✍ 古家あきら | 2026-10-03 更新
所沢のもやし製造・サイキ食品が事業停止、負債約17億円。原料種子と光熱費の高騰、価格転嫁は追いつかず──しょくばログDBで見る社名に「もやし」を持つ法人26社、有限会社が7割超
先に結論です。埼玉県所沢市でもやしの栽培・販売を手がけてきたサイキ食品株式会社が、2026年10月1日までに事業を止め、破産申請の準備に入りました。 帝国データバンクの報道(2026年10月2日配信)によると、2026年3月期末の負債は約17億400万円です。輸入する原料種子と光熱費が上がるなか、値上げが十分に進まず、2026年6月には機械設備の故障でもやしの出荷が止まったことが重なりました。
しょくばログの台帳で社名に「もやし」を含む法人を数えると、全国で累計26社。そのうち6社(23.1%)にはすでに閉鎖の登記があり、全法人の閉鎖率13.2%を上回ります。26社のうち19社(73.1%)は有限会社で、株式会社は4社しかありません。2006年以降は新しく作れない有限会社がこれだけ多いのは、昔から続く家業が多く、新しく入ってくる会社が少ない業種だということです。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「毎日スーパーに並んでいる商品のメーカーでも倒れるのか」という声をよく聞きます。この記事はサイキ食品の経営を評価するものではありません。似た立場の食品メーカーと付き合う取引先、そこで働く人が、何を見ておくとよいかを台帳の数字と合わせて書きます。
出典:もやし、カット野菜の製造販売を手がけていたサイキ食品(埼玉)が破産へ(帝国データバンク・2026年10月2日)
報道で確認できる事実
帝国データバンクの報道から、確かめられる内容だけを並べます。
- 会社名はサイキ食品株式会社。本社工場は埼玉県所沢市、ほかにふじみ野市に工場がある
- 1961年6月の創業で、1977年4月に法人へ改組。資本金は3,000万円
- 緑豆もやし、小粒大豆もやし、黒豆もやしを栽培・販売し、関係会社の株式会社デリオールからカット野菜(袋野菜・袋サラダ・カップサラダ・薬味)を仕入れて売っていた
- 主な売り先は食品スーパー、飲食店、青果業者、ドラッグストア
- 年売上は2018年3月期の約24億4,100万円から、2026年3月期には約19億6,000万円に減っていた
- 輸入原料種子の値上がり、光熱費の高騰、価格転嫁の遅れ、過去の設備投資の借入金が重なり、2026年6月には機械設備の故障でもやしの出荷が止まった
- 2026年10月1日までに事業を停止し、破産申請の準備に入った。関係会社のデリオールも同様の措置をとった
従業員数や取引先の数は報道に出ていないため、この記事では触れません。
しょくばログの台帳で見ると
本社と関係会社は、同じ番地の隣どうし
しょくばログの台帳(国税庁の法人番号の公表データがもと)で所沢市を引くと、「サイキ食品株式会社」は大字神米金132番地5、「株式会社デリオール」は同じ132番地の1に登記されています。報道にある2012年の分社化のとおり、ほぼ同じ場所に2つの法人が並んでいる形です。どちらも閉鎖の登記はまだありません。
これは珍しいことではありません。事業を止めても、台帳に閉鎖の記録がつくのは、破産の手続きが進んで登記が閉じられてからです。それまで数か月から1年以上かかることもあります。台帳に「活動中」と出ていることは、いま工場が動いている証明にはなりません。 倒産したかどうかの確かめ方は会社の実在・倒産の確認方法に、破産や民事再生などの違いは倒産の種類の違いにまとめています。
社名に「もやし」を持つ法人26社
社名に「もやし」を含む法人は、台帳で累計26社です。北海道から大分県まで散らばっていて、「〇〇もやし店」「〇〇もやし工場」のように地名や名字を冠した名前が目立ちます。
- 閉鎖の登記がある:6社(23.1%)。うち4社は清算の結了、2社は登記官による閉鎖
- 会社の種類:有限会社19社(73.1%)、株式会社4社、農事組合法人などその他2社、合資会社1社
- 閉鎖の登記がない20社のうち、有限会社は15社(75.0%)
数は小さいので、傾向というより目安です。それでも、閉鎖の割合が全国平均の約1.7倍、有限会社が4社に3社という姿は、新しい会社がほとんど入ってこない業種であることを示しています。
一方で、この数え方には大きな抜けがあります。サイキ食品自身、社名に「もやし」を含みません。もやしをつくっていても社名に入れていない会社は拾えないため、社名で拾えるのは家業の小さな会社が中心になります。社名で数えた数字は、業界全体の数ではなく「もやしを名乗る小さな会社」の姿として見てください。
所沢市と埼玉県
所沢市に本店を置く法人は、台帳で累計11,799社。閉鎖の登記があるのは1,553社(13.2%)で、全国平均とほぼ同じです。埼玉県全体では累計267,327社、閉鎖は34,123社(12.8%)でした。台帳で製造業に分類されている法人に絞ると、埼玉県は16,652社のうち2,686社(16.1%)、全国では266,331社のうち41,756社(15.7%)に閉鎖の登記があり、製造業はほかより閉じる割合がやや高めです。
取引先・働く人が確かめたいこと
1. 「値上げしにくい商品」に売上が偏っていないか
もやしは、安い値段が当たり前と受け止められている食品の代表です。原料種子や光熱費が上がっても、店頭価格に乗せにくい。報道でも、価格転嫁が十分に進まなかったことが挙げられています。この構図は価格転嫁できない業種で書いた条件とそのまま重なります。
取引先として見るなら、主力商品が「値上げしにくい商品」に偏っているかどうかは大事な目安です。売上がそれなりにあっても、コストが上がった分を自社でかぶり続けていれば、利益は少しずつ削られていきます。サイキ食品の場合も、売上は約20億円の規模を保ちながら、8年で約2割減っていました。
2. 設備が止まったときに代わりがあるか
今回の報道で目を引くのは、2026年6月の機械設備の故障で出荷が止まったことです。もやしは日持ちのしない商品で、毎日決まった量を工場で育てて出す商売です。設備が止まると、売上がそのまま止まります。
過去の設備投資の借入金を返しているさなかに、設備の故障で売上が途切れると、資金繰りは一気に苦しくなります。仕入れる側としては、取引先の工場が1か所に集中していないか、止まったときにほかの仕入れ先に切り替えられるかを、平時のうちに確かめておくと安心です。取引先の見方の全体は取引先の信用の調べ方にまとめています。
3. 関係会社もいっしょに見る
サイキ食品は、カット野菜を関係会社のデリオールから仕入れて売っていました。そしてデリオールも同様の措置をとったと報じられています。親子や兄弟の会社が同じ番地に並んでいる場合、一方が止まればもう一方も止まることが多いものです。取引しているのが関係会社のほうでも、グループ全体の状況に目を配る必要があります。
4. 働く人は、給与と手続きの記録を手元に
事業が止まると、働いていた人にとって先に気になるのは、未払いの給与や今後の手続きです。会社から説明がない間は不安になりますが、まず雇用契約や給与明細の記録を手元に残しておくと、あとの相談がしやすくなります。個別の権利の判断は、最寄りの労働基準監督署や弁護士などの専門家に確認してください。
5. 名前ではなく法人番号で控える
台帳には、宮崎県に「有限会社サイキ海産食品」という似た名前の会社もあります。取引先として記録するときは、社名ではなく13桁の法人番号で控えるのが確実です。調べ方は法人番号の調べ方に書いています。
よくある質問
Q. 台帳に「活動中」と出ていれば、その会社は営業していますか。
いいえ。台帳の「閉鎖」は、登記が閉じられたあとにつく記録です。事業を止めてから登記が閉じられるまで数か月から1年以上かかることがあり、その間も台帳上は「活動中」のままです。
Q. 社名に「もやし」がつく会社の23.1%が閉鎖、というのは多いのですか。
全法人の閉鎖率13.2%より高めですが、母数が26社と小さく、社名の拾い方にも限界があります。業界全体の比較ではなく、「家業の小さな会社が多い業種」という全体像をつかむための数字として見てください。
Q. 売上が20億円近くある会社でも、なぜ事業を止めることになるのですか。
報道では、原料と光熱費の値上がりを価格に乗せきれなかったこと、設備投資の借入金の返済、設備の故障による出荷停止が重なったとされています。売上の大きさと、手元に残るお金の多さは別の話です。コストの上昇をかぶり続ける状態が続くと、売上規模があっても資金繰りは苦しくなります。
Q. 取引先として、早く気づく方法はありますか。
主力商品の値上げの進み具合、設備の故障や出荷の遅れ、支払条件の変更の相談、関係会社の動きは目安になります。ただし、これだけで倒産を見抜けるわけではありません。取引額が大きい場合は、信用調査会社の情報や本人への直接の確認を重ねてください。