き方を使っている … 174社
つまり書式が統制されていない。「正社員」の一語で終わっている求人が圧倒的に多いということは、裏を返せばその1件だけでは期間の定めの有無が分からないということです。
「正社員」と「契約社員」が同じ欄に並ぶ64件
いちばん面白かったのがここです。雇用形態欄に正社員系の語と、契約社員・嘱託・準社員・有期といった語が同居している求人が64件ありました。実際の文字列をそのまま挙げます(会社名は伏せます)。
- 「正社員(試用期間6ヶ月は契約社員)」 … 1件。これが「正社員なのに契約社員」の完成形です
- 「正社員・契約社員」 … 13件
- 「正社員(または嘱託社員)」 … 6件
- 「正社員/嘱託社員/パート」 … 4件
- 「正社員(契約社員可)」 … 4件
- 「正社員・契約・準社員」 … 4件
- 「正社員/契約社員」 … 4件
- 「正社員または無期契約社員」 … 2件
- 「有期契約社員(正社員への登用制度あり)」 … 2件
- 「正社員(契約社員制度あり)」 … 1件
- 「契約(5年後 無期・社員登用制度あり)」 … 1件
- 「15日契約・契約社員・正社員」 … 1件
- 「正社員(無期雇用派遣)」 … 1件
注意してほしいのは、これらは隠していない会社です。むしろ正直に併記している。問題は、同じことを「正社員」の一語だけで済ませている求人が2,277件あることのほうで、そちらは外から区別がつきません。
「登用」に言及した表記も12通りありました。「正社員登用あり」は今は正社員ではないという意味です。制度があること自体は前向きな情報ですが、入口の契約が有期であることは変わりません。
雇用形態の欄に試用期間を書いてしまう24件
もうひとつ。雇用形態の欄に試用期間の話を書き込んでいる求人が24件ありました。「正社員(試用期間6ヵ月)」5件、「正社員(試用期間3ヶ月)」4件、「正社員(使用期間3ヶ月)」3件(原文ママ)、「正社員(入社後2〜3カ月の研修期間あり)」1件、といった具合です。
書いてくれるのは親切ですが、本来これは別項目で、しかも法令上の扱いが重い。職業安定法施行規則 第4条の2第6項は、「試みの使用期間中の従事すべき業務の内容等と当該期間が終了した後の従事すべき業務の内容等とが異なる場合には、それぞれの…内容等を示すことにより行わなければならない」と定めています。つまり試用期間中だけ条件が違うなら、その両方を出さなければならない。「正社員(試用期間6ヶ月は契約社員)」の1件は、実はこの条文どおりに正しく書いている例なのです。試用期間だけを取り出して48件の書き方を分類した結果は求人票の試用期間の見方にまとめました。
業種によって、書く/書かないがはっきり割れる
雇用形態欄の記入率を業種(日本標準産業分類の大分類)別に出すと、差が大きく出ました。
- 建設業 … 2,503件中1,731件が記入(69.2%)
- 医療,福祉 … 833件中290件(34.8%)
- 分類不能の産業 … 1,078件中324件(30.1%)
- 製造業 … 1,072件中289件(27.0%)
- 情報通信業 … 295件中25件(8.5%)
建設業が突出して高く、情報通信業が突出して低い。ここから「IT業界は不誠実」と読むのは行き過ぎで、採用ページの作り方の文化差と見るほうが妥当でしょう(IT系は自由記述のリッチな採用ページを作りがちで、項目表を持たない)。ただ応募者の実務としては、情報通信業の求人は雇用形態が書かれていない前提で、こちらから聞きにいく必要がある、ということになります。会社の業種は会社の業種を調べる方法で確認できます。
応募前に突き合わせる3ヶ所
データを踏まえて、実際の手順に落とします。
1. 契約期間の欄を探す。 「期間の定めなし」ならそこで終わりです。「1年(更新あり)」「6ヶ月ごとの更新」なら有期雇用で、「正社員」と書いてあっても期間の定めのある契約です。欄そのものが無い場合は「不明」であって「定めなし」ではありません。 うちのデータではこの「不明」が多数派でした。
2. 試用期間の書かれ方を見る。 「試用期間3ヶ月(その間は契約社員)」「試用期間中は時給」となっていたら、入口は別契約です。試用期間中と後で条件が変わるなら、会社は両方を示す義務があります(前掲・職業安定法施行規則 第4条の2第6項)。示されていないなら、それは聞いていい質問です。
3. 給与欄と突き合わせる。 月給表記と時給表記が混在していたり、「試用期間後は月給◯◯万円」とだけ書かれていたら、試用期間中の条件が抜けています。固定残業代・賞与・昇給の読み方は求人票の給与の見方にまとめてあります。時給表記の求人が古い最低賃金のまま残っている問題は最低賃金と求人時給のズレで実求人を数えました。
そのうえで、面接で聞くのがいちばん早い。「契約期間の定めはありますか」「試用期間中の雇用形態は本採用後と同じですか」の2問です。これを聞いて態度が変わる会社なら、その情報自体が判断材料になります。面接前の会社の下調べは面接前5分でできる会社研究チェックリストに手順化しました。
有期契約だと分かったとき、何が変わるのか
「有期=悪い」ではありません。ただし知っておくと交渉できる制度が2つあります。
期間の上限。 労働基準法第14条は、期間の定めのある労働契約は原則3年を超えて締結できないと定めています(高度の専門的知識等を持つ労働者、および満60歳以上の労働者は5年)。「5年契約です」と言われたら、自分がその例外に当たるかを確認する余地があります。
無期転換。 労働契約法第18条は、同一の使用者との有期労働契約の通算契約期間が5年を超える労働者が、契約期間が満了する日までの間に無期労働契約の締結を申し込んだときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなすと定めています。会社の同意は要りません。加えて同法第19条は、反復更新されていた/更新を期待する合理的な理由がある有期契約について、更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合、従前と同一の条件で申込みを承諾したものとみなすとしています(いわゆる雇止め法理)。
だから有期契約でも、更新の基準がどう書かれているかが実質的な意味を持ちます。前掲のとおり、更新の基準と更新回数の上限は明示事項です。離職率が高い会社かどうかを併せて見るなら会社の離職率を調べる4つの方法も使えます。
明示された条件が事実と違ったら
最後に、応募者側の逃げ道を書いておきます。労働基準法第15条第2項は、「明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」と定めています。予告期間は不要です。同条第3項では、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者が必要な旅費を負担しなければならないとされています。
さらに職業安定法第5条の4第1項は、募集情報について「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない」と定めています。「誤解を生じさせる表示」まで含まれているのがポイントで、嘘とまでは言えないが誤解させる書き方も対象です。
条件が違ったときに黙って我慢する契約上の理由は、少なくとも法律の側にはありません。求人の実在性そのものが怪しいケースの見抜き方は架空求人を見分ける6つのサインに、社会保険が本当に整っているかの確認は会社の社会保険加入を確認する方法にまとめています。
よくある質問
「正社員登用あり」と書いてある求人は、正社員求人ですか
違います。今は正社員ではないという意味です。うちのデータでも「契約社員(正社員への登用有)」「有期契約社員(正社員への登用制度あり)」のように、登用に触れた表記は12通りありましたが、いずれも入口は有期です。登用制度の存在は前向きな情報ではあるので、実績(過去に何人登用されたか)を面接で聞くのが実務的です。
「正社員」と書いてあれば、契約期間の定めがないと考えていいですか
考えられません。「正社員」は法律用語ではなく会社ごとの呼び名で、明示義務があるのは「労働契約の期間に関する事項」のほうです(職業安定法施行規則 第4条の2第3項第2号)。うちのデータでは雇用形態欄に「正社員」の一語だけを書いた求人が2,277件ありましたが、この1語からは期間の定めの有無は判定できません。契約期間の欄を別に見てください。
試用期間中だけ契約社員というのは違法ですか
それ自体は違法ではありません。ただし、試用期間中と終了後で労働条件が異なる場合は両方を明示しなければならないと職業安定法施行規則 第4条の2第6項が定めています。問題になるのは「試用期間中も同じ条件です」と読める書き方をしておいて、実際は別契約だった場合です。求人票の書かれていない部分の読み方は求人票の見方にまとめました。
求人に雇用形態が書かれていないのは、隠しているからですか
多くの場合は違います。うちの集計では自社採用ページの求人の55.9%が雇用形態欄そのものを持っていませんでした。給与欄も45.2%しか埋まっていない。自社サイトは入力必須項目がないため、項目ごと抜け落ちるというのが主因と見るのが自然です。ただし応募者にとって「不明」であることは変わらないので、聞くしかありません。応募先が本当に採用しているかどうかの判断は応募したい会社の求人が突然消える5つの理由も参考になります。
内定通知に契約期間が書かれていたら、応募時と話が違っても受けるしかないですか
いいえ。労働基準法第15条第2項により、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できます。住居を変更していた場合の帰郷旅費の負担も同条第3項に定めがあります。まず応募時に見た求人ページを保存しておくこと(スクリーンショット・URL・日付)が実務上いちばん効きます。会社側の情報を事前にどこまで調べるかは転職の企業研究のやり方に整理しています。
まとめ
- 「正社員」は法律用語ではない。明示義務があるのは「労働契約の期間」「試みの使用期間」「更新の基準」のほうで、雇用形態は明示事項に入っていない
- 会社の自社採用ページ6,735件のうち55.9%は雇用形態欄が空欄。埋まっていた2,968件も163通りの書き方に割れていて、書式は統制されていない
- 正社員系と契約社員系が同じ欄に並ぶ求人が64件実在した。「正社員(試用期間6ヶ月は契約社員)」のように、正直に書いている会社ほど条文どおりの書き方になっている
- 見るのは契約期間・試用期間・給与の3ヶ所。欄が無いのは「定めなし」ではなく「不明」
- 条件が事実と違えば、労働基準法第15条第2項で即時に解除できる
会社そのものの実態を先に確認しておきたい場合は、しょくばログの会社検索で社名を入れると、登記情報・所在地・業種・公開されている求人をまとめて確認できます。ブラック企業の見分け方全般はブラック企業の見分け方に、残業・有給の実態確認は会社の残業時間・有給消化率を調べる方法にまとめています。
出典・データの出どころ
- 自社データ … しょくばログが会社の公式サイトから収集した求人 6,735件(2,628社/収集期間 2026年6月11日〜6月26日)の「雇用形態」欄を、記載文字列のまま集計(2026年9月11日実施)
- 職業安定法(昭和22年法律第141号)第5条の3、第5条の4/職業安定法施行規則(昭和22年労働省令第12号)第4条の2
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第14条、第15条/労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条
- 労働契約法(平成19年法律第128号)第18条、第19条
- ハローワークインターネットサービス 求人情報検索の条件(2026年9月11日確認)