✍ 古家あきら | 2026-09-29 更新
介護のサンウェルズ、希望退職に枠の約2倍の231人が応募、辞められたのは112人。人員配置基準がある仕事の「希望退職」の読み方と、しょくばログDBで数えた社名に「訪問看護」を持つ法人358社
先に結論です。介護や看護の職場の希望退職は、「手を挙げた人が全員辞められる」とは限りません。 施設ごとに法律で決められた人員を置かなければ事業を続けられないため、会社は応募者の中から、配置基準を満たせる範囲で退職を認める人を選びます。サンウェルズの希望退職では、最大120名程度の募集に231名が応募し、適用が決まったのは112名でした。応募者のうち半分以上は、会社に残ることになります。
出典:希望退職者の募集結果及び特別損失の計上に関するお知らせ(株式会社サンウェルズ、2026年9月24日、適時開示)
出典:サンウェルズ希望退職112人に 特損8900万円、借入金は元本返済猶予(日本経済新聞、2026年9月24日)
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、希望退職のニュースが出たあとに、その会社の名前や「希望退職 応募 辞められない」のような言葉で調べる人が増えます。ここでは、会社の開示と大手メディアの報道で確認できる事実と、しょくばログの台帳で数えられる数字だけを使います。個別の会社の良し悪しを言う記事ではありません。
何が起きたのか(開示と報道で確認できる事実)
サンウェルズは金沢市に本社を置く東証プライム上場の会社で、パーキンソン病の方を専門にした介護施設を運営しています。
- 2026年9月1日:希望退職者の募集を公表。対象は会社が定める対象エリアに所属する介護職・看護職・リハビリ職の一般社員
- 募集人数:最大120名程度(日本経済新聞によると、対象者の約4%)
- 募集期間:2026年9月1日から9月15日
- 退職日:2026年10月31日。対象者には通常の退職金に加えて「転身支援特別退職金」を支給
- 2026年9月24日:募集結果を公表。応募者231名、適用決定者112名
- 費用:転身支援特別退職金などで約89百万円を、2027年3月期第2四半期に特別損失として計上する予定。業績への影響は軽微と会社は見込んでいる
募集の理由について、日本経済新聞は、2026年6月の診療報酬改定で訪問看護の評価方法が変わり収益性が悪化したこと、地域を越えた異動が難しい場合が多く人員配置を適正化する必要があったことを挙げています。
出典:サンウェルズ、希望退職者募集 診療報酬改定への対応のため(日本経済新聞、2026年9月1日)
同じく日本経済新聞によると、同社は取引するすべての金融機関から、2026年10月1日から2027年3月31日まで借入金の元本返済の猶予を認められています(その間は利息のみを返済)。2027年3月期を「構造改革期間」と位置付け、その理由として診療報酬の不適切な請求があったことへの対応と、診療報酬改定による収益悪化を挙げています。
応募231人のうち、なぜ112人だったのか
開示文書は、適用を判断した基準をはっきり書いています。
- 各施設・職種の人員配置の状況
- 介護保険法その他の法令上の人員配置基準
- 各種加算の算定要件を満たしているか
- 業務の引き継ぎが必要かどうか
介護や看護のサービスは、利用者の数に対して置かなければならない職員の数や資格が決まっています。基準を下回ると、そのサービスを続けられなくなったり、報酬に上乗せされる「加算」が取れなくなったりします。ですから、同じ施設の看護職が一度に何人も手を挙げると、会社はその全員を送り出すことができません。
一般の事務職の希望退職でも、会社が「業務に支障がある」として応募を断ることはあります。ただ、介護・看護では、その線引きが法律の基準で決まる点が違います。自分の施設や職種で人が足りているかどうかで、同じ条件で応募しても結果が分かれます。
働いている人が確かめておきたいこと
一般論として、希望退職に応募するかを考えるときは、次の点を先に確かめておくと判断しやすくなります。
- 応募=退職の確定ではない:募集要項に「会社が適用を決める」と書かれているか。認められなかった場合に、応募したことで不利に扱われないかも確認する
- 特別退職金の条件:対象者全員に出るのか、適用が決まった人だけか。通常の退職金の計算方法とあわせて、会社の退職金制度の調べ方の記事で見方を整理しています
- 資格と地域:介護福祉士や看護師の資格があれば、同じ地域の別の事業所で働く道がある。応募の前に、通える範囲にどんな運営法人があるかを見ておくと安心です
希望退職を募った会社がその後どうなるかの読み方は、希望退職を募る会社はその後どうなるかを整理した記事で書いています。
しょくばログの台帳で見えること
サンウェルズは台帳上「活動中」の上場法人
しょくばログの台帳(国税庁の法人番号公表データが元)では、株式会社サンウェルズは石川県金沢市二宮町に本店がある法人として載っており、登記は閉鎖されていません。EDINETの提出者一覧でも上場会社として確認できます。介護サービス情報公表システムと障害福祉サービスの公表データにも、同社が運営する事業所が載っています。
同じ名前の会社と取り違えないためには、13桁の法人番号で照合するのが確実です。調べ方は法人番号の調べ方の記事にあります。介護事業所から運営法人をたどる方法は、介護事業所の運営法人を調べる方法の記事にまとめています。
社名に「訪問看護」を含む法人は358社、3社に1社強が合同会社
今回の募集理由に出てきた訪問看護について、社名に「訪問看護」を含む法人を全国で数えると358社ありました。登記が閉じているのは44社で、閉鎖率は12.3%です。閉鎖率は、台帳に載っている法人のうち、すでに登記が閉じている法人の割合です(いつ閉じたかは問いません)。台帳全体の閉鎖率は13.3%です。
会社の種類で分けると、次のようになりました。
- 株式会社:133社(37.2%)、閉鎖12社(9.0%)
- 合同会社:127社(35.5%)、閉鎖16社(12.6%)
- 一般社団法人・NPO法人などその他の法人:65社(18.2%)、閉鎖7社
- 有限会社:33社(9.2%)、閉鎖9社(27.3%)
比べるために、社名に「介護」を含む法人を数えると4,281社、閉鎖率は17.1%でした。こちらの合同会社は600社(14.0%)で、有限会社が1,247社(29.1%)あります。
有限会社は2006年5月の会社法施行以降は新しく作れず、合同会社はその時に始まった形です。社名に「訪問看護」を持つ法人は合同会社の割合が「介護」の2倍以上あり、比較的新しく作られた小さな法人が多いことがうかがえます。会社の種類の違いは持分会社(合同・合資・合名)とは何かを整理した記事で書いています。
なお、社名に「訪問看護」が入っていない訪問看護の事業者も多くあります。ここでの数字は「社名から訪問看護と読み取れる法人」に限った断面です。9月上旬に訪問介護・訪問看護の事業者3法人の破産がまとめて出た件は、訪問介護・訪問看護の3法人破産を扱った記事で整理しています。
よくある質問
希望退職に応募したのに認められないことはありますか?
あります。サンウェルズの例では、応募者231名のうち適用が決まったのは112名でした。介護・看護では法律で決められた人員配置の基準があるため、会社は基準を満たせる範囲で適用を判断します。募集要項に「適用の可否は会社が決める」と書かれているかを確認してください。
希望退職で辞めた場合、失業保険は会社都合になりますか?
希望退職の募集に応じた退職は、一般に雇用保険で会社都合に近い扱いを受けられる場合があります。ただし最終的な判断はハローワークが行うため、離職票の記載とあわせて確認してください。詳しくは希望退職を募る会社の記事で触れています。
社名に「訪問看護」を含む法人の閉鎖率が低いのは、経営が安定しているということですか?
そうとは言えません。閉鎖率は登記が閉じた法人の割合で、個々の法人の経営状態を示すものではありません。新しく作られた法人が多い分野は、閉じるまでの年月がまだ短いため、閉鎖率が低めに出ることがあります。
希望退職を募った会社は、上場していない会社でも分かりますか?
上場企業には、希望退職のような決定を公表する適時開示のルールがありますが、上場していない会社には公表の義務がありません。そのため、非上場の会社の希望退職は、報道されない限り外からは分かりにくいのが実情です。
まとめ
- サンウェルズは2026年9月1日に最大120名程度の希望退職を募り、231名が応募、112名の適用が決まった(退職日は10月31日、特別損失は約89百万円の見込み)
- 適用の判断には、介護保険法などの人員配置基準や加算の算定要件の充足状況が使われた
- 日本経済新聞によると、募集の背景は6月の診療報酬改定による訪問看護の収益悪化と、地域を越えた異動の難しさ
- しょくばログの台帳では、社名に「訪問看護」を含む法人は358社、閉鎖率12.3%(台帳全体は13.3%)。合同会社が35.5%を占め、社名に「介護」を含む法人(合同会社14.0%)より新しい法人が多い
介護・看護の職場では、辞めたい人の数と、辞めてもらえる人の数が法律の基準で分かれます。希望退職の知らせが出たときは、条件の良し悪しだけでなく、自分の施設・職種で適用が認められそうか、認められなかったらどうするかまで考えておくと、落ち着いて判断できます。