✍ 古家あきら | 2026-10-06 更新
「人手不足」倒産が上半期で過去最多の240件、半数超の130件は「人件費高騰」──しょくばログDBで見ると、残業時間を公開している会社は建設業で4.7%、サービス業は0.6%
先に結論です。2026年度上半期(4〜9月)の「人手不足」倒産は240件で、年度上半期として過去最多になりました。 東京商工リサーチが10月5日に公表した数字で、前年同期より17.0%増えています。そのうち「人件費高騰」による倒産が130件で、前年同期の1.7倍、全体の54.1%を占めました。
人が採れずに潰れる会社より、雇っている人の給料を払いきれずに潰れる会社のほうが多い。この流れは、しょくばログでも夏から追いかけてきました。
今回はもう一歩進めて、働く人と応募する人の目線で数えました。倒産の6割を占めるサービス業と建設業について、残業時間などの職場の数字を自分で公開している会社がどれだけあるか。しょくばログという会社データベースを運営していると、「求人票だけでは会社の体力が分からない」という声をよく聞きます。その感覚が数字でどう見えるかを書きます。
出典:年度上半期の「人手不足」倒産 過去最多の240件 深刻な“賃上げ疲れ”、『賃上げ倒産』が1.7倍に増加(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年10月5日)
発表で確認できる事実
東京商工リサーチの発表から、数字をそのまま拾います。
- 2026年度上半期(4〜9月)の「人手不足」倒産は240件(前年同期比17.0%増)。年度上半期として過去最多
- 「人件費高騰」が130件(同75.6%増)。全体の54.1%で、半数を超えた
- 産業別ではサービス業他が91件(同21.3%増)、建設業が55件(同5.7%増)。この2産業で60.8%
- 資本金1千万円未満が159件(同33.6%増、構成比66.2%)
- 形態別では破産が229件(同23.7%増、構成比95.4%)
- 新型コロナ下の2021年度上半期の26件を底に、5年連続で増えている
この調査は、負債1,000万円以上の倒産のうち、「求人難」「従業員退職」「人件費高騰」に関わるものを数えています。後継者難による倒産は入っていません。
東京商工リサーチは、10月以降に最低賃金が引き上げられることから、物価高と人件費の上昇による「賃上げ疲れ」で倒産はさらに増えると見ています。なお、最低賃金の改定額と発効日は都道府県ごとに違います。お住まいの地域の金額は厚生労働省の地域別最低賃金の一覧で確かめてください。
暦年で見た上半期(1〜6月)は237件で、前年同期比37.7%増でした(出典:東京商工リサーチ・2026年7月3日)。期間をずらしても、半年で230件を超える水準が続いています。
しょくばログの台帳で数えると
職場の数字を出している会社は、全体で1.7%
しょくばログには、厚生労働省の「しょくばらぼ」に会社が自分で載せた職場情報(2026年6月10日版・14万6,479社)を取り込んであります。その中から、月平均の所定外労働時間、いわゆる残業時間を記入している会社を数えると2,562社でした。全体の1.7%です。
業種別に見ると、差がはっきり出ます。
- 建設業 … 20,216社のうち946社(4.7%)
- サービス業(他に分類されないもの) … 18,634社のうち121社(0.6%)
- 医療,福祉 … 21,517社のうち193社(0.9%)
- 宿泊業,飲食サービス業 … 5,837社のうち6社(0.1%)
建設業は、ほかの業種に比べると職場の数字を出す会社が多めです。一方で、今回の倒産でいちばん件数が多かったサービス業は、残業時間を出している会社が100社に1社もありません。外から職場の様子がほぼ見えない業種で、倒産が増えているということになります。
出している会社の中身は、業種でこう違う
残業時間を記入している会社に絞ると、月20時間以上と書いている会社は全体で6.8%でした。建設業は4.0%、サービス業(他に分類されないもの)は11.6%です。
有給休暇の取得率は、記入している2,602社の中央値が73.8%でした。建設業は188社で70.0%、サービス業(他に分類されないもの)は296社で75.0%です。
ただし、これは「数字を出してもよい」と考えた会社だけの集計です。サービス業の121社は母数として小さく、業種全体の姿とは言えません。この数字から言えるのは、サービス業では、職場の数字が求人を見る人の手元にほとんど届いていないということのほうです。
建設業の法人の閉鎖率は、全体とほぼ同じ
しょくばログの台帳で建設業に振り分けている法人は25万9,979社で、そのうち登記が閉鎖されているのは3万8,800社(14.9%)でした。業種を振り分けた法人全体の閉鎖率15.0%とほぼ同じです。建設業だけが特別に消えやすいわけではありません。人手不足倒産で建設業の件数が多いのは、もともと会社の数が多く、人の手に頼る仕事だからだと読むのが自然です。
働く人・応募する人が確かめておきたいこと
1. 「人件費高騰型」は求人票にサインが出にくい
求人難の会社は、同じ求人が何か月も出続けるので外から気づけます。その読み方は「人が辞めて潰れる会社」の見分け方に書きました。ところが人件費高騰型は、払えないので募集をやめる方向に動きます。求人が静かになることがかえって危ないサインになる理由は、人手不足倒産の主因が「払えない」に変わった話で詳しく書いています。
2. 数字が出ていないなら、面接で聞く
サービス業では、残業時間を公開している会社がほとんどありません。公開していないこと自体は悪いことではありませんが、応募する側は月の残業時間、有給の取りやすさ、直近の昇給の有無を面接で直接聞くのが確実です。業種ごとの勤続年数の目安は平均勤続年数は業種でどれだけ違うか、辞める人の多さは業種別の離職率にまとめています。
3. 最低賃金の改定のあと、給料が下限に張り付いていないか
10月から順次、最低賃金が上がります。時給の求人が新しい最低賃金ぎりぎりで止まったままの会社は、それ以上上げる余力がない可能性があります。逆に、改定前から余裕をもった金額を出している会社は、人件費の上昇を吸収できているとも読めます。
4. 取引先なら、支払いサイトの変化を見る
人件費の負担が重くなった会社は、仕入れ先への支払いを遅らせて資金をやりくりすることがあります。支払日の延長の相談や、急な前払いの要求が続いたら注意が必要です。取引先の見方は取引先の調べ方に、倒産した会社の登記の確かめ方は会社の実在と倒産の確かめ方に書きました。
5. 勤め先が倒産したら、未払いの給料は立替払制度を確かめる
会社が倒産して給料や退職金が払われないときは、国の未払賃金立替払制度で一部を受け取れる場合があります。条件や上限があるので、労働基準監督署に相談してください。
よくある質問
Q. 「人手不足」倒産と「人件費高騰」倒産は何が違うのですか。
東京商工リサーチは「人手不足」倒産を、求人難、従業員退職、人件費高騰の3つに分けて数えています。人件費高騰はその中の1つで、人はいるけれど賃上げや人件費の上昇に耐えられなくなった倒産です。今回の上半期は、この型が240件のうち130件を占めました。
Q. 資本金が1千万円未満の会社は危ないのですか。
今回の倒産の66.2%が資本金1千万円未満でしたが、もともと中小の会社は資本金1千万円未満が多く、それだけで危ないとは言えません。この点は8月の人手不足倒産を検証した記事で、建設業の資本金の実データを使って確かめました。
Q. 職場の数字を公開していない会社は避けたほうがいいですか。
避ける理由にはなりません。サービス業で残業時間を出している会社は0.6%しかなく、出していない会社のほうが普通です。公開されていないなら、面接や会社説明会で聞いて、その答え方を判断材料にしてください。
Q. 最低賃金が上がると、倒産はもっと増えるのですか。
東京商工リサーチは、10月以降の最低賃金の引き上げで「賃上げ疲れ」による倒産は増え続けると見ています。ただ、これは見通しで、確定した数字ではありません。下半期の実績は、今後の公表で確かめる必要があります。
まとめ
- 2026年度上半期の「人手不足」倒産は240件で過去最多。半数超の130件が「人件費高騰」
- 倒産の6割はサービス業と建設業。しょくばログの集計では、残業時間を公開している会社は建設業で4.7%、サービス業は0.6%
- 人件費高騰型は求人票にサインが出にくい。数字が見えないときは面接で直接聞く
- 10月からの最低賃金の改定のあと、給料の出し方に余力があるかを見る
この記事は特定の会社や業種を評価するものではありません。倒産の数字と台帳の数字を並べて、応募や取引の前に確かめておきたい点をまとめました。