✍ 古家あきら | 2026-09-20 更新

希望退職を募る会社はその後どうなるか — 「一覧」が作れるのは上場企業だけ、という前提から読む

先に結論です。「希望退職を募った会社の一覧」として世の中に出回っているものは、ほぼすべて上場企業の分だけです。 上場企業には東証の適時開示ルールがあり、「人員削減等の合理化」を決めた時点で公表するので、調査会社がそれを数えて一覧にできます。非上場の会社にはその義務がないため、募集の事実が外に出るのは新聞・地元紙・従業員の口コミといった断片だけで、網羅的な一覧は存在しません。

そして「その後どうなるか」については、上場企業の統計を見る限り、希望退職=倒産の前触れ、とは言えません。東京商工リサーチの2025年の集計では、募集した43社のうち直近決算が黒字だった会社が29社(67.4%)を占め、募集人数ベースでは85.0%が黒字企業です。同社はこれを「黒字リストラ」と呼んでいます。逆に言えば、赤字で追い詰められて募る会社は3社に1社で、「どちらのタイプか」を決算で見分けるのが読み方の要になります。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「◯◯社が希望退職を募ったらしいが、転職先として大丈夫か」「取引先が早期退職を募集した、危ないのか」という趣旨の質問をときどきいただきます。この記事では、公的な一次情報と、うちのDBの実数だけを使って、その問いに答えられる範囲と答えられない範囲を線引きします。

上場企業の希望退職は「決めた時点で公表」が義務

上場企業の希望退職募集が一覧にできる理由は、東証のルールにあります。日本取引所グループが公開している「適時開示が求められる会社情報」(2026年7月10日現在)には、上場会社の「決定事実」として開示が求められる項目が並んでいて、その中に「人員削減等の合理化」が明記されています。「事業の全部又は一部の休止又は廃止」「破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立て」「代表取締役又は代表執行役の異動」と同じ列に入っている項目です。

つまり上場企業が希望退職を募るときは、投資家向けに「◯月◯日、希望退職者の募集を決議しました」というリリースが出ます。東京商工リサーチはこのリリースを拾い、「早期・希望退職募集の具体的な内容を確認できた上場企業」を毎年集計しています。うちが「一覧が作れるのは上場企業だけ」と言い切るのは、この開示ルールと集計の仕組みがあるからです。

なお、上場しているかどうか自体の確かめ方は会社が上場しているか確認する方法で手順化しています。証券コード(4桁の数字)が無ければ東証には上場していない、が最短の判定です。

上場企業の希望退職はどれくらいあるか(東京商工リサーチの公表値)

東京商工リサーチが公表している年別の集計を、社数と募集人数で並べます。いずれも同社の「TSRデータインサイト」で公開されている値で、対象は募集内容を確認できた上場企業です。

年によって社数は40〜57社の幅に収まっているのに、人数は3,161人から2万人超まで6倍以上ぶれます。社数ではなく「1社あたりの募集規模」が年ごとの数字を動かしているのが読み取れます。2025年は募集社数が前年より約2割減ったのに人数は1.8倍近くに増えました。大手メーカーの数千人規模の募集が数字を押し上げた年です。

内訳で押さえておきたいのは次の3点です(いずれも2025年暦年の値)。

2024年も傾向は同じで、黒字企業34社(59.6%)・募集人数8,141人(81.3%)、東証プライムが40社(70.1%)でした。2025年度(年度集計)でも黒字32社(69.5%)・1万6,908人(81.3%)です。「黒字の大手が、数千人単位で募る」のがここ2年の希望退職の実像で、赤字の中堅企業が最後の手段として募る、という昔のイメージとはだいぶ違います。

非上場の会社には一覧が無い——DBで見る「上場は1,291社に1社」

ここからが本題です。希望退職の一覧に載るのは上場企業だけですが、上場企業は日本の会社のごく一部です。うちのDBで数えると次のとおりです。

割り算をすると、活動中の法人1,291社に1社、株式会社に限っても645社に1社しか上場していません。2025年に希望退職を募った上場企業43社は、上場企業3,895社の1.1%にあたります。つまり東京商工リサーチの一覧に載る43社は、日本の全法人の0.001%以下です。一覧に載っていないから希望退職を募っていない、という推論はまったく成り立ちません。

うちのDBには、厚生労働省「しょくばらぼ」の公開データを法人番号で突き合わせた146,479社分の企業情報が入っていますが、そのうち証券コードが登録されているのは110社です。しょくばらぼは中小企業の登録が多いデータベースなので、こちらの比率(0.08%)はさらに低くなります。会社の情報が公開されている場所ほど、上場企業の割合は小さいのです。

非上場の会社が希望退職を募った場合、外に出る経路は次のようなものに限られます。

いずれも網羅性がなく、「無いことの証明」には使えません。非上場の会社を見るときは、一覧を探すのではなく、後述の「間接的なサイン」を見る方が現実的です。

非上場を含めた実施率——大企業2.8%、中小企業0.7%

一覧は無くても、実施率の目安になる調査はあります。東京商工リサーチが2025年6月2日〜9日にインターネットで実施したアンケート(有効回答6,483社)では、「早期・希望退職」の実施状況を上場・非上場を問わず聞いています。同調査の企業規模の定義は、大企業=資本金1億円以上、中小企業=資本金1億円未満(個人企業等を含む)です。

回答企業の自己申告なので、実施した会社ほど回答を避ける可能性はあります。それでも、3年以内に希望退職を募った会社は大企業でも100社に3社、中小企業では1,000社に7社という水準です。希望退職を募る会社は、規模を問わず少数派です。

「資本金1億円以上」の会社がどのくらいあるかも押さえておきます。国税庁「会社標本調査」(令和5年度分)では、内国普通法人295万6,717社のうち資本金1億円超〜10億円以下が13,387社(0.5%)、10億円超が6,123社(0.2%)です(境界が「1億円超」なので、東京商工リサーチの「1億円以上」とはわずかにずれます)。うちのDBで資本金が取れている81,542社(建設業許可データが元なので建設業に偏ります)でも、1億円以上は1,132社=1.39%でした。資本金の分布そのものは資本金が少ない会社は危ないのかで詳しく扱っています。

同じアンケートで、45歳以上の従業員が半数以上を占める会社は大企業57.0%・中小企業64.6%・全企業64.2%でした。業種別では運輸業81.7%、金融・保険業75.0%、不動産業71.3%、建設業70.4%と続き、情報通信業は41.1%です。希望退職の対象が「50歳以上」に設定されることが多い背景に、この年齢構成があります。役職定年制度の導入率は大企業41.0%・中小企業17.8%・全企業21.8%でした。

採用ページには「希望退職」の語はほぼ出てこない——32,838社の実測

うちのDBには、会社の公式サイトの採用ページ(採用情報・募集要項)を取得して保存している会社が32,838社あります。この本文に「希望退職」「早期退職」といった語がどのくらい出てくるかを数えました(2026年9月20日集計)。

「希望退職」「早期退職」に該当した52社から無作為に12社を開いて前後の文脈を確認したところ、大半は人材紹介会社の「紹介した人材が早期退職した場合は手数料の一部を返金します」という返金規定や、雇用保険の離職理由の説明文で、希望退職の募集とは無関係でした。自社の「早期退職優遇措置制度への募集結果」をサイトのニュース欄に載せていた会社は12社中2社です。募集の事実を採用ページに書く会社は事実上ゼロと言ってよく、語が出ている会社もほとんどは別の文脈です。

規模別に見ると、「選択定年」は従業員1,000人以上の会社で12社(2,336社中0.51%)、「転進支援・セカンドキャリア支援・再就職支援」は同じく16社(0.68%)で、いずれも1,000人未満の帯より高くなります。恒常的な早期退職優遇制度や転進支援制度を「福利厚生」として採用ページに載せるのは、大企業に限られる、ということです。証券コードのある上場企業は保存済み採用ページの中に71社ありますが、この71社にはどの語も出てきませんでした。

この集計から言えるのは単純で、採用ページや会社案内を読んでも、希望退職を募ったかどうかは分からないということです。募集はIR(投資家向け情報)か報道で出るものであって、求職者向けの情報には出ません。転職を考えている会社なら、採用ページとは別にIRのニュース一覧を見る必要があります。

「その後どうなるか」を読む3つの軸

希望退職を募った会社が、そのあと持ち直すのか、さらに縮むのかを外から予測する統計はありません。東京商工リサーチの集計は「募った」時点を数えるもので、その後の追跡はしていません。ただ、公開されている情報から「どのタイプの希望退職か」は見分けられます。うちが使っている軸は3つです。

軸1:直近決算が黒字か赤字か

2025年の43社のうち黒字企業が29社。黒字なのに募る会社は、事業構造の転換(不採算事業の縮小、年齢構成の是正)を目的にしていることが多く、東京商工リサーチはこれを「黒字リストラ」と表現しています。赤字企業の14社は、損益改善を急ぐタイプです。どちらかで、その後に求められる注意の度合いが変わります。上場企業なら決算短信、非上場なら決算公告や会社の売上高を調べる方法で拾える範囲の数字で確かめてください。

軸2:募集規模が従業員数に対してどれくらいか

同じ「1,000人募集」でも、従業員5万人の会社と5,000人の会社では意味が違います。会社の従業員数は有価証券報告書のほか、うちのDBでも会社の従業員数を無料で調べる方法で取れる範囲があります。対象年齢(50歳以上など)が絞られているなら、年齢構成の是正が主目的だと読めます。

軸3:同時に何が発表されているか

適時開示の項目でいえば、「人員削減等の合理化」だけが出ているのか、それとも「事業の全部又は一部の休止又は廃止」「固定資産の譲渡」「継続企業の前提に関する事項の注記」が同時期に出ているのかで、深刻さが大きく違います。後者が重なる場合は、人件費高騰で倒産する会社の見抜き方や会社が実在するか・倒産していないか確認する方法で扱っている「縮小のサイン」も併せて見てください。

非上場の会社では適時開示が無いので、代わりに次のサインを見ます。

従業員側の実務:雇用保険上は「会社都合」に近い扱い

読者に在職中の方も多いので、ひとつだけ制度の話を足しておきます。希望退職に応じて辞めた場合、雇用保険の離職理由がどう扱われるかは、ハローワークインターネットサービスの「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」に書かれています。

つまり、臨時に募られた希望退職に応じた離職は、自己都合ではなく「特定受給資格者」または「特定理由離職者」の扱いになります。一方、恒常的な早期退職優遇制度(毎年一定の年齢で募っているような制度)に応募した場合は、特定受給資格者には当たりません。上で数えた「選択定年」26社・「早期退職優遇」3社のような制度はこちらです。同じ「早期退職」でも、雇用保険上の扱いが分かれる点は、辞める前にハローワークで確認しておく価値があります。給付の具体的な日数や手続きは個別事情で変わるため、この記事では範囲の定義にとどめます。

「希望退職を募った会社」を探す前に確認したいこと

よくある質問

希望退職を募った会社は、その後倒産することが多いのですか

倒産までを追跡した公的な統計は見当たりません。ただ東京商工リサーチの2025年の集計では、募集した上場企業43社のうち黒字企業が29社(67.4%)で、募集人数ベースでは85.0%が黒字企業でした。少なくとも上場企業に関しては、経営危機で募るより、黒字のうちに構造を変える目的の募集が多数派です。赤字企業の場合は、同時期の開示(事業の休止・廃止、継続企業の前提の注記など)が重なっていないかを見てください。

希望退職を募った会社の一覧はどこで見られますか

上場企業については、東京商工リサーチが「早期・希望退職募集」の年次集計を公表しており、社数・人数・業種・黒字赤字の内訳が分かります(個社名は同社の記事に一部記載)。元データは東証の適時開示です。非上場の会社については、開示義務がないため一覧は存在しません。

早期退職と希望退職は違うのですか

法律上の定義がある言葉ではなく、実務上はほぼ同じ意味で使われます。雇用保険の区分で重要なのはむしろ「臨時の募集か、恒常的な制度か」の違いで、ハローワークの定義では、恒常的な早期退職優遇制度への応募は特定受給資格者に該当せず、企業整備による人員整理の希望退職への応募は特定理由離職者(退職勧奨があれば特定受給資格者)に当たります。

転職先候補の会社が希望退職を募っていたら、避けるべきですか

一律には言えません。募集の目的(年齢構成の是正か、損益改善か)、募集規模が従業員数に対してどの程度か、直近決算の黒字赤字、同時期の他の開示、の4点で判断するのが現実的です。募集の対象が「50歳以上」のように絞られていて、若手の採用を続けている会社は、事業を縮めているというより世代交代を進めている場合があります。逆に、採用ページから求人が消え、拠点の閉鎖も同時に出ているなら慎重に見るべきです。

中小企業でも希望退職はありますか

あります。東京商工リサーチの2025年6月のアンケート(有効回答6,483社)では、直近3年以内に早期・希望退職を実施した中小企業(資本金1億円未満)は0.7%でした。大企業の2.8%より低いものの、ゼロではありません。中小企業の場合は開示義務がないので、外から知る手段は報道と口コミに限られます。

出典

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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