✍ 古家あきら | 2026-10-11 更新
一人親方とは・会社との違い — 法人番号を持たない働き方。建設業許可を持つ個人は全国65,733、建設会社のサイトで一人親方に触れるのは1.09%
先に結論です。一人親方とは、人を雇わずに自分ひとりで(または家族と)工事を請け負う職人のことで、ほとんどは個人事業主です。 会社(法人)ではないので、国税庁の法人番号は付きません。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「取引先の親方の名前で検索しても出てこない」という声をときどきもらいます。理由は単純で、うちのデータの土台は国税庁の法人番号の台帳なので、法人ではない一人親方はそもそも台帳にいないからです。データの漏れではなく、仕組みとしてそうなっています。
この記事では、一人親方と会社の違いを制度の面から整理し、取引先として一人親方を確認したいときに、会社データベースの代わりに何を見ればいいかをまとめます。数字はすべて、条文・国の統計・うちのデータのどれから来たかを書いています。
一人親方とは:法律上の定義はなく、労災保険の「人を使わない事業主」がいちばん近い
「一人親方」という言葉は、実は法律の用語ではありません。いちばん近い書き方をしているのが労災保険の条文です。
労働者災害補償保険法33条3号は、特別加入の対象として「厚生労働省令で定める種類の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者」を挙げています。そして同法施行規則46条の17の2号が、その事業の一つに「土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業」を定めています(いずれもe-Gov法令検索で確認)。
つまり、現場でいう一人親方は、ざっくり言えば次の3つがそろった人です。
- 人を雇っていない(労働者を使わないのがふだんの状態)
- 建設の仕事を自分で請け負っている(雇われて働く職人とは違う)
- 多くは個人事業主(法人にしていない)
ちなみに同じ46条の17には、建設のほかに運送、林業、漁業なども並んでいます。軽貨物の個人ドライバーが労災の特別加入をするのも同じ仕組みです。ただ、「一人親方」と呼ぶのはほぼ建設業の世界です。
会社との違い:法人番号・登記・労災・許可の4点で比べる
一人親方と会社(株式会社や合同会社など)の違いは、外から確認できるかどうかに直結します。4つの点で比べます。
法人番号が付かない
法人番号は、番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)39条で、国税庁長官が「法人等」に指定するものです。対象は国の機関、地方公共団体、設立の登記をした法人、それに一定の届出をする法人格のない社団などです。個人事業主は入っていません。
個人事業主にはマイナンバー(個人番号)がありますが、これは公表されません。法人番号のように誰でも検索できる番号は、一人親方には存在しないということです。
登記簿がない
会社は設立の登記をするので、法務局で登記事項証明書を取れば、商号・本店・代表者・資本金などが分かります。一人親方は個人なので、事業についての登記はありません。屋号を名乗っていても、それは登記された名前ではありません。
労災保険は「特別加入」で入る
会社に雇われている職人は、会社の労災保険で守られます。一人親方は雇われていないので、そのままでは労災保険の対象になりません。そこで、前述の33条3号にもとづく特別加入という仕組みで、本人が任意で加入します。加入は、一人親方の団体(特別加入団体)を通して行う形です。
建設業許可は個人でも取れるが、取らない人が多い
建設業許可は、会社でなくても個人で取れます。ただし、小さな工事だけなら許可は要りません。建設業法施行令1条の2は、許可の要らない「軽微な建設工事」を、1件の請負代金が500万円未満の工事(建築一式工事なら1,500万円未満、または延べ150平方メートル未満の木造住宅)と定めています。
一人親方が請ける仕事の多くは、元請けや下請けから出る小さな工事です。許可を持たずに働いている一人親方が多いのは、この線があるためです。
国の統計で見る:建設業許可を持つ「個人」は65,733業者、25年で6割近く減った
国土交通省の「建設業許可業者数調査」(2026年3月末時点の結果)によると、許可業者は全国で483,823業者です。そのうち個人は65,733業者で、全体の13.6%でした(調査結果の詳細版、表-5 資本金階層別業者数及び構成比の推移)。
推移を見ると、減り方がはっきりしています。
- 2000年3月末(許可業者数がいちばん多かった時点)… 個人158,227業者(全体の26.3%)
- 2025年3月末 … 個人67,277業者(13.9%)
- 2026年3月末 … 個人65,733業者(13.6%)。前年から2.3%減
国交省の資料でも、ピーク時との比較で「個人:▲92,494業者(▲58.5%)」と、資本金階層の中でいちばん大きな減り方として挙げられています。
ここで注意したいのは、「許可を持つ個人=一人親方」ではないことです。許可を持つ個人事業主には、人を雇っている工務店の親方もいます。逆に、500万円未満の工事しか請けない一人親方の多くは、この統計には出てきません。この数字は「一人親方の数」ではなく、「会社にせず個人のまま許可を取っている建設業者の数」として読んでください。
一人親方の人数に近いものとしては、建設業振興基金が公表している建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録数があります。2026年7月31日時点の事業者登録は累計315,210、一人親方を除くと205,479なので、差し引きで一人親方として登録している事業者は109,731になります(同基金「建設キャリアアップシステムの運営状況について」2026年8月18日。差し引きはうちで計算)。これも登録した人だけの数で、一人親方の総数ではありません。登録の仕組みは建設キャリアアップシステムの事業者登録とはにまとめています。
うちのデータで見る:法人の台帳に一人親方がいない、ということの具体
ここからは、しょくばログのデータで数えた結果です。
建設業許可のオープンデータは、3分の1が法人番号にひもづかない
うちでは31都府県の建設業許可のオープンデータを取り込み、法人番号の台帳と照合しています。読み込んだ許可の行は350,450行、そのうち法人番号にひもづいたのは238,002行でした。残りの112,448行(32.1%)は、どの法人とも結びつきませんでした。
この3分の1の中には、個人で許可を取っている事業者が入っています。法人ではないので、ひもづける先の法人番号がそもそもないからです。ただし、社名の表記ゆれなどで照合に失敗した法人も混じっているので、112,448がそのまま個人の数というわけではありません。それでも、国の統計で個人が13.6%いることを考えると、「法人の台帳から見えない建設業者」がかなりの割合でいることは確かです。
名前に「一人親方」が入った法人番号は15件。会社は2件だけ
法人番号の台帳で、名称に「一人親方」「ひとり親方」を含むものを数えると、活動中は15件でした。内訳は、株式会社が2件、一般社団法人などの「その他の設立登記法人」が7件、国税庁の区分で「その他」に入るものが6件です。
一人親方本人には法人番号が付きませんが、一人親方が集まる団体のほうには、法人番号が付いていることがあるということです。労災の特別加入は団体を通して入るので、こうした団体が各地にあります。ただ、名前だけではその団体が特別加入団体として承認されているかは分からないので、確かめるなら団体に直接問い合わせるのが確実です。
建設会社のサイトで「一人親方」に触れているのは1.09%
うちが本文を取得できた会社の公式サイト31,159社のうち、「一人親方」(「ひとり親方」「1人親方」を含む)という言葉が出てくるのは83社(0.27%)でした。業種を建設業に絞ると、3,593社のうち39社、1.09%です。
その83社のサイトで、一人親方の近くに何が書かれているかも数えました(1社で複数に当たることがあります)。
- 「社会保険」に触れている … 52社(62.7%)
- 「協力業者」「協力会社」「外注先」に触れている … 34社(41.0%)
- 一人親方を「募集」「歓迎」している文 … 21社(25.3%)
- 労災の「特別加入」に触れている … 16社(19.3%)
- 「独立支援」などに触れている … 8社(9.6%)
建設会社が一人親方に触れる場面は、主に「協力業者の募集」と「社会保険・労災の加入の確認」です。元請けの側から見ると、一人親方は社員として採る相手ではなく、外注先として付き合う相手だということが、サイトの書き方にも表れています。
建設会社の求人に「一人親方」はほぼ出てこない
それを裏づけるのが求人のデータです。うちが会社の採用ページから集めた求人のうち、建設業の会社898社の求人2,503件を見ると、雇用形態や職種名に「一人親方」が入っているのは2件、「業務委託」も2件だけでした(いずれも0.08%)。正社員を含むものは1,603件です。
一人親方の仕事は、求人票ではなく、協力業者の募集や人づての紹介で回っていることが多いと考えられます。会社の採用ページを見て一人親方の仕事を探しても、ほとんど見つからないのはこのためです。
取引先として一人親方を確認するには:会社データベースの代わりに見るもの
一人親方に仕事を頼む側、あるいは一人親方として取引を始める側が、相手を確かめたいときに使えるものを並べます。法人番号で引けない以上、確認の手段は会社のときとまったく違います。
1. 建設業許可を持っているかを、国交省の検索で見る
許可を持っている一人親方なら、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で、個人名や商号から許可の有無・業種・有効期間を確認できます。法人番号は使いません。許可の調べ方の全体は会社の許認可を調べる方法に書いています。
ただし、前述のとおり500万円未満の工事しか請けない一人親方は、許可がなくて当然です。許可が出てこない=怪しい、ではありません。
2. インボイスの登録番号を聞く
インボイス(適格請求書)の発行事業者として登録していれば、個人事業主でも「T+13桁」の登録番号があります。個人の場合、この13桁は法人番号ではなく、個人ごとに振られた番号です。国税庁の公表サイトで登録番号から氏名(本人が申し出ていれば屋号も)を確認できます。番号から相手を引く方法はインボイスの登録番号から会社名を逆引きする方法、個人か法人かの見分け方は取引先が個人事業主か法人かを見分ける方法にまとめています。
登録していない一人親方も普通にいます。登録しているかどうかで、請求書の扱い(仕入税額控除)が変わる点だけ押さえておけば十分です。
3. 労災の特別加入をしているかを確かめる
現場に入ってもらうなら、ここがいちばん大事です。一人親方は会社の労災では守られないので、特別加入しているかどうかで、けがをしたときの扱いが大きく変わります。加入していれば団体から加入者証などが出ているので、その写しを見せてもらうのが一般的です。
4. CCUSに登録しているかを見る
建設キャリアアップシステムに登録していれば、事業者IDと技能者IDがあります。現場の入退場の記録にも使われるので、元請けから登録を求められることが増えています。
5. 本人確認と、契約書を残す
法人番号も登記もない以上、最後は本人確認と書面です。氏名・住所・連絡先を確認し、仕事の範囲・金額・支払日を書いた契約書や注文書を残しておくことが、あとで揉めたときのいちばんの守りになります。なお、人を雇っていない個人に業務を委託する取引には、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法も関わってきます。取引条件を書面などで示す義務があるので、発注する側は内容を確認しておいてください。
新規の取引先が会社だった場合の確認項目は、新規取引先の確認事項に7項目でまとめています。一人親方の場合は、このうち法人番号・登記・閉鎖の確認が使えず、代わりに上の5つが中心になる、と考えると整理しやすいです。
一人親方が会社(法人)にすると、何が変わるか
一人親方が株式会社や合同会社をつくる(いわゆる法人成り)と、外からの見え方はがらりと変わります。
- 法人番号が付き、国税庁のサイトや会社データベースで誰でも検索できるようになる
- 登記簿が作られ、商号・本店・代表者・資本金を誰でも取れるようになる
- 社長本人は、原則として会社の社会保険(健康保険・厚生年金)に入ることになる
- 労災は、社長本人については引き続き特別加入の対象になりうる(中小事業主の特別加入という別枠)
取引先からすると、法人になった親方は「調べられる相手」になります。一方で、法人にすべきかどうかは、売上や税金、社会保険料の負担で人によって答えが変わります。ここではその是非には踏み込みません。法人の種類ごとの違いは法人の種類一覧、法人番号の基本は法人番号とはで確認できます。
よくある質問
一人親方と個人事業主は同じものですか?
ほぼ重なりますが、同じではありません。個人事業主は「法人にせず個人で商売をしている人」全般のことで、業種を問いません。一人親方はそのうち、主に建設業で、人を雇わずに自分で仕事を請けている人を指す現場の言葉です。法律上の定義はなく、労災保険法33条3号の「労働者を使用しないで行うことを常態とする者」がいちばん近い書き方です。
一人親方を会社データベースで検索しても出てこないのはなぜですか?
法人番号が付いていないからです。しょくばログを含め、多くの会社データベースは国税庁の法人番号の台帳を土台にしています。番号法39条で法人番号が指定されるのは法人や一定の団体で、個人事業主は対象外です。一人親方が出てこないのは正常で、確認するときは建設業許可の検索やインボイスの登録番号など、個人でも使える手段を使います。法人番号がない団体全般については法人番号がない会社・団体にまとめています。
一人親方に建設業許可は必要ですか?
1件の請負代金が500万円未満(建築一式工事なら1,500万円未満、または延べ150平方メートル未満の木造住宅)の工事だけなら、許可は要りません(建設業法施行令1条の2)。これを超える工事を請けるなら、一人親方でも許可が必要です。個人で許可を持つ建設業者は、2026年3月末時点で全国に65,733業者います(国土交通省「建設業許可業者数調査」)。
一人親方の数は全国で何人ですか?
一人親方だけを数えた公式の統計は見当たりませんでした。近い数字として、建設業許可を持つ個人が65,733業者(国交省、2026年3月末)、CCUSに一人親方として登録している事業者が109,731(建設業振興基金の公表値から差し引きで計算、2026年7月末)があります。前者には人を雇う個人事業主も入り、後者は登録した人だけなので、どちらも総数ではありません。
一人親方の団体に法人番号があるのはなぜですか?
一般社団法人などとして設立登記をした団体や、一定の届出をする法人格のない団体には、番号法39条で法人番号が付くからです。うちの台帳では、名称に「一人親方」を含む活動中の法人番号が15件あり、うち13件は一般社団法人などの団体でした。一人親方本人には番号がなくても、本人が入っている団体は法人番号で引けることがあります。
まとめ
- 一人親方は、人を雇わずに建設の仕事を請け負う人で、多くは個人事業主。法律上の定義はなく、労災保険法33条3号がいちばん近い
- 会社ではないので、法人番号も登記もない。法人番号を土台にした会社データベースに出てこないのは正常
- 建設業許可を持つ個人は全国65,733業者(13.6%)。2000年の158,227業者から58.5%減った。ただし500万円未満の工事なら許可は要らず、許可のない一人親方も多い
- うちのデータでは、許可のオープンデータの32.1%が法人番号にひもづかず、建設会社のサイトで一人親方に触れるのは1.09%、求人に出てくるのは0.08%
- 確認するなら、建設業許可の検索・インボイスの登録番号・労災の特別加入・CCUS・契約書の5つ
しょくばログでは、全国約579万の法人について、法人番号・所在地・法人種別といった登記由来の情報を無料で公開しています。一人親方本人は載っていませんが、元請けの建設会社や、一人親方が入っている団体を調べるときに使ってください。