✍ 古家あきら | 2026-09-06 更新
8月の飲食業倒産が30年で最多の80件 — 「危ない業態」を会社データで確かめた
一昨日(2026年9月4日)、東京商工リサーチが「2026年8月の飲食業倒産は80件」と公表しました。前年同月比42.8%増、8月としては1997年以降の30年間で最多です。
先に結論を書きます。この80件のうち91.2%は資本金1千万円未満、そして最多の区分は「個人企業他」の30件(構成比37.5%)でした。つまり倒産した店の4割近くは、そもそも法人ですらない。会社データベースを引いても、最初から載っていない側にいます。
しょくばログという会社データベースを運営していると、この「載っていない」がいちばん厄介だと感じます。この記事では、公表データを読んだうえで、うちの手元にある約579万件の法人記録で業態別の登記閉鎖率を実際に数え、「倒産が増えた業態=閉鎖されやすい業態なのか」を確かめました。
公表された数字(出典つき)
東京商工リサーチの集計は次のとおりです。
- 2026年8月の飲食業倒産:80件(前年同月比42.8%増=前年同月の1.4倍)
- 8月としては3年ぶりの増加で、2009年の76件を超え、30年間で最多
- 1-8月累計:701件(前年同期比8.8%増)
- 前年(2025年)の年間件数は1,002件で、このペースだと年間最多を更新する可能性
業種別の内訳が、今回いちばん話題になった部分です。
- 食堂・レストラン:18件(前年同月比100.0%増)
- 居酒屋(酒場、ビヤホール):16件(同300.0%増)
- ラーメン店:8件(同166.6%増)
- 日本料理店:6件(同200.0%増)
規模と原因、手続きの形も公開されています。
- 資本金別:個人企業他 30件(構成比37.5%・前年同月比100.0%増)/1百万円以上5百万円未満 27件/5百万円以上1千万円未満 10件。1千万円未満の合計は73件(構成比91.2%)
- 負債額別:1千万円以上5千万円未満が60件(構成比75.0%)
- 原因別:販売不振 65件(構成比81.2%)/事業上の失敗 7件/既往のシワ寄せ 3件
- 形態別:破産 79件(構成比98.7%)/民事再生法 1件
出典:東京商工リサーチ「馴染みの居酒屋、ラーメン店の倒産が大幅増 8月の『飲食業』倒産80件、年間最多ペース」(2026年9月4日)
「居酒屋300%増」は、どれくらい怖い数字か
見出しになりやすいのは「居酒屋が前年同月比300.0%増」ですが、これは16件と4件の比較です。母数が小さいので、率は簡単に跳ねます。同じ月に日本料理店が200.0%増(6件)、ラーメン店が166.6%増(8件)と並ぶのも、そのためです。
率だけを見て「居酒屋がいちばん危ない」と読むのは、たぶん間違いです。では母数を含めて見るとどうなるのか。ここからは、うちのデータで確かめます。
しょくばログのデータで業態別に数えてみた
手元にあるのは、国税庁の法人番号公表データをもとにした約579万件(5,791,529件)の法人記録です。ここから、社名に業態を示す語を含む法人を業態ごとに抜き出し、登記が閉鎖されている割合を数えました。
全法人の閉鎖率は13.2%(5,791,529件のうち762,832件)。これが比較の基準です。
業態別の結果は次のとおりでした(件数=抽出できた法人数/カッコ内=閉鎖率)。
- ラーメン店(「ラーメン」「らーめん」「拉麺」「麺屋」「製麺所」):1,039件(20.4%)
- 日本料理・寿司(「寿司」「鮨」「すし」「割烹」「料亭」「日本料理」):3,702件(19.0%)
- 食堂・レストラン(「食堂」「レストラン」「ダイニング」「キッチン」):4,674件(17.1%)
- 居酒屋・酒場(「居酒屋」「酒場」「炉端」「串」):801件(15.1%)
- カフェ・喫茶(「カフェ」「喫茶」「珈琲」「コーヒー」):2,258件(14.3%)
- 焼肉・焼鳥(「焼肉」「焼鳥」「焼き鳥」「ホルモン」):309件(13.3%)
これらを合わせると12,753件、うち閉鎖が2,187件で17.1%。全法人の13.2%より、はっきり高い水準です。
面白いのは順番です。8月の倒産件数で目立った居酒屋(15.1%)は、閉鎖率で見ると飲食のなかではむしろ低いほうでした。逆に、件数では8件だったラーメン店が20.4%と最も高い。「今月増えた業態」と「もともと閉鎖されやすい業態」は、一致していません。
もうひとつの発見:飲食の法人は、半分が有限会社
数えていて予想外だったのが、法人の種類の内訳です。
- 飲食系12,753件のうち:有限会社 6,405件(50.2%)/株式会社 4,498件(35.3%)/合同会社 674件(5.3%)
- 全法人579万件では:株式会社 50.4%/有限会社 28.9%/合同会社 7.8%
株式会社と有限会社の比率が、きれいに逆転しています。
有限会社は2006年5月の会社法施行で新設できなくなりました。つまり今ある有限会社は、例外なく設立から20年以上です(種類の見分け方は法人の種類一覧にまとめています)。
読み方は2通りあります。ひとつは「社名に業態を入れる命名が、古い世代の会社に多い」という抽出のクセ。もうひとつは「新しく開く飲食店は、そもそも法人にしない、あるいは業態を社名に入れない」という実態です。おそらく両方でしょう。いずれにせよ、社名から業態が読める飲食法人は、圧倒的に「昔からある店」に偏っているということになります。
裏を返すと、今回倒産した80件のような小規模店・個人企業は、この抽出にほとんど入ってきません。
データの限界を正直に書きます
上の数字を使う前に、知っておいてほしいことが3つあります。
1. 社名ベースの粗い抽出です。「◯◯屋」「◯◯亭」のように社名から業態が読めない店は拾えていません。網羅的な業種統計ではありません。 2. 法人だけです。個人事業には法人番号がなく、このデータに存在しません。今回の倒産80件のうち37.5%が「個人企業他」だったことを思い出してください。実態のかなりの部分は、法人データベースの外にあります。 3. 登記の閉鎖=倒産ではありません。解散・清算結了・合併も含みますし、倒産から登記への反映には時間差があります。ここで出した閉鎖率は「今この瞬間の断面」であって、年ごとの推移を語れる数字ではありません。
そして最も大事な限界。この記事の数字は業態の傾向であって、目の前の1社については何も言っていません。閉鎖率20.4%のラーメン店に、20年続く優良店はいくらでもあります。
働く人・応募する人が無料でできること
そのうえで、手が動く順番を書きます。
① 法人か個人事業かを確かめる。 ここで確認手段が完全に分かれます。法人なら法人番号があり、商号・所在地・登記の閉鎖状況が国税庁のサイトで無料で分かる。個人事業ならその情報自体が存在しません。判別のしかたは個人事業主か法人かを見分ける方法に書きました。
② 実在と閉鎖を確認する。 無料でほぼ確実に分かるのはここまでです。手順は会社が実在するか確認する方法に、解散・休眠との違いは会社が解散・休眠しているか調べる方法にまとめています。
③ 求人の出し方を見る。 決算書が見えない小規模店では、これが数少ない手がかりです。同じ職種が何度も出る、条件が短期間で変わる、といった動きの読み方は「人が辞めて潰れる会社」の見分け方で扱っています。
破産が98.7%という数字は、立て直す段階を踏まずに終わるという意味です。「調子が悪そう」と感じてから閉店までが短い。だからこそ、事後に映るデータベースではなく、事前の手がかりを見るしかありません。
よくある質問
8月の飲食業倒産が増えたのはなぜですか?
東京商工リサーチの集計では、原因別で販売不振が65件(構成比81.2%)と大半を占めています。同社は資金余力の乏しい小・零細店がコストアップで苦境にあると指摘していますが、個別の店ごとの事情までは公表データからは分かりません。
居酒屋がいちばん危ない業態ですか?
8月の増加率(前年同月比300.0%増)は16件と4件の比較で、母数が小さいため率が跳ねやすい数字です。当サイトが法人データで数えた登記閉鎖率では、居酒屋・酒場は15.1%で、ラーメン店20.4%・日本料理/寿司19.0%より低い水準でした。単月の増加率だけで業態の危険度を判断するのは無理があります。
個人経営の飲食店は調べようがないのでしょうか?
法人番号がないため、法人データベースでは確認できません。飲食店は食品衛生法上の営業許可が必要なので、自治体によっては許可施設の一覧が公開されています。ただし営業許可の有無は経営状態を示すものではありません。
有限会社の飲食店は避けたほうがいいですか?
いいえ。有限会社は2006年5月以降に新設できなくなった種類なので、現存する有限会社は業歴20年以上が確定しているという意味です。新しさの指標にはなりませんが、危険の指標でもありません。設立年の読み方は会社の設立年の調べ方にまとめています。
倒産と休廃業・解散は何が違いますか?
倒産は支払い不能などで破産・民事再生といった法的手続きに入ることです。休廃業・解散は、債務を整理したうえで自主的に事業をやめること。件数としては「潰れる」より「静かにやめる」ほうが多いのが、飲食業に限らない傾向です。
まとめ
2026年8月の飲食業倒産は80件、8月としては30年間で最多。資本金1千万円未満が91.2%、最多区分は個人企業の30件(37.5%)、破産が98.7%——小規模店に負荷が偏り、しかも立て直す段階を踏まずに終わっています。
一方、法人データベース側から見ると、飲食業態の語を社名に含む法人12,753件の登記閉鎖率は17.1%(全法人13.2%)。業態別ではラーメン店20.4%が最も高く、単月の倒産増加率が最大だった居酒屋は15.1%でした。単月の率と、積み上がった実態は違う方向を向いています。
同じ切り口で1業態を掘り下げた中華料理店の倒産が15年で最多もあわせてどうぞ。
この80件を含む8月の全国倒産830件を産業別・地区別に分解したものは8月の倒産830件 — 「増えている」のは10産業のうち5つだけにまとめました。
しょくばログは、全国の会社を1社1ページにまとめ、登記情報・所在地・求人などを無料で確認できます。気になる会社があるなら、統計を読む前に、まず会社名で検索してみてください。
※本記事は2026年9月6日時点で公表されている情報にもとづく整理です。倒産の集計値は東京商工リサーチの公表値、法人件数・登記閉鎖の集計は国税庁の法人番号公表データにもとづく当サイトの集計です(社名の文字列による抽出のため業種の網羅性はありません)。特定の企業の経営状態を評価・断定するものではありません。