✍ 古家あきら | 2026-10-25 更新

美容室の倒産、2026年度上半期は54件(東京商工リサーチ)──負債1億円未満が94.4%、従業員5人未満が48件。社名に「美容室」「ヘアサロン」などが入る2,847社を台帳で数えると、8割が有限会社だった

先に結論です。東京商工リサーチ(TSR)が2026年10月25日に公表した集計によると、2026年度上半期(4〜9月)の「美容業」の倒産は54件でした。 前年同期から6.8%減って4年ぶりに前年を下回ったものの、2007年度以降の20年間では前年(58件)に次ぐ2番目の多さです。負債1億円未満が51件(94.4%)、従業員5人未満が48件と、倒産のほとんどが小さな美容室でした。

しょくばログという会社データベースを運営していると、美容師の方から「面接に行くサロンの運営会社を調べたいが、店名で検索しても会社が出てこない」という声を受けます。理由ははっきりしていて、美容室の多くは個人事業か、店名と違う社名の小さな法人が運営しているからです。この記事では、倒産の数字を確認したうえで、台帳で数えた美容室系の法人の内訳と、応募前にサロンの運営元を確かめる手順に落とし込みます。

出典:年度上半期の「美容室」倒産 54件の高水準 低価格と高付加価値に二極化、差別化がカギ(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年10月25日)

TSRの集計で確認できる事実

件数は減ったが、高い水準が続いている

54件は前年同期の58件より4件少ない数字です。それでも2年続けて50件台で、TSRは「高止まり」と表現しています。負債総額は20億5,100万円で、前年同期から2.4%増えました。件数が減っても負債額は2年連続で増えています。

小さな店ほど行き詰まっている

内訳を見ると、規模の小ささが際立ちます。

TSRは、美容室は少ない資金で開業できるため新規参入が続き、競争が激しい業界になっていると指摘しています。低価格の店が広がる一方で、人気の美容師やデザイン力で固定客をつかめるかが問われている、という見立てです。

「人手不足」による倒産は過去最多の5件

件数は小さいものの、人手不足が原因の倒産は5件で、前年同期の2件から増え、2021年度同期の4件を上回って過去最多になりました。美容師が足りない状態が、小さな店の経営を直接揺らし始めています。

しょくばログの台帳で数えた、美容室系の法人2,847社

国税庁の法人番号データをもとにした台帳で、社名に「美容室」「美容院」「ヘアサロン」「ヘアーサロン」「ヘアー」「ヘアメイク」のいずれかを含む会社(株式会社・有限会社・合名・合資・合同会社)を数えました。

8割が有限会社

該当は2,847社でした。会社の種類ごとの内訳は次のとおりです。

有限会社は2006年の会社法施行で新しく作れなくなったため、有限会社の多さは2006年より前から続いている法人が中心であることを示しています。最近開業したサロンは、個人事業のまま営業しているか、店名を社名に入れない株式会社・合同会社で運営されていることが多いと考えられます。

登記が閉鎖された割合は22.2%

2,847社のうち、すでに登記が閉鎖されている会社は631社(22.2%)でした。台帳全体(512万1,487社のうち閉鎖69万8,587社)の13.6%と比べると高めです。種類別では有限会社が23.1%(2,312社中535社)、株式会社が16.8%(399社中67社)でした。

ただし、閉鎖の日付は休眠会社の一斉整理などで特定の年に偏るため、年ごとの増減には使えません。ここで言えるのは「いま台帳に載っている美容室系の法人のうち、閉じたものがどれくらいの割合か」という断面だけです。

店の数と比べると、法人はごく一部

厚生労働省の令和6年度衛生行政報告例では、全国の美容所は277,752施設です。社名で拾える法人はその1%程度にすぎません。社名に美容室系の語を含まない法人もあるので2,847社は下限の数字ですが、それを考えても、美容室の大半は個人事業として営まれていることがわかります。

出典:令和6年度衛生行政報告例の概況(厚生労働省)

理容と美容の利益率の違いや店の数の推移は、理髪店と美容室の営業利益率を比べた記事で詳しく扱っています。

美容師が応募前にサロンの運営元を確かめる3つの手順

倒産の多くが従業員5人未満の店だということは、裏を返せば、美容師が働く職場の多くも小さな店だということです。小さいこと自体は悪いことではありません。大事なのは、誰が雇い主なのかを応募の前に把握しておくことです。

1. 求人票の「雇用主」が会社か個人かを確かめる

求人票や面接の案内に、運営会社の正式名称と所在地が書かれているかを見ます。店名しか書いていない場合は、面接で「雇用契約を結ぶのはどちらの名義ですか」と聞いて構いません。個人事業でも雇用はできますが、社会保険の加入義務の有無が変わることがあります。個人事業か法人かの見分け方は個人事業主と法人の見分け方にまとめています。

2. 「業務委託」の募集は契約の中身を読む

美容業界では、雇用ではなく業務委託で美容師を募る求人も少なくありません。業務委託は歩合の取り分が大きい代わりに、労働時間の規制や雇用保険が当てはまらないのが原則です。業務委託の求人の注意点は業務委託の求人は怪しいのかで、台帳のデータとあわせて解説しています。

3. 運営会社がわかったら、登記が残っているかを見る

運営会社の名前がわかれば、法人番号で登記が残っているかを確かめられます。確認の手順は会社が実在するか・倒産していないかの確認方法に、閉鎖や休眠の見分け方は会社の解散・休眠の調べ方にあります。お店そのものの届出は、美容室の開設届を調べる方法で紹介した自治体の美容所一覧で確認できます。

よくある質問

美容室の倒産は増えているのですか?

2026年度上半期の54件は前年同期より4件少なく、4年ぶりに減りました。ただし20年間で2番目に多い水準で、負債総額は2年連続で増えています。「減った」とは言い切れない状況です。

小さなサロンに就職するのは避けたほうがいいですか?

規模だけで判断する必要はありません。倒産の多くが小さな店なのは、そもそも美容室の大半が小さな店だからです。運営元が誰か、雇用か業務委託か、社会保険に入れるかを確かめたうえで、店の雰囲気や教育の体制で選ぶのが現実的です。

有限会社のサロンは古い会社ということですか?

2006年以降は有限会社を新しく作れないので、有限会社のまま続いているサロンは少なくとも20年前から法人として存在していることになります。長く続いている目安にはなりますが、いまの経営状態まではわかりません。有限会社の見方は有限会社への就職はどうかでも触れています。

登記が「存続」なら経営は安定していると考えてよいですか?

登記が残っていることは会社が法的に存在する証拠ですが、資金繰りや売上までは示しません。破産などの手続きが終わるまでは存続として表示されます。給与の支払いが遅れていないか、スタッフの入れ替わりが激しすぎないかなど、面接や見学で直接確かめることも大切です。

運営者として思うこと

台帳で美容室系の法人を数えていて感じるのは、店の数と会社の数がこれほど離れている業界は多くないということです。27万を超える美容所のうち、社名で見つかる法人は3,000社にも届きません。応募する美容師にとっては、ネットで調べても雇い主の情報がほとんど出てこない業界だということでもあります。

TSRの集計にある「人手不足」倒産の増加は、美容師の側から見れば、選べる立場が強まっていることの裏返しでもあります。だからこそ、条件の良さだけでなく、雇い主が誰で、どんな契約を結ぶのかを確かめてから応募してほしいと思います。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

← お役立ち記事一覧へ