✍ 古家あきら | 2026-09-24 更新
創業1918年、金沢の和菓子店「高砂屋」が破産 — 負債は約9,000万円。社名に「菓子・製菓」が付く全国4,016法人を登記で見ると、今も残る会社の48.4%が有限会社(DB実測)
先に結論です。高砂屋の破産は「100年続いた店でも、原材料の値上がりを価格に移しきれないと数年で資金が尽きる」という話です。 負債は約9,000万円。大きな金額ではありませんが、手作りの小さな菓子店にとっては重い数字です。
しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「老舗だから安心」という見方をよく目にします。今回はこのニュースを入口に、社名に「菓子」「製菓」「菓舗」を含む全国の法人を登記データで数え、老舗の菓子店がどんな会社の形で続いているのか、外から何が分かって何が分からないのかを書きます。
出典:老舗和菓子店の高砂屋 破産手続き開始決定 負債総額は約9千万円 金沢(北國新聞・2026年9月17日)
公表されている事実
報道で確認できる範囲は次のとおりです。推測は混ぜていません。
- 名称:株式会社高砂屋(屋号は「兼六園本舗 高砂屋」)
- 所在地:金沢市石引2丁目(国税庁の法人番号公表サイトの登録も同じ住所)
- 法人番号:8220001004020
- 創業:1918年(大正7年)
- 看板商品:「加賀の巻絹」。加賀の甘みそで仕立てた白あんを、自家製の餅で手巻きした菓子
- 店舗:石引の本店と、金沢駅に隣接する「金沢百番街あんと」の2か所。ほかにネット販売
- 営業停止:2026年7月30日
- 破産:金沢地裁から9月11日に破産手続きの開始決定
- 負債:約9,000万円
- 理由:原材料などの相次ぐ物価高で収益の確保が難しくなった(帝国データバンク金沢支店の調べとして報道)
出典:【倒産情報】金沢の銘菓製造 100年以上続く「高砂屋」が物価高騰で破産手続きへ(MRO北陸放送・2026年9月17日)
売上高や従業員数は、今回の報道では公表されていません。ここは数字を置かずに進めます。
「手作り」と「値上げ」の間にある難しさ
報道が挙げた理由は「物価高」の一言ですが、菓子店に置き換えると次のような構造になります。
- 原価の多くが材料。 小豆、砂糖、餅米、包材。どれも自分では値段を決められません。
- 手作りは量を増やしにくい。 機械で量産する工場なら、材料の値上がりを生産量で薄められます。手で巻く菓子は、1個あたりの人手が減らせません。
- 銘菓は値上げしにくい。 手土産として「いつもの値段」で選ばれてきた商品ほど、値上げで客が離れる怖さがあります。
報道によると、営業停止(7月30日)から破産開始決定(9月11日)までは約1か月半でした。店を閉めてから法的な手続きに入るまでの間、外からは「休業中」にしか見えない時期があったことになります。
登記データで見る「菓子の会社」4,016法人
ここからは、しょくばログが持っている国税庁の法人番号データ(約579万法人)で数えた結果です。社名に「菓子」「製菓」「菓舗」のいずれかを含む法人を集計しました。
- 該当する法人:4,016
- うち登記が閉鎖されている法人:719(17.9%)
- 全法人での閉鎖済みの割合は13.2%(約579万法人中、約76万法人)
菓子系の社名は、全体より閉鎖済みの割合が高く出ました。ただし、これは「菓子店の倒産が多い」という意味ではありません。登記の閉鎖には、合併、清算、長く動きのない会社の整理なども含まれます。閉鎖の理由を一緒くたにした比率なので、「古い会社が多い業態では閉鎖済みの記録も積み上がりやすい」くらいに受け取ってください。
今も残る会社の半分近くが「有限会社」
閉鎖されていない3,297法人を、会社の種類で分けると次のとおりです。
- 有限会社:1,595(48.4%)
- 株式会社:1,084(32.9%)
- 合資会社:361(10.9%)
- 合名会社:68(2.1%)
- 合同会社:35(1.1%)
- その他:154
全法人(閉鎖されていない約503万法人)では、有限会社は28.4%、株式会社は50.0%です。菓子系の社名は、有限会社・合資会社・合名会社という「今は新しく作れない形」が合わせて61.4%を占めます。 全体では30.5%なので、およそ2倍です。
有限会社は2006年から新しく作れなくなり、合資・合名会社は明治・大正期から続く家業に多い形です。つまり菓子の会社は、家族経営で長く続いてきた小さな会社が多い業態だと、登記の形からも読めます。有限会社への就職で気になる点は有限会社に就職するのは不利なのかという記事に、合資・合名会社の仕組みは合資会社・合名会社とはどんな会社かという記事にまとめています。
破産が決まっても、登記はすぐには「閉鎖」にならない
高砂屋の法人番号は、この記事を書いている時点で国税庁のデータ上「閉鎖」にはなっていません。これは珍しいことではなく、破産手続きの開始決定が出ても、会社の登記は手続きが終わるまで残ります。
「会社名で調べたら普通に出てきたから、まだ営業している」とは限らない、ということです。この点は破産決定した4社が国税庁データで閉鎖表示になっていなかった記事で詳しく書いています。破産・民事再生などの違いは倒産の種類の違いを整理した記事をどうぞ。
老舗の小さな会社を外から見るときの3つのポイント
特定の会社を責める話ではなく、一般的な見方として書きます。
1. 「創業年」と「会社の設立年」を分けて見る。 創業100年でも、法人になったのは戦後という会社は多くあります。登記で分かるのは法人の情報です。 2. 休業・営業時間短縮のお知らせを見逃さない。 小さな店では、最初の変化が店頭やサイトの告知に出ます。高砂屋も破産開始の約1か月半前に営業を止めていました。 3. 値上げの告知は「悪い兆候」ではない。 むしろ、原価の上昇を価格に移せている証拠とも読めます。長く値段を据え置いている店のほうが、利益が削られている可能性があります(これは一般論で、個別の店の事情は外からは分かりません)。
老舗かどうかの見分け方は老舗と新興の会社の見分け方の記事にもまとめています。同じ9月には、宮城の創業114年のかまぼこ店の破産も報じられ、その記事で登記データを整理しています。
よくある質問
高砂屋のお菓子はもう買えないのですか?
報道によると、7月30日に営業を停止しています。店舗・ネット販売とも、再開の発表は報道では確認できていません。商標やレシピが別の事業者に引き継がれるかどうかも、現時点では公表されていません。
負債9,000万円は大きいのですか?
売上高が公表されていないため、年商と比べた重さは判断できません。ただ、2店舗の手作り菓子店にとっては、利益から返していくのが簡単ではない額だと考えられます。
菓子の会社は倒産しやすい業種なのですか?
この記事の集計は社名で数えたもので、倒産の件数ではありません。閉鎖済みの割合17.9%には合併や休眠会社の整理も含まれるため、「倒産しやすい」とは言えません。言えるのは、古い形の会社が多い業態だということです。
勤め先や取引先の老舗が心配なときは何を見ればいいですか?
登記簿(履歴事項全部証明書)で役員や本店の変更、官報で決算公告や破産の公告を確認できます。しょくばログの会社ページでも、法人番号・所在地・閉鎖の有無を無料で確認できます。
---
※登記データの数値は、国税庁法人番号公表サイトのデータをもとに、しょくばログが2026年9月24日時点で集計したものです。社名に特定の文字を含む法人を数えた結果で、業種の公式な分類とは一致しません。