✍ 古家あきら | 2026-10-12 更新
農業の倒産、2026年度上半期は57件で30年で最多──しょくばログで農業に分類した法人は2万7,166社。「園芸」「牧場」の会社は有限会社が半数超
先に結論です。東京商工リサーチ(TSR)の2026年10月8日の発表によると、2026年度上半期(4〜9月)の「農業」の倒産(負債1,000万円以上)は57件でした。 前年同期から7.5%増えて5年連続の増加となり、上半期としては1997年以降の30年で最も多い件数です。資本金1,000万円未満(個人企業を含む)が46件で、全体の80.7%を占めました。
しょくばログという会社データベースを運営していると、ここ1か月ほど、農業法人の破産を取り上げるたびに「農業の会社って、そんなに倒れているの?」という反応をもらいます。個別の破産はこれまで何本か記事にしてきました。今回はTSRの業界全体の数字を紹介し、うちの台帳で農業の法人がどんな顔ぶれなのかを数えました。特定の会社を評価する記事ではありません。
出典:2026年度上半期の「農業」倒産は57件、30年で最多 小規模法人が8割に達し、天候リスクへの対応も注目(東京商工リサーチ・2026年10月8日)
TSRの発表で確認できる数字
TSRの記事に書かれている数字を並べます。対象は日本標準産業分類の「農業」で、耕種農業、畜産農業、農業サービス業、園芸サービス業を含みます。
- 倒産件数:57件(前年同期比7.5%増)。5年連続の増加で、2年連続の50件超え
- 負債総額:177億8,400万円(同35.6%増)。3年連続の増加
- 負債20億円以上:2件(前年同期は0件)。うち1件は北海道の会社で、負債は約29億円
- 業種別の上位:野菜作農業が19件(同26.6%増)、園芸サービス業が10件(同233.3%増)、肉用牛生産業が6件(同20.0%増)
- 形態:破産が51件で89.4%
- 資本金:1,000万円未満が46件で80.7%。1億円以上は3年ぶりに0件
「物価高」が原因の倒産は11件で、前年同期の12件とほぼ同じ水準でした。TSRは、円安や原油高、ナフサの供給の問題で飼料や資材の価格が上がっていると書いています。手元資金の少ない小さな法人を中心に、ゆるやかに増えていくと見ています。
上半期の物価高倒産全体の動きは、TSRの年度上半期の「物価高」倒産436件の記事にまとまっています。全業種の倒産件数の流れは、2026年9月の全国倒産831件を扱った記事で書きました。
しょくばログの台帳で、農業に分類した法人を数えた
国税庁の法人番号データをもとにした、しょくばログの台帳で数えました。業種はしょくばログが社名などから推定している分類で、農業(日本標準産業分類の大分類A)に振り分けた法人です。推定なので、実際の業種とずれる会社もあります。
- 農業に分類した法人:2万7,166社
- 閉鎖済み:4,112社(15.1%)。株式会社など5種類の会社全体の閉鎖率13.5%より少し高い
法人の種類で分けると、ほかの業種とは違う形が見えます。
- 株式会社:8,768社(32.3%)、閉鎖率9.2%
- その他の設立登記法人:8,323社(30.6%)、閉鎖率24.5%
- 有限会社:7,920社(29.2%)、閉鎖率13.7%
- 合同会社:1,245社(4.6%)、閉鎖率5.7%
「その他の設立登記法人」には、農事組合法人のように会社法の外で作られる法人が入ります。これが全体の3割を占めるのは、農業ならではです。有限会社は2006年以降は新しく作れないので、有限会社が3割近くあることは、20年以上続いている法人が多いことを示しています。
閉鎖した4,112社の理由は、「清算の結了等」が1,963社(47.7%)、「登記官による閉鎖」が1,593社(38.7%)、「合併」が488社(11.9%)でした。登記官による閉鎖は、長く登記の動きがない会社を法務局が整理したものです。倒産の件数とは別のもので、2つを足したり比べたりはできません。倒産の数に表れない会社の終わり方は、倒産統計に映らない会社の終わり方の記事で詳しく書きました。
都道府県では北海道が1割強
閉鎖していない農業の法人2万3,054社を都道府県で見ると、北海道が2,714社で11.8%、沖縄県が1,187社で5.1%、鹿児島県が858社で3.7%でした。閉鎖率は北海道が9.7%、沖縄県が8.1%と低めで、福島県は17.8%と高めです。この差の理由までは台帳からは分かりません。
社名に「園芸」「牧場」「ファーム」を持つ会社
TSRの業種別の上位に合わせて、株式会社・有限会社・合名会社・合資会社・合同会社の5種類で、社名に入っている言葉ごとに数えました。業種分類とは別の、社名だけの数え方です。
- 「ファーム」:1万2,118社、閉鎖率10.4%。今ある会社のうち有限会社は23.3%、合同会社は12.4%
- 「造園」:6,345社、閉鎖率10.0%。有限会社は49.8%
- 「農園」:5,062社、閉鎖率9.3%。有限会社は31.0%
- 「牧場」:3,234社、閉鎖率10.1%。有限会社は55.6%
- 「農場」:2,207社、閉鎖率9.9%。有限会社は52.1%
- 「園芸」:1,739社、閉鎖率13.8%。有限会社は59.4%
- 「野菜」:221社、閉鎖率14.9%
目立つのは、「園芸」「牧場」「農場」の会社で有限会社が半分を超えていることです。反対に「ファーム」の会社は有限会社が4分の1以下で、合同会社が1割を超えます。カタカナの社名ほど、新しく作られた会社が多いと読めます。
「造園」には庭の工事をする建設業の会社も入るため、TSRの「園芸サービス業」とそのまま重なるわけではありません。似た社名が多い業種でもあり、名前だけで会社を特定しないほうが安全です。見分け方は類似商号を扱った記事にまとめています。
個別の破産で見えたこと
ここ1か月で取り上げた農業法人の破産にも、TSRの数字と重なる点がありました。
- 北杜市でレタスを作っていた農園の破産は、いずみ農園の記事で扱いました。TSRの「野菜作農業」に当たる例です
- 和牛の生産法人の破産は、長沼ファームの記事で書きました
- 新しい技術を入れた農業法人の例として、トマト栽培の法人の記事もあります
どれも、天候と仕入れ値の両方に左右されるという点で共通していました。
農業法人と取引する人・働く人が確かめたい3つのこと
1. 法人の種類と設立年を見る
農事組合法人なのか、株式会社なのか、有限会社なのかで、決算の出し方や代表者の決め方が違います。しょくばログの会社ページで法人番号と種類を確かめてから、取引や応募の話を進めると行き違いが減ります。農業法人の調べ方は、米農家の撤退と農業法人の調べ方の記事に書きました。
2. 前払いや大口の取引は、時期を分けられないか相談する
TSRの数字では、倒産の8割が資本金1,000万円未満の法人です。小さな法人は手元資金が薄く、資材の値上がりや不作が続くと支払いが一気に苦しくなります。苗や飼料の代金、出荷の契約で大きなお金が動くときは、回数を分けられないか相談してみてください。外から見える手がかりの集め方は、取引先の信用の調べ方で整理しています。
3. 働く人は、季節ごとの仕事量と雇用の形を聞く
農業の求人は、繁忙期だけの雇用や、住み込みの条件が付くことがあります。応募の前に、通年の雇用か、冬の仕事はどうなるかを聞いておくと安心です。会社の評判の確かめ方は会社の評判の調べ方にまとめました。
運営者として思うこと
台帳を見ていて感じるのは、農業の法人は「長く続いてきた小さな法人」と「最近できたカタカナ社名の法人」の2つの層に分かれていることです。TSRが書くように、大手や異業種の参入が増えても、倒産の中心は小さな法人のままでした。古い法人は代替わり、新しい法人は資金繰りという、別々の難しさを抱えているのだと思います。
よくある質問
農業の倒産はどれくらい増えていますか?
TSRの集計では、2026年度上半期(4〜9月)は57件で、前年同期から7.5%増えました。上半期としては5年連続の増加で、1997年以降で最も多い件数です。負債総額は177億8,400万円で、35.6%増えています。
農事組合法人もしょくばログで調べられますか?
はい。農事組合法人は「その他の設立登記法人」として法人番号を持っているので、名前や所在地で探せます。ただし、業種の分類はしょくばログの推定なので、実際の事業内容は会社の公式サイトなどで確かめてください。
しょくばログで「閉鎖」と出ていない農業法人なら安心ですか?
そうとは言えません。破産の手続き中でも、終わるまでは登記が残り、台帳の上では閉鎖になりません。閉鎖の表示は登記の状態で、経営の状態を示すものではありません。
個人でやっている農家は、この数字に入っていますか?
TSRの57件には、資本金1,000万円未満の区分に個人企業も含まれています。一方、しょくばログの台帳は法人番号を持つ法人だけなので、個人の農家は入っていません。