✍ 古家あきら | 2026-09-21 更新
大手ホテル12社の客室単価は1万8,003円・稼働率82.7%、でも国内客は「安い宿」へ — 社名に「ホテル」を持つ5,589法人は閉鎖率19.8%、千代田区・港区のホテル名法人は27%が合同会社という登記データ
先に結論です。東京商工リサーチ(TSR)が2026年9月17日に公表した「2026年4-6月期上場ビジネス・シティホテル『客室単価・稼働率』調査」によると、全国でホテルを運営する上場12社(13ブランド)の2026年4-6月期の客室単価は1万8,003円(前年同期比3.9%増)で、前年同期から678円上がりました。稼働率は82.7%(前年同期82.9%)で0.2ポイントの低下にとどまっています。ビジネスホテル9ブランドの客室単価は1万4,803円で、コロナ禍の2021年同期(5,600円)の約2.6倍。一方、シティホテル4ブランドの稼働率は80.2%で前年同期(82.4%)から2.2ポイント下がり、TSRは「国内旅行客がより安価な宿泊先を選ぶ傾向が強まったとみられる」と書いています。うちの会社データベースで社名に「ホテル」を含む法人を数えると5,589法人あり、閉鎖率は19.8%で全法人平均13.2%の1.5倍でした。上場12社の「高単価・高稼働」は、登記に載る4,484法人のうちのごく一部の話で、残りの大半は有限会社の温泉ホテルや、都心の「不動産の箱」としての合同会社です。
出典:大手ホテル「客室単価」1万8,003円、前年から678円増 インバウンド需要が好調、ホテル稼働率は80%台を維持(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年9月17日)
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「ホテル業界は好調と聞くが、地方のホテルに応募して大丈夫か」「取引先のホテル会社の登記が『合同会社』なのはなぜか」という趣旨の質問を受けることがあります。TSRの調査は上場12社の開示資料を集計したもので、業界の「上澄み」を正確に映しています。ただし、求人票に出てくるホテル会社や、取引先として出てくるホテル会社の大半は、そこに載りません。今回はTSRの数字と、うちの登記データを並べて、どこまでが業界全体の話で、どこからが個社の話かを切り分けます。
公表された事実 — 客室単価は5年で2.6倍、シティホテルの稼働率はコロナ後初の下落
TSRの調査対象は、藤田観光(ワシントンホテル)、相鉄ホールディングス(相鉄フレッサ・サンルート)、東急不動産ホールディングス(東急ステイ)、共立メンテナンス(ドーミーイン)、グリーンズ(コンフォートホテルなど)、西日本鉄道(西鉄ホテル)、ポラリス・ホールディングス(ベストウェスタン)、大和ハウス工業(ダイワロイネットホテル)、西武ホールディングス(プリンスホテル)、阪急阪神ホールディングス(阪急阪神ホテルズ)、三井不動産(三井ガーデンホテル)、九州旅客鉄道(THE BLOSSOMなど)の12社13ブランドです。稼働率と客室単価は各社の開示資料をもとに集計されています。
公表された主な数字は次の通りです。
| 区分 | 客室単価(2026年4-6月期) | 前年同期比 | 稼働率 | 前年同期 | |---|---|---|---|---| | 13ブランド合計 | 1万8,003円 | +3.9%(+678円) | 82.7% | 82.9% | | ビジネスホテル(9ブランド) | 1万4,803円 | +5.1%(前年1万4,079円) | 83.3% | 83.1% | | シティホテル(4ブランド) | 2万5,085円 | +1.0%(+263円) | 80.2% | 82.4% |
13ブランドのうち客室単価が前年同期を上回ったのは10ブランド、下落が3ブランド。上昇率は「0%以上5%未満」が最多の5ブランドで、伸びは前年より緩やかになっています。上昇率の最大は東急ステイの14.1%。コロナ禍の2021年4-6月期と比べられる12ブランドはすべて客室単価が上がっていて、2倍以上になったのはワシントンホテル、東急ステイ、相鉄フレッサ・サンルート、ベストウェスタンの4ブランドです。
ビジネスホテル9ブランドの2021年同期は稼働率45.3%・客室単価5,600円でした。それが2026年同期には稼働率83.3%・客室単価1万4,803円ですから、客室単価は約2.6倍。TSRは、宿泊客の増加に加えて人件費や物価の上昇が客室単価を押し上げたと書いています。
一方で、シティホテル4ブランドは客室単価の伸びが前年同期の17.6%増から1.0%増に鈍化し、稼働率は80.2%でコロナ後初めて前年同期を下回りました。TSRはこれを「インバウンド需要の取り込みと国内旅行客がより安価な宿泊先を選ぶ傾向が強まったとみられる」と説明しています。背景の数字として、観光庁の「インバウンド消費動向調査」による2026年4-6月の訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円(前年同期比0.2%増)、日本政府観光局による同期の中国人旅行客は98万4,599人(前年同期235万3,279人)で、中国からの減少を米国・台湾などが補っている構図です。
つまり、業界としては「単価は高止まり、稼働は8割台を維持」。ただし伸びは一服し、国内客は値段に敏感になっている。これがTSRの数字から読める2026年夏のホテル業界です。
登記データで見る「ホテル」5,589法人 — 閉鎖率19.8%は全法人平均の1.5倍
ここからは、うちの会社データベース(国税庁の法人番号公表データをもとに全法人を収録したもの)で、社名に「ホテル」を含む法人を数えた結果です。データの前提は日本に会社は何社あるかの記事に書いた通りで、登記された全法人579万1,529件のうち、閉鎖されたものが76万2,832件(13.2%)あります。
社名に「ホテル」を含む法人は5,589件。そのうち閉鎖済みが1,105件で、閉鎖率は19.8%です。全法人平均13.2%の約1.5倍。現存する4,484法人の法人種別は次の通りです。
| 法人種別 | 現存法人数 | 構成比 | 閉鎖率(種別ごと) | |---|---|---|---| | 株式会社 | 2,275 | 50.7% | 23.1%(2,957件中682件) | | 有限会社 | 1,590 | 35.5% | 14.5%(1,859件中269件) | | その他の設立登記法人(協同組合・一般社団法人など) | 248 | 5.5% | 18.7% | | 合同会社 | 229 | 5.1% | 26.6%(312件中83件) | | 合資会社 | 105 | 2.3% | 7.1% |
有限会社が35.5%というのは、2006年の会社法施行で有限会社が新設できなくなってから20年経っていることを考えると、「20年以上前からある会社」が3社に1社以上という意味です。法人種別の違いは法人の種類一覧に書きました。
注目したいのは、種別ごとの閉鎖率の差です。有限会社のホテル名法人の閉鎖率は14.5%で全法人平均とほぼ同じなのに、株式会社は23.1%、合同会社は26.6%と、新しい形態のほうが閉じている割合が高い。これは「古い会社ほど危ない」という直感と逆です。理由の一端は、次に見る閉鎖理由と本店所在地に出てきます。
閉鎖理由の17.1%が「合併」— 全法人平均7.8%の2倍以上
閉鎖された1,105法人の閉鎖理由(国税庁の閉鎖事由コード)を分けると、清算の結了等が594件(53.8%)、登記記録の閉鎖等が321件(29.0%)、合併による解散等が189件(17.1%)でした。
全法人で同じ割合を出すと、清算結了64.5%・登記記録閉鎖27.5%・合併7.8%です。ホテル名法人は「合併で消えた」割合が全法人平均の2倍以上あります。「登記記録の閉鎖」は12年以上登記の変更がなくて法務局にみなし解散させられた休眠会社が中心で、その読み方は訪問介護3法人の破産の記事で詳しく書きました。
「合併」が多いのは、ホテルが1棟ごとに運営会社や所有会社を分け、グループ再編のたびに統合する業態だからです。閉鎖は倒産だけを意味しません。倒産前の「事業譲渡」の記事で書いた通り、TSRの集計でも「事業譲渡後の倒産」は旅館・ホテルが最多の業種でした。営業は続いているのに登記上の法人だけが消える、あるいは登記上は現存しているのに営業は他社に移っている、というずれがこの業種ではとくに起きやすい。求人票や取引先候補として見るときは、会社の実在と倒産を確かめる手順にある通り、登記と「いま営業しているのは誰か」を別々に確かめる必要があります。
都道府県別 — 東京18%、そして千代田区・港区のホテル名法人は27%が合同会社
現存4,484法人の本店所在地を都道府県で見ると、東京都814(18.2%)、北海道292、長野県276、大阪府175、静岡県141、栃木県140、神奈川県128、群馬県117、新潟県117、福岡県114の順です。上場12社の本社は東京・大阪・福岡などに集まっていますが、登記上のホテル名法人は北海道・長野・静岡・栃木・群馬・新潟といった温泉地を持つ県に厚く分布しています。
市区町村まで下りると、千代田区205、港区197、中央区101、長野県山ノ内町61、栃木県日光市49、新宿区48、大阪市中央区46、渋谷区45、那覇市42、台東区35。ここで、千代田区・港区と、山ノ内町(湯田中渋温泉郷)・日光市の中身を比べると、まったく別の顔が見えます。
| 本店所在地 | 現存ホテル名法人 | 株式会社 | 有限会社 | 合同会社 | その他(一般社団法人等) | |---|---|---|---|---|---| | 東京都千代田区・港区 | 402 | 188(46.8%) | 18(4.5%) | 110(27.4%) | 73(18.2%) | | 長野県山ノ内町 | 61 | 22(36.1%) | 39(63.9%) | 0 | 0 | | 栃木県日光市 | 49 | 26(53.1%) | 20(40.8%) | 0 | 2 |
千代田区・港区のホテル名法人は、合同会社が27.4%、一般社団法人などの「その他」が18.2%で、この2つで半分近く。有限会社は4.5%しかありません。山ノ内町は有限会社が63.9%で、合同会社はゼロです。
都心の合同会社と一般社団法人の組み合わせは、ホテルの建物を所有するための「器」として使われることが多い形態です。投資家から集めたお金でホテルの不動産を持ち、運営は別の会社に任せる。こうした法人は社名に「ホテル」が入っていても従業員を直接雇っていないことが普通で、求人が出ることもまずありません。逆に山ノ内町や日光市の有限会社は、家族経営の温泉ホテルそのもので、求人票の「株式会社◯◯ホテル」「有限会社△△ホテル」の多くはこちら側です。合同会社に応募するときの注意点は合同会社への就職は不利かの記事に書きましたが、ホテル名の合同会社は「働く場所」ではなく「持ち物」であることが多い、と読んでおくと取り違えが減ります。
先ほどの「株式会社・合同会社のほうが閉鎖率が高い」も、ここから説明がつきます。1棟ごとに作られた法人は、その物件を売ったり統合したりするたびに合併や清算で消える。有限会社の温泉ホテルは、良くも悪くも1つの法人が何十年も続く。閉鎖率の高低は「危なさ」ではなく「法人の使われ方」の違いです。
「旅館」1,796法人はさらに古い — 有限会社57%、閉鎖率17.0%
参考までに、社名に「旅館」を含む法人も数えました。全2,163法人のうち閉鎖済み367件で閉鎖率17.0%。現存1,796法人の法人種別は、有限会社1,019(56.7%)、株式会社304(16.9%)、その他の設立登記法人227(12.6%・温泉旅館協同組合などが中心)、合資会社177(9.9%)、合名会社42。合資会社・合名会社を合わせて12.2%というのは、全法人では両者合計で1.9%(579万1,529件中11万2,528件)しかないことを考えると、かなり偏った数字です。
有限会社の旅館名法人の閉鎖率は17.4%、株式会社は22.8%。ここでも「古い形態のほうが閉じにくい」構図は同じです。ただし、閉鎖率が低いことと「経営が安定している」ことは別で、後継者がいないまま登記だけが残っている法人も、この中に相当数含まれているはずです。会社の年齢は法人番号公表サイトだけでは分からないので、確かめ方は会社の設立年の調べ方に書きました。
応募者・取引先がホテル会社を見るときの3つの目印
TSRの数字とうちの登記データを合わせると、ホテル会社を外から見るときの目印は次の3つです。
1. 上場12社のブランドか、それ以外か:TSRの「客室単価1万8,003円・稼働率82.7%」は、12社13ブランドの数字です。求人票のホテルがこの12社の運営ブランドなら、この数字はそのまま参考になります。それ以外の4,000社超は別の世界で、国内旅行客が「より安価な宿泊先を選ぶ」というTSRの指摘は、むしろ地方の中小ホテルにとっての向かい風です 2. 法人種別と本店所在地の組み合わせ:都心の合同会社・一般社団法人は不動産の器、温泉地の有限会社は家族経営の現場。同じ「ホテル」でも働く場所かどうかがここで分かれます。取引先として見るなら、帝国データバンク・東京商工リサーチの評点が付いているかどうかも、器か現場かを見分ける手がかりになります 3. 値上げを吸収できているか:TSRの調査でも、客室単価の上昇は人件費・光熱費・食材費のコスト上昇が背景です。単価を上げられる上場ホテルはそれを吸収できますが、価格転嫁率が4割を切っている記事で書いた通り、中小の宿泊業は転嫁しきれていない層が厚い。求人票の給与が業界の単価上昇に追いついているかは、求人票の見方で書いた「基本給と手当の分け方」で確かめられます
出典:国税庁 法人番号公表サイト(閉鎖事由・法人種別コードの定義)
よくある質問
上場ホテル12社の客室単価や稼働率は、どこで確認できますか
東京商工リサーチのTSRデータインサイト(2026年9月17日公表)に、12社13ブランドの合計と、ビジネスホテル・シティホテルの区分別の数字が載っています。個々のブランドの数字は各社の決算説明資料や月次開示に出ていて、TSRの調査もそれを集計したものです。しょくばログには客室単価や稼働率のデータはなく、登記情報(法人種別・本店所在地・閉鎖の有無)だけを扱っています。
社名に「ホテル」があるのに求人が出ない会社は、何をしている会社ですか
都心に本店を置く合同会社や一般社団法人で、社名にホテルの名前が入っている法人は、ホテルの建物を所有するために作られた法人であることが多いです。運営は別の会社が行い、従業員もそちらに雇われています。うちのデータで千代田区・港区のホテル名法人402件のうち、合同会社が110件、一般社団法人などが73件ありました。応募先として見るなら、実際に運営している会社の名前を求人票や公式サイトで確かめてください。
閉鎖率19.8%というのは、ホテル会社は倒産が多いという意味ですか
違います。閉鎖には、清算の結了(自分で畳んだ場合と破産手続きが終わった場合の両方を含む)、合併による解散、長期間登記の変更がない休眠会社のみなし解散が含まれます。ホテル名法人は「合併」が17.1%で全法人平均の2倍以上あり、グループ再編で法人が消えるケースが多い業種です。倒産件数そのものは、東京商工リサーチや帝国データバンクの業種別集計で確認してください。
地方の有限会社のホテルや旅館に応募するのは不利ですか
不利かどうかは会社ごとです。データで言えるのは、有限会社のホテル名法人は閉鎖率14.5%で全法人平均並み、少なくとも20年以上続いている会社だということだけです。一方でTSRの調査では、国内旅行客が安価な宿を選ぶ傾向と、人件費・光熱費のコスト上昇が同時に指摘されています。単価を上げにくい地方の宿ほどこの影響を受けやすいので、求人票の給与が数年前と比べて上がっているか、口コミや公式サイトで営業が続いているかを、登記とは別に確かめることをすすめます。
まとめ
東京商工リサーチの2026年9月17日の調査では、上場ホテル運営12社13ブランドの2026年4-6月期の客室単価は1万8,003円(前年同期比3.9%増)、稼働率は82.7%でした。ビジネスホテルの客室単価はコロナ禍の約2.6倍になった一方、シティホテルの稼働率はコロナ後初めて下がり、国内客が安価な宿を選ぶ傾向が指摘されています。うちの登記データでは、社名に「ホテル」を含む法人は5,589件で閉鎖率19.8%、閉鎖理由の17.1%が合併。都心の千代田区・港区では合同会社が27.4%、温泉地の山ノ内町では有限会社が63.9%と、同じ「ホテル」でも法人の使われ方がまったく違いました。業界の見出しは上場12社の話、求人票や取引先で出会うホテル会社は残りの4,000社超の話。その区別をつけたうえで、登記と営業の実態を別々に確かめるのが、この業種の会社の読み方です。