✍ 古家あきら | 2026-09-15 更新

応募先に退職金制度があるか調べる方法 — 制度がある会社の割合は規模と業種でこれだけ違う

先に結論です。退職金は法律で義務づけられた制度ではなく、「ある会社」と「ない会社」があります。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある会社は74.9%。つまり4社に1社は退職金がありません。しかもこの割合は会社の規模と業種で大きく違い、1,000人以上の会社では90.1%、30〜99人の会社では70.1%、宿泊業・飲食サービス業では42.2%です。

応募先に制度があるかは、次の4つの経路で確認できます。求人票の「退職金制度」欄、会社サイトの採用ページ(募集要項)、中小企業退職金共済(中退共)の加入事業所検索、就業規則の退職金規程です。この順に手軽で、後ろに行くほど確実になります。

ただ、しょくばログという全国の会社データベースを運営していて気づいたことがあります。会社サイトの採用ページを32,838社分取得してあるのですが、その中で「退職金」という語が出てくるのは6,443社、5社に1社だけでした。制度がある会社が7割を超えるはずなのに、書いてある会社は2割。この差は「制度はあるが書いていない会社」が大量にあることを意味します。書いていない=ない、ではありません。この記事は、その前提で「どこを見れば分かるか」「数字をどう読むか」を分解します。

まず前提 — 退職金は義務ではなく、あっても「勤続3年から」が多い

退職金について、法律はこう決めています。

もう一つ、制度が「あっても自分がもらえるか」は別問題です。多くの会社は退職金に勤続年数の要件を置いています。うちのデータで、採用ページに「退職金」と「勤続◯年」の両方を書いている788社を数えると、3年以上が488社(61.9%)で圧倒的多数、次いで1年以上が91社(11.5%)、2年以上が82社(10.4%)、5年以上が81社(10.3%)でした。転職を繰り返す前提で考えるなら、「制度があるか」と同じくらい「何年で権利が発生するか」が重要です。

調べ先は4つ — 手軽な順に、確実な順に

1. 求人票の「退職金制度」欄

ハローワークの求人票には「加入保険等」の欄に退職金制度 あり/なしと、あるときは「勤続◯年以上」の要件、さらに退職金共済 加入/未加入の欄があります。ハローワーク求人は会社が自分で申告して書くもので、ここが空欄ということはまずありません。応募先がハローワークに出していれば、これが一番早い確認手段です。求人票全体の読み方は求人票の見方で整理しています。

民間の求人媒体では「待遇・福利厚生」欄に書かれますが、書式が自由なので書いていない会社が多いのが実態です。書いていないときは、次の経路へ進みます。

2. 会社サイトの採用ページ(募集要項)

会社サイトの募集要項に「退職金制度あり」「退職金制度(勤続3年以上)」と書いてある会社があります。ここで見るべきは「あり」の一言だけでなく、どんな制度かです。うちのデータで「退職金」に触れている6,443社の中身を見ると、次のような語が一緒に出てきます。

制度の種類が書いてあれば、それだけ具体的に設計している会社です。逆に「退職金制度あり」の一言だけだと、社内で積み立てているのか、外部の共済に預けているのか、いくらもらえる設計なのかが分かりません。面接で聞くべき点は最後にまとめます。

3. 中退共の「加入事業所検索」

中小企業退職金共済制度(中退共)は、国の機関(独立行政法人勤労者退職金共済機構)が運営する、中小企業向けの退職金の外部積立制度です。会社が毎月掛金を払い、退職時に機構から従業員に直接退職金が支払われます。中退共の令和6年度年次統計表によると、令和7年3月末時点の共済契約者(加入事業主)は377,734事業所、被共済者(加入従業員)は3,575,790人です。

中退共の公式サイトには「加入事業所検索」があり、会社名と所在地で加入しているかどうかを誰でも調べられます。応募先が中小企業なら、ここで名前が出れば「退職金制度があり、しかも外部に積み立てているので会社が倒産しても退職金は守られる」ということまで分かります。厚労省の調査でも、退職一時金制度がある会社の支払準備形態は「社内準備」が56.5%、「中小企業退職金共済制度」が42.0%、「特定退職金共済制度」が9.9%(複数回答)で、30〜99人の会社に限ると中退共が48.5%と社内準備の49.6%に並びます。中小企業では、中退共に入っているかどうかが退職金の有無とほぼ重なる、と言っていい規模です。

建設業には別に「建退共(建設業退職金共済)」があります。現場で働く人が対象で、加入している会社は採用ページや求人票に「建退共加入」と書いていることが多く、うちのデータでも129社がその語を載せていました。

4. 就業規則の退職金規程

一番確実なのは就業規則です。上で書いたとおり、制度があるなら退職手当の規定は就業規則に必ず載っています。常時10人以上の事業場は就業規則を労働基準監督署に届け出る義務があり、従業員への周知も義務です。ただし外部の人が労基署で閲覧することはできません。応募段階で見られるのは、面接や内定後に「退職金規程を見せてほしい」と頼んだ場合です。内定後であれば、労働条件の確認として頼むのは自然なことで、見せるのを渋る会社のほうが心配です。

会社の制度全般をどう外から調べるかは、会社の福利厚生を無料で調べる方法でまとめています。退職金はその中でも「書かれにくい割に金額が大きい」項目なので、この記事で各論にしました。

制度がある会社の割合 — 厚労省の数字を規模別・業種別に見る

厚生労働省の令和5年就労条件総合調査(常用労働者30人以上の民営企業が対象)から、退職給付(一時金・年金)制度がある会社の割合です。

企業規模別はこうです。

30〜99人の会社は10社に3社が退職金なし。この調査は30人以上が対象なので、30人未満の会社は含まれていません。制度の有無が規模に比例している以上、30人未満ではさらに低いと考えるのが自然です。

産業別ではもっと差が開きます。

宿泊・飲食は半分以上の会社に退職金がありません。これは「その会社が悪い」という話ではなく、業界の構造です。逆に金融や電気・ガスで退職金がない会社は例外的で、もし「なし」なら理由を聞く価値があります。

もう一つ見ておきたいのは推移です。平成30年調査では制度がある会社は80.5%でした。5年で5.6ポイント減っています。退職金制度は「昔からある当たり前のもの」から、「ある会社とない会社に分かれるもの」に変わりつつある、というのが調査の示す方向です。

制度の中身 — 一時金か年金か、社内か外部か

「退職金制度あり」の中身は一様ではありません。同じ調査で、制度がある会社の形態別の割合はこうなっています。

規模で見ると、30〜99人の会社は一時金のみが77.2%、1,000人以上では一時金のみは25.9%で両制度併用が47.1%。小さい会社は一時金、大きい会社は年金との組み合わせという構図です。

退職年金制度がある会社の支払準備形態(複数回答)は、確定拠出年金(企業型)が50.3%、確定給付企業年金が44.3%、厚生年金基金(上乗せ給付)が19.3%。うちのデータで採用ページに「確定拠出年金・企業型DC」を書いている会社が1,846社と多かったのは、この流れの反映です。確定拠出年金は会社が掛金を出し、運用は従業員が自分で行う制度なので、「退職金制度あり」と書いてあっても受け取る額は確定していません。ここは一時金制度との大きな違いです。

金額の目安も同じ調査にあります。勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の1人平均退職給付額は、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,896万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,682万円、高校卒(現業職)で1,183万円。月収換算では34〜39か月分です。ただしこれは「制度があり、かつ該当する退職者がいた会社」の平均で、会社の規模で大きく違います。求人票の月給と合わせて生涯の受取額を考えるときは、求人票の給与欄の読み方と中小企業の賞与・昇給の相場も参考にしてください。

うちのデータで見る — 採用ページに「退職金」を書いている会社はどれだけあるか

ここからは、しょくばログが持っている会社サイトの採用ページ32,838社分(gBizINFOに公式サイトが登録されている会社のうち、2026年6月に採用ページや会社案内の文章を取得できた会社)で数えた結果です。

全体では、「退職金」という語が出てくるのが6,443社(19.6%)、「退職金制度」まで書いてあるのが4,910社(15.0%)でした。制度がある会社が7割を超えるはずの国で、採用ページに書いてあるのは2割です。

従業員規模別の記載率はこうです(採用ページを取得した会社/「退職金」の記載あり/記載率)。

30人未満の会社は7社に1社しか書いていません。30人を超えると4社に1社で頭打ちになり、1,000人以上でやや下がります。年間休日の記事で見たのと同じ形で、大企業は会社サイト本体に募集要項を置かず新卒サイトや求人媒体に分けているためです。

業種別の記載率はこうです(採用ページを500社以上取得できた業種のみ。業種は日本標準産業分類の大分類)。

厚労省の「制度がある割合」と並べると、金融・保険が最上位、宿泊・飲食が最下位という順番は一致します。制度が多い業界ほど書く、少ない業界ほど書かない。ただし建設業は厚労省の制度保有率では82.9%と中位なのに、記載率では34.6%と2位です。建設業は建退共という業界共通の仕組みがあり、「建退共加入」を採用ページに書く文化があるためだと見ています。

「退職金なし」と明記している会社は何社か

面白いのはここです。32,838社のうち、採用ページに「退職金なし」「退職金制度はありません」と明記している会社は99社しかありませんでした。厚労省の数字から推定すれば、制度がない会社は4社に1社、つまり8,000社規模でいるはずです。それが99社。

つまり、制度がない会社は「なし」と書かない。ただ書かない。これが採用ページの現実です。「退職金」の語がない会社が26,395社ありますが、その中には「制度はあるが書いていない会社」と「制度がなくて書いていない会社」が混ざっていて、採用ページだけでは区別できません。

だから調べ方の結論はこうなります。採用ページに書いてあれば「ある」と分かる。書いていなければ「分からない」であって「ない」ではない。書いていない会社に応募するなら、ハローワーク求人票か中退共の検索で当たり、それでも分からなければ面接で聞く。この手順を省いて「書いてないから無いんだろう」と決めるのは、7割の会社を誤解することになります。

面接・内定時に聞くべき3点

制度が「ある」と分かったら、次はこの3点です。

聞きにくいと感じる人が多い項目ですが、退職金は年収の数か月分から数年分に相当する労働条件です。残業や休日と同じ「条件の確認」として、内定後の労働条件通知の場面で聞くのが自然です。残業や有給の外からの調べ方はこちらにまとめています。

よくある質問

退職金がない会社は違法ですか?

違法ではありません。労働基準法に退職金の支給を義務づける規定はなく、制度を設けるかどうかは会社の自由です。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、30人以上の会社の24.8%に退職給付制度がありません。ただし、制度を設けたのに就業規則に書かない、就業規則に書いてあるのに払わない、という場合は労働基準法違反や賃金未払いの問題になります。

求人票に退職金の記載がなければ「ない」と考えていいですか?

いいえ。うちのデータでは、会社サイトの採用ページに「退職金」を書いている会社は5社に1社で、「なし」と明記している会社は32,838社中99社だけでした。制度があっても書かない会社が大半です。ハローワーク求人票の「退職金制度」欄、中退共の加入事業所検索、面接での質問で確認してください。

中退共に加入している会社は、退職金があるということですか?

はい。中小企業退職金共済は、会社が毎月掛金を払い、退職時に機構から従業員へ直接退職金が支払われる制度です。加入していれば制度があり、しかも会社の外に積み立てられているので、会社が倒産しても退職金は守られます。中退共の公式サイトの「加入事業所検索」で、会社名と所在地から加入の有無を誰でも調べられます。令和7年3月末時点で377,734事業所が加入しています。

退職金は何年勤めればもらえますか?

会社ごとに就業規則の退職金規程で決まっていて、法律上の基準はありません。うちのデータで、採用ページに勤続要件を書いている788社を数えると「3年以上」が61.9%で最多、「1年以上」11.5%、「2年以上」10.4%、「5年以上」10.3%でした。3年未満で辞めると出ない設計が標準だと考えておくと安全です。

退職金の平均額はいくらですか?

厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者1人あたりの平均退職給付額は、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,896万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,682万円、高校卒(現業職)で1,183万円です。ただしこれは制度がある30人以上の会社の平均で、規模や業種、制度の形態で大きく変わります。応募先の額は退職金規程を見なければ分かりません。

この記事の数字について

退職給付制度がある企業の割合(調査計74.9%、企業規模別・産業別)、制度の形態別割合(一時金のみ69.0%・年金のみ9.6%・併用21.4%)、退職一時金制度の支払準備形態(社内準備56.5%・中退共42.0%・特退共9.9%)、退職年金制度の支払準備形態、平成30年調査との比較(80.5%)、定年退職者の1人平均退職給付額は、いずれも厚生労働省令和5年就労条件総合調査の概況(第16表・第17表・第18表・第22表)によります。この調査の対象は常用労働者30人以上の民営企業です。

中退共の共済契約者数377,734事業所・被共済者数3,575,790人(令和7年3月31日現在)は、勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業年次統計表(令和6年度)第1表-(1)によります。

就業規則の記載義務は労働基準法第89条第3号の2、採用時の明示は労働基準法施行規則第5条第1項第4号の2によります。

採用ページの記載率(32,838社中6,443社に「退職金」の記載、規模別・業種別の記載率、制度の種類の語の出現数、勤続要件788社の分布、「なし」明記99社)は、しょくばログのデータベースで、gBizINFOに公式サイトが登録されている会社のうち2026年6月に採用ページ等の文章を取得できた会社を対象に、2026年9月15日に集計しました。語の出現を数えたもので、制度の有無そのものを確認したものではありません。従業員規模はgBizINFOの従業員数、業種は法人番号に紐づく日本標準産業分類の大分類によります。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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