✍ 古家あきら | 2026-09-11 更新

平均勤続年数は業種でどれだけ違うか — 電気・ガス17.6年から飲食9.6年まで、「短い=ブラック」と決めつけない読み方

先に結論です。平均勤続年数は、業種によって8年以上違います。 厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査(一般労働者・男女計)では、全産業の平均が12.7年なのに対し、電気・ガス・熱供給・水道業が17.6年で最も長く、サービス業(他に分類されないもの)が9.3年、宿泊業・飲食サービス業が9.6年で最も短い。つまり、求人票や会社概要で「平均勤続年数8年」と書いてあっても、飲食なら平均より長く、製造業(15.3年)なら平均よりかなり短い、という読み方をしないと意味が取れません。

ただ、業種の平均だけで判断すると、今度は別の間違いをします。しょくばログという全国の会社データベースを運営していて、厚生労働省の職場情報サイト「しょくばらぼ」の一括データ146,479社分を取り込んでいるのですが、そのうち男女別の平均継続勤務年数を載せている16,769社を業種と規模で切ってみると、同じ製造業でも100人以下の会社は中央値11.4年、1,001人以上は17.5年で、6年以上の差がありました。業種の差(最大8.3年)と、規模の差は同じくらい大きい。「業種の相場」と「会社の実力」は、両方の軸で見て初めて切り分けられます。

この記事では、①公的統計の業種別の実数、②うちのデータで見た業種×規模の実数、③その2つを使って「この会社の勤続年数は短いのか、業種のせいなのか」を判定する手順、の順に書きます。平均年齢の読み方は会社の平均年齢の目安、1社の離職率を推定する方法は会社の離職率を調べる方法に、業種別の1年間の離職率(雇用動向調査)は業種別の離職率ランキングに分けてあり、この記事は「業種の勤続年数の実数」を担当します。

業種別の平均勤続年数 — 公的統計の実数(令和7年)

厚生労働省の令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査の「産業別」の表から、一般労働者・男女計の平均勤続年数を長い順に並べます。

最長の17.6年と最短の9.3年の差は8.3年です。全産業の12.7年を境に、上に8業種・下に8業種がきれいに分かれます。同じ調査で性別に見ると、男性14.2年・女性10.4年で、こちらも3.8年の開きがあります。

この並びを見て気づくのは、上位が「設備と免許で動く業種」、下位が「人の数で動く業種」だということです。電気・ガス、製造、金融は装置産業か規制産業で、社員の入れ替えより設備と資格の維持が事業の中心にあります。一方で医療・福祉、宿泊・飲食、サービス業は、事業の規模がそのまま人の数で、人が入れ替わっても事業が回る構造をしています。勤続年数の長短は、その業種の「人を長く抱える必要があるかどうか」をかなり素直に映しています。

平均年齢が違えば勤続年数の上限も違う

もうひとつ、勤続年数の業種差を読むときに外せないのが平均年齢です。同じ調査の産業別の平均年齢は、情報通信業が40.2歳で最も低く、運輸業・郵便業が48.7歳で最も高い。平均年齢40歳の業種で、平均勤続20年はそもそも成立しにくいわけです(22歳から数えても18年しか働けません)。情報通信業の12.3年は「業界そのものが若いから短い」部分が大きく、これを「辞める業界」と読むのは早計です。会社の平均年齢の目安で書いた「平均年齢から勤続年数を引くと入社時年齢の目安が出る」という計算は、業種の比較でも使えます。

うちのデータで見る — 公表している16,769社の中央値

ここからはしょくばログのデータです。厚生労働省の「しょくばらぼ」には、会社が自分で入力した職場情報が載っていて、その一括CSV(2026年6月10日版・146,479社)をうちのデータベースに取り込んであります。項目のひとつに「男女の平均継続勤務年数の差異」があり、男性・女性それぞれの平均継続勤務年数が入っています。これを記入している会社は、男性が16,769社(146,479社の11.4%)、女性が16,757社でした。

賃金構造基本統計調査の数字が「労働者を集計した平均」なのに対し、こちらは「会社ごとの数字を並べた中央値」です。1社を見るときに比べる相手としては、こちらのほうが感覚に合います。

男性の分布を刻むと、5年未満が10.7%、5〜10年未満が22.2%、10〜15年未満が30.7%、15〜20年未満が26.2%、20年以上が10.2%です。「5年未満」は約9社に1社しかなく、公表している会社に限れば、10年を切るほうが少数派です。

業種別の中央値(男性・公表社ベース)

同じ16,769社を業種で切った、男性の平均継続勤務年数の中央値です。かっこ内は公表している会社数です。

公的統計と順位はほぼ同じで、電気・ガスと製造・金融が上、医療・福祉と宿泊・飲食が下です。上位と下位の差は7〜8年で、こちらでも業種差は再現されました。ずれているのは学術研究・専門技術サービス業で、公的統計では12.1年と真ん中なのに、うちの集計では9.9年と下位です。この業種は公表社の58%(583社中337社)が100人以下の小さな事務所で、次に書く「規模の効き方」が強く出た結果だと見ています。

業種の差と同じくらい、規模の差が大きい

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。16,769社を会社の規模(しょくばらぼに記入された企業規模の人数)で4つに分けると、男性の平均継続勤務年数の中央値はこうなります。

100人以下と1,001人以上の差は7.4年で、業種の最長と最短の差(8.3年)とほとんど同じです。業種を見ずに規模だけで比べても、同じくらい外れるということです。

さらに業種の中で規模別に切ると、業種の「相場」がどれだけ規模で動くかが見えます。男性の中央値、左から100人以下/101〜300人/301〜1,000人/1,001人以上です。

読みどころが3つあります。

1つ目。情報通信業の100人以下は5.2年で、業種の中央値10.3年の半分しかありません。「IT企業の平均勤続5年」は、100人以下ならその業種・規模の真ん中です。これを「短い」と言うなら、比べる相手は同じ規模のIT企業でなければなりません。

2つ目。製造業は規模が大きいほど一直線に長くなる(11.4→15.0→16.2→17.5年)のに対し、医療・福祉は301人を超えると逆に短くなる(10.0→9.8→8.5年)。大きな法人ほど施設数が多く、有期や短時間の職員を正社員に含める運用も混ざるためだと推測していますが、これは推測です。事実として言えるのは、医療・福祉では「大きい法人=長く勤める」が成り立っていないことだけです。

3つ目。サービス業(他に分類されないもの)は、101人を超えると規模を大きくしても伸びません(10.6→10.7→10.8年)。この業種は人材派遣・警備・ビルメンテナンスなどを含み、事業の構造として人が入れ替わる前提で回っています。ここで「10年」は業種の天井に近く、短いとは言えません。

なお、同じ業種・同じ規模の中でも幅は大きく、たとえば製造業の公表社の真ん中の半分は12.7年〜18.6年、情報通信業は5.8年〜15.2年に散らばります。中央値はあくまで「真ん中」で、会社ごとの差はこの幅の中に収まる、という読み方をしてください。

勤続年数が短い会社を見たときの判定手順

ここまでの数字を、実際に1社を見るときの手順に落とします。求人票や会社概要、しょくばらぼの会社ページに平均勤続年数が書いてあったら、上から順に確かめます。

1. 業種と規模を確定する

まず、その会社の業種と従業員数を押さえます。業種は会社の業種を調べる方法、従業員数は会社の従業員数を無料で調べる方法の手順で確認できます。しょくばログの会社ページには、国税庁の法人番号データにもとづく所在地と、gBizINFO・しょくばらぼから取り込んだ従業員数や業種を載せています。求人票の「業種」は会社が自称したもので、実際の事業と違うことがあるので、日本標準産業分類のどこに当たるかまで見ておくと、上の表と突き合わせられます。

2. 同じ業種×同じ規模の中央値と比べる

上の業種×規模の一覧で、該当する枠の中央値を見ます。たとえば「情報通信業・80人・平均勤続6年」なら、同じ枠の中央値は5.2年で、むしろ長い。「製造業・500人・平均勤続9年」なら、同じ枠の中央値は16.2年で、真ん中の半分(12.7〜18.6年)を大きく下回る。こちらは業種でも規模でも説明できない短さなので、次の確認に進みます。

3. 「短い理由」が会社の若さで説明できるか

平均勤続年数の上限は、会社の年齢で決まります。設立10年の会社に平均勤続15年はあり得ません。設立年は登記から分かり、調べ方は会社の設立年を調べる方法にまとめてあります。設立からの年数 ÷ 2 を超えていれば、その会社としてはかなり長いというのがひとつの目安です(社員が創業時から均等に入っていれば、平均勤続は設立年数の半分程度になるからです)。逆に、設立30年で平均勤続5年なら、会社の若さでは説明がつきません。

4. 新卒の3年以内離職と見比べる

しょくばらぼには「新卒者の採用・定着状況」として、直近3年度の新卒採用者数と離職者数を載せる欄があります。両方を記入している1,812社について、3年度分を合算して業種ごとに離職の割合を出しました。

勤続年数が短い業種は新卒の離職も多い、という並びになっていますが、上位と下位の差は7ポイント弱で、勤続年数ほど業種差は大きくありません。平均勤続年数が業種・規模の相場より短く、かつ新卒3年離職が業種の相場より高い、と2つ揃って初めて「会社の問題」と言えます。片方だけなら、まだ業種や規模のせいである可能性が残ります。

5. それでも説明がつかなければ、残業と有給を見る

業種でも規模でも設立年でも説明がつかない短さは、働き方に原因があることが多い。残業時間と有給消化率の外からの調べ方は応募先の残業時間・有給消化率を外から調べる方法に、求人票の書き方から危険信号を拾う方法はブラック企業の見分け方にまとめています。面接前に一通り確認するなら面接前にやる会社研究チェックリストの順で見ると抜けがありません。

平均勤続年数を「載せている会社」には偏りがある

最後に、うちの数字の限界を書いておきます。しょくばらぼに男女別の平均継続勤務年数を載せている会社は、100人以下では3.3%、1,001人以上では58.8%と、規模で18倍の開きがあります。これは女性活躍推進法の情報公表で「男女の平均継続勤務年数の差異」が公表項目のひとつになっていて、公表義務のある大きな会社ほど記入しているためです。小さな会社の数字は「自分から載せた会社」に限られるので、実態より長めに出ている可能性があります。100人以下の中央値8.0年は、公表していない会社を含めればもっと短いかもしれない、という含みで読んでください。

もうひとつ、この項目は「男女の差異」を公表するための欄なので、正社員に限った数字とは限りません。会社によって雇用管理区分(正社員/有期など)の取り方が違い、しょくばらぼには「正社員の平均継続勤務年数」という別の欄もあります(記入は2,560社と少なく、この記事では男女別の欄を使いました)。同じ会社でも欄によって数字が違うことがあるので、求人票の数字がどちらを指しているかは、できれば会社に聞いてください。

よくある質問

平均勤続年数は何年あれば「普通」ですか?

業種と規模を決めないと答えられません。 全産業の平均は12.7年(令和7年賃金構造基本統計調査・一般労働者)ですが、電気・ガスなら17.6年、宿泊・飲食なら9.6年が業種の平均です。しょくばらぼ公表社の中央値でも、100人以下の会社は8.0年、1,001人以上は15.4年と7年以上違います。「情報通信業・100人以下」の中央値は5.2年なので、この枠で5年なら普通です。上の業種×規模の一覧で該当する枠を見てください。

平均勤続年数が短い業種は、すべて働きにくい業種ですか?

そうとは言えません。 勤続年数が短い業種には、①平均年齢が低い(情報通信業40.2歳)、②人の数で回る事業構造(宿泊・飲食、サービス業)、③小さな事業所が多い(学術研究・専門技術サービス業は公表社の58%が100人以下)、という勤続年数を下げる要因があり、働きにくさとは別のものです。業種の平均より短いかどうか、規模の相場より短いかどうか、新卒3年離職が業種の相場より高いかどうかを揃えて見て、初めて会社の問題と言えます。

男性と女性で平均勤続年数はどれくらい違いますか?

公的統計では男性14.2年・女性10.4年(令和7年賃金構造基本統計調査)で3.8年の差です。しょくばらぼで両方を載せている16,679社では、男性のほうが長い会社が72.6%、女性のほうが長い会社が24.0%で、差の中央値は2.0年でした。差が大きい会社は、育児期の離職が多いか、女性の採用が最近増えたか、のどちらかであることが多く、会社の育休取得率・女性管理職比率を調べる方法で見られる女性管理職比率と合わせて読むと区別がつきます。

平均勤続年数が載っていない会社は、どう判断すればいいですか?

載せていないのが普通です。しょくばらぼ全体で載せているのは11.4%、100人以下では3.3%しかありません。載っていないこと自体は悪い兆候ではありません。代わりに、設立年(勤続の上限が分かる)、求人の再掲載頻度(会社の求人が突然消える理由)、社員数の推移(社員数が少ない会社は避けるべきか)から定着の様子を推定する、という順番になります。1社の離職率を推定する手順は会社の離職率を調べる方法にまとめてあります。

医療・福祉は大きな法人ほど勤続年数が短いのはなぜですか?

うちの集計では、医療・福祉の男性の平均継続勤務年数の中央値は101〜300人で10.0年、301〜1,000人で9.8年、1,001人以上で8.5年と、規模が大きいほど短くなっています。製造業や建設業とは逆の動きです。理由は集計からは特定できません。大きな法人は施設数が多く事業所の開設が続いているため新しい職員の比率が高い、雇用管理区分の取り方が法人ごとに違う、といった要因が考えられますが、いずれも推測です。事実として言えるのは、医療・福祉では規模を「定着の良さ」の代わりに使えないということです。

この記事の数字について

産業別・全産業・性別の平均勤続年数(一般労働者。全産業12.7年、男14.2年、女10.4年。電気・ガス・熱供給・水道業17.6年、複合サービス事業16.8年、製造業15.3年、金融業・保険業14.6年、卸売業・小売業14.5年、鉱業・採石業・砂利採取業13.9年、建設業13.7年、運輸業・郵便業12.9年、情報通信業12.3年、学術研究・専門技術サービス業12.1年、教育・学習支援業11.7年、不動産業・物品賃貸業10.7年、生活関連サービス業・娯楽業10.6年、医療・福祉9.9年、宿泊業・飲食サービス業9.6年、サービス業(他に分類されないもの)9.3年)と、産業別の平均年齢(情報通信業40.2歳、運輸業・郵便業48.7歳)は、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」の「産業別」(第5-1表)および「性別」の表によります。

しょくばらぼ掲載社の集計(男女別の平均継続勤務年数の記載社数16,769社・16,757社、中央値と四分位、分布、業種別・規模別・業種×規模別の中央値、男女差の分布、新卒者の採用・定着状況を記入した1,812社の3年度合算の離職割合)は、厚生労働省「職場情報総合サイト しょくばらぼ」の一括ダウンロードCSV(公的オープンデータ・2026年6月10日版)146,479社分を、しょくばログのデータベース上で2026年9月11日に独自に集計したものです。厚生労働省が公表している統計ではありません。 集計は「男女の平均継続勤務年数の差異」欄の男性・女性の値(70年以上の異常値は除外)を使い、規模はしょくばらぼの企業規模欄の人数で4区分にしました。掲載するかどうかは会社の任意で、公表義務のある大きな会社ほど記入しているため、掲載社の集計には「自発的に公表した会社」に偏るバイアスがあります。 業種の順位や差の大きさは、公的統計と照らして大きく食い違っていないことを確認していますが、個々の数値は「公表している会社の中での真ん中」として読んでください。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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