✍ 古家あきら | 2026-09-08 更新

8月の倒産830件 — 「増えている」のは10産業のうち5つだけ。産業別・地区別を法人データで確かめた

先に結論から。2026年8月の倒産は830件で前年同月比3.1%増ですが、10産業のうち増えたのは5産業だけで、製造業・卸売業・運輸業・不動産業・農林漁鉱業の5つは前年を下回っています。「倒産が増えている」という見出しを全業種の話として読むと、判断を確実に誤ります。

しょくばログという全国の会社データベースを運営していると、毎月この時期に「倒産が増えたと聞いたのですが、うちの取引先/応募先は大丈夫でしょうか」という質問が届きます。今日はその質問に、公表された産業別・地区別の数字と、うちの手元にある法人データの両方から答えます。

まず事実:本日公表された2026年8月の倒産

東京商工リサーチが2026年9月8日に公表した「2026年8月の全国企業倒産830件」の内容です。負債1,000万円以上が対象です。

出典:東京商工リサーチ 全国企業倒産状況「2026年8月の全国企業倒産830件」(2026年9月8日)

同じ日に帝国データバンクも8月の集計を公表しており、こちらは827件(前年同月751件から10.1%増)、負債総額1,406億9,200万円(同24.6%増)でした。件数はほぼ同じなのに前年比が3.1%と10.1%で食い違うのは、両社で集計対象や前年の基準値が違うためです。この読み方は人手不足倒産は63件?30件? — 同じ月なのに数字が2倍違う理由に詳しく書きました。

増えた5産業と、減った5産業

ここが本題です。830件を産業別に分けると、増減はきれいに割れています。

前年同月を上回った5産業

前年同月を下回った5産業

増加の主役はサービス業他です。その中でも飲食業が80件(同42.8%増)と目立ち、内訳では「食堂,レストラン」が9件から18件、「酒場,ビヤホール(居酒屋)」が4件から16件に増えました。飲食に絞った分析は8月の飲食業倒産が30年で最多の80件にまとめています。

注意したいのは、この「前年同月比」は増減の向きを示すだけで、危険度の順位ではないことです。 分母、つまり「その産業にそもそも何社あるか」で割った数字ではありません。8件が10件になれば25%増ですが、全国に何十万社もある産業の66件と、桁の違う話をしています。

うちの法人データで見た、業種別の登記閉鎖率

ここからは、全国の法人記録を持っている立場でしか書けない部分です。

しょくばログは国税庁の法人番号公表データをもとに、全国5,791,529件の法人を収録しています。このうち登記記録の閉鎖等が記録されているのは762,832件で13.2%、残る5,028,697件が現存扱いです。

この閉鎖記録を、業種が判明している1,350,453件に限って業種別に数えました(業種が特定できない法人が多数を占めるため、母数はこの範囲です。またこの範囲の平均閉鎖率は14.8%で、全法人平均より高く出ます。比較はこの14.8%を基準に読んでください)。

倒産件数が13.1%減った製造業の閉鎖率は15.7%で、業種平均の14.8%を上回っています。 卸売・小売も同様です。逆に、TSRが8月に増加した業種として挙げた「医療,福祉事業」は、うちのデータでは9.3%と全業種で最も低い水準でした。

つまり、単月の倒産件数の増減と、その業種で積み上がってきた法人の消え方は、同じ方向を向いていません。 単月の増減は景気や資金繰りの直近の動きを、閉鎖率は長い年月の累積を映しています。どちらか一方で「この業種は危ない/安全だ」と決めるのは無理があります。

地区別はもっとねじれている

地区別の8月倒産件数と、うちのデータで数えた現存法人数を並べると、印象はさらに変わります。以下は各地区の8月倒産件数を、その地区の現存法人10万社あたりに直した数字です(倒産件数には個人企業も含まれるため厳密な発生率ではありませんが、地域を比べる目安になります)。全国平均は現存法人10万社あたり16.5件でした。

件数だけを見れば関東の297件が圧倒的に多く見えます。しかし現存法人数で割ると関東は13.2件で全国平均を下回り、近畿の28.7件はその2倍以上です。「東京で倒産が多い」は、単に東京に会社が多いことの言い換えである場合が大半です。

一方で、うちのデータの累積の登記閉鎖率では、九州が11.2%と9地区で最も低く、近畿も12.2%と低い部類です。今月倒産の発生率が高かった2地区が、長期の閉鎖率では低いほうにいます。ここでも単月と累積は一致しません。

なお、登記記録の閉鎖には休眠会社の一斉整理によるまとめての処理が含まれるため、年ごとの推移を追う用途には使えません。この記事で使っているのは、ある時点での断面の比率だけです。

では、応募先や取引先はどう見ればいいのか

統計の話を、手が動く話に落とします。

① 自分が見たい会社の産業・地域が、増えた側か減った側かを確認する。 「倒産が増えている」という言葉は、上のとおり半分の産業には当てはまりません。業種の調べ方は会社の業種の調べ方にまとめています。

② 統計より先に、その会社そのものを確認する。 産業の平均が何%でも、目の前の1社が該当するかは別問題です。実在と登記の閉鎖は無料で確認できます。手順は会社が実在するか確認する方法に書きました。

③ 倒産だけを見ない。 8月の倒産は830件ですが、会社が消える出口の多数派は倒産ではなく休廃業・解散です。この差は倒産1,037件は「17年ぶり」水準 — でも会社が消える出口は倒産だけではないで扱っています。

④ 求人の出し方から動きを読む。 決算が見えない小規模企業では、これが数少ない事前の手がかりです。読み方は「人が辞めて潰れる会社」の見分け方にまとめました。

従業員10人未満が90.3%、中小企業が100.0%という8月の構成は、負荷が小さい会社に偏っていることを示しています。だからこそ、大きな見出しの数字ではなく、目の前の1社を確かめる手順のほうが役に立ちます。

よくある質問

8月の倒産830件は多いのですか?

8月としては2012年の967件に次ぐ14年ぶりの高水準で、3カ月連続の前年超えです。ただし増加は年率で見れば3.1%で、内訳では10産業のうち5産業が前年を下回っています。「全体として高水準だが、増えている産業は限られている」というのが正確な言い方です。

負債総額が26.5%も増えたのはなぜですか?

件数の伸び(3.1%増)より負債の伸びが大きいのは、大型倒産が増えたためです。負債100億円以上が前年同月の1件から4件に増え、10億円以上も12件から21件になりました。負債総額は少数の大型案件で大きく動くため、件数と負債総額は別々に読む必要があります。

倒産が減っている産業は安全ということですか?

いいえ。8月の倒産が前年比13.1%減だった製造業も、当サイトの法人データでは登記閉鎖率15.7%と業種平均14.8%を上回っています。単月の増減は直近の動き、閉鎖率は累積の結果を映すもので、別の指標です。片方だけで安全性を判断することはできません。

東京や大阪の会社は危ないのでしょうか?

件数では関東297件・近畿232件が多数ですが、現存法人10万社あたりに直すと関東は13.2件で全国平均16.5件を下回ります。件数の多さは、会社の数の多さをかなりの部分で説明します。地域で判断するより、その会社を個別に確認するほうが確実です。

人手不足倒産は増えているのですか?

TSRの集計では8月の「人手不足」関連倒産は32件(前年同月23件)で8月としては最多でした。内訳は人件費高騰18件(同12件)、従業員退職8件(同4件)です。一方、同じ8月の「物価高」倒産は50件(同55件)で9カ月ぶりに前年を下回りました。

まとめ

2026年8月の全国企業倒産は830件・前年同月比3.1%増。ただし増えたのは10産業のうち5産業で、製造業・卸売業・運輸業・不動産業・農林漁鉱業は前年を下回りました。最大の増加はサービス業他の291件(20.2%増)です。

そして法人データベース側から見ると、倒産が減った製造業の登記閉鎖率は15.7%で業種平均14.8%より高く、倒産が増えた医療・福祉は9.3%で最低でした。地区別でも、倒産の発生率が高かった近畿・九州は、累積の閉鎖率では低いほうに位置します。単月の増減と、積み上がった実態は、しばしば逆を向きます。

業界の景気と個社の体力を切り分ける話は「伸びている業界」を選んでも安全ではないにも書いています。

しょくばログは、全国の会社を1社ごとのページにまとめ、登記情報・所在地・求人などを無料で確認できます。気になる会社があるなら、統計を読む前に、まず会社名で検索してみてください。

※本記事は2026年9月8日時点で公表されている情報にもとづく整理です。倒産の集計値は東京商工リサーチおよび帝国データバンクの公表値、法人件数・登記閉鎖・現存法人数の集計は国税庁の法人番号公表データにもとづく当サイトの集計です。業種別集計は業種が判明している法人に限った母数であり、網羅性はありません。特定の企業の経営状態を評価・断定するものではありません。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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