✍ 古家あきら | 2026-09-22 更新

社会福祉法人の財務諸表を見る方法 — WAM NETで全法人の決算・役員名簿が「誰でも無料で」見られる。閉鎖405件の65%は合併(21,633法人データ)

先に結論から。社会福祉法人の決算書(貸借対照表・事業活動計算書・資金収支計算書)と役員名簿は、インターネットで誰でも無料で見られます。 見る場所は独立行政法人福祉医療機構が運営するWAM NETの「社会福祉法人の現況報告書等情報検索」で、根拠は社会福祉法第59条の2第1項(公表義務)と社会福祉法施行規則第10条(公表はインターネットで行う)です。会員登録も手数料も要りません。

それだけではなく、法人の事務所に行けば、業務時間内に計算書類等の閲覧を請求でき、法人は「正当な理由がないのにこれを拒んではならない」(社会福祉法第45条の32第4項・第45条の34第3項)と、拒否できない形で書かれています。株式会社の決算が原則として上場会社と決算公告を出す会社しか見られないのと比べると、社会福祉法人は制度上「外から見えやすい側」の法人です。この点は医療法人と似ていますが、医療法人が「都道府県に請求して閲覧」なのに対し、社会福祉法人は「国のシステムで検索して即閲覧」まで進んでいます。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「内定先が社会福祉法人○○会で、会社みたいに調べられない」「保育園の運営母体の経営が続くのか知りたい」という質問がきます。福祉サービスの良し悪しには踏み込みません。どこに何が公開されていて、それをどう読むかに徹します。

社会福祉法人は全国に何法人あるか — WAM NET 21,086、うちのDBでは21,228

まず母数です。WAM NET「社会福祉法人の現況報告書等の集約結果(2024年度版)」によると、所轄庁から登録のあった社会福祉法人は21,086法人。このうち現況報告書等(現況報告書・計算書類・社会福祉充実計画)の届出を行い、集計に使えた法人が20,757法人です。

うちのデータベース(国税庁の法人番号公表データが土台・全国5,791,529法人・2026年9月時点の断面)で、名称が「社会福祉法人」で始まる法人を数えると21,633法人、うち登記記録が閉鎖されていない現存法人が21,228でした。WAM NETの21,086との差は142(0.7%)。断面日のずれと、解散後も清算が終わるまで登記に残る法人の分と考えれば、国の登録数とうちの実数はほぼ一致していると見てよい数字です。

法人種別の内訳も突き合わせてみます。WAM NETは「一般法人(施設を経営する法人)18,697(88.7%)・社会福祉協議会1,862(8.8%)・社会福祉事業団181(0.9%)・共同募金会48(0.2%)・その他298(1.4%)」と分類しています。うちのDBで名称に「社会福祉協議会」を含む現存法人は1,858、「事業団」を含むのは177、「共同募金会」は48。共同募金会は完全一致、社協と事業団も4法人差です。名称だけでここまで種別が当てられる法人は珍しく、社会福祉法人は「名前が制度をそのまま表している」法人だと言えます。

「〜会」が8割というのは、医療法人の52.2%よりさらに高い比率です。「○○園」の6.0%は、保育園・養護施設など施設名をそのまま法人名にした法人で、保育園の運営法人を調べる記事で触れた「施設名と法人名が違う」ケースの逆のパターンです。

都道府県別 — 数は大阪・福岡・東京、密度は青森・長崎・島根

現存21,228法人の主たる事務所を都道府県別に数えると、上位は大阪府1,196・福岡県1,162・東京都1,096・北海道902・埼玉県896。最少は鳥取県の109です。ここまでは人口の順に近い並びですが、全法人に占める割合で見ると景色が変わります。

うちのDBの現存法人は全国5,028,697法人で、そのうち社会福祉法人は1,000法人あたり4.22です。この「密度」を都道府県別に出すと、上位は青森県15.55・長崎県14.68・島根県13.23・佐賀県11.58・鹿児島県11.54で、下位は千葉県3.40・大阪府2.82・愛知県2.81・神奈川県2.42、そして東京都は0.94。青森と東京で16倍以上の開きがあります。市区町村別の実数でも、最多は鹿児島市150・金沢市132・長崎市130・宮崎市115・福山市105で、東京23区はどこも上位に入りません。

これは「東京に福祉施設が少ない」という話ではなく、東京は株式会社の分母が桁違いに大きいこと、そして地方では社会福祉法人が高齢者施設・保育・障害福祉の主要な担い手で、人口あたりの法人数が多いことの両方が効いています。転職や取引で社会福祉法人に関わる確率は、地方ほど高いということでもあります。

なぜ社会福祉法人は「外から見える」のか — 社会福祉法第45条の32・第45条の34・第59条の2

社会福祉法人の情報公開は、2016年(平成28年)の社会福祉法改正で大きく強化され、2017年(平成29年)4月1日に施行されました。厚生労働省はこの改革の柱を「経営組織のガバナンス強化」「事業運営の透明性の向上」「財務規律の強化」と整理しており、財務諸表等の公表義務と電子開示システムは「透明性の向上」の中核です。条文を順に見ます(e-Gov法令検索で条文を取得して確認しました)。

第45条の32(計算書類等の備置き及び閲覧等)。社会福祉法人は、各会計年度の計算書類・事業報告・附属明細書・監査報告(まとめて「計算書類等」)を、定時評議員会の2週間前から5年間、主たる事務所に備え置かなければならない(第1項)。評議員と債権者は業務時間内いつでも閲覧・謄本交付を請求でき(第3項)、そして第4項で「何人(評議員及び債権者を除く。)も、社会福祉法人の業務時間内は、いつでも」閲覧を請求でき、「当該社会福祉法人は、正当な理由がないのにこれを拒んではならない」とされています。

第45条の34(財産目録の備置き及び閲覧等)。毎会計年度終了後3か月以内に、①財産目録、②役員等名簿(理事・監事・評議員の氏名と住所)、③報酬等の支給基準、④事業の概要等を作成し、5年間主たる事務所に備え置く(第1項)。これも「何人も」閲覧を請求でき、正当な理由なく拒めない(第3項)。ただし役員等名簿については、評議員以外からの請求に対しては個人の住所部分を除外して閲覧させることができる(第4項)。

第59条(所轄庁への届出)。毎会計年度終了後3か月以内に、計算書類等と財産目録等を所轄庁(都道府県知事・指定都市や中核市を含む市長・厚生労働大臣)に届け出る。

第59条の2(情報の公開等)。第1項で、定款の内容・報酬等の支給基準・届け出た書類のうち省令で定めるものを「遅滞なく……公表しなければならない」。第5項では厚生労働大臣が「社会福祉法人に関する情報に係るデータベース」を整備し、「国民にインターネットその他の高度情報通信ネットワークの利用を通じて迅速に当該情報を提供できるよう必要な施策を実施する」と定めています。この第5項が、WAM NETの電子開示システムの法的な土台です。

社会福祉法施行規則第10条。第1項で「法第59条の2第1項の公表は、インターネットの利用により行う」。第2項で、法人が電子開示システム経由で届出をし、行政機関等がその内容を公表するときは、法人自身が公表したものとみなす。第3項で、公表対象は計算書類と、役員等名簿・事業の概要等(個人の権利利益が害されるおそれがある部分を除く)と定めています。

つまり社会福祉法人には、①事務所での閲覧に応じる義務、②所轄庁への届出義務、③インターネットでの公表義務の3層があり、③はシステムに届出をすれば自動的に満たされる設計です。法人が個別にホームページを持っていなくても、国のシステム側で公表されます。

実際にどう見るか — WAM NET「社会福祉法人の現況報告書等情報検索」

WAM NET(独立行政法人福祉医療機構)の「社会福祉法人の現況報告書等情報検索」を開くと、都道府県の地図から、または法人名などの条件から法人を探せます。公表対象は現況報告書・計算書類・社会福祉充実計画の3つで、年度は2018年度版から2025年度版(最新)まで選べます。同ページには「社会福祉法人が所轄庁へ届出を行ったのち、7〜10日程度で公表されます」と書かれています。法人は会計年度終了後3か月以内(3月決算なら6月末まで)に届け出るので、最新年度分は毎年7月ごろから順に出そろうと考えておけばよいでしょう。

現況報告書 — 「会社概要+役員名簿+職員数」がひとつになった書類

現況報告書は、株式会社でいえば会社概要と役員一覧と有価証券報告書の従業員欄を合わせたような書類です。社会福祉法施行規則第2条の41が記載事項を定めており、主たる事務所の所在地と電話番号、評議員・理事・監事の状況、会計監査人の状況、職員の状況、評議員会・理事会の開催状況、監事監査・会計監査の状況、事業等の概要、社会福祉充実残額などが並びます。

転職で見るなら、職員の状況(常勤・非常勤の人数)と事業等の概要(どの施設を運営しているか)が最初の確認点です。会社の従業員数を調べる方法で書いたように、株式会社では従業員数を外から確かめる手段が限られますが、社会福祉法人は届出書類に人数が載ります。取引で見るなら、理事長と理事の顔ぶれ、会計監査人の有無(一定規模以上は会計監査人の設置が義務)を見ます。

計算書類 — 見るのは3表

社会福祉法人会計基準の計算書類は、資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の3表です。株式会社の損益計算書にあたるのが事業活動計算書で、「サービス活動収益」が売上高、「サービス活動増減差額」「経常増減差額」が営業利益・経常利益に相当します。WAM NETの集約結果でも、法人の収益性を「経常増減差額率(経常増減差額÷サービス活動収益計)」で見ており、「社会福祉法人の主目的は利益獲得ではないが、安定的・継続的に福祉サービスを提供するためには、一定の収益性を確保することが重要」と説明しています。

規模感の目安として、同じ集約結果(20,757法人)では、サービス活動収益は「1億〜2億円未満」が24.7%で最多、次いで「2億〜3億円未満」14.0%、「10億円以上」13.0%、平均は約6億円です。応募先や取引先の収益がこの分布のどこにあるかを見るだけで、法人の大きさが掴めます。

社会福祉充実計画 — 「余っている財産」の使い道

2016年改正で導入された仕組みで、法人が保有する財産のうち事業継続に必要な額を超える「社会福祉充実残額」がある場合、その使い道を計画にして所轄庁の承認を受けます。残額があること自体は悪いことではなく(それだけ財務に余裕がある)、計画の有無と内容で、法人が余力をどう使おうとしているかが分かります。

社会福祉法人の「輪郭」— 事業と所轄庁の分布

WAM NETの集約結果からは、社会福祉法人の典型的な姿も読めます。

「46〜50年」が最多というのは、1970年代半ばから後半に設立認可を受けた法人が最も多いということです。転職先候補が「設立50年」と言っていても珍しくはなく、むしろ最頻値です。

所轄庁が863もあるのは、社会福祉法人の指導監督が主たる事務所のある市に下りているためで、法人の所轄庁がどこかは現況報告書の基本情報で分かります。行政処分や指導監査の結果を調べるときは、この所轄庁のサイトを見ることになります(会社の行政処分の調べ方の各論)。

会社を調べる定番ツールは効くか — gBizINFOで代表者が出るのは0.4%

ここからはうちのデータで、「株式会社を調べるときの手」が社会福祉法人にどこまで効くかを数えます。

現存21,228法人をgBizINFOの基本情報と法人番号で突合すると、代表者名が載っているのは87法人(0.4%)。株式会社なら「gBizINFOで代表者を引く」が最初の一手ですが、社会福祉法人では空振りします。理事長の名前は、前述のWAM NETの現況報告書か、法務局の登記事項証明書(代表者の調べ方)で見るのが正解です。

一方で、従業員数が載っているのは4,490法人(21.2%)。医療法人の10.9%の約2倍で、gBizINFOが厚労省の職場情報などを取り込んでいる分が反映されているとみられます。公式サイトURLが載っているのは1,827法人(8.6%)です。

もう一つ、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録があるのは4,668法人(22.0%)。社会福祉事業の多くは消費税の非課税取引なので、登録率が株式会社より低いのは制度どおりです。逆に登録している法人は、課税売上のある収益事業や物品販売を行っている可能性が高く、インボイス登録の有無から会社を見るときと同じ読み方ができます。

社会福祉法人の「終わり方」— 閉鎖405件の65.4%は合併

うちのDBで、名称が「社会福祉法人」で始まる法人のうち登記記録が閉鎖されたものは405件。分母21,633に対して閉鎖率は1.9%です。他の法人種別と並べると、この低さが際立ちます。

閉鎖の事由も他と違います。405件の内訳は清算の結了等127(31.4%)・合併による解散265(65.4%)・登記官による閉鎖13(3.2%)。株式会社の閉鎖に占める合併の割合は11.0%(44,892/407,175)、医療法人は6.1%(309/5,070)ですから、社会福祉法人は「消えるときは合併で消える」法人です。年別に見ると合併は2016年13件・2017年26件・2018年11件・2019年26件・2020年35件・2023年38件・2025年35件と、2020年以降は年20〜38件で推移し、2026年は9月までで17件。事業の継続を前提に、経営基盤の弱い法人を近隣の法人が吸収する形が主流だと読めます。

転職・取引の実務では、この数字は二つの意味を持ちます。一つは、社会福祉法人が「倒産」する確率は他の法人より低いこと。もう一つは、法人番号が変わる可能性は合併という形で残ることで、内定先や取引先が合併で消えた場合、雇用や契約は存続法人に引き継がれますが、法人番号は変わります(合併・買収時の法人番号の扱い)。どの法人に吸収されたかは、閉鎖した法人番号を国税庁の法人番号公表サイトで引くと「合併後の法人番号」欄で追えます。

なお、「倒産したかどうか」は登記閉鎖の事由だけでは判定できません。清算の結了には自主解散も含まれます。倒産の有無を確かめる手順は非営利法人の倒産を調べる方法にまとめています。

応募先・取引先が社会福祉法人だったときの確認順

1. 法人番号と正式名称を確定する。施設名(○○保育園、○○苑)と法人名(社会福祉法人○○会)は別なので、まず法人名を確定します。うちのデータベースか国税庁の法人番号公表サイトで、所在地と法人番号を押さえます。 2. WAM NETで現況報告書を開く。理事長・理事・監事、職員数、運営施設、所轄庁、会計監査人の有無を確認。 3. 計算書類の3表を見る。サービス活動収益(規模)、経常増減差額(黒字か赤字か)、貸借対照表の純資産と借入金。複数年度を並べると傾向が出ます。 4. 社会福祉充実計画があれば読む。余力の使い道が書いてあります。 5. 所轄庁の指導監査結果・行政処分を確認する。現況報告書に書かれた所轄庁のサイトで。 6. 法人番号の閉鎖・合併履歴を見る。合併で吸収されていないか、名称変更していないかを法人番号公表サイトで確認します。

これで、株式会社を調べるときに使う取引先の信用調査や会社の決算月の調べ方に相当する情報は、ほぼ無料でそろいます。有料の信用調査会社の評点が必要になるのは、信用取引の与信枠を決める段階だけです。

よくある質問

社会福祉法人の決算書は本当に誰でも見られるのですか

はい。社会福祉法第59条の2第1項で公表が義務づけられ、社会福祉法施行規則第10条第1項で「インターネットの利用により行う」と定められています。WAM NET「社会福祉法人の現況報告書等情報検索」で、会員登録なし・無料で計算書類と現況報告書が閲覧できます。さらに第45条の32第4項では、法人の事務所での閲覧請求を「何人も」でき、法人は正当な理由なく拒めないと書かれています。

理事長や役員の名前・住所は分かりますか

氏名は分かります。現況報告書に理事・監事・評議員の状況が記載され、WAM NETで公表されます。住所は、社会福祉法第45条の34第4項で「評議員以外の者からの請求には住所部分を除外して閲覧させることができる」とされているため、原則として公開されません。理事長の氏名は登記事項でもあるので、登記事項証明書でも確認できます。

「社会福祉法人○○会」と「株式会社○○」が運営する施設で、調べやすさは違いますか

大きく違います。社会福祉法人は決算・役員・職員数がWAM NETで公表されますが、株式会社は原則として上場会社と決算公告を出す会社しか決算が見られません。同じ「保育園」「老人ホーム」でも、運営主体が社会福祉法人か株式会社かで、外から見える情報量が変わります。運営主体の確認方法は保育園の運営法人を調べる記事で書いています。

WAM NETに載っていない社会福祉法人があるのはなぜですか

WAM NETの2024年度版に登録のある法人は21,086、うち届出を行い集計対象になったのは20,757です。届出前の新設法人、届出の遅れ、年度の切り替わり(届出から公表まで7〜10日程度)などで、検索しても最新年度分が出ないことがあります。前年度版に切り替えて検索するか、所轄庁に問い合わせてください。

社会福祉法人が倒産することはありますか

あります。ただし、うちのDBの登記閉鎖率は1.9%で、株式会社の13.9%、NPO法人の24.3%と比べて大幅に低く、閉鎖のうち65.4%は合併による解散です。登記閉鎖の事由には自主解散も含まれるので、閉鎖=倒産ではありません。倒産の確認手順は非営利法人の倒産を調べる方法を参照してください。

まとめ

参照した一次資料

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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