✍ 古家あきら | 2026-10-11 更新

ベンチャー企業の見分け方 — 「スタートアップ」に法律上の定義はない。会社サイト31,159社で自称は0.45%、設立年が分かる会社の中央値は18年

先に結論です。「ベンチャー企業」「スタートアップ」には、法律で決まった一つの定義はありません。 会社が自分でそう名乗っているかどうかは、見分ける材料になりません。見るべきは、設立からの年数・資本金の書き方・株主・資金調達の事実の4つです。

しょくばログという会社データベースを運営していると、「ベンチャーって書いてあったけど、入ってみたら普通の中小企業だった」という声をときどき聞きます。会社が悪いわけではありません。言葉の定義がないので、創業30年の会社が「ベンチャー精神」の意味で名乗っても、誰も止めないのです。

うちが集めている会社サイトのテキストで数えてみると、この「名乗り」と「実態」のずれははっきり出ました。数字はあとで詳しく書きますが、自分をベンチャー・スタートアップと書いている会社のうち、設立年が分かる会社の半分は設立から18年以上たっていました。

この記事では、まず定義がないことを条文で確かめ、そのうえで会社の外から確かめられる見分け方を順に書きます。転職して大丈夫かどうかの判断は、設立したばかりの会社に転職して大丈夫かで別にまとめているので、ここでは「見分ける」ところまでに絞ります。

「スタートアップ」に法律上の定義はない:制度ごとに線が違う

法律の中で「中小企業」ははっきり定義されています。中小企業基本法2条1項が、業種ごとに資本金と従業員数で線を引いています(製造業などは資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下)。詳しくは中小企業の定義にまとめています。

一方、「ベンチャー」「スタートアップ」という言葉を、一般的に定義した条文はありません。代わりにあるのは、税金の優遇などの制度ごとに「この条件を満たす会社」と書いた条文です。たとえば租税特別措置法では、次のように線の引き方が違います。

同じ「若い会社を応援する」制度でも、10年で線を引くものもあれば、1年未満で線を引くものもあります。つまり「設立何年までがスタートアップ」という答えは、どの制度の話かによって変わります。よく「設立10年以内」と言われるのは、こうした制度の線や世間の使い方から来た目安で、法律上の決まりではありません。

ベンチャーとスタートアップの違いも、決まってはいない

言葉の違いもよく聞かれますが、これも決まった区別はありません。一般には「スタートアップ」は新しい事業で短期間に大きく伸びることを狙い、外部から出資を受ける会社を指すことが多く、「ベンチャー」はもう少し広く、新しい事業に挑む若い会社全般に使われます。ただ、会社が自分をどちらで呼ぶかは自由で、使い分けに意味を読み込みすぎないほうが安全です。

うちのデータで見る:「ベンチャー」を名乗る会社と、その中身

ここからは、しょくばログが保存している会社サイトのテキスト(文字化けを除いて読めた31,159社分)で数えた結果です。個別の会社名は出しません。

自分をベンチャー・スタートアップと書いている会社は141社(0.45%)

「当社は〜ベンチャー企業です」「〜のスタートアップ企業です」「ベンチャーとして」のように、自社をベンチャー・スタートアップと書いている会社は141社、全体の0.45%でした。

数えるときは、「ジョイントベンチャー(合弁会社)として設立」「社内ベンチャー制度」「ベンチャー投資」「スタートアップ支援」のような、自社の性格ではない使い方を外しています。外す前は159社でした。目で確かめたサンプルでは、合弁会社や投資会社の説明が混ざっていたためです。

なお、サイトのどこかに「ベンチャー」「スタートアップ」という言葉が出てくる会社まで広げると1,355社(4.3%)あります。取引先の紹介や支援事業の説明で出てくることも多く、言葉が出てくるだけでは何も分かりません。

名乗っている会社の設立年数の中央値は18年

141社のうち、gBizINFO(経済産業省の法人情報サイト)由来の設立年月日がうちのデータでひもづいたのは31社です。この31社の設立からの年数を数えると、次のようになりました。

設立年が分かる会社全体(6,223社)の中央値は52年なので、名乗っている会社が全体より若いのは確かです。それでも、「設立10年以内」という世間の目安に入るのは3割弱で、4割近くは設立20年を超えていました。31社という少ない数なので割合は目安として見てほしいのですが、「ベンチャーと書いてある=若い会社」とは言えないことは分かります。

従業員数(gBizINFO由来)の中央値は、名乗っている141社が30人、会社サイトを持つ会社全体(31,130社)が87人でした。規模は小さめに寄っています。

資金調達を書いている会社は4社に1社

名乗っている141社のうち、サイトに「資金調達」「第三者割当増資」「シリーズA」「ベンチャーキャピタル」などの言葉がある会社は34社(24.1%)でした。「資本金(資本準備金を含む)」のような書き方をしている会社は8社(5.7%)、ストックオプションに触れている会社は6社(4.3%)です。

逆に言えば、ベンチャーを名乗っていても、外部から出資を受けたことをサイトに書いていない会社が4社に3社あります。自己資金や融資で堅実に伸びている会社も含まれるので、それ自体は悪いことではありません。ただ、「VCから出資を受けて急成長を狙うスタートアップ」をイメージして応募するなら、ここは確かめておきたいところです。

集計に使ったスクリプトは `scripts/analyze_venture_hp_cache.py` です。会社サイトは2026年6月に取得したテキストで、サイトを持たない会社や、うちが取得できなかったサイトは入っていません。

ベンチャー・スタートアップの見分け方:外から確かめる4つのこと

名乗りが当てにならないなら、何を見ればいいか。会社の外から、無料で確かめられる順に並べます。

1. 設立年月日を確かめる(創業年と混ぜない)

まずは設立からの年数です。登記の設立年月日は、登記簿や会社の概要ページで確かめられます。注意したいのは、会社サイトの「創業」と「設立」は別のものだという点です。個人事業で始めた年を「創業」、会社にした年を「設立」と書く会社が多く、どちらを見るかで年数が大きく変わります。調べ方は会社の設立年の調べ方に、業種ごとの「若い・老舗」の感覚は設立年から見る老舗・中堅・新興の目安にまとめています。

もう一つ、組織再編で新しい会社をつくり直した場合は、事業は古くても設立年月日は新しくなります。設立が新しい=事業が新しい、とも限りません。

2. 資本金の「書き方」を見る

外部から出資を受けた会社には、資本金の書き方に特徴が出ることがあります。

会社法445条は、株主が払い込んだお金は原則として資本金に入れるとしつつ、2項・3項で「その2分の1を超えない額」は資本金にせず資本準備金にできると定めています。出資を受けた会社がこの仕組みを使うと、払い込まれた額の半分ほどが資本準備金に回ります。そのため「資本金○円(資本準備金を含む)」と、資本準備金と合わせた額を書く会社があります。うちのデータでも、ベンチャーを名乗る会社の5.7%がこの書き方でした。

また、資本金が1億円を超えると、法人税の軽減税率(法人税法66条)など中小法人向けの扱いから外れます。出資を受けて大きなお金が入っても、資本金を1億円以下に抑える会社があるのはこのためです。資本金の額だけで会社の大きさや勢いを測るのは危ない、ということは資本金10億円でも倒産するでも書きました。資本金そのものの調べ方は会社の資本金を無料で調べる方法にあります。

3. 株主に出資会社がいるかを見る

外部から出資を受けたかどうかを、いちばん直接に示すのは株主です。上場していない会社の株主は、原則として外からは見えませんが、プレスリリースで「〇〇を引受先とする第三者割当増資」と出していたり、出資したベンチャーキャピタルの側が投資先一覧を公開していたりします。非上場会社の株主を外から探す方法は非上場会社の株主の調べ方にまとめています。

4. 資金調達の「事実」と、その日付を見る

「資金調達を実施」と書いてあったら、いつ・いくら・誰からの3点が書かれているかを見ます。日付が古いまま次の調達の話がない場合は、その後どうなったかを決算公告やニュースで追ったほうがいいでしょう。うちのデータでは、資金調達に触れている会社サイトは全体で632社(2.0%)ありましたが、取引先の資金調達を手伝う事業の説明なども混ざっています。自社の調達かどうかは、文脈で読む必要があります。

上場すれば、こうした数字は有価証券報告書でまとめて外に出ます。上場した日に初めて見える数字と、それまで見えていた範囲の違いはKOMPEITOの上場を例にした記事に書いています。

「ベンチャー」と書いてある会社を見るときの心構え

ここまでの数字を、応募や取引の場面に引き寄せて言い直すと、次の2つです。

ひとつは、「ベンチャー」は会社の分類ではなく、会社の自己紹介だということです。創業時の気持ちを大事にしている老舗も、本当に設立1年目の会社も、同じ言葉を使えます。言葉に期待するイメージ(若い、伸びている、裁量が大きい、給料は低め、など)が、その会社に当てはまるかは別に確かめる必要があります。

もうひとつは、見分ける材料はほとんど公開されているということです。設立年月日・資本金・プレスリリース・決算公告は、どれも無料で見られます。働き方の実態が気になるなら、会社の離職率を調べる方法も合わせて見てください。

よくある質問

ベンチャー企業とスタートアップの違いは何ですか?

法律で決まった違いはありません。一般には、スタートアップは新しい事業で短期間に大きく伸びることを狙い、外部からの出資を受ける会社を指すことが多く、ベンチャーは新しい事業に挑む会社全般に広く使われます。会社がどちらを名乗るかは自由なので、言葉より設立年や資金調達の事実を見るほうが確かです。

スタートアップは設立何年までですか?

決まった年数はありません。「設立10年以内」と言われることが多いですが、法律上の決まりではありません。税制でも、租税特別措置法37条の13(エンジェル税制)は「設立の日以後十年を経過していない」株式会社、41条の18の4は設立1年未満などと、制度ごとに線が違います。

会社サイトに「ベンチャー企業です」と書いてあれば、若い会社ですか?

そうとは限りません。しょくばログの会社サイトのデータでは、自社をベンチャー・スタートアップと書いている会社のうち設立年が分かる31社の中央値は18年で、設立20年を超える会社が38.7%ありました。設立年月日を別に確かめるのがおすすめです。

資本金が大きければ、出資を受けたスタートアップですか?

資本金だけでは判断できません。出資を受けた会社でも、会社法445条の仕組みで払込額の半分ほどを資本準備金に回したり、税制上の理由から資本金を1億円以下に抑えたりすることがあります。逆に、資本金が大きくても出資と関係のない会社もたくさんあります。

ベンチャーかどうかを無料で調べる方法はありますか?

設立年月日は登記や会社の概要ページ、資本金はgBizINFOや会社の概要ページ、資金調達はプレスリリースや出資した側の公開情報で確かめられます。しょくばログでも、法人番号から会社の所在地・法人種別などの基本情報を無料で見られます。

まとめ

しょくばログでは、全国約579万の法人について、法人番号・所在地・法人種別といった登記由来の情報を無料で公開しています。気になる会社の基本情報を確かめるときに使ってください。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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