✍ 古家あきら | 2026-09-20 更新
「お弁当屋さん」の倒産が2年連続で過去最多へ(2026年8月まで83件・東京商工リサーチ) — 社名に「弁当」を持つ全国193法人を登記で見ると閉鎖率25.4%、全法人平均13.2%のほぼ2倍。有限会社が54%を占める"古い業態"の読み方
先に結論です。東京商工リサーチ(TSR)は2026年9月19日、「お弁当屋さん」の倒産が2026年1〜8月で83件に達し、これまで最多だった2025年(1〜12月)の89件を超えるのが確実だと公表しました。2年連続の過去最多更新です。地区別では関東が35件(構成比42.1%)と約4割を占め、近畿と九州が各10件(同12.0%)。資本金別では1千万円未満が67.4%と約7割。TSRは、コメ価格の下落の兆しや食品の消費税率引き下げという好材料があっても、肉・野菜・包装資材・電気ガス料金の上昇幅がそれを上回り、スーパー・コンビニ・宅配・キッチンカー・ドラッグストアの総菜参入で競合が増えている、と書いています。
出典:「お弁当屋さん」の倒産、2年連続で過去最多へ ~ コメ価格下落と消費税引き下げもコスト高 ~(東京商工リサーチ TSRデータインサイト・2026年9月19日) 出典:同記事(Yahoo!ニュース配信・2026年9月19日)
しょくばログという会社データベースを運営していると、「弁当」という言葉を社名に持つ会社は、飲食店の中でも少し違う顔をしていることに気づきます。店で食べさせる会社ではなく、工場や仕込み場で作って、届ける・売る会社。給食・仕出し・宅配・ロケ弁など、取引先が個人でなく会社や学校であることも多い。だから倒産のニュースを「飲食店がまた1つ減った」と読むと、実態を取り違えます。8月の飲食業倒産が30年で最多の80件だった記事では飲食業全体を見ましたが、今回はTSRが「お弁当屋さん」と切り出した業態を、うちの登記データで別の角度から見ます。
公表された事実 — 83件のうち関東35件、7割が資本金1千万円未満
TSRの記事にある数字を、そのまま並べます。
- 倒産件数:2026年1〜8月で83件。これまで最多の2025年(1〜12月)の89件を、残り4カ月で超えるのが確実
- 地区別(2026年の83件):関東35件(42.1%)、近畿10件(12.0%)、九州10件(12.0%)
- 資本金別(2026年):1千万円未満が67.4%
- コストの内訳(TSRの記述):コメ、鶏肉、小麦粉、食用油などの食材、ガス・電気の光熱費、包装資材、人件費が「軒並み上昇」
- 競合(TSRの記述):スーパー、コンビニ、宅配サービス、キッチンカーに加え、最近はドラッグストアも総菜分野に参入
- 個別例1:靖国神社近くで「海苔弁いちのや」を経営していた株式会社いちのや(東京都中央区)が8月に事業を停止。素材にこだわった高級海苔弁が看板で百貨店にも出店していたが、原材料・人件費の高騰と出店費用が資金繰りを圧迫し、7月31日で閉店(一部フランチャイズは営業中)
- 個別例2:深川めし弁当「深川太郎」を門前仲町駅近くで経営していた有限会社太郎(江東区)が5月に東京地裁から破産開始決定。コロナ禍の売上低迷から回復が遅れた
- TSRの見立て:大手の弁当チェーンはセントラルキッチン方式で低価格を維持できるが、小・零細規模の事業者はコスト上昇が直撃している
「コメ価格が下がる」「食品の消費税が下がる」は弁当屋にとって追い風のはずなのに、それでも過去最多を更新する、というのがこの記事の要点です。原価に占めるコメの比率より、それ以外の上昇分のほうが大きい、ということを実際の倒産件数が示しています。
登記データで見る「弁当」193法人 — 閉鎖率25.4%は全法人平均のほぼ2倍
うちの登記データ(国税庁の法人番号公表サイト由来、全国5,791,529法人)で、社名に「弁当」を含む法人を引くと193法人あります。このうち閉鎖済み(清算結了・合併・登記記録の閉鎖)は49法人、閉鎖率25.4%です。全法人の閉鎖率は762,832 ÷ 5,791,529 = 13.2%なので、ほぼ2倍。会社の種類ごとに見ると、次の通りです。
- 株式会社:48法人、閉鎖13(27.1%)
- 有限会社:105法人、閉鎖24(22.9%)
- 合同会社:19法人、閉鎖5(26.3%)
- 合資会社:2法人、閉鎖0
- その他(企業組合・協同組合・NPO法人など):19法人、閉鎖7
いちばん目を引くのは、193法人のうち105法人(54.4%)が有限会社だという点です。有限会社は2006年の会社法施行で新設できなくなった会社形態なので、いま有限会社を名乗っている会社は、少なくとも20年以上前に作られた会社です。全法人に占める有限会社の割合は1,675,486 ÷ 5,791,529 = 28.9%ですから、弁当屋はその倍近く。「弁当」を社名に掲げる会社は、地元で20年以上やってきた古い小さな会社が中心、というのが登記から見える姿です。TSRが「小・零細規模の事業者はコスト上昇が直撃」と書いた相手は、まさにこの層です。
同じ2006年以降にしか作れない合同会社が19法人(9.8%)あることも書き添えておきます。全法人での合同会社比率は7.8%なので、ここは平均よりやや多い。新規参入が途絶えたわけではなく、「古い有限会社」と「新しい合同会社」の両端が厚い、という分布です。
閉鎖の理由(国税庁の閉鎖事由コード)を49法人で見ると、清算の結了等が34法人(69.4%)、登記記録の閉鎖等が13法人(26.5%)、合併による解散等が2法人。「清算結了」は自分で会社を畳んだか、破産手続きが終わったかのどちらかで、登記からはその区別はつきません。「登記記録の閉鎖」は、12年以上登記の変更がなくて法務局にみなし解散させられた休眠会社が中心です。この閉鎖事由の読み方は訪問介護3法人の破産の記事で詳しく書きました。
念のため、同じ切り口で「仕出」を社名に持つ法人も引いてみました。145法人、閉鎖35(24.1%)。弁当とほぼ同じ水準です。名前に「弁当」を入れるか「仕出し」を入れるかで閉鎖率は変わらない。つまりこれは名前の問題ではなく、業態の問題だと読めます。
都道府県別 — 関東に37%、TSRの「42.1%」とほぼ重なる
193法人の所在地を多い順に並べます(カッコ内は閉鎖数)。
- 東京都:24法人(閉鎖2)
- 埼玉県:12法人(閉鎖4)
- 神奈川県:10法人(閉鎖1)
- 北海道:10法人(閉鎖3)
- 群馬県:9法人(閉鎖3)
- 福島県:8法人(閉鎖2)
- 愛知県:8法人(閉鎖3)
- 千葉県:8法人(閉鎖4)
- 広島県:7法人(閉鎖1)
- 兵庫県:7法人(閉鎖2)
- 熊本県:6法人(閉鎖3)
- 宮崎県:6法人(閉鎖0)
関東1都6県(東京・神奈川・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬)で合計72法人、193法人の37.3%。TSRの倒産集計で関東が42.1%を占めていたのと、ほぼ同じ比率です。つまり「関東の弁当屋が特別に危ない」のではなく、弁当屋という業態そのものが関東に集中していて、倒産もその分布どおりに起きていると読むほうが自然です。ただし関東72法人の閉鎖率は16法人・22.2%で、全国の25.4%よりむしろ低い。首都圏はオフィス需要・ロケ弁需要があるぶん、地方の弁当屋より持ちこたえている面があるのかもしれません。この点は登記からは理由まで読めないので、仮説として書いておきます。
一つ注意があります。TSRの83件は個人事業主も含む「倒産」の件数で、うちの193法人は「社名に弁当と入れて法人登記した会社」だけです。街の弁当屋の多くは個人事業で、法人登記がそもそもありません。また「ほっともっと」のプレナスのように、社名に弁当が入らない大手はこの193には含まれません。この193法人は「弁当屋の全体」ではなく「弁当を看板に掲げて会社にした層」の断面として読んでください。
事業停止と登記閉鎖のずれ — 「いちのや」は登記ではまだ現存
TSRが個別例に挙げた2社を、登記で確かめました。
- 株式会社いちのや(法人番号8010001218327):東京都中央区日本橋小伝馬町14番7号。うちのデータ(2026年9月時点)では閉鎖日なし、現存です。TSRの記事にある通り7月31日で閉店・8月に事業停止していますが、登記上の会社はまだ生きています。破産手続きが始まって終わるまで、あるいは自主的に清算を結了するまで、登記は「現存」のまま残ります
- 有限会社太郎(江東区):うちのデータで江東区に「有限会社太郎」は2法人あります。深川2丁目1番20号(法人番号4010602005053)と、大島3丁目9番26号(3010602023048)。門前仲町駅近くで「深川太郎」を営んでいたのは、住所からすれば深川2丁目の法人が地理的に合致しますが、どちらが破産した当事者かは法人番号での確認が要ります。5月に破産開始決定を受けている会社でも、9月時点でどちらの法人にも閉鎖日は入っていません。破産の登記は入っても、法人番号公表サイトで「閉鎖」になるのは破産手続きが終結してからです
ここから言える実務上の教訓は2つです。第一に、「登記が現存」は「営業している」の証拠にならない。事業を止めてから登記が閉じるまで、半年から数年かかるのが普通です。求人票や取引先候補として会社を見るときは、会社の実在と倒産を確かめる手順にある通り、登記と一緒に「いま営業しているか」を別の経路で確かめる必要があります。第二に、同じ区に同じ名前の会社が2つある。「太郎」のようなよくある名前は特にそうで、報道の社名だけで検索して別の会社を当事者だと思い込む事故が起きます。同名法人の見分け方は旧社名の調べ方の記事に書きました。
応募者・取引先が弁当屋の会社を見るときの3つの目印
TSRの記事と登記データを合わせて、弁当屋で働く・弁当屋と取引する人が見ておくべき目印を3つに絞ります。
1. 資本金1千万円未満か:TSRの倒産83件の67.4%がここに入ります。ただし資本金が小さいこと自体は珍しくなく、資本金の少ない会社の分布と目安で書いた通り、全法人の大半がこの帯にいます。「小さいから危ない」ではなく、「小さいなら、値上げを吸収する体力がないことを前提に見る」が正しい読み方です 2. 有限会社なら20年以上続いている:弁当屋193法人の54%が有限会社でした。20年以上続いてきた会社は、少なくとも1回は不況を乗り切った会社です。一方で、代表者が高齢で後継者がいない会社も多い層です。有限会社・株式会社・合同会社の違いは法人の種類一覧に、会社の年齢は法人番号公表サイトだけでは分からないので会社の設立年の調べ方に書きました 3. セントラルキッチンを持つか、店ごとに作っているか:TSRが「大手はセントラルキッチンで低価格を維持」と書いた通り、コスト構造の差はここに出ます。求人票に「本社工場勤務」「セントラルキッチン」の文字があるか、店舗ごとの調理か。これは登記では分かりませんが、求人票と会社ホームページで確かめられる範囲です
出典:国税庁 法人番号公表サイト(閉鎖事由・法人種別コードの定義)
よくある質問
「お弁当屋さん」の倒産件数はどこで確認できますか
東京商工リサーチの「TSRデータインサイト」が業種別の集計を随時公表しており、今回の83件(2026年1〜8月)もそこに出ています。帝国データバンクも同種の業種別集計を出します。どちらも負債1,000万円以上の法的整理・私的整理を「倒産」として集計しているので、負債の小さい廃業や、登記だけ閉じた休眠会社は含まれません。
弁当屋の会社が「閉鎖」になっているかは、どう調べますか
国税庁の法人番号公表サイトで社名か法人番号を検索すると、「閉鎖」の有無と閉鎖年月日、閉鎖事由が表示されます。しょくばログの会社ページでも同じ登記情報を載せています。ただし、この記事で見た通り、事業停止から登記閉鎖までには時差があるので、「閉鎖なし=営業中」とは限りません。
社名に「弁当」がない弁当屋はどう探せばいいですか
「ほっともっと」のプレナス、「オリジン弁当」のオリジン東秀のように、店名と社名が違う会社は社名検索では出てきません。店名から運営会社を調べるには、店の求人票・レシート・ホームページの会社概要で法人名を確かめ、その法人名で登記を引く、という順番になります。うちのデータでも193法人は「弁当を社名に入れた会社」の断面にすぎず、弁当業界の全体像ではありません。
有限会社の弁当屋に応募するのは不利ですか
有限会社であること自体は、株式会社より劣る形態ではありません。2006年以前に設立された会社で、資本金の下限(300万円)が株式会社(1,000万円)より低かった、という歴史的な違いがあるだけです。20年以上続いている点はむしろ評価材料です。見るべきは形態でなく、代表者の年齢・後継者の有無・取引先の偏り(給食1社に依存していないか)です。
まとめ
東京商工リサーチの公表で、お弁当屋さんの倒産は2026年1〜8月で83件、2年連続の過去最多更新が確実になりました。うちの登記データでは、社名に「弁当」を持つ193法人の閉鎖率は25.4%で全法人平均のほぼ2倍、54%が有限会社という古い小さな会社の層です。関東への集中度(37.3%)はTSRの倒産分布(42.1%)とほぼ一致し、「弁当屋の業態そのものが関東に多い」ことの反映でした。TSRが挙げた「いちのや」は登記ではまだ現存、「太郎」は同区に同名法人が2つ。事業停止と登記閉鎖のずれ、同名法人の存在は、弁当屋に限らず倒産のニュースを読むときに毎回ぶつかる壁です。報道の社名で検索して終わりにせず、法人番号まで下りて確かめてください。