✍ 古家あきら | 2026-10-08 更新
北杜市の高原レタス「イズミ農園」が破産──年商26億円から5,700万円へ、25年かけて縮んだ会社をどう読むか。社名に「農園」を持つ法人5,062社の閉鎖率は9.3%、有限会社は14.9%
先に結論です。山梨県北杜市で高原レタスを生産していた有限会社イズミ農園が、2026年9月29日に甲府地方裁判所から破産手続の開始決定を受けたと報じられました。 負債は約3億2,000万円です。
報道によると、同社の売上は2001年3月期に約26億円ありましたが、2026年3月期には約5,700万円まで減っていました。最盛期の2%ほどです。2026年4月に事業を停止しています。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「昔はこれだけの規模だった」という数字が、会社案内や求人の文面にずっと残っているケースをよく見かけます。この記事は同社の経営を評価するものではありません。報道で確認できる事実を並べ、「長い時間をかけて縮んだ会社」を外からどう読むかを、台帳の数字とあわせて一般化してまとめます。
出典:【山梨】高原レタスのイズミ農園が破産 年商26億円から5700万円に激減、すかいらーくとの協業歴も 負債3.2億円(JC-NET・2026年10月8日)
報道で確認できる事実
報道に書かれている内容を、そのまま並べます。
- 会社:有限会社イズミ農園(山梨県北杜市)
- 法人番号:9090002014031
- 法人化:1989年
- 事業:レタス・キャベツなどの生産販売、農業資材の販売
- 売上:2001年3月期 約26億円 → 2026年3月期 約5,700万円
- 業績:5期連続の赤字
- 事業停止:2026年4月
- 破産開始決定:2026年9月29日、甲府地方裁判所(令和8年(フ)第246号)
- 負債:約3億2,000万円
- 取引の経歴:1990年代にすかいらーくと有機野菜の事業で協業、サラダクラブへの出荷実績
ここに書いていない数字(従業員数や資本金など)は、報道からは確認できませんでした。この記事でも推測では書きません。
「25年で売上が2%に」の順番から読めること
この会社の経緯で目を引くのは、売上の減り方の長さです。約26億円から約5,700万円までの間に、25年の時間があります。
急に止まる倒産と違い、長く縮んでいく会社は、外から見ると「ずっとある会社」に見えます。看板も畑も残っているので、取引先も応募者も変化に気づきにくい。報道にある「5期連続の赤字」も、決算を見られる立場でなければ外からは分かりません。
ここで大事なのは、売上の数字には必ず「いつの数字か」が付いていることです。会社案内やWebサイトに「年商◯億円」と書かれていても、それが何年度の数字なのかが書かれていないことは珍しくありません。決算の公告を出しているかどうかで読めることは、決算公告を出していない会社の記事にまとめました。
また、農産物は天候と相場で売上が大きく動く分野です。価格に転嫁しにくい業種の事情は価格転嫁ができない業種の記事で書いています。売上が減った=経営が悪い、と単純には言えない点は押さえておきたいところです。
しょくばログの台帳で見た同社の登記
しょくばログの台帳では、法人番号9090002014031は「有限会社イズミ農園」、所在地は山梨県北杜市、登記は閉鎖されていない(存続)状態で載っています。台帳上で同じ「イズミ農園」を社名に持つ法人は、この1社だけでした。
破産の開始決定が出ても、手続きが終わって登記が閉鎖されるまでは、法人番号のデータ上は存続のまま残ります。台帳に「閉鎖」と出ていないことは、会社が動いている証明にはなりません。破産・民事再生・特別清算の違いは倒産の種類を整理した記事、休眠や解散の見分け方は解散した会社・休眠会社の調べ方で説明しています。
社名に「農園」を持つ法人は5,062社、閉鎖率は9.3%
しょくばログの台帳(株式会社・有限会社・合名・合資・合同会社)で、社名に「農園」を含む法人を数えました。
- 全体:5,062社、うち登記が閉鎖されたもの473社(9.3%)
- 株式会社:2,750社、閉鎖181社(6.6%)
- 有限会社:1,674社、閉鎖250社(14.9%)
- 合同会社:513社、閉鎖33社(6.4%)
同じ5種類の法人全体の閉鎖率は13.5%なので、「農園」の社名を持つ法人の閉鎖率はそれより低い数字です。ただし、有限会社に限ると14.9%で、株式会社の2倍を超えています。
有限会社は2006年以降は新しく作れない形態なので、残っている有限会社はそれだけ業歴が長い会社です。業歴が長いほど閉鎖の機会も重なるため、この差は「有限会社だから危ない」という意味ではありません。有限会社の会社をどう見るかは有限会社に就職するときの見方に書きました。
閉鎖されていない「農園」法人の所在地は、北海道418社、熊本県185社、長野県175社、千葉県173社、沖縄県170社の順でした。
業種が「農業・林業」の法人は18,530社、山梨県は187社
社名ではなく、台帳で業種が「農業・林業」に分類されている法人も数えました(業種の分類が付いている法人に限った数字です)。
- 全国:18,530社、うち閉鎖2,002社(10.8%)
- 株式会社:8,768社、閉鎖804社(9.2%)
- 有限会社:7,920社、閉鎖1,088社(13.7%)
- 山梨県:187社、うち閉鎖24社。存続している法人のうち北杜市に所在するのは30社
ここでも、有限会社の閉鎖率が株式会社より高い傾向は同じでした。なお、登記の閉鎖日は休眠会社の一斉整理などでまとめて記録されることがあるため、この記事では年ごとの推移ではなく、現時点の比率だけを使っています。
取引先・応募者が確かめたい4つのこと
1. 売上や規模の数字に「何年度か」が書いてあるか
会社案内や求人に出ている売上・取引先の実績が、いつの時点のものかを確かめます。最盛期の数字だけが残っている場合、今の規模とは大きく違うことがあります。
2. 「大手と取引していた」は、いつの話かを分けて読む
大手企業との協業や出荷実績は信頼の材料になりますが、それが現在も続いているかは別の話です。取引先の確かめ方は取引先の調べ方で触れています。
3. 法人番号で照らし合わせる
ニュースの社名と、自分が見ている会社が同じかどうかは、名前ではなく法人番号と所在地で確かめるのが確実です。調べ方は法人番号の調べ方にまとめています。
4. 「老舗=安泰」「農業法人=地元に根付いている」と決めつけない
法人化から35年以上続いた会社でも、事業を続けられなくなることはあります。業歴の長さだけで判断しない見方は老舗と新興の見分け方に、農業の会社を調べるときの注意はコメ農家の撤退と農業法人の調べ方に書きました。
運営者として思うこと
会社データベースを作っていると、「会社の今」を示すデータがいかに少ないかを毎日感じます。登記は破産のあともしばらく存続のまま残り、売上の数字は何年も前のものが会社案内に載り続けます。
だからこそ、数字を見るときは「いつの数字か」「今も続いているか」の2点を必ず確かめてほしいと思います。急に倒れる会社より、長い時間をかけて縮んでいく会社のほうが、外からは気づきにくいからです。
よくある質問
イズミ農園は倒産したのですか?
報道によると、2026年9月29日に甲府地方裁判所から破産手続の開始決定を受けています。事業は2026年4月に停止していました。
負債はいくらですか?
報道では約3億2,000万円とされています。
しょくばログで見ると、もう閉鎖になっていますか?
2026年10月8日時点の台帳では、登記は閉鎖されていない状態です。破産手続が終わって登記が閉鎖されるまでは、データ上は存続として残ります。
農業の会社はほかの業種より閉じやすいのですか?
しょくばログの台帳では、社名に「農園」を持つ法人の閉鎖率は9.3%、業種が農業・林業の法人は10.8%で、法人全体の13.5%より低い数字でした。農業の会社だから特に閉じやすい、とは台帳の数字からは言えません。