✍ 古家あきら | 2026-09-09 更新
倒産前の「事業譲渡」が2年で440件 — 店は続くのに会社だけ消える、を見分ける
本日2026年9月9日、東京商工リサーチが「倒産前に主要事業を他社へ譲渡していた企業」の集計を公表しました。2025年度は213件、2024年度は227件。業種別の最多は旅館,ホテルの31件でした。
先に結論を書きます。このパターンでは、働いている店や工場はそのまま動き続けるのに、雇用主だった法人だけが消えます。そして登記記録の上では、それは「清算の結了等」という、廃業とまったく同じ表示になります。外から見分ける手がかりは登記の理由欄ではなく、「同じ住所に別の会社がいるか」です。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「求人票に書いてあった会社が検索で出てこない」「働いている店の運営会社がいつのまにか変わっていた」という相談が届きます。今日は公表された数字を読んだうえで、うちの手元にある約579万件の法人記録で「閉鎖された会社の住所に、いま別の会社がいる割合」を実際に数えました。
公表された数字(出典つき)
東京商工リサーチの集計は次のとおりです。倒産集計の時点で、主要事業を他社へ譲渡していたことが判明した事例を「事業譲渡後の倒産」と定義しています。
- 2025年度:213件/2024年度:227件。2年平均は220件
- 前回調査対象だった2019〜2023年度の平均は189件で、コロナ後は高い水準が続いている
- 業歴では50〜100年未満が131件(29.7%)と約3割を占め、業歴100年以上も3社
以下の内訳は、2024・2025年度の2年合計440件が母数です。
- 産業別:サービス業他151件(34.3%)/製造業110件(25.0%)/小売業52件(11.8%)/卸売業45件(10.2%)。上位4産業で81.3%
- 業種別:旅館,ホテル31件(7.0%)/一般貨物自動車運送業13件(2.9%)/受託開発ソフトウェア業9件(2.0%)/土木工事業7件(1.5%)
- 形態別:特別清算240件(54.5%)/破産189件(42.9%)
出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト「倒産前の『事業譲渡』 コロナ後に高水準 2025年度は213件、旅館,ホテルが最多」(2026年9月9日)
経営不振に陥った企業がスポンサーなどに事業を譲り渡し、そのあとで旧会社を整理する。TSRは背景として、譲渡できる経営資源を持ちながら倒産に至る要因に経営者の事業承継問題が大きく影響していると指摘しています。老舗が3割という数字は、その裏返しです。
なぜ旅館・ホテルが最多なのか
業種別トップが旅館・ホテルなのには、理屈があります。この業種は建物・温泉権・立地・常連客という「譲れる資産」が、法人と切り離して価値を持つからです。借金を抱えた法人ごと引き受けるのは重いけれど、施設と営業だけなら引き受け手が見つかる。だから「旅館は営業を続け、運営していた会社は特別清算」という形が成立します。
飲食や運送、受託開発ソフトウェアが上位に来るのも同じ構造です。店舗、車両と運行の許可、そして技術者。譲れる中身がはっきりしているほど、法人だけを置いていける。
働く側から見ると、これは「勤め先はなくならないが、雇用主の法人は変わる」という意味になります。
登記記録では、この動きはほぼ見えない
ここからは、全国の法人記録を持っている立場でしか書けない部分です。
しょくばログは国税庁の法人番号公表データをもとに、全国5,791,529件の法人を収録しています。このうち登記記録の閉鎖等が記録されているのは762,832件。国税庁が公表しているその「閉鎖等の事由」は4種類しかなく、実数はこうなっています。
- 01 清算の結了等:491,764件(64.5%)
- 21 登記官による閉鎖:210,087件(27.5%) — 商業登記規則第81条による職権の閉鎖、いわゆるみなし解散の後始末
- 11 合併による解散等:59,612件(7.8%)
- 31 その他の清算の結了等:1,369件(0.2%) — 設立登記法人以外
(コードの定義は国税庁リソース定義書(ダウンロードファイル、Web-API)による)
ここが肝心です。事業を譲渡してから旧会社を特別清算・破産で整理した場合、それは合併ではありません。したがって登記上は「11 合併による解散等」ではなく、「01 清算の結了等」に入ります。この64.5%の山の中には、静かに畳んだ会社も、事業を誰かに渡してから畳んだ会社も、区別なく同居しています。
国税庁の公表データには承継先法人番号という項目もありますが、定義上これは「合併等による事業承継があったことにより登記記録が閉鎖された場合の存続する法人の法人番号」です。事業譲渡+清算のケースで必ず埋まる欄ではありません。「閉鎖理由を見れば承継されたか分かる」とは考えないほうが安全です。
なお、登記記録の閉鎖には休眠会社の一斉整理によるまとめての処理が含まれるため、年ごとの推移を追う用途には使えません。この記事で使っているのは、ある時点の断面の比率だけです。
閉鎖された会社の3社に1社は、同じ住所に別の会社がいる
では外から何を見ればいいのか。うちのデータで、閉鎖された法人の所在地(都道府県+市区町村+丁目番地)に、現存する別の法人が登記されているかを全件突き合わせました。
- 丁目番地まで記録のある閉鎖法人762,784件のうち、同じ住所に現存法人がいるのは252,145件=33.1%
- 商号に「旅館」または「ホテル」を含む法人は全国7,644件。うち閉鎖済みは1,463件=19.1%(全法人平均の13.2%より約6ポイント高い)
- その閉鎖1,463件のうち、同じ住所に現存法人がいるのは602件=41.2%。全体の33.1%を8ポイント上回ります
- 閉鎖理由の内訳も宿泊系は偏っていて、「11 合併による解散等」が195件=13.3%。全体の7.8%の約1.7倍です
閉鎖された会社のおよそ3社に1社、宿泊系では5社に2社は、その住所でいまも別の法人が登記されています。同居ビルや貸事務所では無関係な会社が並ぶこともあるので、これがすべて事業の引き継ぎだとは言えません。それでも、「会社が消えた=そこでの営業が終わった」ではないことは、この比率がはっきり示しています。
応募前・取引前にできる4つの確認
統計の話を、手が動く話に落とします。
① 求人票の会社名と、いま検索して出てくる会社名を突き合わせる。 名前が一字違う、「株式会社」と「有限会社」が入れ替わっている、といった差は要注意です。会社名から法人番号を引く手順は会社名から法人番号を調べる方法にまとめています。
② 住所で引き直す。 これが今日の記事のいちばんの要点です。会社名で出てこなくても、同じ住所に別の法人が登記されていることがあります。それが実質的な受け皿である可能性は十分にあります。
③ 「閉鎖」と「解散」と「休眠」を分けて読む。 登記が閉鎖されていても事業が続いている場合があり、逆に登記が生きていても実体がない場合もあります。違いは会社が解散・休眠しているか調べる方法と会社が実在するか確認する方法に書きました。
④ 新しい会社なら、設立の新しさそのものを疑わない。 受け皿として設立された会社は、登記だけ見れば「設立まもない会社」です。ただし新しいこと自体は問題ではありません。判断材料の集め方は営業実態のない「幽霊会社」を見分ける5つのサインと会社の設立年から見る「老舗」「中堅」「新興」の目安を参照してください。
応募先の求人そのものが消えたときの追い方は応募したい会社の求人が突然消える5つの理由に、取引先として見るときの手順は取引先の信用を調べる方法にまとめてあります。
よくある質問
事業譲渡された会社で働いていたら、雇用はどうなりますか
一般論として、事業譲渡は合併と違って権利義務が自動的に引き継がれる仕組みではなく、譲渡先との個別の合意によります。転籍の条件や勤続年数の扱いは契約次第で変わるため、書面で条件を確認することが基本です。個別の事情は労働基準監督署や総合労働相談コーナー、社会保険労務士などの専門窓口に相談してください。当サイトは会社データベースであり、労務の判断はできません。
「特別清算」と「破産」は何が違うのですか
TSRの集計では2年合計440件のうち特別清算が240件(54.5%)と最多で、破産が189件(42.9%)でした。事業譲渡後の整理で特別清算が多いのは、株式会社が解散したあとの清算手続として使われる形だからです。件数の比率が通常の倒産と逆転していること自体が、このパターンの特徴を示しています。
会社が閉鎖されていたら、その建物の営業も終わっていますか
いいえ。当サイトの集計では、丁目番地まで分かる閉鎖法人762,784件のうち33.1%にあたる252,145件で、同じ住所に現存する別の法人が登記されています。宿泊系に限ると41.2%です。会社の登記と、その場所での営業は別々に確認する必要があります。
事業譲渡があったかどうかを、無料で確かめられますか
譲渡の事実そのものを無料で確定させる手段はありません。国税庁の法人番号公表データには承継先法人番号という項目がありますが、これは合併等による承継を想定した欄で、事業譲渡+清算のケースで必ず埋まるわけではありません。実務では、同じ住所の現存法人・代表者名・屋号(店名)の継続を突き合わせて推定するのが現実的です。資本関係は登記に載らないため、会社の親会社・グループ会社を調べる方法も合わせて読んでください。
旅館・ホテルの会社は危ないということですか
そうは読めません。業種別で最多の31件といっても、2年間の440件のうちの7.0%です。当サイトのデータでも商号に「旅館」「ホテル」を含む法人7,644件のうち閉鎖済みは19.1%で、残る約8割は現存しています。業種の平均は、目の前の1社の状態を教えてくれません。個別に確認してください。
まとめ
倒産前に事業譲渡していた企業は2025年度213件・2024年度227件で、コロナ後の水準は以前より高い。業種別の最多は旅館,ホテルの31件で、業歴50年以上の老舗が3割を占めます。譲れる資産がはっきりしている業種ほど、事業だけが先に移り、法人が後に残って整理される構図です。
そしてこの動きは、登記記録の閉鎖理由には表れません。閉鎖762,832件の64.5%は「清算の結了等」の一括りで、静かな廃業と事業譲渡後の整理が同じ表示になっています。代わりに手がかりになるのが住所で、閉鎖法人の33.1%、宿泊系では41.2%の住所に、いまも別の現存法人が登記されています。
会社が消える出口が倒産だけではない、という話は倒産1,037件は「17年ぶり」水準 — でも会社が消える出口は倒産だけではないにも書きました。
しょくばログは、全国の会社を1社ごとのページにまとめ、登記情報・所在地・求人などを無料で確認できます。求人票の会社名で出てこないときは、住所でも検索してみてください。
※本記事は2026年9月9日時点で公表されている情報にもとづく整理です。事業譲渡後の倒産の集計値は東京商工リサーチの公表値、閉鎖事由コードの定義は国税庁のリソース定義書、法人件数・登記閉鎖・同一住所の現存法人の集計は国税庁の法人番号公表データにもとづく当サイトの集計です。同一住所の突き合わせは表記が一致した場合のみを数えたもので、同居ビル等の無関係な法人を含み、また表記ゆれによる取りこぼしがあります。特定の企業の経営状態や、個別の労働契約について評価・断定するものではありません。