✍ 古家あきら | 2026-09-17 更新

3年連続黒字なのに上場廃止 — 川崎の百貨店さいか屋は「流通株式時価総額7.3億円」で基準未達、TOBでも倒産でもない「3つ目の上場廃止」の読み方と、社名に「百貨店」を持つ法人431社のデータ

先に結論です。株式会社さいか屋(神奈川県川崎市川崎区・東証スタンダード・証券コード8254)は、2026年9月16日から整理銘柄に指定され、2027年3月1日に上場廃止になります。理由は、上場維持基準のうち「流通株式時価総額10億円」に対して実績が7億3,117万1,405円で、改善期間の末日(2026年8月31日)でも届かなかったことです。株主数(5,431人・基準400人)、流通株式数(25,180単位・基準2,000単位)、流通株式比率(36.19%・基準25%)の3つは基準を満たしていて、外れたのは時価総額の1項目だけでした。

出典:当社株式の上場廃止の決定及び整理銘柄への指定に関するお知らせ(株式会社さいか屋・2026年9月16日) 出典:神奈川の百貨店「さいか屋」が上場廃止発表(共同通信・2026年9月16日)

しょくばログという会社データベースを運営していると、「上場廃止」という言葉を「倒産」や「身売り」と同じ意味で受け取っている人にときどき会います。今週はTOBで上場廃止になるスーパー(アルビスの記事)と、MBOから5年で再上場した内装会社(オリバーの記事)を書いたので、今日はその3つ目、「業績は回復したのに、株価が基準に届かなくて上場廃止」という型を、さいか屋の公式開示とうちの登記データで書きます。

公表された事実 — 8年連続赤字から3年連続黒字、それでも時価総額が届かなかった

会社の開示文にある数字と経緯を、そのまま並べます。

出典:今後の資本政策及び株主の皆様への対応について(株式会社さいか屋・2026年9月9日)

会社プロフィールの数字も足しておきます。創業1872年(明治5年)、設立1950年11月、本社は川崎市川崎区日進町1番地、資本金9億3,608万円、従業員130名(出向者を除く)、2025年8月期の売上高46億3,292万円。店舗は藤沢店(百貨店)、横須賀店(SAIKAYA YOKOSUKA SHOPPING PLAZA)、川崎店(サテライト型店舗)の3つです。沿革を見ると、1964年8月に東証二部に上場、2009年8月に事業再生ADRを申請して2013年3月に計画完了、2015年5月に川崎店(小川町)を閉店してサテライト型に切り替え、2021年5月にAFC-HDアムスライフサイエンスの子会社になっています。62年続いた上場が、ここで終わります。

出典:会社概要(株式会社さいか屋) 出典:沿革(株式会社さいか屋)

上場廃止には3つの型がある — 「基準未達型」は経営の悪化とは別の話

今週の3本を並べると、上場廃止の意味がまるで違うことが分かります。

3つ目の型が増えているのには理由があります。東証は2022年4月の市場再編で「上場維持基準」を作りましたが、当時基準に届かない会社には「経過措置」として上場を続けさせていました。その経過措置が、2025年3月1日以降に来る基準日から終了しました。基準日に未達なら原則1年(売買高基準は6か月)の改善期間、それでも未達なら監理銘柄・整理銘柄(原則6か月)を経て上場廃止、という流れが本番運用に入ったのです。さいか屋は、2025年8月31日を基準日として改善期間に入り、ちょうど1年で結論が出た会社です。

出典:【更新】東証の上場維持基準に関する経過措置終了~改善期間内に基準に適合しない銘柄は「上場廃止」になります~(松井証券・2026年3月12日更新)

スタンダード市場の基準は4つで、さいか屋の開示文にそのまま載っています。株主数400人以上、流通株式数2,000単位以上、流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上。さいか屋が外したのは時価総額だけで、あとの3つは余裕で満たしていました。流通株式時価総額は「流通株式数×株価」なので、株数が足りていて比率も足りているなら、足りなかったのは株価です。開示文に「株価の上昇・安定化が想定通り進捗せず」とあるのはそういう意味で、8年赤字の会社が3年黒字に戻しても、市場がそれを株価に織り込むまでには時間がかかった、ということです。

登記データで見るさいか屋 — 法人番号は変わらない、変わるのは「親会社の中の位置」

うちの登記データ(国税庁の法人番号公表サイト由来)で「さいか屋」を引くと、川崎市川崎区日進町1番地に株式会社さいか屋(法人番号3020001074170)と、同じ住所の株式会社さいか屋友の会(9020001073092)、藤沢店3階に住所を置く全さいか屋労働組合(5021005005399)が出てきます。百貨店には「友の会」(積立の会員組織)と労働組合が別法人として並ぶのが典型で、この3つがそろっているのは、地方百貨店としては珍しくない形です。

gBizINFOの登録値では、代表者は代表取締役社長 山野井輝夫、業種は「I:卸売業、小売業」、従業員数257人、資本金21億9,576万8,000円になっています。会社の現在のページでは従業員130名・資本金9億3,608万円なので、gBizINFOの登録は欠損解消前の数字が残っているようです(資本金を減らして欠損を消すのは、開示文にある「利益剰余金欠損の解消」の定番の手順です)。同じ会社でも、どの時点の数字を見ているかで倍近く違う例として覚えておいてください。

親会社の株式会社AFC-HDアムスライフサイエンス(3080001005054)は静岡市駿河区の会社で、gBizINFOでは製造業・従業員450人・資本金21億3,496万6,000円。健康食品・化粧品の受託製造(OEM)が本業の会社です。株式交換が完了すると、さいか屋の株主はこの会社の株を受け取り、さいか屋は完全子会社になります。法人番号も本店も社名も変わりません。変わるのは、有価証券報告書や決算短信のような「上場会社だから出していた書類」が出なくなることと、東証で株を売買できなくなることです。合併や買収で法人の記録に何が起きるかは「買収された会社」は登記から消えるのかに書いたとおりで、完全子会社化なら法人はそのまま残ります。

社名に「百貨店」を持つ法人は全国568件、現存431件 — 4分の1は閉鎖済み

さいか屋の社名には「百貨店」が入っていませんが、応募先・取引先を「業界で」見るために、社名に「百貨店」を持つ法人をうちのデータで数えました。

つまり、「百貨店」を名乗る法人の半分以上は有限会社・合資会社・合名会社で、従業員数の登録がある会社は16分の1です。神奈川県の24件も、京急百貨店や小田原百貨店のような大型店から、三浦市の有限会社相模屋百貨店、鎌倉市の合名会社鎌倉百貨店、川崎区の有限会社丸三百貨店まで幅があります。昭和の商店街で「何でも売る店」が百貨店を名乗った名残で、社名の「百貨店」は業態を保証しません。「百貨店に就職した」の中身は会社ごとに確かめる必要がある、というのがデータの結論です。有限会社や合資会社の見方は有限会社に就職するのは不利なのかと合資会社・合名会社とはどんな会社かに書きました。

応募者・取引先は何を見ればいいか — 「上場廃止の型」を先に確かめる

さいか屋のようなケースで、外から確かめられることを順に書きます。

1. 上場廃止の理由を開示文で読む。理由の欄に「上場維持基準に適合しないため(有価証券上場規程第601条第1項第1号)」とあれば基準未達型で、事業の停止ではありません。「破産手続開始」「民事再生手続開始」なら倒産型、「株式等の公開買付け」「株式交換」なら買収型です。会社が上場しているかどうかの確かめ方は会社が上場しているか確認する方法に書きました 2. どの基準を外したかを見る。株主数や流通比率を外した場合は「株が特定の株主に集まっている」、時価総額を外した場合は「株価が低い」。さいか屋は後者で、業績と直結しません 3. 上場廃止後の受け皿を見る。さいか屋は親会社との株式交換が予定されています。受け皿がある会社と、受け皿を探している最中の会社では、雇用の見通しが違います 4. 非上場になったあとの情報源を確保する。有価証券報告書が出なくなるので、平均年収や勤続年数は決算短信からは取れなくなります。非上場会社の見方は上場企業の平均年収と非上場会社の見方、株主の調べ方は非上場会社の株主は調べられるのかへ 5. 登記の本体(法人番号・本店・閉鎖の有無)を見る。完全子会社化なら法人番号はそのまま。合併で消えるなら閉鎖事由「合併による解散等」が付きます

よくある質問

上場廃止になると、その会社は倒産するのですか

いいえ。さいか屋の上場廃止の理由は「上場維持基準に適合しないため」で、破産や民事再生ではありません。会社は3年連続で黒字を出しており、上場廃止後は親会社AFC-HDアムスライフサイエンスの完全子会社として続く予定だと開示しています。上場廃止と倒産は別の手続きです。

「流通株式時価総額」とは何ですか

大株主や役員が持つ株を除いた「市場に出回っている株」の数に、株価を掛けたものです。さいか屋は流通株式数(25,180単位)も流通比率(36.19%)も基準を満たしていたので、足りなかったのは株価でした。東証スタンダード市場の基準は10億円で、さいか屋の実績は7億3,117万1,405円でした。

経過措置とは何ですか。なぜ今になって上場廃止が増えているのですか

2022年4月の市場再編のとき、新しい上場維持基準に届かない会社に対して、当面は上場を続けられる「経過措置」が設けられていました。その経過措置が2025年3月1日以後に到来する基準日から終了し、未達なら原則1年の改善期間、そのあと監理銘柄・整理銘柄を経て上場廃止という本来の運用に入りました。さいか屋はその運用で上場廃止が決まった会社の1つです。

上場廃止のあと、社員の雇用や取引先との契約はどうなりますか

会社(法人)は変わらないので、雇用契約も取引契約もそのまま会社に残ります。さいか屋の場合、株式交換で親会社の完全子会社になる予定ですが、法人番号3020001074170も本店(川崎市川崎区日進町1番地)も社名も変わりません。変わるのは、有価証券報告書のような上場会社向けの開示がなくなることと、株を東証で売買できなくなることです。

社名に「百貨店」と付いていれば、大きな百貨店だと思っていいですか

いいえ。うちのデータでは、社名に「百貨店」を持つ現存法人431件のうち、有限会社・合資会社・合名会社が238件(55.2%)で、gBizINFOに従業員数の登録がある会社は27件だけです。大丸松坂屋百貨店(4,823人)のような会社と、三浦市の有限会社相模屋百貨店のような会社が同じ「百貨店」の名で並んでいます。社名ではなく、その法人の従業員数・店舗・親会社で確かめてください。

まとめ

うちのデータは国税庁の法人番号公表サイトとgBizINFOの登録値をもとにしています。gBizINFOの従業員数・資本金は登録時点の値で、さいか屋のように会社の現在の公表値と差がある場合があります。応募や取引の判断では、会社の最新の開示を優先してください。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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