✍ 古家あきら | 2026-09-19 更新
民事再生中のペットボトル再生「トーシン」「レコ」(滋賀・甲賀)に東証プライムの大栄環境がスポンサー — 会社は残らず「事業だけが新しい法人に移る」共同新設分割の読み方と、社名に「リサイクル」を持つ法人2,380件の閉鎖率16.0%
先に結論です。滋賀県甲賀市の株式会社トーシン(PETボトル由来の再生フレーク・ペレット製造)と関係会社の株式会社レコ(再生PETシート製造)は、2026年5月29日に大阪地裁へ民事再生法の適用を申請し、6月9日に手続開始決定を受けていました。2社合計の負債は約26億5,100万円。その再生スポンサーに、東証プライム上場の大栄環境株式会社が決まりました。大栄環境は9月18日に2社とスポンサー支援の基本合意書を結び、10月15日に最終合意、11月2日に「共同新設分割」で設立する新会社へ2社のPETリサイクル事業を承継する予定です。つまり、事業と工場は動き続ける可能性が高い一方で、トーシンとレコという法人そのものが再生して残るのではなく、事業だけが新しい法人に移るという組み方です。
出典:株式会社トーシン及び株式会社レコの民事再生スポンサー支援に関する基本合意書の締結について(大栄環境株式会社・2026年9月18日・PR TIMES) 出典:大栄環境<9336>、民事再生手続き中でプラスチックリサイクルのトーシン、レコのスポンサーに(M&A Online・2026年9月18日) 出典:ペットボトルリサイクル事業を手がけるトーシン(滋賀)など2社が民事再生(帝国データバンク・2026年5月29日・Yahoo!ニュース)
しょくばログという会社データベースを運営していると、「民事再生=会社が立ち直る手続き」という理解のまま止まっている人が多いことに気づきます。実際には、民事再生のあとに来るのは「会社の再生」だけではなく、スポンサーが新会社を作って事業を引き取り、元の会社は債務の整理だけを残して消えていく形がかなり多い。今回の大栄環境の発表は、その典型が公式文書の言葉で書かれた例です。以前民事再生したギフト専門店の記事で「民事再生の会社は法人番号がそのまま残る」と書きましたが、今回はその続きにあたる「スポンサー型」の読み方を、開示された数字とうちの登記データで書きます。
公表された事実 — 負債26億5,100万円、売上はピークの半分以下、スポンサーは東証プライム
まず各社の発表にある数字を、そのまま並べます。
- 株式会社トーシン:滋賀県甲賀市甲賀町隠岐2403-20。1992年設立、資本金2,000万円、代表取締役 平本元淑氏。PETボトル由来の再生PETフレーク・ペレットの製造販売。直近の売上高は8億600万円(2025年9月期)。負債は約23億3,100万円、債権者62名
- 株式会社レコ:トーシンと同じ住所。2001年6月設立、資本金9,000万円、代表者は同じ平本氏。再生PETフレークを原料にしたPETシート(卵パック・クリアファイル向け)の製造。直近の売上高は1億3,800万円(2026年4月期)。負債は約3億2,000万円、債権者34名
- 申請から開始決定まで:2026年5月29日に大阪地裁へ民事再生法を申請、同日に弁済禁止の保全処分と監督命令。6月9日に再生手続開始決定
- 売上の推移:帝国データバンクによればトーシンは2014年9月期に年売上高約18億5,000万円を計上していた。2025年9月期の8億600万円はその44%
- 行き詰まりの経緯(帝国データバンクの記述):2013年に設立したベトナム子会社が主要得意先を失い、2019年8月に同社工場が操業停止。子会社への資金支援を続けたこと、共同事業を手がけていた得意先との係争と撤退費用、ロシア・ウクライナ紛争以降の原材料高で「リサイクル製品の価格優位性が薄れ、受注が急減」
- スポンサー:大栄環境株式会社。1979年10月設立、東証プライム上場(証券コード9336)、資本金59億700万円、代表取締役社長 金子文雄氏。廃棄物処理・資源循環が本業
- スキーム:共同新設分割で新会社を設立し、2社のPETリサイクル事業を承継。基本合意9月18日 → 最終合意(予定)10月15日 → 事業承継の実行(予定)11月2日。取得価額は非開示
- 大栄環境の狙い(開示文の言葉):「PETリサイクルに関する技術・ノウハウを獲得」し、中期経営計画「D-Plan 2028」で掲げる廃プラスチックの資源循環事業を強化する
従業員数は、東京経済ニュースの記事にトーシンが24名とあります。年商8億円・従業員24名・負債23億円という組み合わせは、負債が年商の約2.9倍ということです。帝国データバンクは「累積した債務が年商規模を上回った」と書いていますが、数字で見るとその「上回った」の度合いが分かります。
出典:(株)トーシン、他1社|滋賀県甲賀市(東京経済ニュース) 出典:【倒産企業続報】トーシン・レコ、大栄環境が再生スポンサーへ PETリサイクル事業を新会社に承継(JC-NET・2026年9月18日)
「共同新設分割」で何が起きるか — 事業は新会社へ、元の会社は債務と一緒に残る
今回の発表でいちばん読み取ってほしいのは、「共同新設分割」という言葉です。会社分割には、既存の会社に事業を移す「吸収分割」と、新しく作る会社に事業を移す「新設分割」があり、2社以上が一緒に1つの新会社を作って事業を移すのが「共同新設分割」です。トーシンとレコの2社が、それぞれのPETリサイクル事業を1つの新会社に出し、その新会社を大栄環境が引き取る、という設計になります。
これが応募者や取引先にとって何を意味するかを、登記の視点で整理します。
- 法人番号が変わる:新会社は新しい法人番号を取ります。11月2日以降に「トーシンの工場」で動いている事業の主体は、法人番号で見れば別の会社です。求人票や契約書の当事者名が変わっているかを、法人番号で確かめる習慣が要ります
- 元の2社は消えない(すぐには):民事再生を申請した株式会社トーシンと株式会社レコは、事業を新会社に移したあと、債権者への弁済のために再生計画を進めるか、あるいは清算に進みます。登記上は「現存」のまましばらく残る可能性が高い。うちのデータでも、事業譲渡のあとに会社だけが消える例が2年で440件ありました
- 負債は原則、新会社に移らない:スポンサー型の再生で新会社が引き取るのは事業(設備・従業員・取引関係)で、26億円の負債は元の会社に残して整理されるのが普通です。だから新会社は「負債ゼロで工場と技術だけを持つ会社」として始まります。取引先が見るべきは、新会社の資本金と親会社(大栄環境)の信用であって、トーシン時代の決算ではありません
- 従業員の雇用は「承継」の中身次第:会社分割では、承継する事業に主として従事している従業員の雇用契約は新会社に移るのが原則です(労働契約承継法)。ただし今回の開示文は「2社の事業を承継」としか書いておらず、全員が移るのか、どの部門が対象かは最終合意(10月15日予定)まで分かりません
以前、下関の印刷会社が特別清算になり、同じ名前・同じ住所の新会社が事業を継いだ記事で「第二会社方式」を書きました。今回のスポンサー型の新設分割は、それの民事再生版です。手続きの名前は違っても、外から見える結果は同じ。「事業は続く、法人は入れ替わる」です。
登記データで見る2社と大栄環境 — 甲賀市に「トーシン」は2つある
うちの登記データ(国税庁の法人番号公表サイト由来)で滋賀県の「トーシン」を引くと、3法人が出てきます。
- 株式会社トーシン(法人番号9160001005742):滋賀県甲賀市甲賀町隠岐2403番地の20。今回の民事再生の会社
- 株式会社トーシン(3160001018972):滋賀県甲賀市水口町三大寺1460番地55。同じ甲賀市にある同名の別法人
- 株式会社トーシン(2160001021011):滋賀県彦根市小泉町13番地10。こちらも別法人
同じ甲賀市に「株式会社トーシン」が2つある、という事実がまず大事です。報道の見出しだけを見て「甲賀市のトーシン」と検索すると、関係のない会社を民事再生の会社だと思ってしまう。どちらが当事者かは住所と法人番号で決まります。株式会社レコ(9160001005874)の登記住所は甲賀町隠岐2403番地の20で、トーシン(9160001005742)と完全に同じ。関係会社が同じ住所に登記されている典型で、法人番号の並びも近く、同じグループとして登録された経緯が見えます。同じ社名が複数ある時の見分け方は旧社名の調べ方の記事にも書きました。
スポンサーの大栄環境側も登記で見えます。
- 大栄環境株式会社(6120101041611):登記上の本店は大阪府和泉市テクノステージ2丁目3番28号。プレスリリースの「本社・神戸市」とは違う住所です。上場企業の「本店」と「本社」が別の場所にあるのはよくあることで、有価証券報告書の住所と登記の住所が一致しないことは珍しくありません
- 大栄環境エンジニアリング株式会社(5140001027528):神戸市東灘区向洋町中2丁目9番地1。2021年12月28日に閉鎖(清算の結了等)
- 大栄環境運輸株式会社(7140001023252):神戸市東灘区向洋町東2丁目2番4。2022年4月7日に閉鎖(清算の結了等)
グループ内で法人を畳んだ跡が、閉鎖日付きで残っています。買収する側の会社も、法人をひとつ増やしたり畳んだりを繰り返しているのが普通で、買収された会社が登記からどう消えるかで書いた「消え方の内訳」はそのまま当てはまります。11月2日に設立される新会社も、いずれこのグループの1法人として登記に現れます。
社名に「リサイクル」を持つ法人は2,380件、閉鎖率16.0% — 全国平均の1.2倍
ここからがうちのデータでしか書けない部分です。国税庁の法人番号データから、社名に「リサイクル」を含む法人を数えました(2026年9月時点・うちのDB)。
- 社名に「リサイクル」を含む法人:2,380件。うち閉鎖済み380件、閉鎖率16.0%。現存は2,000件
- 全国の全法人の閉鎖率は13.2%(5,791,529件中762,832件)。リサイクル社名はそれより2.8ポイント高い
- 法人種別で差が大きい:株式会社は1,167件で閉鎖率16.3%、有限会社は551件で10.2%、合同会社は97件で6.2%。全国では株式会社13.9%・有限会社14.7%なので、リサイクル業では「株式会社のほうが畳まれやすく、有限会社のほうが残っている」という、全国と逆の形です
- 現存2,000件の所在地:東京都200、大阪府132、埼玉県115、北海道113、愛知県108、千葉県104、神奈川県94、福岡県75。都市圏に加えて北海道が上位に入るのが特徴
- 閉鎖の事由:清算の結了等が201件、合併が33件、登記官による閉鎖(12年以上登記の動きがない会社をみなし解散として閉じるもの)が145件。閉鎖の38%が「登記官による閉鎖」で、これは倒産ではなく、放置された法人が整理されたものです
- 業種コード:現存2,000件のうち1,808件が分類不能(T)。うちのDBで業種が当たっている会社は限られていて、「リサイクル」を名乗っていても製造業(E・51件)、卸売業(G・58件)、運輸業(D・23件)に散っています
社名に「環境」を含む法人も数えると、13,327件で閉鎖率17.6%。「リサイクル」より高い。「環境」「リサイクル」は名前としては良い響きですが、うちのデータで見る限り、社名にその言葉が入っていることと、会社が残っていることの間に良い関係はありません。むしろ全国平均より閉鎖率が高い。以前伸びている業界を選んでも安全ではないと書いた通りで、市場が成長していても、原材料高ひとつで「価格優位性」が消える商売は、個別の会社の体力で決まります。トーシンの経緯はまさにそれで、再生PETは「バージン樹脂より安い」ことが売りだったのに、その差が縮む局面では受注が急減する、と帝国データバンクは書いています。
甲賀市の法人全体も足しておきます。甲賀市の法人は2,623件で閉鎖率10.3%、滋賀県全体は43,913件で11.6%。どちらも全国平均(13.2%)より低く、甲賀市は工業団地を抱えた製造業の町として法人が比較的残っている地域です。その中で負債26億円の民事再生は、地域の規模から見れば大きい案件です。
応募者・取引先が今日からできる確認
今回のケースから一般化できる確認を、3つに絞ります。
- 求人票・契約書の「会社名+法人番号」を見る:11月2日以降、甲賀町隠岐2403-20で動く事業の主体は新会社です。求人サイトの会社名が「株式会社トーシン」のままなのか、新会社名になっているのかで、雇用契約の相手が変わります。取引先の信用の調べ方でも書いたように、名前ではなく番号で相手を特定するのが基本です
- 「スポンサー決定」と「再生完了」を混同しない:基本合意は最終合意ではなく、最終合意は承継の実行ではありません。今回の予定は10月15日と11月2日で、それまでは条件が変わり得ます。ニュースの「スポンサーに」という見出しで安心するのは早い
- 元の会社の登記が「現存」でも、中身は空になり得る:民事再生の会社は、事業を新会社に移したあとも法人番号は残ります。うちのDBで「現存」と出ても、そこに事業や従業員があるとは限らない。会社が実在するかの確認は、登記の存在と活動の有無を分けて見る必要があります
よくある質問
民事再生でスポンサーが付くと、元の会社はどうなりますか
今回のように「新設分割で事業を新会社へ移す」型では、事業・設備・従業員は新会社に移り、元の会社には負債と清算業務が残ります。元の会社は再生計画に基づいて債権者へ弁済したあと、清算されるか、ごく小さな法人として残ります。登記上の「現存」は活動を意味しません。
会社分割で新会社に移った場合、従業員の雇用契約はどうなりますか
労働契約承継法により、承継される事業に主として従事している従業員の労働契約は、原則として新会社に承継されます。ただし対象部門の線引きや条件の変更は分割契約・分割計画で決まるため、今回のケースでは10月15日予定の最終合意の内容を見る必要があります。応募・在職中の人は、雇用契約の当事者が誰になるかを書面で確認してください。
社名に「リサイクル」が入っている会社は危ないのですか
うちのデータでは、社名に「リサイクル」を含む2,380法人の閉鎖率は16.0%で、全国平均13.2%より高めです。ただし閉鎖の38%は「登記官による閉鎖」(放置法人のみなし解散)で、倒産とは違います。社名で安全性は判断できず、個別の会社の売上推移・負債・取引先の集中度を見るのが正しい順序です。
「本店」と「本社」が違う会社は怪しいのですか
怪しくありません。大栄環境のように、登記上の本店(大阪府和泉市)と実際の本社(神戸市)が違う上場企業は多くあります。登記の住所は「本店」として届け出た場所であり、経営の実態がある場所とは限りません。確認したいのは、登記の住所と会社案内の住所の両方が実在し、同じ法人番号に紐づいているかどうかです。
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