✍ 古家あきら | 2026-09-15 更新
下関の老舗「アロー印刷」だったKUTUが負債13.6億円で特別清算 — 印刷事業は2025年設立の新会社「アロー印刷」が同じ名前・同じ住所で継承。社名に「印刷」を持つ法人13,193件を数えたら閉鎖率は20.6%で全国平均の1.5倍、山口県は23.7%。同名の会社が「別の法人」かは法人番号で分かる
先に結論です。2026年8月27日、山口地方裁判所下関支部がKUTU株式会社(山口県下関市卸新町)に特別清算開始命令を出しました。負債は約13億6,000万円。この会社の旧商号は「アロー印刷株式会社」で、1965年11月に彦島プリント社として創業、1967年2月に法人化した下関の老舗印刷会社です。ただし、いま下関で営業している「アロー印刷株式会社」は別の法人です。2025年8月1日付で印刷事業の権利義務や資産を新設の会社に譲渡し、旧会社は社名をKUTUに変えて清算に入りました。
出典:【山口】旧「アロー印刷」のKUTUが特別清算 負債約13.6億円、印刷事業は新会社が継承(JC-NET・2026年9月15日) 出典:【倒産】負債総額13億6000万円 広告印刷物など手がける"KUTU" 東京・大阪・福岡・広島などにも支店…特別清算開始決定(tysテレビ山口・Yahoo!ニュース・2026年9月15日)
しょくばログという会社データベースを運営していると、「同じ名前の会社が2つある」という問い合わせを受けることがあります。今回の下関のケースはまさにそれで、旧アロー印刷(法人番号1250001005055)と新アロー印刷(法人番号2250001021209)は、名前も住所もほぼ同じで、法人番号だけが違います。応募する人にも、請求書を送る取引先にも、この違いは見えにくい。だから今日は、この「第二会社方式」を法人番号でどう見分けるかと、印刷という業種の会社が登記の上でどう減っているかを、数字で書きます。
公表された事実 — 老舗が「KUTU」に名前を変え、新会社が「アロー印刷」を名乗った
倒産情報と報道から、時系列で並べます。
- 1965年11月:彦島プリント社として創業。1967年2月にアロー印刷株式会社を設立。資本金5,675万円
- 1980年にフォーム印刷、1992年にオフセット輪転印刷を開始。小売・流通業向けの広告印刷物を主力に、東京・大阪・福岡・広島などに支店を順次開設
- 従業員数は政府の法人情報で88人、公式サイトでは92人(時点は不明)
- 東京商工リサーチ下関支店によると、印刷品質向上のための積極的な設備投資で借入が膨らみ、2019年12月期に債務超過に転落。その後のコロナ禍で業績が悪化。JC-NETは2024年12月期で約3億5,000万円の債務超過と伝えています
- 2025年6月20日:新しい「アロー印刷株式会社」が設立(しょくばログの法人データ・gBizINFO登録の設立日)
- 2025年8月1日付:旧会社が印刷事業の権利義務や資産を新会社に分割譲渡。旧会社はKUTU株式会社に商号変更
- 2026年8月27日:山口地裁下関支部がKUTU株式会社に特別清算開始命令。負債約13億6,000万円
破綻の原因として報じられているのは「紙媒体を取り巻く市場環境の変化」と「コロナ禍」です。個社の経営判断の良し悪しは、公表された情報だけでは分かりません。ここから先は個社の話ではなく、この型の会社を外から見るときの確認方法として書きます。
「第二会社方式」とは何か — 同じ看板で続くが、法人としては別
事業を新会社に移し、旧会社は債務ごと清算する。これは中小企業の事業再生では珍しくない手法で、産業競争力強化法にもとづく認定制度(中小企業承継事業再生)もあります。取引先や従業員の雇用を守るために使われる正当な手続きで、それ自体は批判されるものではありません。
ただし、外から見る側には3つの変化が起きます。
- 法人番号が変わる。旧アロー印刷は1250001005055、新アロー印刷は2250001021209。国税庁の法人番号は一法人に一つ、変更も再利用もされません。法人番号のチェックデジットを計算する方法で書いた通り、同じ社名でも番号が違えば別の法人です
- 設立年が変わる。新会社の設立は2025年6月。「創業1965年」は事業の歴史であって、法人の歴史ではありません。老舗と新興を見分ける方法で書いた「創業と設立の違い」が、そのまま当てはまります
- 旧会社の登記は残る。しょくばログの法人データ(国税庁の全件・2026年6月取り込み)では、KUTU株式会社も新アロー印刷株式会社も「稼働中」です。特別清算が終わって登記が閉鎖されるまで、旧会社は登記上は存在し続けます。会社が実在するか確認する方法で書いた通り、「登記がある」と「活動している」は別の確認です
応募する側にとっての実務的な違いは、雇用契約の相手が新会社になることです。勤続年数・退職金の通算・有給休暇の引き継ぎがどう扱われるかは、譲渡契約の内容によります。退職金制度の調べ方で書いた「就業規則を見せてもらう」は、こうした会社では特に大事です。
社名に「印刷」を持つ法人13,193件 — 閉鎖率20.6%は全国平均の1.5倍
しょくばログの法人データで、社名に「印刷」を含む法人を数えました。名前で引く集計なので、社名に「印刷」がない印刷会社は入らず、逆に印刷業でない会社が混ざる可能性はあります。それでも業種の傾向を見るには十分な母数です。
- 全国の法人5,791,529件のうち、登記が閉鎖されたのは762,832件、閉鎖率13.2%
- 社名に「印刷」を持つ法人は13,193件、閉鎖は2,717件、閉鎖率20.6%。全法人の1.5倍以上です
- 法人種別の内訳:有限会社6,131件(46.5%)、株式会社6,024件(45.7%)、合同会社600件(4.5%)。有限会社は2006年以降は新設できないので、印刷会社の半分近くは設立20年以上の会社です
- 種別ごとの閉鎖率:株式会社22.5%(全法人の株式会社は13.9%)、有限会社20.6%(同14.7%)、合同会社5.3%(同6.4%)
- 閉鎖の事由:清算の結了等が68.2%、登記記録の閉鎖等(休眠会社のみなし解散を含む)が28.4%、合併による解散等は3.2%。全法人では合併が7.8%なので、印刷会社は「合併で大きい会社に吸収される」より「自分で清算して閉じる」ほうが多い
閉鎖日の年次推移は休眠会社の一斉整理(幽霊会社を見分ける方法で書いたみなし解散)で跳ねるため、ここでは断面の比率だけを使っています。
政府の法人情報(gBizINFO)に従業員数を届け出ている稼働中の印刷法人は387件で、内訳は10人未満59件、10〜49人177件、50〜99人56件、100人以上95件でした。届け出は任意なので大きい会社に偏りますが、KUTUの88人という規模は、印刷会社の中では小さくない側だったことが分かります。
山口県の印刷法人は97件、閉鎖率23.7%。下関市は29件のうち7件が閉鎖
地域を絞ります。
- 山口県の法人は43,094件、閉鎖率14.2%
- 山口県で社名に「印刷」を持つ法人は97件、閉鎖は23件、閉鎖率23.7%。県全体より9ポイント高い
- そのうち株式会社39件(閉鎖11件・28.2%)、有限会社49件(閉鎖10件・20.4%)
- 下関市の印刷法人は29件、うち7件が閉鎖(24.1%)。閉鎖日は2018年に3件、2019年・2024年・2025年に各1〜2件
東京都は3,780件で閉鎖率22.8%、大阪府は1,386件で21.8%。大都市も地方も、印刷という名前を持つ法人の2割強がすでに登記を閉じています。
国の統計 — 企業数は減り、売上は増える「集約」の途中
経済産業省の統計を2つ並べます。
- 2025年経済構造実態調査(一次集計・2026年3月27日公表):2024年の印刷・同関連業の売上高は7兆6,213億円で前年比8.9%増。一方、企業数は1万4,117企業で前年比15.3%減(出典:2024年の印刷産業売上高は7兆6213億円(JAGAT・2026年4月1日))
- 2024年製造業事業所調査:2023年の印刷産業出荷額は5兆934億円で3年連続増加。2024年6月1日現在の事業所数は1万3,371、従業者数は24万4,616人(出典:2023年の印刷産業出荷額(全事業所)は5兆934億円(JAGAT・2025年9月9日))
一次集計の企業数減少には調査範囲の差が含まれる可能性があるので、数字そのものより「企業数が減り、売上は残った会社に集まる」という方向を読んでください。KUTUが「印刷品質向上のための積極的な設備投資」で借入を膨らませたのは、この集約の中で残る側に入ろうとした判断だったと報じられています。うちの登記データが示す閉鎖率20.6%は、その競争から降りた会社の数です。
応募前・取引前に確かめる4つのこと
1. 法人番号を控える。求人票・名刺・請求書の社名が同じでも、法人番号が違えば別の会社です。国税庁の法人番号公表サイトで社名と住所を引き、番号と設立年月日を確かめてください。しょくばログの会社ページでも同じことができます 2. 「創業」と「設立」を分けて聞く。創業60年の看板と、設立1年の法人が同居することがあります。面接では「この法人の設立はいつですか」「事業譲渡を受けた会社ですか」と聞いて構いません 3. 同名の法人が2つ出たら、両方の登記を読む。旧会社に「商号変更」「解散」「特別清算」の登記があれば、それが答えです。Hatch Outの記事で書いた通り、登記の変更履歴は誰でも取れます 4. 雇用条件の引き継ぎを書面で確かめる。勤続年数・退職金・有給の扱いは譲渡契約次第で、口頭の「変わりません」は根拠になりません
よくある質問
第二会社方式は「逃げ」ではないのですか
法律で認められた事業再生の手法で、取引先や雇用を守るために使われます。債権者の同意や裁判所の手続きを経て進むので、それ自体を問題視する必要はありません。外から見る側が気をつけるのは、「同じ看板だから同じ会社」と思い込まないことだけです。
新しいアロー印刷株式会社は危ない会社なのですか
分かりません。しょくばログの法人データでは2025年6月20日設立の稼働中の法人で、それ以上の財務情報は公表されていません。旧会社の負債は旧会社に残り、新会社は事業だけを引き継いでいます。応募・取引の判断は、新会社の現在の条件を書面で確かめてください。
印刷会社の求人に応募するのはやめたほうがいいですか
閉鎖率20.6%は「5社に1社がすでに閉じた」という過去の事実で、いま稼働中の会社の未来ではありません。統計は企業数が減りながら売上は増える集約期を示しています。残る側の会社は設備・顧客・人を集めている途中なので、応募するなら「この会社は集約の受け手か、降りる側か」を、設備投資と取引先の広がりで見てください。
法人番号が変わったことは、しょくばログでどう分かりますか
社名で検索すると、旧会社(KUTU株式会社)と新会社(アロー印刷株式会社)が別の法人番号で別々に出てきます。同じ住所に同じ業種の法人が2つ並び、片方の設立が新しい場合は、事業譲渡や第二会社方式を疑ってください。
まとめ
KUTU(旧アロー印刷)は、創業60年・従業員88人・4大都市に支店を持つ、山口県では大きい側の印刷会社でした。それでも設備投資の借入とコロナ禍で債務超過が続き、事業を新会社に移して旧会社を清算しました。うちの登記データは、社名に「印刷」を持つ法人の閉鎖率が20.6%で全国平均の1.5倍、山口県では23.7%だと示します。国の統計は、企業数が減りながら売上は残った会社に集まる集約期だと示します。どちらも「印刷会社だから危ない」とは言っていません。言っているのは、同じ看板で続く会社が別の法人になっていることは珍しくなく、それは法人番号と設立年月日で、誰でも無料で確かめられるということです。
(本記事の法人データは、国税庁法人番号公表サイトの全件データを2026年6月に取り込んだしょくばログの集計です。倒産に関する事実は裁判所の公告にもとづく倒産情報と報道から引用し、負債の内訳・新会社の財務など公表されていない事項は推測していません)