✍ 古家あきら | 2026-09-24 更新
ナマコ輸出の海王物産(札幌)が自己破産申請、負債約15億3,200万円 — 年商18億円から7億円へ。「売り先が1つの国」の会社を外から見る5つの視点と、社名に「水産」を持つ法人11,593件の閉鎖率16.8%(DB実測)
先に結論です。海王物産の破産は「ナマコが売れなくなった」話ではなく、「売り先が1つの国に寄っていた会社が、その国の判断ひとつで売上の大半を失った」話です。 2018年5月期に約18億1,200万円あった売上は、2025年5月期には約7億4,000万円。7年で約4割の水準まで落ち、負債は約15億3,200万円と、直近の年商の2倍を超えていました。
こうした「一本足」の構造は、決算書を見られない外部の人間にはなかなか見えません。ただ、報道・登記・会社の発信を並べると、ある程度は輪郭がつかめます。しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、「取引を始めたい会社が大丈夫か」「応募先が傾いていないか」という相談をよく受けます。今回はその見方を、この件に沿って具体的に書きます。
出典:北海道産天然高級ナマコを加工販売する会社が自己破産を申請へ(北海道ニュースUHB・2026年9月)
公表されている事実
報道で確認できる範囲は次のとおりです。推測は混ぜていません。
- 商号:株式会社海王物産
- 所在地:北海道札幌市西区(国税庁の法人番号公表サイト上の本店は札幌市西区発寒十七条3丁目)
- 法人番号:7430001040706
- 設立:2007年6月
- 事業内容:北海道産天然ナマコの加工・販売。自社工場で塩蔵ナマコ・乾燥ナマコを加工し、主に中国・香港へ輸出
- 売上高:約18億1,200万円(2018年5月期)→ 約7億4,000万円(2025年5月期)
- 事業停止:2026年8月31日
- 自己破産申請:2026年9月2日、札幌地裁
- 負債:約15億3,200万円(帝国データバンク調べとして報道)
経緯として報じられているのは2段階です。まず2020年以降、コロナ禍で輸出が停滞しました。次に2023年8月、中国が東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を理由に日本産水産物の輸入を全面的に停止し、主力の中国向け輸出が大きく落ち込みました。その後も回復の見通しが立たず、事業停止に至ったとされています。
出典:【北海道】海王物産が自己破産申請 負債15億3200万円 中国向けナマコ輸出低迷(JC-NET・2026年9月) 出典:ナマコ加工販売の札幌・海王物産が自己破産申請へ 負債15億3200万円(北海道新聞デジタル・2026年9月2日)
数字を並べると見えること
報道された数字だけで、次の2点が計算できます。
- 売上は7年で約4割の水準に:18億1,200万円 → 7億4,000万円で、2018年5月期の約41%。
- 負債は直近年商の約2.1倍:15億3,200万円 ÷ 7億4,000万円。売上が大きかった時期の借入や仕入れの負担が、売上が縮んだあとも残っていたと読めます(内訳は報じられていないので、ここから先は推測になります)。
ここで大事なのは、売上が落ち始めてから事業停止まで、少なくとも3年あったことです。中国の輸入停止は2023年8月、事業停止は2026年8月。外から見て「何かおかしい」と気づける時間は、決して短くありませんでした。
登記データで見る「水産」の会社
しょくばログのデータベース(国税庁法人番号公表データ、約579万法人)で、社名に「水産」を含む法人を数えました。2026年9月24日時点の実測です。
- 社名に「水産」を含む法人:11,593件
- うち登記の閉鎖が記録されている法人:1,944件(16.8%)。全法人の閉鎖率は13.2%
- 都道府県別では北海道が1,643件で最多。東京都877件、鹿児島県582件が続く
- 北海道の「水産」法人の閉鎖率は15.9%(北海道の全法人は12.1%)
- 法人の種類は有限会社が5,621件(48.5%)で株式会社4,785件を上回る
- 社名に「ナマコ」「なまこ」「海鼠」を含む法人は全国で25件
閉鎖率が全体より高いことは、水産の会社が危ないという意味ではありません。有限会社が多い=設立の古い会社が多い業種ほど、廃業や整理を経た法人が積み上がりやすいからです。ここで言えるのは「水産は、長く続いてきた小さな会社が多い業種だ」ということまでです。
なお、海王物産の法人番号をデータベースで引いても、登記の閉鎖は記録されていません。破産を申請した直後の会社が「閉鎖」になっていないのは普通のことで、公的データは「いま営業しているか」を教えてくれません。この点は破産手続開始決定が出た4社を国税庁のサイトで引いた記事で実際に確かめています。
「売り先が1つの国」の会社を外から見る5つの視点
個社の是非ではなく、同じ構造を持つ会社一般に当てはまる見方としてまとめます。
1. 会社の説明に「どこへ売っているか」が書いてあるか
ホームページや会社案内に「中国向け」「香港向け」「○○社向け」と書いてある会社は、そこに売上が寄っている可能性があります。書いてあること自体は誠実ですが、1つの名前しか出てこない場合は、その国・その会社の事情が自社の事情になると考えておくのが安全です。
2. 売り先の国で「制度の変更」が起きていないか
輸入停止・関税・検疫のルール変更は、個社の努力と関係なく売上を止めます。取引先や応募先の主力市場で大きな制度変更があったら、その後1〜2年の動き(採用の停止、拠点の縮小、ホームページの更新停止)に注意して見ます。
3. 売上の「ピークの年」と「いまの年」を比べる
信用調査会社のレポートや報道には、過去の最高売上と直近売上が並ぶことがよくあります。ピークから半分以下になっている会社は、固定費や借入がピーク時の規模のまま残っていることがあります。見方は帝国データバンク・東京商工リサーチの評点の読み方も参考にしてください。
4. 負債と売上の比率を、分かる範囲でつかむ
決算公告を出している会社なら官報や自社サイトで貸借対照表が見られます。出していない会社でも、登記簿で抵当権などの担保の状況は確認できます。やり方は会社の借金・負債を外から調べる方法にまとめています。
5. 「一本足」は輸出だけではない
売上の大半を1社に頼る国内の会社も、構造は同じです。今月は中古車販売で「売上の7割強が1社」だった会社の破産もありました。中古車販売の破産2件から見た「売上の一本足」の見抜き方もあわせて読むと、共通点が見えてきます。
応募者・取引先が今日からできること
- 応募先・取引先の社名で、ニュース検索を「会社名+倒産」「会社名+事業停止」でかける
- ホームページの更新日、求人の出し方、所在地の変化を半年に1回くらい見る
- 法人番号で国税庁のサイトを引き、商号や所在地の変更履歴を確認する(会社が実在するか・倒産していないかを確かめる方法)
- 倒産の種類(破産・民事再生など)で意味が違う点も押さえておく(倒産の種類の違い)
よくある質問
海王物産の破産で、取引先や従業員はどうなりますか
破産申請の段階では、裁判所が破産手続開始を決定し、破産管財人が選ばれてから債権の届け出や配当の手続きが進みます。未払いの給与がある従業員は、国の未払賃金立替払制度の対象になる場合があります。個別の状況は管財人や労働基準監督署に確認してください。
中国の輸入停止で影響を受けた水産の会社は多いのですか
影響の大きさは会社ごとに違い、報道されている範囲以上のことは分かりません。しょくばログのデータで言えるのは、社名に「水産」を含む法人が全国に11,593件あり、北海道が1,643件で最も多いということまでです。
社名に「水産」を含む法人の閉鎖率16.8%は高いのですか
全法人の13.2%より高い数字です。ただし有限会社の比率が高く、設立の古い会社が多い業種ほど閉鎖の記録は積み上がりやすくなります。業種の良し悪しを示す数字ではありません。
しょくばログで倒産した会社は分かりますか
登記の閉鎖が国税庁のデータに反映された会社は、閉鎖として表示されます。ただし破産の申請や開始決定の直後は反映されていないのが普通です。最新の状況はニュースや官報で確認してください。
まとめ
海王物産は、北海道産ナマコという強い商品を持ち、一時は年商18億円規模まで伸びた会社でした。それでも、売り先が1つの国に寄っていたことで、その国の判断ひとつで売上の大半を失いました。外から会社を見るときは、「何を売っているか」だけでなく「誰に売っているか」「その相手に何が起きているか」まで見ておく。今回の件から持ち帰れるのは、この一点だと思います。