✍ 古家あきら | 2026-09-25 更新
業歴100年超の「老舗倒産」112件、過去最多ペース — 製造業・卸売業に集中する理由を、しょくばログの579万社データで確かめる
先に結論です。業歴100年を超える「老舗企業」の倒産は、2026年1〜8月ですでに112件。このペースが続けば年間160件を超え、2024年の146件を上回って過去最多を更新します。 帝国データバンクが2026年9月25日に公表した調査によるもので、業種別では製造業34件・卸売業24件・小売業22件が中心。負債額では1億円未満が56件と全体の半数を占める一方、10億円以上の大型倒産4件のうち3件は「コンプライアンス違反」が倒産原因に挙げられています。
出典:100年経営「老舗企業」の倒産動向調査(2026年1-8月)(帝国データバンク・2026年9月25日)
しょくばログという全国579万件の法人データベースを運営していると、老舗企業の倒産が報じられるたびに、同じ疑問にぶつかります。「なぜ長く続いた会社が今になって倒れるのか」「同業の老舗は他にどれくらい危ういのか」。この記事では、TDBが公表した一次情報の数字をそのまま引用したうえで、しょくばログが持つ実データを使って「老舗が集中する業種は、データベース上でも本当に閉鎖率が高いのか」を確かめます。
公表されている事実
TDBの調査(集計対象:負債1,000万円以上・法的整理による倒産)で確認できる範囲は次のとおりです。推測は混ぜていません。
- 2026年1〜8月の老舗企業(業歴100年超)倒産:112件
- 年換算ペース:160件超(2024年の146件を上回る見込み)
- 業種別内訳:製造業34件、卸売業24件、小売業22件、その他32件
- 負債額規模:1億円未満56件(全体の50%)、10億円以上4件(うち3件がコンプライアンス違反関連)
- 主な事例:狩野組(1925年創業・水道工事業・負債約36億円・1月7日破産、原因は不動産投資関連の簿外債務)、小野部製凾所(1901年創業・紙器メーカー・負債約13億3,300万円・5月26日破産、原因は10年以上にわたる売掛金・在庫の水増し)
- レポートの分析コメント:後継者難や物価高への対応の遅れが目立ち、会計管理・ガバナンス体制の見直しが必要
なぜ「老舗」がいま倒れるのか — 3つの要因
報道・レポートから読み取れる要因は大きく3つに整理できます。
- 後継者難:長く続いた会社ほど創業家・経営陣の高齢化が進み、事業を引き継ぐ人材が見つからないまま資金繰りが行き詰まるケースです。有限会社に就職するのは不利なのかでも触れたとおり、有限会社という形態自体が2006年以降新設できないため、老舗企業には有限会社が多く残っており、後継者難と法人形態の古さは重なりやすい構造があります。
- 物価高への価格転嫁の遅れ:長年の取引慣行の中で「値上げを言い出しにくい」関係が固定化しているケースが目立ちます。資材・人件費の上昇分を請負単価に乗せられないまま、体力を削られていく構図です。
- ガバナンス・会計の劣化:負債10億円超の4件のうち3件でコンプライアンス違反が絡んでいた点は見逃せません。小野部製凾所の「10年以上にわたる売掛金・在庫の水増し」のように、業歴が長い会社ほど不正が長期間表面化しないリスクもあります。倒産の手続き名(破産・民事再生・会社更生・特別清算)ごとの違いは倒産の種類(破産・民事再生・会社更生・特別清算)の違いで整理しています。
しょくばログの実データで裏取りする
TDBの調査は「製造業・卸売業に老舗倒産が集中している」と示していますが、これはあくまで倒産件数の集計です。しょくばログが持つ全国5,791,529件の法人記録(2026年9月時点、うち登記が閉じている法人762,832件=全体の13.17%)を使って、業種そのものの閉鎖率を横から確かめてみます。
- 全法人の閉鎖率:13.17%(5,791,529件中762,832件が閉鎖)
- 製造業(JSIC大分類E)の閉鎖率:15.68%(266,331件中41,756件)— 全体平均より2.5ポイント高い
- 卸売業・小売業(JSIC大分類I)の閉鎖率:15.58%(281,954件中43,915件)— 同じく全体平均より高い
TDBが老舗倒産の中心として挙げた製造業・卸売業は、しょくばログの全国データで見ても、業種そのものの閉鎖率が全体平均より2ポイント以上高い業種です。老舗企業だけが特別というより、この2業種は法人の新陳代謝が全体より速い(=閉鎖に至る法人の比率が高い)業種であることが、実データからも確認できます。
さらに法人形態でも同じ傾向が出ます。
- 有限会社(現存1,675,486件)全体の閉鎖率:14.68%
- 製造業に限った有限会社の閉鎖率:17.03%(117,316件中19,979件)
- 比較:株式会社全体の閉鎖率は13.94%
有限会社は2006年の会社法施行後は新設できない形態なので、現存する有限会社は最低でも設立から20年以上が経過しています(詳しくは有限会社に就職するのは不利なのか)。その有限会社に限定して製造業だけを見ると、閉鎖率は17.03%まで上がります。老舗が集まりやすい「古い法人形態×倒産が集中する業種」の掛け合わせで、閉鎖リスクが積み上がっていく様子が、うちのデータベースからも裏付けられました。
一方で、創業114年のかまぼこ店が破産した記事で見たとおり、個別の老舗業種を社名から数えると、閉鎖率が全体平均の1.5倍に達するケースもあります。業種の大分類だけでは見えない、さらに狭いニッチほどリスクが偏っていることもあるので、取引先・応募先を確認するときは「業種」と「社名・法人形態」の両方から見る習慣が有効です。
取引先・応募先として老舗企業を見るとき、確認すべきこと
老舗企業だから安心、老舗企業だから危険、という単純化はできません。確認の手順としては次のように分けて考えるのが実務的です。
- 決算の黒字・赤字を先に見る:後継者難や物価高が理由の倒産は、黒字のまま資金繰りだけが行き詰まるケースも珍しくありません。希望退職を募る会社はその後どうなるかで扱った「黒字リストラ」と同じく、財務の健全性は表面の業績だけでは判断できません。
- 法人形態と設立年を確認する:有限会社であれば設立から少なくとも20年以上、老舗を名乗るなら登記情報や周年の記載と実際の法人番号の履歴が一致しているかも見ておくと安心材料になります。
- 無料でできる与信チェックを組み合わせる:官報の公告、決算公告の有無、取引先の評判など、無料で確認できる情報源の使い方は取引先の信用を調べる方法にまとめています。
- 倒産件数の統計を鵜呑みにしない:同じ「倒産」でも集計機関・対象範囲によって数字が変わることがあります。人手不足倒産は63件?30件?で扱ったとおり、統計の前提を確認する癖をつけておくと、ニュースの数字に振り回されずに済みます。
FAQ
Q. 「老舗企業」の定義は業歴何年からですか?
TDBの今回の調査では業歴100年超を老舗企業と定義しています。調査によって業歴30年・50年を基準にする場合もあるため、統計を比較するときは定義の基準年数を確認してください。
Q. 老舗企業の倒産は今後も増え続けますか?
2026年は1〜8月ですでに112件で、年換算160件超のペースです。2024年の146件を上回れば過去最多となりますが、これは現時点までの傾向であり、9月以降の推移は確定していません。今後の月次データはTDBの倒産集計レポートで随時更新されます。
Q. 老舗企業の倒産が製造業・卸売業に多いのはなぜですか?
TDBのレポートは後継者難・物価高への対応遅れを主な要因として挙げています。しょくばログの全国データで確認すると、製造業・卸売業はそもそも法人全体の閉鎖率が平均より高い業種であり、老舗特有というより業種構造そのものに新陳代謝の速さがあることも一因と考えられます。
Q. 有限会社は倒産しやすいのですか?
しょくばログのデータでは、有限会社全体の閉鎖率(14.68%)は株式会社全体(13.94%)よりわずかに高い水準です。ただし有限会社は制度上2006年以降新設できないため、単純に「古い会社が多い」ことの裏返しでもあり、法人形態そのものが倒産リスクを直接高めているとまでは言い切れません。
Q. 取引先の老舗企業が心配なとき、まず何を確認すればいいですか?
決算の黒字・赤字、法人形態と設立年、無料の与信チェック(官報公告・決算公告の有無など)の3点を組み合わせて確認するのが実務的です。具体的な手順は取引先の信用を調べる方法にまとめています。