✍ 古家あきら | 2026-10-11 更新
非上場会社の役員報酬はなぜ分からないのか — 開示の義務は「上場会社の有報」にしかない。有報を出す非上場会社は全国1,092社
先に結論です。非上場会社の役員報酬は、原則として外からは分かりません。 役員報酬は登記事項ではなく、決算公告にも出てこないからです。役員報酬が制度として外に出る道は2本しかありません。
- 会社法の事業報告:役員報酬の「総額」を書く義務があるのは公開会社だけ。しかも見られるのは株主と債権者だけ
- 金融商品取引法の有価証券報告書(有報):役員報酬の欄があり、1億円以上の役員の個別開示は2010年3月31日施行の改正で上場会社に義務化された
有報を出している会社は、うちのデータベースで数えると全国4,926社。そのうち非上場は1,092社(22.2%)です。この1,092社を除けば、非上場会社の役員報酬が公に出る仕組みは用意されていません。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引先の社長がいくらもらっているか知りたい」「転職先の役員報酬が高すぎないか気になる」というご相談をいただくことがあります。うちのデータベースにも代表者の名前は入っていますが、報酬額の項目は1つもありません。入れていないのではなく、入れる元データが世の中に存在しないのです。今回は、なぜ存在しないのかを条文で確認し、例外にあたる会社を実数で見ていきます。
役員報酬は、どこに載っていないのか
まず「ここを見ても出てこない」場所を先に片づけます。ここで何日も探してしまう方が多いからです。
登記簿(履歴事項全部証明書)には載らない
登記簿に載る役員の情報は、氏名と就任・退任の日付、代表者の住所までです。報酬の額は登記事項ではありません。登記簿を何通取っても、役員報酬は出てきません。代表者の調べ方そのものは会社の代表者を調べる方法にまとめています。
決算公告には「貸借対照表」しか出ない
株式会社は毎年、決算を公告する義務があります。ただし会社法440条1項が公告を求めているのは貸借対照表(大会社は貸借対照表と損益計算書)です。役員報酬の内訳は、どちらにも項目として出てきません。しかも同条2項で、官報や新聞で公告する会社は「要旨」で足ります。決算公告を出していない会社が多い事情は決算公告を出していない会社は違法なのかで扱いました。
ちなみに同じ440条の4項には、有報を出す会社は決算公告をしなくてよいという規定があります。有報のほうがはるかに詳しいので、二重に出す必要がないという整理です。
法人税の申告書は非公開
役員報酬の額は法人税の申告書には書かれます。ただ、申告書は税務署に出すもので、第三者が閲覧する仕組みはありません。
会社法で役員報酬が出るのは「公開会社の事業報告」だけ
会社法の世界で役員報酬が書類に載るのは、事業報告です。会社法施行規則119条は「株式会社が当該事業年度の末日において公開会社である場合には」、事業報告に「株式会社の会社役員に関する事項」を含めなければならない、と定めています。その中身を定める同規則121条4号が、取締役・監査役などの区分ごとの報酬等の総額と員数です。
ここで押さえておきたい点が3つあります。
1. 対象は公開会社だけ。 公開会社とは、株式の全部または一部に譲渡制限がない会社のことです(会社法2条5号)。中小企業のほとんどは全株式に譲渡制限をつけているので、そもそもこの記載義務がかかりません 2. 書くのは「総額」。 区分ごとの合計と人数を書けばよく、社長個人の金額を書く義務はありません 3. 見られるのは株主と債権者だけ。 事業報告は本店に5年間備え置かれますが、閲覧や謄本の交付を請求できるのは「株主及び債権者」です(会社法442条1項・3項)
つまり、たまたま公開会社で、かつ自分が株主か債権者であれば、役員報酬の「総額」までは見られる。これが会社法の上限です。株主名簿の閲覧が株主と債権者に限られているのと同じ構造で、株主の調べ方は非上場会社の株主は調べられるのかで詳しく書きました。
もう1つ、取締役の報酬は定款か株主総会の決議で決めることになっています(会社法361条1項)。株主総会の議事録に報酬の上限枠が書かれることはありますが、議事録を見られるのもやはり株主と債権者です。
1億円以上の個別開示は、上場会社の有報のルール
「役員報酬1億円以上の役員一覧」というニュースを毎年見かけます。あれの元になっているのが有報です。
金融商品取引法24条1項は、次のいずれかに当たる会社に、事業年度ごとの有報の提出を義務づけています。
- 1号:金融商品取引所に上場している有価証券
- 2号:流通状況が上場に準ずるとして政令で定める有価証券
- 3号:募集・売出しで届出をした有価証券(社債などを公募した会社がここに入ります)
- 4号:株券などの所有者が一定数以上(施行令3条の6第6項で株券は1,000)
金融庁が公表した改正の概要によると、2010年の内閣府令改正(施行は平成22年3月31日)で、上場会社について、有報などに役員報酬の記載が義務づけられました。中身は次の3つです。
- 取締役・監査役・執行役・社外役員の区分ごとの報酬等の総額と、基本報酬・ストックオプション・賞与・退職慰労金などの種類別の総額
- 役員ごとの、提出会社と連結子会社から受ける報酬(連結報酬等)の総額と種類別の額(連結報酬等の総額が1億円以上の役員に限ることができる)
- 報酬の額や算定方法の決定方針があれば、その内容と決定方法
「1億円以上の人だけ名前と金額が出る」のは、この2つ目の規定によるものです。ここで注意したいのは、金融庁の概要が義務の対象を「上場会社について」と書いている点です。有報を出しているからといって、非上場の会社に上場会社とまったく同じ書き方が求められるとは限りません。非上場会社の有報を開いても、役員個人の金額までは出ていないことがあります。
有報を出す会社は4,926社、そのうち非上場は1,092社
では、有報を出している非上場会社はどのくらいあるのか。うちのデータベースには、金融庁のEDINETが公開している提出者の一覧(2026年6月に取り込み、法人番号でひもづけたもの)が入っています。そのうち、有報などの提出義務がある内国法人で「上場区分」が付いている会社を数えました。
- 有報などの提出義務がある内国法人:4,926社
- うち上場:3,834社(77.8%)
- うち非上場:1,092社(22.2%)
※取り込みの時点によって数社ずれます。非上場会社の株主の記事を書いた時点の数字とは少し違います。
非上場で有報を出しているのは、上の3号や4号に当たる会社です。社債を公募したことがある会社、株主が多い会社、以前は上場していた会社などが入ってきます。一覧を見ると、前田建設工業、前田道路、NIPPOといった名前があります。上場していないから小さい会社、ということはまったくありません。
非上場1,092社の中身
この1,092社の資本金と業種を数えると、次のとおりでした(資本金はEDINETの一覧の値)。
- 資本金の中央値:約10.8億円
- 資本金5億円以上:690社(63.2%)
- 資本金1億円未満:107社(9.8%)
- 連結決算あり:741社(67.9%)
- 名前に「株式会社」が入る会社:1,087社
業種の上位は次のとおりです。
- サービス業:252社(23.1%)
- 情報・通信業:117社
- 小売業:83社
- 卸売業:72社
- 不動産業:57社
- 建設業:49社
半数以上が資本金5億円以上で、7割近くが子会社を抱えて連結決算をしています。非上場でも有報を出している会社は、ほぼ「大きな会社」です。 普段の取引や転職で相手にする中小企業は、まずこの1,092社には入っていません。自分が見ている会社が上場しているかどうかは会社が上場しているか確認する方法で確かめられます。
割合で見ると、どのくらい「分からない」のか
整理すると、役員報酬が外から見える度合いは会社によって次のように分かれます。
- 上場会社(3,834社):有報に区分ごとの総額が出る。連結報酬等1億円以上の役員は個人名と金額まで出る
- 非上場で有報を出す会社(1,092社):有報は誰でもEDINETで読めるが、役員個人の金額まで書かれているとは限らない
- 公開会社で有報を出さない会社:事業報告に区分ごとの総額が載る。ただし見られるのは株主と債権者だけ
- それ以外のほとんどの会社:制度上、外に出る書類がない
うちのデータベースに載る会社は数百万社あります。有報を出す4,926社は、その中のごく一部です。「非上場会社の役員報酬が分からない」のは、調べ方が悪いのではなく、外に出す制度がないから、と考えるのが正確です。
分からないときに、何で見当をつけるか
役員報酬そのものは出てきませんが、周りの情報から会社の体力を測ることはできます。
- 決算公告の利益剰余金・純資産:役員報酬が多すぎて会社に利益が残っていないなら、貸借対照表の利益剰余金がなかなか積み上がりません。何年分か並べると傾向が見えます
- 売上規模:役員報酬の妥当性は売上や利益との比較でしか判断できません。売上の調べ方は会社の売上高を調べる方法にまとめています
- 社員の給与水準:役員の報酬と社員の年収は別物ですが、上場会社なら有報に従業員の平均年間給与が出ます。非上場との比べ方は非上場の会社の年収をどう読むかで書きました
- 株主・債権者になったときの閲覧請求:取引で債権者の立場にあるなら、公開会社の事業報告は閲覧請求の対象です。ただ、取引先にいきなり請求すると関係を損ねかねないので、実務では与信の範囲で必要なときに限られます
よくある質問
社長の年収を知る方法はありますか?
非上場会社では、制度として公表される仕組みがありません。登記簿・決算公告・法人税の申告書のどれにも、第三者が見られる形では載りません。上場会社で連結報酬等が1億円以上なら、有報に個人名と金額が出ます。
非上場でも有価証券報告書を出している会社はありますか?
あります。社債などを公募した会社や、株主が一定数以上いる会社は、上場していなくても有報の提出義務があります(金融商品取引法24条1項3号・4号)。うちのデータベースで数えると1,092社です。有報はEDINETで誰でも無料で読めますが、役員個人の報酬額まで書かれているとは限りません。
株主なら役員報酬を見られますか?
公開会社であれば、事業報告に取締役・監査役などの区分ごとの報酬等の総額と人数が載り、株主は閲覧を請求できます(会社法442条3項)。ただし個人別の金額を書く義務はなく、全株式に譲渡制限がある会社(公開会社でない会社)には、この記載義務自体がありません。
1億円以上の役員報酬が開示されるのはいつからですか?
2010年の内閣府令改正からです。金融庁の改正概要では、施行は平成22年3月31日、対象は上場会社で、役員ごとの連結報酬等の総額が1億円以上の役員について個別の開示を求めています。
しょくばログで役員報酬は見られますか?
見られません。うちのデータベースに入っているのは代表者の名前までで、報酬額の項目はありません。国税庁の法人番号やEDINETなど、元にしている公開データのどれにも役員報酬が含まれていないためです。
まとめ
- 役員報酬は登記事項ではない。決算公告も貸借対照表(大会社は損益計算書も)だけで、報酬は出てこない
- 会社法で役員報酬が書類に載るのは公開会社の事業報告だけ(会社法施行規則119条・121条4号)。中身は区分ごとの総額と人数、見られるのは株主と債権者だけ(会社法442条3項)
- 1億円以上の個別開示は2010年3月31日施行の内閣府令改正で上場会社に義務化された有報のルール
- 有報を出す会社は4,926社、うち非上場は1,092社(22.2%)。その63.2%が資本金5億円以上で、中小企業はほぼ含まれない
- 分からないときは、決算公告の利益剰余金や売上規模など周りの数字で体力を測る
「調べても出てこない」と分かっているだけで、探す時間はかなり減ります。役員報酬は、外から届かない情報の代表格です。届かない前提で、届く数字から判断していくのが現実的だと思います。
この記事の数字について
- 法令の条文は、e-Gov法令検索のAPIで2026年10月11日に確認しました(金融商品取引法24条1項、金融商品取引法施行令3条の6、会社法440条・442条、会社法施行規則119条・121条)
- 1億円以上の個別開示については、金融庁「改正府令等の概要」(平成22年3月31日公表)を参照しました
- 有報提出会社の社数・資本金・業種は、金融庁EDINETの提出者一覧を2026年6月にしょくばログのデータベースへ取り込み、法人番号でひもづけたものを集計しました。「上場区分」が付いている内国法人(有報などの提出義務がある会社)を対象にしています