✍ 古家あきら | 2026-09-22 更新

医療法人の経営状況・役員を調べる方法 — 決算書は都道府県で「誰でも」見られる。ただしgBizINFOに代表者名が出ている医療法人は60,118法人中171(0.3%)

先に結論から。医療法人の決算書(事業報告書・貸借対照表・損益計算書)は、主たる事務所のある都道府県に請求すれば誰でも閲覧できます。 根拠は医療法第52条第2項で、都道府県知事は「請求があつた場合には……これを閲覧に供しなければならない」と、義務の形で書かれています。株式会社の決算が原則として上場会社と決算公告を出している会社しか見られないのと比べると、医療法人は制度上「外から見えやすい側」の法人です。

一方で、会社を調べるときの定番ツールがそのままでは効かないのも事実です。うちのデータベースで数えると、gBizINFOに代表者名が載っている医療法人は現存60,118法人のうち171法人、0.3%しかありません。株式会社なら「gBizINFOで代表者を引く」が最初の一手ですが、医療法人ではその手が空振りします。この記事は、その空振りを避けて「どこに何が公開されているか」を制度の順番でまとめたものです。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「内定先が医療法人社団○○会なんですが、会社みたいに調べられますか」「取引先の病院の運営母体がどこで、経営は大丈夫なのか知りたい」という質問が定期的に届きます。医療の中身や受診の是非には踏み込みません。制度としてどこに何が公開されているかに徹します。

医療法人は全国に何法人あるか — 厚労省59,893、うちのDBでは60,118

まず母数です。厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」によると、令和8年(2026年)3月31日現在の医療法人数は59,893。内訳は社団59,514・財団379で、社団のうち持分あり35,104・持分なし24,410です。特定医療法人は299、社会医療法人は380です。同じ表で昭和45年は2,423法人ですから、半世紀で約25倍になっています。昭和63年の5,915から平成元年の11,244へ一気に跳ねているのは、昭和60年の医療法改正で医師一人でも法人を設立できる「一人医師医療法人」が認められ、個人開業医の法人化が進んだ影響です(東京都保健医療局「医療法人制度の概要」)。

うちのデータベース(国税庁の法人番号公表データが土台・全国5,791,529法人・2026年9月時点の断面)で、名称が「医療法人」で始まる法人を数えると65,188法人、うち登記記録が閉鎖されていない現存法人が60,118でした。これとは別に、名称が「社会医療法人」で始まる現存法人が391あります。頭に「社会」が付くぶん「医療法人」始まりの検索には引っかからないので、別に数えました。両方を足すと60,509で、厚労省の59,893との差は616(約1.0%)。断面日のずれ(3月末と9月)と、解散後も清算が終わるまで登記に残る法人の分と考えれば、国の統計とうちの実数はほぼ一致していると見てよい数字です。

ここで一つ注意があります。登記上の名称には「社団」「財団」が入っていないことが多い。 厚労省の統計では財団は379法人ですが、名称に「財団」を含むのは213しかありません。「医療法人○○会」と書いてあるだけでは社団か財団か、持分ありかなしかは分かりません。それを確かめるには、後述する定款(社団)または寄附行為(財団)の閲覧が要ります。

都道府県別 — 東京都が12.8%、山梨県が最少

現存60,118法人の所在地(主たる事務所)を都道府県別に数えると、上位は次のとおりです。

| 順位 | 都道府県 | 現存医療法人数 | |---|---|---| | 1 | 東京都 | 7,704 | | 2 | 大阪府 | 5,011 | | 3 | 神奈川県 | 3,901 | | 4 | 福岡県 | 3,302 | | 5 | 埼玉県 | 2,963 | | 6 | 兵庫県 | 2,638 | | 7 | 北海道 | 2,623 | | 8 | 愛知県 | 2,601 | | 9 | 千葉県 | 2,378 | | 10 | 広島県 | 1,578 |

東京都だけで12.8%。最も少ないのは山梨県277、次いで鳥取県311、富山県342、島根県345、福井県349です。都道府県別に数えたのは、医療法人の書類は「主たる事務所のある都道府県」が持っているからです。どの都道府県に請求するかが、調べる側の最初の分岐になります。

なぜ医療法人は「外から見える」のか — 医療法第51条・第52条

制度の骨格は3つの条文で決まっています。

第51条(作成)。 医療法人は毎会計年度終了後2か月以内に、事業報告書・財産目録・貸借対照表・損益計算書・関係事業者との取引の状況に関する報告書などを作らなければなりません(第1項)。「関係事業者」とは、条文の言葉では「理事長の配偶者がその代表者であることその他の当該医療法人又はその役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者」です。つまり理事長の親族が経営する会社との取引が、報告書として毎年作られます。監事の監査も義務で(第4項)、一定規模以上の法人は公認会計士または監査法人の監査も受けます(第5項)。

第52条(届出と閲覧)。 医療法人はその書類を、毎会計年度終了後3か月以内に都道府県知事へ届け出ます(第1項)。そして第2項が要点です。

> 都道府県知事は、定款若しくは寄附行為又は前項の届出に係る書類について請求があつた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、これを閲覧に供しなければならない。

「閲覧に供することができる」ではなく「供しなければならない」。請求する側に資格の限定もありません。宗教法人が「信者その他の利害関係人」にしか閲覧を認めていないのと対照的です。

第53条(会計年度)。 医療法人の会計年度は4月1日に始まり翌年3月31日に終わります(定款・寄附行為に別段の定めがあればその限りでない)。多くの法人は3月決算で、届出期限は6月末。都道府県で新しい年度の書類が見られるようになるのは、早くて夏以降と考えておくと待ち時間の見当がつきます。

ついでに第54条も引いておきます。「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」——株式会社との最大の違いはここで、利益が出ても出資者に配当できません。経営状況を見るときに「配当性向」のような株式会社の物差しは使えない、と覚えておいてください。

実際にどう見るか — 東京都は「オンライン閲覧」に移行済み

閲覧の窓口は都道府県ごとに違います。例として東京都を挙げると、東京都保健医療局は「東京都医療法人情報支援システム」で事業報告書等をオンライン閲覧できるようにしていて、令和5年10月27日をもって来庁による閲覧は廃止されています。閲覧できるのは「事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引状況に関する報告書、監事の監査報告書等」の直近3か年分と、定款(医療法人社団のみ、最終改正版)。利用は「都民・事業者等、どなたでも利用が可能」と明記されていますが、閲覧には申請が要ります。

他の道府県では、いまも窓口での閲覧や郵送での写しの交付が中心のところがあります。手順は「都道府県名 医療法人 事業報告書 閲覧」で当該県の医務担当課のページを引くのが確実です。制度は全国共通(医療法第52条)で、窓口の運用だけが違う、と理解しておけば迷いません。

見られる書類で何が分かるか

「経営情報の報告制度」— 令和5年8月に始まった、もう一つの仕組み

事業報告書等の閲覧とは別に、2023年8月1日施行の改正医療法第69条の2で、医療法人は自分が開設する病院・診療所ごとに「その収益及び費用その他の厚生労働省令で定める事項」を都道府県知事に報告する義務を負いました。厚労省の資料では、報告項目は病院等の基本情報、収益と費用の内容、職員の職種別人員数などです。報告期限は会計年度終了後3か月以内(公認会計士等の監査を受ける法人は4か月以内)。租税特別措置法第67条の「社会保険診療報酬の所得計算の特例」(いわゆる四段階税制)を適用した年度は報告対象外です。

集めた情報は国の「医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)」に蓄積されます。ここで期待しすぎないでほしいのは、このデータベースは個別法人の数字を検索して見るためのものではないという点です。改正法の条文は、都道府県知事が「調査及び分析を行い、その内容を公表するよう努める」という努力義務で、厚労省の説明でも「属性等に応じてグルーピングした分析結果の公表」と「研究者等へ提供する制度」が柱です。「○○会の病院の収益」を1件ずつ引ける公開検索は、この制度の中にはありません。 個別の法人を見たいなら、あくまで第52条の閲覧です。

つまり整理するとこうなります。

| 知りたいこと | 使う制度 | 誰が見られるか | |---|---|---| | 法人全体の決算・役員・親族取引 | 医療法第52条 事業報告書等の閲覧(都道府県) | 誰でも(請求が要る) | | 病院・診療所ごとの収益・費用 | 医療法第69条の2 経営情報の報告(MCDB) | 個別には公開されない。属性別の分析結果と研究者提供 | | 病院・診療所の基本情報(診療科・所在地) | 医療情報ネット「ナビイ」(厚労省) | 誰でも・検索自由 | | 法人の実在・所在地・登記閉鎖 | 法人番号公表サイト・うちのDB | 誰でも・検索自由 |

役員(理事長・理事・監事)を調べる — gBizINFOでは0.3%しか出ない

医療法人の役員の枠組みは医療法第46条の5にあります。理事3人以上と監事1人以上が必須(都道府県知事の認可があれば理事1〜2人で足りる)。社団なら社員総会、財団なら評議員会が役員を選びます。法人が開設する病院・診療所の管理者(院長)は理事に加えなければならず、監事はその法人の理事や職員を兼ねられません。

役員の氏名を確認する手段は、外から見える順に3つです。

1. 登記事項証明書。理事長は医療法人の代表者として登記されます(代表者の調べ方は会社と同じ手順で、法務局または登記情報提供サービス)。理事長以外の理事・監事は登記事項ではありません。 2. 第52条の閲覧で見る事業報告書。役員の状況が載っており、理事・監事の全員が分かります。 3. gBizINFO。ただし、ここが会社と違います。

うちのデータベースはgBizINFOの基本情報を法人番号で突合しています。現存の医療法人60,118法人のうち、gBizINFOに代表者名が載っているのは171法人(0.3%)。従業員数が載っているのは6,547法人(10.9%)、ウェブサイトのURLが載っているのは1,789法人(3.0%)でした。参考までに、全現存法人(5,028,697)で代表者名が載っているのは66,907法人(1.3%)なので、もともと網羅率の高い項目ではないのですが、医療法人ではさらに低い。gBizINFOの代表者名は主に上場・大手や補助金・許認可の届出から集まるため、医療法人はその収集経路にほとんど乗っていないからだと考えています。

要するに、「gBizINFOに出てこない=怪しい」は医療法人には当てはまりません。 出てこないのが普通です。役員を見るなら登記か第52条閲覧、と最初から決めておくのが早道です。

病院の「運営母体」を逆に引く — 医療機能情報提供制度

「○○病院の運営母体はどこか」という逆方向の質問もよく受けます。病院名は分かるが、法人名が分からないケースです。

一つの医療法人が複数の病院・診療所・介護老人保健施設を開設していることは珍しくありません。第46条の5第6項が「その開設する全ての病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院」の管理者を理事に加えるよう求めているのは、まさにその前提です。運営母体を調べるときは「この施設だけ」でなく「この法人が持つ施設の全部」を事業報告書で見るのが筋です。

医療法人の「終わり方」— 閉鎖5,070件の内訳は清算84.7%・合併9.2%

うちのデータベースで、名称が「医療法人」で始まる法人のうち登記記録が閉鎖されているのは5,070件(65,188件中7.8%)。前に種類別で数えたとき、株式会社の13.9%、NPO法人の24.3%と比べて低い側でした。閉鎖の理由(法人番号公表データの登記記録閉鎖等年月日の事由)を分けると次のとおりです。

株式会社と違って医療法人には「12年間登記がない会社のみなし解散」のような一斉整理の仕組みがないので、閉鎖のほとんどが自分で清算を終えたものです。倒産(破産・民事再生)で終わった法人も、法人番号のデータ上は「清算の結了等」に含まれます。 破産かどうかを見分けたいときは、この数字ではなく官報の公告や会社の実在・倒産の確認方法で書いた手順に戻ってください。

もう一つ、合併465件は覚えておく価値があります。医療法人の合併は医療法第57条以下で認められており、地域で病院を集約する動きの中で起きます。求人票の法人名と登記上の法人名が違うときは、合併・買収後の法人番号の扱いで書いたとおり、吸収された側の番号が閉鎖されている可能性を先に疑うと早いです。

応募先・取引先が医療法人だったときの確認順

1. 法人名と法人番号を確定する。 「医療法人社団」を外した「○○会」で法人番号公表サイトかうちのDBを検索。所在地(主たる事務所の都道府県)と、登記閉鎖の有無を見る。 2. 登記事項証明書で理事長を確認する。 代表者名はここが一次資料。 3. 主たる事務所の都道府県に、第52条の閲覧を請求する。 貸借対照表・損益計算書で純資産と損益、事業報告書で開設施設の一覧と役員、関係事業者取引報告書で親族会社との取引。東京都はオンライン、他はその県の医務担当課のページで手順を確認。 4. 社団か財団か、持分ありか。 定款・寄附行為で確認。名称からは判別できない。 5. 病院・診療所の側から確認する。 医療情報ネット「ナビイ」で施設の基本情報。同じ法人が持つ施設が他にないかも事業報告書で照合。 6. 社会医療法人・特定医療法人かどうか。 名称に「社会医療法人」を冠する現存法人はうちのDBで391、厚労省の認定状況は令和8年4月1日現在380。社会医療法人の認定は都道府県知事が行うもので、名称は手がかりにはなるが確定ではないので、厚労省が公表する認定状況の一覧で照合する。特定医療法人は税法上の承認で名称には必ずしも出ない(名称に含む法人はうちのDBで37)。 7. 求人票の労働条件は法人の書類とは別。 給与や休日は求人票の見方、許認可や指定の状況は許認可の調べ方の手順で。

なお、うちのデータベースの法人ページには、医療法人については法人番号・名称・所在地・登記閉鎖の有無までしか載っていません。決算や役員はDBの外、都道府県の閲覧制度にあります。「DBで出てこないから分からない」ではなく、「DBで法人を確定して、都道府県で中身を見る」という二段構えが医療法人の調べ方です。

よくある質問

医療法人の決算書は本当に誰でも見られるのですか

はい。医療法第52条第2項は、都道府県知事に対し、定款・寄附行為と届出書類について「請求があつた場合には……閲覧に供しなければならない」と定めています。請求者の資格は限定されていません。東京都のオンライン閲覧の案内でも「都民・事業者等、どなたでも利用が可能」とされています。ただし申請手続きは要ります。

医療法人経営情報データベース(MCDB)で個別の病院の収益を検索できますか

できません。医療法第69条の2は都道府県知事に「調査及び分析を行い、その内容を公表するよう努める」よう求める規定で、厚労省の説明でも公表されるのは「属性等に応じてグルーピングした分析結果」です。個別の法人・施設の収益を見たいなら第52条の閲覧を使ってください。

「医療法人○○会」と書いてあるだけで、社団か財団か分かりますか

分かりません。厚労省の統計では財団は379法人ありますが、うちのDBで名称に「財団」を含む現存法人は213です。登記上の名称に「社団」「財団」を入れていない法人が多数です。定款(社団)か寄附行為(財団)を閲覧すれば確定します。

gBizINFOで医療法人を検索しても代表者名が出ないのは、情報を隠しているからですか

違います。うちのDBで数えると、現存医療法人60,118法人のうちgBizINFOに代表者名が載っているのは171法人(0.3%)で、出ていないのが普通です。代表者(理事長)は登記事項証明書で、理事・監事の全員は第52条閲覧の事業報告書で確認できます。

医療法人が倒産したかどうかは法人番号のデータで分かりますか

分かりません。登記記録が閉鎖されていれば「清算の結了等」などの事由は分かりますが、破産や民事再生で終わった法人も同じ事由に入ります。また再建型の手続き中は登記が閉鎖されません。倒産の有無は官報の公告と信用調査会社の情報で確認してください。

まとめ

参照した一次資料

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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