✍ 古家あきら | 2026-09-22 更新

補助金で立った売上は、あとから消えることがある — メディトランセ破産(交付決定取消 約23億円)から学ぶ「公的資金に乗った会社」の見方。社名にPCRを含む法人は全国18、閉鎖率22.2%(DB実測)

先に結論から。補助金で立った売上は、会社の実力とは別物です。そして「あとから取り消される」ことがあります。 取り消されると、すでに使ってしまった分を返さなければならない。外から会社を見るときに厄介なのは、補助金が入っていた時期の決算だけを見ると、その会社は急成長しているように見えることです。

2026年9月9日、株式会社メディトランセ(東京都新宿区北新宿)が東京地裁から破産手続開始決定を受けました。新型コロナウイルスのPCR等検査無料化事業をめぐり、東京都から約23億円の交付決定の取消しと、交付済み約13億円の返還命令を受けていた会社です(出典:東京都「PCR等検査無料化事業補助金交付決定取消し等について」2023年6月2日公表/東京新聞 2026年9月18日)。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引先が急に伸びているが大丈夫か」「この会社の売上は本物か」という相談が来ます。個社の是非には踏み込みません。外から見える範囲で、何がどう見えていて、何が見えないのかに徹します。

何が起きていたのか — 一次資料で確認できる範囲

東京都は、2021年12月23日から2023年5月7日まで、都内で無料のPCR等検査を実施していました。検査費用は事業者に補助金として支払われる仕組みです。そのうち、虚偽の実績などに基づく申請があったとして、都は交付決定の取消しと返還命令を出しています。

公表されている分を整理すると、こうなります。

2024年3月公表分の金額を見ると、規模の大きさが分かります。ある事業者は令和4年度だけで約39億円の交付決定・約28億円が交付済み。別の事業者は約31億円の交付決定・約18億円が交付済みでした(出典:東京都「PCR等検査無料化事業補助金交付決定の取消し等について」2024年3月26日)。

メディトランセ自体は、2011年7月設立、医療機関や研究機関からの検体集荷・輸送、温度管理、受託検査などを手がけていた会社です。ピークの売上高は2022年6月期の約8億5,500万円(出典:帝国データバンク 倒産速報)。ここが読みどころで、年商8億円台の会社に、23億円の交付決定が出ていたわけです。負債額は現在調査中とされています。

破産と民事再生の違いなど、手続きの種類については倒産の種類の違いで整理しています。今回は破産、つまり会社を畳む手続きです。

うちのDBで引くと、登記記録はまだ閉鎖されていない

ここからがデータベース側の話です。

うちのデータベースは国税庁の法人番号公表データが土台で、収録は5,791,529法人、うち登記記録が閉鎖されていない(=活動中)のは5,028,697法人です。

株式会社メディトランセ(法人番号 4011101060440/東京都新宿区北新宿1丁目4番7号)を引くと、2026年9月22日時点で閉鎖年月日は空欄、つまり登記記録は閉鎖されていません。破産手続開始決定が出た今も、法人番号公表サイト上では「生きている会社」として見えます。

これは異常でも何でもなく、そういう仕組みです。破産手続開始決定は会社の終わりの始まりであって、登記が閉じるのは破産手続が終結(または廃止)してからです。数か月から数年かかります。だから、法人番号公表データだけを見て「この会社は健在だ」と判断すると外す。以前倒産統計に映らない会社の終わりでも書いたとおり、登記は最後についてくる情報です。

逆に言えば、登記が閉じていないことは「無事である」証明にはならない。取引前の確認としては、新規取引先の確認事項で挙げたとおり、登記の存否と、報道・官報・信用調査は別々に当たる必要があります。

なお、同じ「株式会社メディトランセ」という商号の法人は、北海道函館市にももう1社あります(法人番号 5440001004769)。商号だけで会社を特定してはいけない典型例です。特定は法人番号で行います(法人番号から会社を調べる)。

行政の公表には、法人番号が書かれていない

外から追いかけようとして最初にぶつかる壁がこれです。

東京都が2024年3月26日に公表した10事業者の名前を、そのまま数えてみました。

半分は屋号です。そして、どちらにも法人番号は書かれていません。

屋号から法人をたどるのがどれだけ難しいか、うちのDBで数えるとはっきりします。社名に「クリニック」を含む法人は全国に9,382しかありません。一方、名称が「医療法人」で始まる法人は65,188あり、そのうち社名に「クリニック」が入るのは8,374(12.8%)。「〇〇クリニック」という看板から法人名を当てられるのは、医療法人のうち8社に1社ということです。残りの87.2%は、看板と法人名が一致しません。

しかも屋号での検索は、同名の法人を引っかけても同一である保証がない。たとえば「スキンシアクリニック」という公表名に対し、うちのDBには「株式会社スキンシア」(東京都千代田区)が1社だけあります。名前は似ていますが、公表資料に法人番号がない以上、同一かどうかは確認できません。ここで「たぶん同じだろう」と書いてしまうのが、いちばんやってはいけないことです。

店名やサービス名から運営会社をたどる一般的な手順はこちらにまとめていますが、医療は屋号と法人名の断絶が特に大きい分野です。医療法人そのものの調べ方は医療法人の経営状況を調べる方法に分けてあります。

提案:公表に法人番号を1列足すだけでいい

これは制度への注文になりますが、書いておきます。交付決定の取消しを公表するなら、法人番号を併記してほしい。 法人番号は誰でも見られる公開情報で、書いたところで新たな個人情報が出るわけではありません。番号が1列あるだけで、取引先も求職者も、その法人が今どうなっているかを自分で追えるようになります。屋号だけの公表は、結果として「調べようとした人が別の会社を誤認する」リスクを残します。

社名にPCRを含む法人は全国18社、閉鎖率22.2%

コロナ期に生まれた会社が今どうなっているか、社名から追ってみました。

うちのDBで社名に「PCR」を含む法人を全件拾うと19。ただし1社は「株式会社TOPCREW」という無関係な社名がたまたま文字列として引っかかったものなので、実質18法人です。このうち登記記録が閉鎖されているのは4法人(22.2%)。全法人の閉鎖率13.2%、株式会社に限った閉鎖率13.9%と比べると、高めに出ています。

閉鎖した4法人を並べると、時期の分かれ方が象徴的でした。

無料検査事業が終わったのが2023年5月です。畳み始めたのはその後で、2025年に2社が続いています。会社を畳む判断から登記が閉じるまでには時間がかかる、という先ほどの話がここにも出ています。

母数18はもちろん小さく、「PCR」を社名に入れた会社だけを見ているので、業界全体を代表する数字ではありません。傾向の断片として読むべきものです。

視野を広げて、社名に「検査」を含む法人で見るとこうなります。

ここで目を引くのは「その他の設立登記法人」が30.1%を占めていることです。全法人に占める同区分の割合は10.1%なので、検査業では3倍濃い。一般社団法人・医療法人といった非営利の器が、検査というビジネスでは主役級に使われているということです。器ごとの違いは法人の種類一覧にまとめてあります。

なお、社名に「一般社団法人」を含み、かつ「検査」を含む法人は167。その閉鎖率は7.8%で、一般社団法人全体の11.0%より低く出ました。「一般社団法人=怪しい」ではありません。 中身を見ると、各県の臨床検査技師会、水産物検査協会、昇降機検査協議会など、長年続いている業界団体がずらりと並びます。器の名前で判断すると必ず外します。

外から見える範囲で、何を見ればいいか

個社の話ではなく、一般化できる見方として5つ挙げます。

1. 売上が急に立った時期と、公的事業の期間が重なっていないか。 補助金・助成金・委託事業は期限つきです。事業が終われば売上も消えます。決算1期分だけを見て「成長企業」と判断しない。成長業界なのに倒産する会社で書いたとおり、伸びと安全は別の話です。

2. 売上規模に対して、受け取っている公的資金が大きすぎないか。 年商8億円台の会社に23億円の交付決定が出ていた、という今回の構図は、数字を並べた時点で違和感として見えます。規模のバランスは、外から見える数少ない手がかりです。

3. 自治体・省庁の公表ページを会社名で検索する。 交付決定の取消し、指名停止、行政処分は各自治体が公表しています。信用調査会社の評点(TDB・TSRの評点の見方)に反映される前に、公表情報のほうが先に出ていることがあります。

4. 屋号ではなく法人番号で追う。 屋号は変えられますし、同名の会社が別に存在します。法人番号は変わりません。

5. 登記が生きていることを「無事」と読み替えない。 破産手続中でも登記は開いています。逆に、登記が閉じていても合併による消滅かもしれません。登記は状態を示すだけで、評価ではありません。

この記事の数字の限界

正直に書いておきます。

よくある質問

破産手続開始決定が出たのに、法人番号公表サイトで「閉鎖」になっていないのはなぜですか

順番が違うからです。破産手続開始決定は裁判所が手続の開始を決めた時点で、会社の法人格はまだ残っています。登記記録が閉鎖されるのは破産手続が終結(または廃止)した後で、そこまで数か月〜数年かかります。公表データ上「活動中」であることは、事業が続いていることの証明にはなりません。

補助金を返せと言われた会社は、必ず倒産するのですか

しません。返還命令は行政上の措置で、資力があれば返して事業を続けられます。倒産に至るかどうかは、返還額がその会社の体力に対してどれだけ大きいかという別の問題です。今回のように交付済額が年商を大きく超えているケースは、返済の目処が立ちにくいというだけのことです。

行政の公表資料にクリニック名しか書かれていません。運営法人をどう特定すればいいですか

確実な近道はありません。手がかりは、①そのクリニックの公式サイトの「医療法人〇〇会」表記や運営者情報、②医療機能情報提供制度(各都道府県のページ)に載る開設者名、③保健所が出す診療所一覧。ここで法人名が取れたら、国税庁の法人番号公表サイトで法人番号に変換します。推測で同名法人を当てはめないことが何より大事です。うちのDBで数えると、医療法人65,188のうち社名に「クリニック」が入るのは8,374(12.8%)しかありません。

「一般社団法人」が相手だと警戒したほうがいいですか

器の種類だけでは判断できません。うちのDBで社名に「検査」を含む一般社団法人は167あり、閉鎖率は7.8%と、一般社団法人全体の11.0%より低く出ています。中身は県の臨床検査技師会や業界団体が大半です。一方で、設立が比較的容易な器でもあるので、設立時期・所在地・事業の実態を個別に見る必要があります。判断材料の集め方は取引先の信用を調べるにまとめています。

まとめ

補助金そのものは悪ではありません。ただ、補助金が作った売上は、会社の継続力とは別の数字です。外から会社を見るときは、その売上がどこから来ているのかを一度分けて考える。それだけで、見え方がかなり変わります。

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この記事で使った一次資料:東京都「PCR等検査無料化事業補助金交付決定取消し等について」(2023年6月2日公表) https://www.spt.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/06/02/11.html /東京都「PCR等検査無料化事業補助金交付決定の取消し等について」(2024年3月26日公表) https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2024/03/2024032615 /帝国データバンク 倒産速報「株式会社メディトランセ」 https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5260/ /東京新聞 2026年9月18日「コロナ事業で補助金を不正受給『メディトランセ』が破産」 https://www.tokyo-np.co.jp/article/515817 /うちのデータベース(国税庁 法人番号公表データ・2026年9月時点の断面、収録5,791,529法人/活動中5,028,697法人)

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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