✍ 古家あきら | 2026-09-29 更新
岩手・北上の学生服店「松屋呉服店」が破産。売上は最盛期の約4億円から約3,000万円へ。しょくばログDBで見る社名に「呉服」を持つ法人3,002社、閉鎖率23.4%
先に結論です。学生服を扱う地域の衣料品店は、生徒の数と、店のある商店街の人通りの両方に売上を左右されます。松屋呉服店の売上は、最盛期の約4億円から直近の約3,000万円まで、9割以上縮んでいました。 岩手県北上市本通りの有限会社松屋呉服店は、2026年7月2日に事業を止め、9月15日に盛岡地方裁判所から破産手続き開始決定を受けました。負債は約7,200万円です。
出典:北上市の松屋呉服店が破産申請へ(岩手日報、2026年8月17日)
出典:【岩手】(有)松屋呉服店/自己破産申請準備 学生服・呉服販売(JC-NET)
出典:【倒産企業続報・岩手】松屋呉服店が破産 1937年創業、学生服・呉服販売 負債約7200万円(JC-NET、2026年9月28日)
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、地元の老舗が倒産したという報道のあとに、その店の名前で検索する人が増えます。制服を注文していた家庭、店に商品を納めていた取引先、そこで働いていた人。ここでは、報道で確認できる事実と、国の統計、しょくばログの台帳から数えられる数字だけを並べます。個別の会社の良し悪しを言う記事ではありません。
何が起きたのか(報道で確認できる事実)
- 会社:有限会社松屋呉服店(岩手県北上市本通り)
- 創業:1937年
- 事業:北上市や周辺の市町の中学校・高校の学生服、保育園・幼稚園の制服、婦人服、実用衣料品、呉服の販売
- 売上高:最盛期は年間約4億円 → 2026年5月期は約3,000万円
- 2026年7月2日に事業を停止し、破産申請の準備に入る
- 2026年9月15日に盛岡地裁から破産手続き開始決定(負債約7,200万円)
苦しくなった理由として、報道は次の点を挙げています。
- 店を構えていた商店街の衰退
- 少子化による学生服の需要の減少
- 必要な設備の修繕にかける資金が確保できなかった
同じ通りで、百貨店の運営会社も破産を申請していた
松屋呉服店の本店は北上市本通り2丁目にあります。同じ本通り2丁目では、さくら野百貨店北上店を運営していた株式会社いわて北上リテールマネジメントが、2026年8月31日に盛岡地裁へ破産を申請しています。
- 設立:2023年8月、会社分割で前の運営会社から事業を引き継ぐ
- 売上高:2025年3月期 約15億5,600万円 → 2026年3月期 約12億2,500万円(5,100万円の赤字)
- 負債:約2億5,300万円(2026年3月期末時点)
- 理由:近隣のスーパーとの競合が激しくなり集客が伸びず、設立以来赤字が続いていた
- 青森県のさくら野百貨店(親会社)は影響を受けず営業を続けている
出典:さくら野百貨店北上店を運営していた、いわて北上リテールマネジメントが破産を申請(帝国データバンク/Yahoo!ニュース)
2つの会社の業種も規模も違います。それでも、同じ通りの中心的な店が1か月のうちに続けて破産の手続きに入ったことは、個々の会社の事情とは別に、中心市街地の人の流れが変わってきたことを示しています。百貨店の撤退が地方で続いている背景は、さいか屋の上場廃止と百貨店の法人数を整理した記事で書いています。
学生服の需要は、生徒の数で決まる
学生服は、1人の生徒が入学時にまとめて買うことが多い商品です。つまり、地域の生徒の数がほぼそのまま需要の上限になります。
文部科学省の令和7年度学校基本調査(2025年5月1日時点)によると、全国の在学者数は次のとおりでした。
- 中学校:310万5千人。前年度より3万6千人減り、過去最少
- 高等学校:287万4千人。前年度より3万3千人減少
出典:令和7年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値(文部科学省、2025年12月26日)
生徒が1年で3万人規模減るということは、学生服を新しく買う人も同じように減っていくということです。そのうえ、制服の販売は学校ごとに指定された店が担うことが多く、地域の店どうしで生徒を取り合う余地はあまりありません。売上を増やすには、扱う学校を増やすか、制服以外の商品を伸ばすしかない、という形になりやすい商売です。
しょくばログの台帳で見えること
破産決定が出ても、台帳はまだ「閉鎖」ではない
しょくばログの台帳(国税庁の法人番号公表データが元)で見ると、北上市本通り2丁目1番8号の有限会社松屋呉服店も、本通り2丁目2番1号の株式会社いわて北上リテールマネジメントも、2026年9月29日時点で登記は閉鎖になっていません。
破産手続きが始まっても、登記が閉じるのは手続きが終わってからです。破産決定が出た4社を国税庁のサイトで引いた記事でも、同じことが起きていました。取引先が今どうなっているかの確かめ方は、会社が実在するか・倒産していないか確認する方法の記事にまとめています。
なお、台帳には松屋呉服店と同じ番地(本通り2丁目1番8号)に、2025年1月23日に登記が閉じた株式会社鍵屋デパートの記録もあります。台帳からは、両社がどういう関係だったかまでは分かりません。
社名に「呉服」を含む法人3,002社、閉鎖率は23.4%
社名に「呉服」を含む法人を全国で数えると3,002社あり、そのうち登記が閉じているのは702社(23.4%)でした。台帳全体の閉鎖率は13.3%なので、1.8倍です。閉鎖率は、台帳に載っている法人のうち、すでに登記が閉じている法人の割合です(いつ閉じたかは問いません)。
会社の種類の内訳は次のとおりです。
- 有限会社:1,646社(54.8%)、うち閉鎖439社(26.7%)
- 株式会社:697社(23.2%)、うち閉鎖182社(26.1%)
- 合資会社:494社(16.5%)、うち閉鎖55社(11.1%)
- 合名会社:129社(4.3%)、うち閉鎖19社(14.7%)
- 合同会社:9社(0.3%)
台帳全体では、合資会社は1.1%、合名会社は0.2%、合同会社は7.8%です。社名に「呉服」を持つ会社は、今ではあまり使われない古い会社の形(合資・合名)が全体の2割を占め、2006年以降に作れるようになった合同会社はほとんどありません。新しく「呉服店」を名乗る会社がほぼ生まれていない業種だと読めます。会社の種類の違いは、持分会社(合同・合資・合名)とは何かを整理した記事で書いています。
岩手県では、社名に「呉服」を含む法人は41社、閉鎖は9社(22.0%)でした。北上市に本店がある法人は5社で、閉鎖している会社はありません。
「学生服」「制服」を名乗る会社は125社
一方、社名に「学生服」または「制服」を含む法人は全国で125社、閉鎖は15社(12.0%)でした。社名に「学生服」を含む62社のうち52社(83.9%)は株式会社です。
松屋呉服店のように、呉服店として始まり、学生服や制服の取り扱いを柱に育ってきた店は、社名だけでは学生服の店だと分かりません。ここでの数字は、社名から業種を読み取れる会社に限った断面です。
地元の衣料品店と取引する人が確かめておきたいこと
一般論として、学生服や制服を地域の店に頼む人、店と取引する人が見ておきたい点を挙げます。
- 代金の支払い時期:採寸時に前払いする場合は、納品の時期と、納品されなかったときの扱いを確かめておく
- 学校の指定店の情報:店が営業をやめた場合、制服の取り扱いがどこに移るかは学校から案内が出ることが多い。学校の案内を確認する
- 会社の基本情報:本店所在地や社名の変更履歴は、国税庁の法人番号公表サイトで確かめられる
- 老舗かどうかの見方:創業年の古さだけで安心しないこと。見方は老舗企業の見分け方の記事にあります。2026年の老舗の倒産の動きは老舗企業の倒産動向の記事で整理しています
よくある質問
「松屋呉服店」という名前の店と取引があります。今回の会社ですか?
報道の会社は、岩手県北上市本通りに本店がある有限会社松屋呉服店です。しょくばログの台帳では、社名に「松屋呉服店」を含む法人は全国に29社あります。請求書や契約書に書かれた所在地か、13桁の法人番号で照合してください。調べ方は法人番号の調べ方の記事にあります。
制服の代金を前払いしていました。どうなりますか?
破産手続きが始まると、会社への請求は裁判所が選ぶ破産管財人を通じて行うことになります。領収書や注文の控えを手元に残し、裁判所や管財人からの案内を確認してください。個別の判断は弁護士や自治体の消費生活センターに相談してください。
社名に「呉服」が入った会社は危ないということですか?
そうとは言えません。閉鎖率は登記が閉じた会社の割合で、個々の会社の経営状態を示すものではありません。古くからある会社が多い業種は、長い年月のなかで閉じた会社も積み上がるため、閉鎖率は高めに出ます。
破産と民事再生はどう違いますか?
破産は会社をたたんで財産を債権者に分ける手続き、民事再生は事業を続けながら借金を減らして立て直す手続きです。違いは倒産の種類(破産・民事再生・会社更生・特別清算)の違いの記事にまとめています。
まとめ
- 1937年創業の有限会社松屋呉服店(北上市本通り)が2026年7月2日に事業を止め、9月15日に盛岡地裁から破産手続き開始決定を受けた(負債約7,200万円)
- 売上は最盛期の年間約4億円から、2026年5月期は約3,000万円まで縮んでいた
- 報道が挙げた理由は、商店街の衰退、少子化による学生服の需要減、設備の修繕資金の不足
- 同じ本通り2丁目では、さくら野百貨店北上店の運営会社も8月31日に破産を申請していた(負債約2億5,300万円)
- 全国の中学生は310万5千人で過去最少(令和7年度学校基本調査)
- しょくばログの台帳では、社名に「呉服」を含む法人3,002社のうち閉鎖は23.4%(台帳全体は13.3%)。合資・合名会社が2割を占め、合同会社はほぼない。松屋呉服店は2026年9月29日時点でまだ閉鎖になっていない
学生服の店は、地域の生徒の数と、店のある通りの人の流れに支えられています。どちらも店の努力だけでは増やせません。地元の店と長く付き合うときは、店の歴史だけでなく、支払いの時期と、店が続けられなくなったときの受け渡しの条件をあわせて確かめておいてください。