✍ 古家あきら | 2026-09-27 更新

売上4,800万円に負債29億円 — 北海道・厚岸の食肉用馬の牧場「小師馬商」が民事再生。負債の大半は親会社からの借入だった。しょくばログDBで見る「牧場」法人3,625社

先に結論です。売上の何十倍もの負債を抱えていても、それだけで「すぐ潰れる会社」とは限りません。お金の出どころが親会社なら、親会社が支えるのをやめた時点で状況が変わります。 北海道厚岸町で食肉用の馬を育てる小師馬商は、2025年9月期の売上高が約4,800万円に対し、負債は約29億1,000万円でした。2026年9月1日に釧路地裁へ民事再生法の適用を申請し、9月14日に手続きの開始決定を受けています。事業は続けるとしています。

出典:北海道・厚岸の小師馬商、民事再生手続き開始 負債29億円(日本経済新聞)

出典:食肉用馬の繁殖から育成を手がける「小師馬商」が民事再生手続き開始 負債総額約29億円 北海道厚岸町(HBCニュース北海道/Yahoo!ニュース)

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、倒産や民事再生のニュースのあとに、その会社の取引先や、働いている人・応募を考えている人が会社ページを見に来ます。今回は「親会社のお金で動いている子会社」と「商品になるまで何年もかかる事業」という2つの切り口で、公表されている事実と、しょくばログの台帳から数えられる数字を並べます。

何が起きたのか(公表されている事実)

報道で確認できる範囲は次のとおりです。報道に無いこと(従業員数など)は書いていません。

HBCニュース北海道が伝える帝国データバンクの調べでは、この事業は先行投資の要素が強く、商品となる食用の馬が適齢期の3歳ほどになるまでは販売できないため、事業の開始から経費が先に出て、赤字決算が散発していたとされます。

売上の約60倍の負債 — それでも「今日まで」続いた理由

報道の数字をそのまま割ると、負債約29億1,000万円は売上高約4,800万円のおよそ60倍です(しょくばログによる計算)。ふつうの取引先が相手なら、ここまで差が開く前に資金が回らなくなります。

それでも会社が続いていたのは、負債の大半が銀行や仕入先ではなく親会社からの借入だったからだと考えられます。親会社からのお金は、返済の期限や条件をグループの中で調整できることが多く、外からは「借金が多いのに普通に営業している会社」に見えます。

ここで押さえておきたいのは次の2点です。

1. 子会社の決算だけを見ても、会社の続く力は分からない。 支えているのが親会社なら、親会社の方針や業績が実質的な生命線になります。 2. 親会社の株主構成は、登記を見ても分からない。 株主は登記事項ではないため、非上場の会社どうしの資本関係は外から見えにくいのが普通です。調べ方は親会社・グループ会社の調べ方の記事にまとめています。

今回のように民事再生を選んだ場合、会社は事業を続けながら負債の減額や返済計画を話し合います。破産とは、取引先や従業員への影響がまったく違います。手続きの違いは倒産の種類の記事で解説しています。

「売上が立つまで3年」の事業をどう見るか

食用の馬が商品になるまで約3年かかる、というのは、この事業の性質そのものです。同じ構造は、牧場に限らず次のような事業にも共通します。

こうした会社は、設立から数年は赤字が続くのが「計画どおり」の場合もあります。赤字の年数だけで良し悪しは決められません。何期も赤字が続く会社の読み方は赤字が3期続く会社の記事で整理しています。

北海道の畜産では、ブランド和牛の長沼ファームが2026年8月に破産しています(長沼ファームの記事)。こちらは売上がピークから落ち込んだ例で、小師馬商は「売上が伸びきる前に資金負担が重くなった」例です。同じ牧場の経営難でも、原因の形は違います。

しょくばログのDBで見る「牧場」の会社と、厚岸町の会社

しょくばログの台帳(国税庁の法人番号公表データ)から、同じ業態・同じ地域の会社を数えました。

社名に「牧場」が入る会社は、全国平均よりやや閉鎖率が低く、北海道内に限るとさらに低くなります。牧場は土地や家畜という大きな資産を抱えるため、簡単にたたむ事業ではない、という見方もできますが、この数字だけでは理由までは言えません。また、「牧場」の半数以上が有限会社という点は、古くから続く家族経営の会社が多いことをうかがわせます。

もう1つ、見落としやすい点があります。小師馬商は、2026年9月27日時点のしょくばログの台帳では「閉鎖」になっていません。 民事再生は会社を存続させる手続きなので、手続きが始まっても登記は残ります。「民事再生中」かどうかは、国税庁のデータからは分かりません。民事再生中の会社を法人番号のデータでどう見るかはギフトプラザの民事再生を扱った記事で確かめています。

取引先・働く人が知っておきたい見分け方

親会社への依存や、先行投資の重さを外から確実に測る方法はありません。それでも、一般化できるチェックの視点はあります。

1. 「どこからお金が来ているか」を確かめる。 会社案内や採用ページに親会社・グループの記載があるか。グループの一員なら、親会社の事業内容や業績もあわせて見ておくと判断材料が増えます。 2. 事業が「いつ売上になるか」を考える。 育成・建設・研究など、売上が立つまで時間のかかる事業は、途中の赤字そのものより「売上が立つ時期まで資金が続くか」が要点になります。 3. 決算公告が出ているかを見る。 株式会社には決算公告の義務がありますが、出していない会社も少なくありません。決算公告を出していない会社の記事で扱っています。 4. 取引額が大きいなら、取引先の調べ方を一通り押さえる。 方法は取引先の調べ方の記事にまとめています。

どれも経営破綻を予言するものではありません。「この会社のお金は誰が出していて、いつ回収できる事業なのか」を一度考えておくことが、取引や就職の判断で実務的にできることです。

よくある質問

小師馬商はどんな会社ですか?

北海道厚岸町に本社を置き、食肉用の馬の繁殖・育成を手がける会社です。2018年12月に設立され、農地で太陽光発電と羊の放牧を組み合わせる営農型発電も展開しています。2025年9月期の売上高は約4,800万円で、2026年9月14日に釧路地裁から民事再生手続きの開始決定を受けました(負債約29億1,000万円・帝国データバンク調べ)。

民事再生の手続きが始まると、会社はなくなるのですか?

なくなりません。民事再生は、事業を続けながら負債の減額や返済計画を決めて立て直す手続きです。小師馬商も事業を継続するとしています。登記も残るため、国税庁の法人番号公表データでは存続している会社として表示されます。

負債の大半が親会社からの借入というのは、どういう意味がありますか?

銀行や取引先からの借入と違い、親会社からの借入は返済条件をグループ内で調整しやすく、子会社の赤字が続いても資金が回ることがあります。その反面、親会社の方針が変わると一気に資金繰りが厳しくなるため、子会社を見るときは親会社もあわせて見る必要があります。

売上に比べて負債が大きい会社は、避けたほうがいいのですか?

一律には言えません。育成や建設などで売上が立つまで時間のかかる事業では、先に借入が膨らむのは珍しくありません。大事なのは、その負債を誰が支えていて、売上が立つ時期まで資金が続く見込みがあるかです。取引額が大きい場合は、信用調査会社のレポートを取るのも選択肢です。

※この記事の会社数は、国税庁の法人番号公表データをもとにしたしょくばログの台帳(2026年9月時点)を集計したものです。社名に「牧場」を含む会社を数えており、実際に牧場を営んでいるかどうかとは必ずしも一致しません。閉鎖率は倒産・廃業・合併・休眠整理などをまとめて含む断面の比率であり、倒産だけを表す数字ではありません。「売上の約60倍」は報道の売上高と負債額からしょくばログが計算したものです。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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